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タロウ・座・カンガエルヒト

さて、笑ってはいけない異世界召喚初日。

初代勇者のキラキラネームと王のギランギランネームに俺の腹筋はねじ切れそうになりながらもなんとかギリギリの均衡を保つことに成功した。

少し気分が優れないと言い訳をして早々に用意された居室へと通された俺である。

豪奢な部屋、精緻な作りの家具達、それらを無視してベッドへダイブ。枕を緩衝材代わりに魂の底から笑いを漏らすのだった。



『異世界半端ねえええぇぇぇぇっ!!』



ひとしきり、喉が枯れるほどに笑い、ついでに飛び散らしたヨダレで枕をグッショリ濡らした頃にやっと収まる。だが下手に刺激されると再発しそうなので、気を引き締めなければならない。これ以上不意打ちを食らうわけにはいかないだろう。



「ふー、さてそろそろこれからのことを考えないとな」



一つ息を漏らしふかふかのベッドから上体を起こす。

そして考えるのは、これから俺がどうするべきか。身の振り方や当分の行動指針。その上で重要なのは命を危険に晒さないこと、ひいては深入りし過ぎないことだ。

例えば、この勇者召喚の真意を知ることや、それに伴う派閥争いに巻き込まれること。



もし仮に独自の調査で、勇者召喚が世界平和の名目を建前にした、種族間抗争や侵略戦争であった場合、その事実を俺が知ったことを向こうに知られることは避けねばならないだろう。

この国の人間が勇者に持っているアドバンテージは、俺がこの世界のことを知らないということだ。魔王が率いる軍勢こそが悪だと教えられ、それが真実であろうとなかろうと、勢力の一極から情報を与え続けることによって飼い慣らす。無知という首輪があるうちだからこそ奴らは俺を勇者だと扱い、平和への使者であるという耳心地のいい役割を与えてくる。

だが、俺が知りすぎることにより手のひら返しのように国敵、または神敵、人類の敵と言う風にしたててくることになる。そうなれば、俺がいくら勇者としての力に目覚めようとも俺vs全人類という構図になりかねない。

首輪の外れた猛犬は、それがどれだけ有用であろうとも害悪でしかないと判断するに難くはないだろう。



それと同じで、派閥争いに巻き込まれることは、俺を初期に擁した派閥から寝返させる為に敵対派閥がその勇者召喚の真意を俺に吹き込んでくる可能性があることだ。『奴らは貴方を国益の為だけに利用している。我らと共に真なる平和を目指そうではないか』とか何とか言いながら近寄ってきたりだ。

その結果、知りすぎた俺を疎ましく思う奴らがこちらの排除に走るだろう。



つまり俺のこの国での基本行動は知り過ぎないこと、正確には相手が与えてくる情報以上のことは知ろうとしないことだ。秘密裏にでも情報を集めてもいいだろうが、ここが俺の知らない世界である事は相手にとっての優位性であるとともに俺にとって常識の通用しない未知の領域であり、あらゆる行動に対して制限がかかることに他ならない。

安易な言動は自己の破滅につながりかねないのだ。

だからこそ、この城内、またはこの王国の監視下にいる内は敢えて無知の首輪を自ら身につけているのが賢明であるということだ。

まあ、その首輪に鎖が繋がってない事に気付いた時が奴らの最期になるわけだがな、ククク。

とは言っても、これはこの王国が国益の為だけに俺を呼び出した場合の話なのだが。それでも最悪の事態は考慮すべきだろう。



そして派閥争いに巻き込まれ、余計な知識を与えられた場合は一貫して、初期の派閥、例えば国王派等を妄信したふりをし続けるしかないな。そうすれば、向こうは俺を扱いやすいただのバカとして認識する。もしそれでも俺の腹の内を疑おうとも、俺が王国に対して疑心を持っていると確信できるまではこちらを飼い続ける筈だ。疑わしきは罰せよ程度で貴重な勇者を手放すことは奴らもできまい。



さて、これで当面の行動指針の目処は立った訳だ。

次は俺の現在の状態、勇者というものの自己調査だろう。だが、これも確認の目処は立っている。

何せ、



『ステータス更新 更新内容を確認してください』



この一文が、召喚の間から今まで視界の隅で点滅を繰り返しているのだから。

なんとも分かりやすいテンプレートをありがとう神様。

そんな訳でこれまで数々の勇者、またはトリッパー達が通った道を俺もなぞろう。



(ステータスオープン)



まずは心の中でそう唱える。そしてこれが正解だった。

俺の目の前に浮かび上がる半透明のディスプレイ。まるでゲームのシステムメニューのようなものが空中に浮かびあがった。




カンマチ=タロウ(ターメリック=ガラムマサーラ):Lv1


HP:100/100

MP:100/100

STR:1

VIT:1

SPD:1

DEX:1

INT:1

MIN:1


STpt:20




ん~、マンダム。

どう見てもゲームのステータス画面だわ。このステータスの分類ってどういう基準で選ばれてるんだろうな?

そして、オール1って。まあこのSTptってのが割り振り分になるんだろうけどさ。そもそも現在の俺自体が1って。



……いや、流石にこれはおかしいだろう。ステータスが現在の俺の能力を示すとしたら全てが1ってのは疑問だ。人それぞれ肉体的に優れている部分とそうでない部分があるのは当然であるし、INTやMINのように数値化し辛いものまで揃って1。そもそも、ここまで均等に能力が揃って生物としての成長をするほうが難しい筈だ。まあ、全ての能力が1を超えていないから、と言われたらそれまでだが、勇者として呼び出されたにしては貧弱過ぎる。



「――これってもしかして」



俺は一つの考えにたどり着き、ベッドから降りるとその場でジャンプしてみる。

その感じからして召喚前より弱体化したなどは無い様だ。そして、STR、VIT、SPDと直接的に肉体に関係のあるステータスに1ptづつ振って、もう一度同じくらいの力の感覚で飛び上がってみた。すると、先ほど飛んだ時の倍以上、具体的にはこの部屋の高い天井付近まで体が届いたのだ。目測で天井まで4m、下手すると3倍近くは飛んだことになる。

つまり、このステータスとは倍率のことではないだろうか?

元々、ステータスとは別に俺の身体能力がありステータスはそこに補正を掛ける役目がある。流石に、数字通りに何倍率になっている訳ではないだろうがそれでもその補正の幅は大きい。

確かにこれなら、勇者が優れている理由も分かる。この世界の連中がどんなステータスを持っているかは分からないが、勇者として扱う以上、この初期から20ptを振れるのは優秀なのではないか? それにLv1ということはLvがあがることによって振れるptが増加する可能性がある。

Lvの上昇速度も未知数ではあるが、最悪時間さえ掛ければ能力の大幅な強化にもなり、元の身体能力に依存する以上、体を鍛えることによってLvアップ並みの恩恵を受けられることにもなる。

この20ptを割り振ることによって俺は超人タロウになれるということか!?

……まるで三分しか戦えないみたいなのでこの呼び方は駄目だ。



まあ、ステータス関連はおいおい調査をしながら割り振りを決めていこう。死にステなんてものは流石にないだろうが、俺が死なないためにもここら辺の管理はしっかりしていかないとならないだろう。



後、調べるべきはステータスの一番下に表示されているこれ。




【ギフト・騙り名】




ギフトということはこれが話に聞いた、勇者が得られるという特殊能力のことであろう。

しかしまた、【騙り名】なんて中二病くさい能力名である。このネーミングセンスには小一時間ほど命名者を問い詰めたいものである。

まあいい、貰えるものは貰っておこう。ステータス以上にこれがこの異世界での俺のアドバンテージになるのだから。



どれどれ、効果はどんなものかね?




【騙り名】他者を騙る者。対象の名を騙ることにより、姿形、能力を模写することが出来る。




……は? それなんてチート?



久しぶりの更新です。

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