※実験レポート1
魔女である彼女は、博士のことを愛していたのだろうと思う。
それは真実であるけれど、しかし彼女は自らの欲求にも抗わなかった。
だから彼女はぼくに手を貸したし、(一般的に見て)邪悪な実験でさえも、自らの身を差し出したのだ。
ぼくはずっと、そう思っている。そう思いたい。そう、これは願望なのである。
魔女である彼女を、自らのちっぽけな人の身に落としたいのかもしれない。
彼女が、研究のためならば我が子も我が子と思わないような、そんな存在だとは――――ぼくは思いたくは無かった。
実験内容を書き記す。
彼女が私に求めたのは、自らの『魔女』という生命としての『システム』の解明である。また、私が求めるのは、魔女の能力による願望の実現である。
双方の見解は一致している。私の求めるものも、彼女の研究で明らかになるだろう。
まず、提供された彼女の卵子を使用し受精卵を精製、有志で募った女性ら十三人に代理出産してもらうことになった。一般的思想から許されることではないため、郊外の土地を買い上げ、実験は隠れるように、母体たちとの日々の生活も交えたものになった。
この『体外授精』『代理出産』は、アラン博士より直接もたらされた技術である。あと三十年ほどで実用可能だという技術を、世界で誰よりも早く手にできたことを嬉しく思う。
『魔女』の『子育て』について、私は詳しく彼女に聞くことができた。
いわく、魔女は必ずしも子供を自ら育てるわけではない。子育ては、『父親』の種と、『環境』に応じて変化する。この場合、『父親』は人間である。
生まれた子供たちは、無事に出産された。いたって普通の子供であった。外見の特徴としては、父親の個性が強い。男女比率としては、十人中八人が女児である。うち、一組の男女双子が含まれる。女児が生まれる確率が高いのかもしれないと仮説を立てる。
『魔女』となるには、女性体であるという。ただし、環境によっては途中で性転換する場合も無きにしもあらずだという。しかし今回は『父親』が人間であるため(当然だが、人間は勝手に性転換しない)、無いだろうという。
子供たちは健康であったが、母体となった女性たちはしかし全滅であった。どうやら、人の身には『魔女』を産むには小さすぎるようだ。これが分かっただけでも、事後処理の資金と手間は報われる。
半年後に、第二班の四人が出産した。これら半年の間に、母体たちとの意思疎通に齟齬が起こる。出産直前に、母体一人が逃亡する騒ぎになった。外の人間が助力したとの報告。場を収める。恐れた事態にならなかったことが幸い。逃げた母体も含め、前回同様に全員が死亡した。やはり半数以上が女児。
生後一年。特に十四名の子供たちに変わった様子は見られない。
生後三年。異変あり。三年の忍耐が報われたのか、それとも無駄になったのだろうか。
まず、男児Aが失踪した。原因不明。部屋は他の子供たち、研究員五名の眼もあった。
彼らは、『子供が大人の脚の間をくぐる遊び』(正式名称不明)をしていたため、全員が手、またはどこかしらを互いに触っていたはずだと説明した。問題の男児Aは、女児Cと、研究員Sに、それぞれ両手を繋げている状態であった。
女児cから、研究員Sの両手に、男児の片手が渡った瞬間、男児Aは消滅した。
報告はこれ以上無く、これ以下もなく、一番正確なものである。
それより四十日後、男児Bも失踪、同じ日の二時間後には男児Dも失踪した。全員で四名の男児は、これにより一名を残し、いなくなった。なお、残った男児Cは、女児Cと双子である。
仮説は数あるが、真実はまだ遠い。
研究は、私の一生をかけたものになるだろう。
古来、不老不死を望んだ者達の気持ちが、今となってはよく理解できる。この目ですべてを見たいと思うのは、はたして神の逆鱗に触れるほどのことなのだろうか。
失踪した男児三名について、魔女は言った。
「彼らは魔女にはなれなかった」
ぼくは実験を進めるだけ。結論を出すのは、魔女たる彼女だ。
私の目的は、その経過にすぎない。
さて、仮説を立てた。
魔女の性質、特徴とされるのは、『世界を移動する一族である』ということである。私が魔女ではない以上、彼女らが本当に『異世界』を渡り歩く能力がある生命体かというのは、実証不可能であった。
しかし今回の男児失踪により、この『能力』については、少なくとも仮説を立てられる程度には実証されたのではないだろうか。
つまり男児は、自らの遺伝子に刻まれた性質に従って『異世界』に行ったのだ。




