1話め そのはじまり
R15については、直接的な表現はありませんが、その周辺、あるいはそれ以上の表現が出てくる可能性があります。ブライアンが・・・ブライアンが・・・。ご注意ください。
いつ見ても、たくさんの人に囲まれていて。
彼のまわりにいる人たちは、皆笑顔だった。
私より頭二つは高い身長。
赤銅色の髪の毛は、無造作に後ろで一つに結んでいる。
細いけれど、逞しい騎士の腕。
一見すると不機嫌そうだけれど、実は優しさを湛えている切れ長の青い瞳。
目を閉じればすぐに浮かぶくらい、ずっとずっと見ていた。
ただ一度。私の手を取ってくれたから。
何度も何度も考えた。
苦しくて眠れなくて涙も止まらなくて。
でも彼以外、考えられなかった。
彼が欲しかった。
彼の笑顔が一生見れなくても、彼に憎まれることしかなくても、
彼以外に抱かれたくなかった。
これは、最初で最後のエゴだ。
エリナはこの国の女王だった。
三歳で両親が急逝。
女性でも王位継承権があるため、子供の頃からただ一人の継承者として、帝王学を叩きこまれていた。
気づいた時には、エリナは仮面をかぶれるようになった。
女王の仮面。
それは決してエリナではない。
しかし、この国のためには必要で、それがエリナの全てだった。
十七で正式に即位したエリナは威厳と慈愛を兼ね備えた、稀代の国母となった。
その日、女王に謁見するという栄誉に恵まれたブライアンは、跪いて聞かされた言葉に、文字通り石になった。
「・・・恐れながら、今、何とおっしゃいましたか」
何とか言葉をひねり出したブライアンに、感情がないと思われる声音で女王が告げた。
「私と結婚せよ」
「な・・・」
「そなたに拒否権はない」
質問をはさむ暇もなかった。
「以上だ」
こちらも見ずに去っていく女王の後ろ姿を呆然と眺めながら
「嘘だろ・・・」
誰か夢だと言ってくれ。
ブライアンは動けなかった。