5話め
そんなエリナに罰が下る。
スミレが妊娠したというのだ。
ブライアンに真偽を尋ねれば、
「そうですね。下ろせといいますか?」
にべもない返答だった。
これには家臣たちも荒れに荒れた。
女王の夫が、他の女との間に子供を作ったのだ。
エリナの心も嵐のように吹き荒れていたが、心の芯では冷静だった。
いつか、こんな日が来るとわかっていたのかもしれない。
家臣たちをねじふせ、お祝いの言葉を送る。
これにはブライアンも多少驚いたようだ。
「いいのですか?」
一度だけ聞かれた。
「もちろん」
女王はちゃんと微笑んだ。
二人の間に生まれたのは女の子だった。
深い考えはなかったが、一度会いたいとエリナは思った。
ブライアンにも告げずに、突然離宮を訪問した。
訪れなければよかったか。
エリナは何度も後悔しそうになったが、そのたびに違うと打ち消した。
訪れて良かったのだ。
自分の幸せが偽物だとわかったのだから。
生まれたばかりの赤子を抱いていたのは、名前の通り、可憐で小柄な女性だった。
エリナに気づき、平伏しようとするのを止める。
ブライアンは驚いたようにエリナを見つめた。
邪魔、と言われるだろうか。
エリナは危惧したが、
「ようこそ。ようこそおいでくださいました」
スミレは歓待してくれた。
「抱いてもいいか」
「もちろんです」
赤子は重かった。そして温かかった。小さくても力強く、エリナの腕の中で動いた。
髪の毛の色がブライアンと同じだった。
目の色は、ちゃんと開いていないのでわからないが、黒色に近い。きっと母親に似ているのだろう。
それでもどことなくブライアンの面影があった。
ブライアンの子供だ。
私には一生授かることがないであろうブライアンの子供。
「可愛いな」
正直な気持ちだった。
「ありがとうございます」
ブライアンは口を開かなかった。
私に対して、罵りの言葉を控えたからかもしれない。
この幸せな宮で、愛しい女と子供の前で、自分のそんな姿は見せたくないだろう。
それくらい。
それくらい二人はお似合いだった。
赤子を抱いた二人を、一枚の絵にして飾っておきたいくらいに。
エリナは自室に戻り、今まで何度も読んでいた本を取りだし、文字をなぞった。
そこには家族について書かれていた。
家族は一緒にいるもの。
くり返し読んだ。
家族は大切にするもの。
本当の幸福を邪魔してるのは誰だ。
私だ。