7話め
エリナはベッドの背にもたれかかり、ブライアンは近くにあった椅子に座った。
先程まで握られていた手をエリナは見ていた。
話がある、とは言ったものの、絞り出さなければ声が出そうにもない。
「話とは?」
しびれを切らしたであろうブライアンの言葉に、勢いをもらう。
「もう、ここには来なくていい」
「候補が決まりましたか」
候補なんていない。しかしその問いには答えず、
「騎士に戻りたいのならば進言しよう。家も郊外に用意しよう。スミレと二人で仲、良く」
「何、泣いてんですか」
エリナは手で顔を覆った。
「すまない。う、うまくいかない。気にしなくていい」
ブライアンが近づいてきたのがわかった。
無理やり手をどかされ、吐息がかかるくらいの距離で、ブライアンの青い瞳に見つめられる。
いつもみたいに、毅然とした態度で、命令を!
そう思うのに、荒れ狂う感情を止めることができない。
思えば思うほど、涙が溢れてくる。
そんなエリナを見て、ブライアンはまた一つ大きな溜め息をついた。
「私にはあなたがわからない」
痛みを感じるくらい強く腕を握られる。
怒っているの?
エリナはその青い瞳の奥を懸命に読もうとする。
わからないのは、私のほうだ。
こんなに理不尽な束縛から解放されるのに、なぜ、喜んでくれない?
「私をどうしたいのですか」
「だから、解放する!」
「では、なぜ泣くのですか」
ブライアンの右手が頬に触れた。
エリナの体は反応してしまう。
「泣いて、ない」
「嘘つき」
言葉を吸いこむようにキスをされる。
音を立てて唇は離れた。
「俺のことが好きですか」
「な、何を言ってるのだ」
「俺は好きなんですけど」
エリナの思考が完全に停止した。
「だ、誰を」
「あなたを」
「やめろ!」
枕を投げつける。
「何がほしい。王族の称号か? それならいくらでもやる。スミレにもやる。だから、そんな酷い、嘘」
あまりにも酷い。
エリナに嘘で愛を吐き、苦しめるというなら、罰としては最上の方法だ。
「そんなもの要らない」
ブライアンはきっぱりと否定した。
障害はいとも簡単に取り除かれた。ブライアンはエリナに触れる。
「ひどい・・・」
くり返すエリナをブライアンは見ていた。
「わかりました。キスします」
「なっ」
「俺のこと好きって言うまでキスします」
エリナの口を食べるように味わう。
「やめっ」
抵抗を許さずに、長く短く、奪っていく。
「わかった!」
力が入らず、弱々しく押し返しただけだったが、ブライアンは止まった。
「す、好きだ」
小さい告白だったが、ブライアンは満足そうに、いつもの意地悪そうな笑みを浮かべ、
「誰を?」
「ブ、ブライアンを!」
「・・・仰せのままに」
答えはやはりキスだった。