8話め 種明かし エリナ
種明かしをしよう。
エリナは自身が女王になることを嫌だと思ったことはなかった。
ただ一度だけ、疲れたことはあった。
同じ年の子をほとんど見たことはなかったが、たまに会う子供たちは自分とは違うと感じた。
女王だから、違って当たり前なのだ。
頭では理解していても、どこかで否定したかったのかもしれない。
木に、登ってみたくなった。
教師や侍女たちの目を盗み、一人で抜け出した。
宮殿から離れた場所にある木立。
人がいないことを確認して、何度も落ちながら、一心に登った。
傷だらけになりながら太い幹に腰かけ、何だこんなものかとも思ったし、登れたとも思ったけれど、喜びよりも寂しさのほうが大きくて、そのことに泣きそうになった。
登れたけれど、それだけだった。
しばらくして、皆が心配してるかもと思いはじめたエリナは木から下りようとして・・・下りられないことに気がついた。
かなりの高さまで登っていたのだ。
いきなり怖くなり、幹にしがみつく。
誰かが探しに来てくれればいいが、人気のない場所を選んだため、確率は低いと思われた。
助けを呼ばなくては、「誰か」
エリナの小さい声に、
「何だ?」
答える男がいた。
鎧と帯剣。自分のまわりにいる者ではないが、一見して騎士であることがわかった。
騎士は女王を助ける者。
そう教えられていたエリナは、
「手を貸せ」
いつものように命じた。しかし、
「嫌だね」
男は即答し、その場を去ろうとする。
「待て!」
慌てたエリナは体勢を崩しそうになり、咄嗟に幹にしがみつく。
このまま一生下りられないのではないか。
「・・・それが人に物を頼む態度か?」
男は呆れたように言った。
「何て言えばいいの?」
「そうだな・・・。この場合は、助けて下さい。かな?」
「助けて・・ください」
手をのばしたエリナを
「来い」
騎士は軽々と受け止めた。
男が街の警護担当であることを知り、何度も宮殿担当へと指示したが、そのたびに男は突っぱねてきた。
それならばと宮殿に呼びつけ、いつも影から見ていた。
男のまわりにはいつも人がいて、楽しそうであった。
男の名前はブライアンといった。