あ、どうもタロウです。
突然ですが前述の通り、俺ーータロウは異世界召喚されました。
学校からの帰り道、不意に足元の感覚が無くなり気持ちの悪い浮遊感を味わったのである。
まあ、よくある次元の穴って奴に俺は落ちてしまったのだ。
俺はエレベーターとかの揺れに極端に弱い人間だからアレはきつかった。
一瞬、蓋の閉まってないマンホールに落ちたのかと錯覚し、気が付いたら石造りの暗い部屋に居て、「あ、何だ異世界トリップか」と安堵したのである。
え? 異世界トリップの方が問題だろうって?
いやいや、もし本当にマンホールの穴に落ちたら数mの高さから無防備に落ちるのと変わりないんだよ?
もし、落下の最中に欄干梯子に足がハマってみな? スネが逆方向に折れるんだよ? 想像しただけで俺の弁慶ポイントはソワソワしちゃうんだよ?
それなら特に怪我も何もしていない異世界トリップの方がマシに決まってるじゃないか。
まあ、そんな訳で俺は幾許かの安堵と共に冷静にこの異世界トリップを受け入れることができた訳だが、辺りを見渡せばその俺はいかにも『召喚の間』みたいな所に居て、目の前にはこれまた分かりやすい煌びやかな衣装を着た老人と少女が居たのだ。
これだけ揃えばこれがいわゆる勇者召喚だと想像するのはかたく無い。きっと神官長か宮廷魔術師が老人、お姫様か巫女が少女の方だろう。
恐らく彼らにとっては初めてのお使い、もとい初めての召喚なのだろうが、何本もその手の小説を読んできた俺にとっては何番煎じになるかも分からない先人達が何度も通ったシチュエーションの一つなのである。瞬時に判断するのはそう難しく無い訳だ。
まあ今更、いくつも語られているそんなありきたりを一から十まで描写するのも面倒である。
そこにはサッサっと物語を進めてくれ、と完全にやる気が下がっている俺が居た。一度受けたチュートリアルを二回も三回も聞くのは誰だって嫌なはずである。
「突然のことで御困惑されているでしょうが、まずは私の話を聞いて下さいませ」
あ、そう言えば昨日作ったカレーが冷蔵庫に入れっぱなしである。
「私の名はエリューステラ=ヴィス=ラテーモル=フィファア。この国、フィファア聖王国の第一王女です」
父が気付いて食べてくれればいいがもし忘れ去られて駄目になってしまったら勿体無いことだ。カレーを無駄にするなど万死に値するのである。
「今、我が聖王国、…...いえこのカザジス大陸に住まう全ての民に危機が迫っているのです」
いや、だが父に熟成カレーを独占されるのもいささか腹立たしいものがある。この際、父がカレーの存在に気付かないことを祈るべきだろうか?
「数千年前に封印され、この大陸の北部にて眠りについていた魔王ザジルストーンが目覚め、魔物の軍勢と強力な魔族を配下に従え、大陸中の国家へ侵略を始めているのです」
むしろ、カレーを今ここに呼べないだろうか。こう、聖剣を呼び出すみたいに。
「我々も何とか魔軍に対抗しようと、五度の討伐軍派遣、三度に渡る大陸国家連合軍による合同作戦を決行したのですが、遂にそれを征伐するには至りませんでした」
創作者、タロウが命ずる。宵越しの時を超え覚醒せし我が至高のカリーよ、暗く冷たき封印の箱を破り、今ここに!! 汝、女神が涙の如く甘く切なく、汝、竜の息吹が如く赤く鼓動する物なり!!
来たれ、異界の門は開かれた!! 『黄金の激流・カリー・ザ・ハウス・アマクーチ』!!
「既に各国の軍は数を減らし疲弊しており、更に長き戦いは民草の生活をも脅かすに至っています。このままでは世界は魔王に滅ぼされてしまうでしょう」
......うーん、カレーの奴め今の召喚の儀式の何に不満があるんだ。俺だったら、ホイホイついて行っちゃうぞ。ウホウホと。
俺でも召喚させられちゃう位なんだからカレーだって来れるはずだよ。
本気を出せよ!! 明日からって言ってる奴に未来は無いんだ!!
あ、いや、二日目のカレーのことを悪く言ってるんじゃ無いぞ。寧ろカレーは二日目からが本気だからな。三日目、四日目がカレーの本領発揮だと思ってる。
あれ、つまりカレーの場合は『明日から本気出す』で正しいのか? 今、召喚されないのはもっと本気の俺を見てくれってことなのか?
「最早一刻の猶予すら残されていないのが我々の現状。その為、我がフィファア聖王国は王家に古より伝わりし異界の勇者を召喚する儀を執り行うことを決断したのです」
つまりこれは試練か!?
俺とカレーの蜜月のような関係を試す試練なのか!?
カレーが熟す時、それを呼び出せるのは男として成長した俺だけと言うことか。
いいだろうその試練乗ってやる!!
「そして今宵、2つの月が満ちし夜に宮廷魔術師総勢37名の共鳴による儀式は完成され、今ここに召喚された勇者があなた様なのです!!」
俺はカレー王になってみせる!!
「どうか、どうか勇者様!! 我等を魔王の手からお救い下さいませ!!」
「え、あ、はい」
......ノリノリだった所に急に横槍を入れられたのでおざなりな返事になってしまった。
それにしてもこのお姫様、俺以上にノリノリである。
瞳を潤ませ、懇願する様に両手を胸の前で組んでいる。
ポーズから若干のあざとさが抜けてない辺り、ちょっと演技不足と言うか、演技過多と言うか。
きっとこのお姫様あのタイプだ。ビッチ姫タイプだ。
今言ってたことの何割かは嘘で、勇者と言う劇薬を利用しようと考えているパターンである。
まあ普通に考えれば、国家と言うものが大掛かりな儀式でもって呼び出した相手だ。そこに求められるのは単純な世界平和などだけではなく、国益に元ずく打算と下心があるはずだ。
逆に混迷する時代だからこそ、この際に他国を出し抜いてしまいたいとでも考えているのではなかろうか?
勇者召喚と言う切り札を使った以上、そのカード捌きによっては今後のこの世界の流れを操作することも出来るはずである。
今まで読んだことのある勇者召喚ものは大抵そんな陰謀が渦巻いているものであった。
「我らが願いに応えて頂き、ありがとうございます勇者様。よろしければあなた様の御名前を伺っても宜しいでしょうか?」
だが、だからと言って他人にいい様に利用させられるのも気に食わないのが俺の性分だ。
この召喚になんらかの陰謀があろうが、なかろうが状況次第によっては俺は全力でことに及ぶ。
「俺の名前は--」
そう全力で、
「俺の名前は、ターメリック・ガラムマサーラだ!!」
この異世界を引っ掻き回してやろうとも!!
なんかカレーのことばっかりで話が意味不明になってる。
でもまあ、暇つぶし程度の話なので今後もこのクオリティが続きます。