6話め
一週間に一度の訪れを、仕事を理由に拒んだ。
それが二週になり、三週になり。
今夜も必要ないと告げ、エリナは自室でいつもの本を読んでいた。
どうするべきか。
一人になると浮かんでくる問題を、答えが出ないまま考える。
わかっている。
解放だ。
ブライアンには幸せな家庭を築いてもらい、
自分は別の夫に抱かれる。
問題ない。問題ないではないか。
なぜ、離してあげれられないのか。
それはエリナの心が醜いから。
そこまで考えた時、侍従がブライアンの訪問を告げた。
急用か?
有り得ない事態に、エリナは入室を許可する。
まさかスミレと子供に何かあったのでは。
「何かあったのか?」
ブライアンの姿が見えると、すぐに尋ねた。
「何かって?」
一方のブライアンの態度は読めない。
深刻さはないが、怒っているような、馬鹿にしているような。
「スミレや子供に何かあったのではないかと・・・」
「あったらわかるでしょ。女王には優秀な影がついているんだし?」
確かにそうだ。
自分の浅慮さを内心で叱責しながら、ブライアンは怒っているのだとわかった。
でも何に?
「では、なぜここを」
訪れたのか。理由を聞く前に、手を取られ、体が引っ張られる。
何、が起こっているのだ。
柔らかい衝撃を感じ、ベッドの上に投げ出されていた。
「最近、仕事をさぼってるから、埋め合わせをしようと思って」
エリナの両手を押さえつけ、馬乗りになる。
「ひ、人払いを」
「必要ないだろ」
聞かせてやろうぜ?
反論は唇で塞がれた。
情事のあと、荒い呼吸を整えながら、エリナは混乱していた。
なぜ、こうなったのか。
無言で退出しようとするブライアンの気配を感じ、咄嗟に袖をつかむ。
驚いたようにブライアンは振り返った。
「・・・本当に、このために来たのか」
「不敬罪ですか」
意地の悪そうな笑みを浮かべながらも、ブライアンはベッドの端に腰を落ち着けてくれた。
「いや、そんなことは、ない」
むしろ、嬉しい。
「ブライアンは・・・真面目なのだな」
「は?」
漏らした賛辞はお気に召さなかったのか、盛大に眉をしかめられた。
「義務が滞っていたから、私を、その、しに来たのだろう?」
大きな溜め息。
「そう取ってもらってもいいですけど」
控えめに袖を握っていた手首を取られる。
エリナの心臓は壊れたと思うくらい大きな音を出した。
体も強張ってしまう。
「お役御免ですか」
エリナの細く白い手を眺めながら、ブライアンは呟いた。
「え?」
「他の夫が決まったら、教えてください」
手を離され、その熱がなくなることを寒いとすら感じながら、立ち上がったブライアンを止める。
「話が、ある」
ブライアンの顔がゆっくりとエリナを捉えた。
寒い。エリナは震えを止めるよう自分に言い聞かせた。
「起こしてくれ」
ブライアンは従った。