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言霊遣いの受難の日々  作者: 春間夏
第一章 「強制力」編
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その邂逅は日常の為に(前編)

どうも、春間夏です。



先日、累計アクセス数が1000を突破していました。皆さん、本当にありがとうございます!



いよいよ本丸に突入。詩葉との出会いから始まった『強制力』編もいよいよ佳境です。


果たして…前編の主人公は誰でしょうww

時刻は午後7時を回り、空から街灯へと街を照らす主役が代わる。

そんな中を歩きながら、壱声は陽菜に電話を掛けていた。


《もしもし、お兄ちゃん?》


「あぁ、陽菜。悪いけど、今日は帰りが遅くなりそうなんだ」


《えぇー!?》


絶望的な響きを含んだ叫びを、陽菜は上げた。


《それじゃご飯は?陽菜はポテチで飢えを凌ぐしかないよ!?》


「冷蔵庫に作り置きのカレーがあるから。温めて食っていいぞ」


あうー、と唸っていた陽菜は、その情報にピタリと制止。


《…お兄ちゃん》


「ん?何だよ」


《ずっと…一緒に居ようね?》


「…ゴメン。健康な妹の介護をする人生って受け入れ難いわ」


おにーちゃーん!と絶叫する陽菜に心の中でもう一度謝りながら、壱声は電話を切った。


「……さてと。確かこの辺りだったよな……?」


実行が指定した合流ポイントに着いて、壱声は辺りを見渡した。


「何処に居るんだよ、会長……」


「此処に居るぜ?」


「うおぅ!?」


突然後ろから話し掛けられ、壱声はビクゥ!!と飛び上がってしまった。


「クハハ…いいリアクションするなぁ、壱声。次もその調子で頼むわ」


「…っ…二度とやらないで下さい、頼みますから」


少し痛みすら感じる胸を押さえながら、壱声は息を整える。


「…で。相手は」


「急かすなよ。歩きながら話すって」


そう言うと、実行はビルの間の細い路地に入っていく。


「……?」


何でそっちに?と疑問は持ったものの、壱声も後に続いていく。


「…歩きながら、て。こんな所をですか?」


「ん〜…まぁな。こうでもしないと」


路地の半分以上を過ぎた所で、実行は歩く速度を緩めた。

近くに転がっていた空き缶に手を伸ばすと、軽く上に放る。


「巻き込んじまうだろ?」


そして、落下してきた缶を。振り向きながら後ろに蹴り飛ばした。


「っ!ちぃっ…!!」


その声に、壱声が振り向くと。

いつの間に居たのか。闇に溶け込む様な黒いスーツに身を包んだ男が、手に無骨なナイフを持って近付いてきていた。


男は、実行が蹴り付けた空き缶に最大限の警戒を向けている。実行が蹴ったマネキンが防弾ガラスを突き破った。その情報があったからこその警戒だった。


しかし、男は知らない。

空き缶を蹴った時、実行は言霊を使っていない事を。

その空き缶が、ただの空き缶のままだという事を。


「…さて」


クン、と。実行は姿勢を低くした。

狩りの準備を整えた肉食獣の様に。


「ちっとトバすぜ?」


直後。

ドンッ!という爆薬が炸裂した様な地を蹴る音を残し、実行が壱声の横から消えた。

未だ15mほど残っていた男との距離を、僅か3歩でゼロにする!


「ッ――!?」


男がそれに気付き、ナイフを実行に振り下ろそうとしたが、もう遅い。


「寝てろよ狐。俺の前じゃテメェも獲物だぜ?」


特別に言霊を上乗せする事も無く。加速によって生じた爆発的な運動エネルギーを己の拳に伝動させ。体を捻る遠心力すら加えて、実行は男の腹を殴り付けた。


それは、およそ打撃の結果とは思えない音だった。殴られた男は、後ろに吹き飛ぶ筈だった進路を拳の遠心力によって捩曲げられ。直ぐ横の壁に背中から叩き付けられた。


ゴッダァン!!という轟音が響き、実行の拳から伝わった慣性が無くなるまで、男は壁に縫い付けられた様に硬直して。

重力に逆らう事なく、その場に崩れ落ちた。


「……生きてます?」


「加減はしたつもりだぜ?コイツの体が丈夫なものと仮定して、だけど」


手首のストレッチをしながら、実行は路地の出口に歩き出す。

その先は、合流地点に比べると格段に人の数が減っていた。


「手前から4番目。一番存在感を出してるビルに居るのが、今回の黒幕だ」


実行が指し示したのは、この通りの中で最も大きなビルだった。


鬼灯ほおずきコーポレーション。IT系企業の皮を被った、暴力団紛いの集まりだよ」


「…ひでぇ言い草ですね」


「今までの手段を見てりゃ妥当な評価だろ。此処の会長が前に国会選挙で落選して、それ以来随分とご立腹だったみたいだぜ?」


「…それで今回の騒ぎ、か」


そういう事だな、と実行は軽く頷いて、ビルを見上げた。


「で、どうする?」


そんな問い掛けに、壱声は笑いながら答えた。


「そりゃあ、もう」


まるで、友人の家に遊びに行く様に。


「お邪魔しましょう。正面から」


そう言って、ビルの入口に足を向けた。





自動ドアを抜けて、広いエントランスに入った壱声と実行を待っていたのは。


目算50人は居るであろう、黒いスーツの男達だった。


「…結構早く行動したつもりだったんですけどねぇ」


「敵さんも警戒心は一人前らしいな?」


この状況でも、実行は笑いながら前に一歩踏み出して。ポケットから、拾っておいた空き缶を取り出した。


「…会長?」


「お前の話し相手は一番上だろ、壱声。道は作ってやるから突っ走れ」


話している間にも、男達は銃を、ナイフを。懐から取り出していく。


「…この数ですよ?」


「任せとけって」


決して笑みを崩さず、実行は自信満々に告げた。


「…分かりました、頑張って下さい。会長はやれば出来る子です」


「バーカ、ちげぇよ」


空き缶を握る手に、力を込めて。


「俺はやれば出来る子じゃない。やると言った事は何でも出来る子だ」


ピッチャーの様に、振りかぶり。


「コイツを壁まで音速で投擲!壱声、お前の道を切り開く!!」


力一杯に投げ付けた空き缶は、男達の頭の上を通過する軌道だった。

本来、空き缶が音速に耐えられる筈は無い。しかし、「空き缶を、壁まで、音速で投げる」という実行の言霊により。

ビルの壁に到達するまでという限定条件下に於いて、ただの空き缶は物理法則を無視して音速で突き進む!

男達に缶が直撃する事は無い。だが、音速という圧倒的な速度で通過した直後、空気の壁を突き抜けた事による衝撃波が襲い掛かり、進路上に居た男達を吹き飛ばし薙ぎ倒す!!

局地的な暴風が過ぎ去った後に出来たのは、タイルが剥ぎ取られた床と。そのラインに沿う形で作られた、階段へと続く道。


「走れ!壱声!!」


「…ウッス!!」


余りの出来事に、男達は走り出した壱声を止める事は出来ず。

圧倒的な破壊をもたらした実行力の言霊遣いを排除するべく、銃とナイフを向けていく。


「…気を付けろよ?俺は壱声とはタイプが違ってな」


この状況でも、やはり。実行は笑っていて。


「俺は口より拳で語る方が好きな質でなぁ…んな玩具で喧嘩売るってんなら、相手を間違えてるって教えてやんよ!!」


そう、男達に宣言した。




走る。

階段を駆け上がる。

廊下を走り抜ける。

振り返らず、立ち止まらず。

壱声は、最上階に向けて走り続ける。


その行く手を阻む様に、スーツの男が二人。手には…サブマシンガン!


(面倒くせぇ…!!)


壱声は速度を落とす事無く。突き進みながら宣言する!


「その銃は弾詰まりを起こす!」


直後、男達は引き金を引く。

が、壱声の宣言により、どちらの銃も弾詰まりしてしまい、発砲する事が出来ない!


「っ…らぁぁあ!!」


男達が動揺している内に、壱声は片方の男に体当たりを仕掛け、床に後頭部から叩き付ける!


「がっ…!?」


倒れた男が意識を失った事を確認する前に、壱声はもう一人に向き直る。


「くっ…そぉ!?」


男が慌てて予備の拳銃に手を伸ばそうとするが、壱声はその隙を見逃さない。


「テメェはこの一撃で気絶するっ!」


体重を乗せた拳が、男の顔に突き刺さり。拳が当たった瞬間に気絶した男は、そのまま床に叩き付けられた。


「……っ!」


銃を奪った所で、どうせ自分には使えない。そう判断した壱声は、そのまま先に進んでいく。

最上階まで、あと16階層もあるのだから。


エントランスは騒然としていた。


実行が投擲した缶の衝撃波により、16人。

たった一撃で、初期配置の32%が戦闘不能に陥ったのだ。


その上。


「…シッ!」


どんなに鋭い軌道でナイフを振るっても。


「速いねぇ、人並みに!」


言霊によって『速く動く』事を可能にしている実行は容易く躱し。直後、カウンターの回し蹴りが腹に叩き込まれ。


「っ…ぐぁ…!?」


「蹴り飛ばす」


その一言により。蹴られた男は、後方で銃を構える仲間達に向かって弾き飛ばされる。


「なっ…!?」


蹴られた男と、飛んできた男が直撃した3人が吹き飛ばされて気を失う。

そして、連携が崩れたその場所に。実行は疾風が如き速度で躍り込む。


「――っ!!」


「人間ボウリング。やってみようぜ」


屈み込んだ実行に足払いを掛けられ、男の体が宙に浮く。

高速機動が可能になった実行は、僅かに存在するその浮遊時間の間に、逆の足で男を更に蹴り上げ。立ち上がる過程で体を独楽の様に回転。軸足を右から左に転換し、右足を一度縮めて溜めを作り。


「壁まで。蹴り、飛ばす!!」


槍による刺突にも似た蹴りを、空中で受け身も取れない男に叩き込む!


「がぁっ…!」


為す術も無く吹き飛ばされた男は、直線上に居た仲間を薙ぎ倒しながらも、壁まで減速を許されず。8人の仲間を道連れにして壁に叩き付けられた。


「…惜しい。ストライクは取れなかったか」


そんな事を呟く実行に、一人の男が銃口を向けた。


「…死ね!」


しかし、実行は余裕を崩さず。引き金が引かれる直前に。


「弾くか」


そう宣言した。

銃弾が発射された直後、その銃弾を弾く為に。

実行の動体視力が極限に高められ、銃弾の軌道を読み取り。

軽く振るった腕は、人間の挙動限界を超える速度に変換され。

的確に。放たれた銃弾の横を殴り飛ばし、明後日の方向へ弾き飛ばした。


「…は……?」


撃った男は、呆然とする他に術は無く。


「だから言ったろ?」


弾いた実行は、不敵に微笑んで。


「そんな玩具、俺に向けるだけ無駄だってな」


混乱の極みにある男に対して、容赦無く踏み込んだ。





「……ハァ。ったく、いくつ階段を昇れば…いいんだよ、チクショウ」


待ち伏せしている男達を無力化しながら、12階。

それでも未だ、10階分も階段を駆け上がらなければならない。


「…やっぱエレベーター使おうかな…と思っても。連中が絶えず使用してるから、停めても俺の敵が増えるだけ、か」


それに、エレベーターは全て1階に向かっている。つまり、実行に対する増援という事だ。


(こんだけ絶え間無く増援が必要って…どんだけ暴れてんだよ、会長)


半分呆れながらも、心強い事この上ないな、と壱声は思い。息を整えて走り出そうとしたが。

まさに、その目前に。拳銃を持った男が飛び出してくる。

最初からこのタイミングを計っていたのか、既に壱声の心臓にポイントを定め、引き金が引かれようとしていた。


(…っ!?ヤバ)


壱声が言葉を発するよりも早く。発砲音が廊下に響き渡り。


「……っ、があぁ!?」


壱声を狙った男の左肩から、鮮血が飛び散った。


「……え?」


立て続けに、右腕。左足。発砲音と共に、銃弾が貫いていく。


「テ…メェ……」


壱声の背後を睨み付け、しかし。手足に走る激痛で、男の意識は落ちた。


「…誰だ、アンタ」


壱声が振り返った先には、硝煙を吐き出す拳銃を持った、やはり黒いスーツを着込んだ男。


「…全く。どいつもコイツも。どうしてガキってのは面倒なんだろうな」


「…?あ」


よく見ると、その男は。壱声を廃工場に案内した男だった。


「元から色々と納得してない部分もあった、ってのもあるけどよぉ。こういう無茶を見せられると、つい便乗しちまうだろうが。ったく、得がねぇ。給料くれる相手に歯向かうなんざ馬鹿のやる事だっつーのによ」


「…俺に協力する、ってのか」


「…ガキが使い潰される、ってのがどうにも気に食わなくなっただけだ。分かったら行くぞ、ガキ」


俺が居てもエレベーターは危険だからな、と。階段に向かい歩き出す男に、壱声は後ろから声を張り上げた。


「…鶴野壱声!俺の名前は知ってんだろ、オッサン!!」


オッサン、という言葉に。男は立ち止まる。


「…ホント、ガキは面倒くせぇ」


舌打ちしながら、男は振り返る。


「それを言うなら、俺だってオッサンじゃねぇ、青木だ。次オッサンとか言ったらぶっ飛ばすぞ、壱声」


その言葉に微笑むと、壱声は青木の横に並んだ。


「OK。行こうぜ、青木」


「さん付けしろよテメェ!」


「じゃ、サン青木」


「マジで殴るぞ!?チクショウ、二度とガキの面倒なんか見ねぇ!!」


そんな事を言い合いながら、壱声と青木。奇妙なコンビは最上階を目指していく。





「………」


詩葉は、廃工場の中庭で。携帯電話を眺めていた。正しくは、携帯電話に付けられた、猫のストラップを。

首の部分に小さい鈴が付いていて、揺れる度にチリン、と控え目な音を鳴らす。


「……良いのかな」


詩葉は、そっと囁いた。


「私は、此処に居て、良いのかな」


誰が答える訳でもない、自問自答。


「止めて貰って…助けて貰って…こんな所で全部が終わるのを待ってるだけで、本当に良いのかな」


否、答える必要など無かった。


「…うん、やっぱり、ダメだね」


そう呟くと、詩葉は立ち上がった。


「だって。此処は私の居場所じゃない」


もう、その目に迷いは無く。


「…ゴメンね、壱声。隠れてなんていられないよ」


だって、と。詩葉は見据える。かつての居場所がある方角を。


「壱声の傍に居たいもん」


決別の為に。自分で居場所を決める為に。

詩葉は、廃工場から足を踏み出した。

…はい、色々な人物が動き始めて。前編は以上とさせていただきました。


主人公…実行でしょうかww好き勝手やらせると大変な事になりますね、あの生徒会長。



次回分で、決着まで詰め込めるかも知れません。その分ページ数は多くなりそうですが、この後区切れる部分が無いんですww



前編での消化不良は、全て後編でスッキリさせます。絶対に。



では、またお会いしましょう。

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