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IRREGULAR  作者: 陸一じゅん
⇒フィールド:イースターランドにて。出口のない回廊、遊園地の迷路は刺激的。
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※実験レポート2

挿絵(By みてみん)




 子供たちは母親そっくりだ。

 なんでも知りたがるし、なんでもやりたがる。容姿は父親に似る傾向にあり、性格はいろいろだったが、その底知れない好奇心だけは母親譲りである。

 幾名かは、この研究そのものに興味を示し、一人の優秀な研究員として雇い入れた。

 我が子が育つことは嬉しい。


 1970年代、私はこの組織を製薬会社として、アメリカに移住する。

 1980年の夏、アラン博士もまた、日本に移住した。数名の研究員と、もちろん妻である彼女も連れて。

 不老である博士は人との付き合いを切ってきたが、それでも数年に一度は引っ越しをするし、数十年に一度は国も変える。ここ200年ほどは長くヨーロッパを転々としてきたそうだが、今回は成長著しい最果ての小さな島国に白羽の矢を立てたのだった。

 なんでも、ちょっとした商売をするつもりだと云う。

 博士はなんというか、その……欲望にまみれた俗世からは一線を駕したところにおられる方である。(と、ぼくは認識している)

 いやしかしそんな男が、『商売』などと口にしたことに、ぼくは思わず口角がねじれるような奇妙な感覚を受けた。妻が永遠に若く美しいあの人なのだから、もしかしたら私の知らないところでは俗物にまみれた一面もあるのかもしれないが、あまり想像したくはないものだ。

 研究は、海を渡ってのやり取りとなった。


 1985年、正月に四名の女性研究員が姿をくらますアクシデントが起きる。女性研究員というのはもちろん、魔女の研究を担っていた女性たちだ。中には第一実験で生まれた女児Cことキャサリンと、第五実験で生まれた女児Aことアデルも含まれている。

 それからすぐ、ほんの二日遅れで遙か東より絵手紙が届く。黄色のヒヨコの絵柄が添えられたそれは、なんと博士からのものだった!

 アクシデントを知っての事かと思いもしたが、違った。まさかの幸福の報告である。

『子供が生まれた』というもの! なんてこと!

 つまりは、この可愛らしい絵柄もそういう意味のある絵なのだと思うと、どんな顔をしてこの絵手紙を選んで、この文字を綴ったのか……いや、想像するのはよそう。疲れるだけなのだから。

 文字の上だとしても、ぼくが言うのは不敬だろうけれど、あの夫婦がまっとうな『子育て』をするのは難しいのではないのだろか。


 消えた研究員は、キャサリンとアデル、日本人の美島真純、ドイツ系のロジャー・オットーの四名。キャサリンとオットーは、オットーの故郷で比較的早く確保できた。この件で分かったことだが、オットーの故郷はキャサリンの父親の故郷でもあった。この偶然が、今回のことに重なったのだろうか。

 アデルは遺体で見つかった。美島真純だけが、消息を掴めない。

 日本にいる博士に応援を頼もうかとも思ったのだが、今の時期を邪魔はしたくはない。断念する。

 年々、懸念が増えていく。老いていくからだろうか。


 1988年の2月2日!!私は彼女が生まれたこの日を、絶対に忘れないだろう!

 第32実験、この奇跡の子をアリスと名付ける。成功体につけようと20年夢想してきた名前だ!

 母親は第六実験のアンナ。やはり、魔女の血を引く母体は優れた実験体を産む。アンナが成功体を産んだのには、やはり父親の血にもこだわったからだろうか。

 成果を見てほしい一心で、日本に連絡をする。博士に取り次いでもらうと、一言『もう行っている』とのこと。

 やはり! 今までにないソフィの行動に、やはり彼女は成功体なのだと確信する。

 戻ると、すでにソフィがアリスを眺めていた。こんなに誇らしい瞬間があろうか!


 ……ああ、悲しいことを書かなければならない。これは日記だから、真実を偽りなく綴らなければならないのだ。

 ソフィは言った。

「この子は魔女ではない」

 この子とはつまり、アリスである。

 要点を纏めるならば、アリスは魔女の領域には達していない。しかし、魔女の血を引くものとしては、最もその性質を受け継いだ個体であることは間違いない。

 では、なんであるか。

 その質問にソフィは少し、頭を探る仕草をした。

 仮称をつけるのならば、魔女の稚児といったところである――――と。


 では、アリスが『魔女』になることはあるのかという問いに、ソフィは首を振った。

 母体となって死んでいった者達と同じである。アリスは能力に耐えられない。稚児のままでいるならば、おそらくは母体となるほどには成長するだろう。

 “次”ならばもしくは……と。

 アリスを母体とすれば、次の世代はもしくは、と。


 ああ、アリスの次の世代に、私がまだ生きている保証はどこにあるのだろう!

 時は疾風のように過ぎていく。私はもう、聳える九十年の歳月に手をついている。あともう少し。もう少しなのに! 雲の上の領域まで、もう少しで手が届くというのに!

 アリス! 神様の子! おまえは出来そこないの魔女なのだそうだ!

 ああ、ぼくの魔法使い! おまえがちょっとでもぼくを憐れんで導いてくれるというのなら、ぼくの願いを叶えておくれ!



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