その邂逅は日常の終わり
今回は少し短いです。
タイトルに合わせた内容で区切るんならこの辺にしておこうかと
晴れのち曇りな内容です。
「──SM喫茶の次はメイド喫茶、か」
クックッと、押し殺した様な笑い声が響く。
ここは放課後の生徒会室。笑っている人物は、蒼葉ヶ原高校の生徒会長。
有言実行だった。
背は壱声よりも少し低く、髪は茶の混じった黒。服装は生徒会長とは思えない着崩し方をしている。
これで成績がトップクラスなのだから、見た目で判断出来ない見本と言える。
女子からの人気も高いが、唯一欠点があるとすれば──。
「ん? どうした壱声」
「いや……その」
クラスの出し物がメイド喫茶に決まった事を伝えに来た壱声は、苦笑しながら尋ねた。
「何すか、そのTシャツ」
そう。
唯一欠点があるとすれば、制服の中に着ているTシャツに毎回妙な四字熟語(?)が書かれている事だろうか。
因みに、今日は「横断歩道」だった。
「人の話を聞かずに胸元を凝視するとは……壱声、そういう事は女子にだけやれよ。俺にそっちの趣味はねぇぜ?」
「むしろ女子にやったら犯罪だろ──でしょう」
「無理に丁寧にしなくていいぞ?」
「仮にも先輩で生徒会長、タメ口なんて叩けませんよ」
「んな事言って好感度を稼いだって、俺のルートには入れないぜ?」
「知ってるよ! 入りたくもねぇし!!」
思わずタメ口全開でツッコミを入れてしまい、壱声はハァ、と溜息を吐いた。
「で? ウチのクラスの申請は通るんすか?」
「あぁ、問題ないだろ。他と被ってる訳でもないしな」
ニヤニヤとしながら実行が続ける。
「義兄妹・姉弟喫茶ならあるけど」
「喫茶を付ければ許されると思ってんのか!?」
ここにいない誰かにツッコむ壱声。
「いや、面白そうじゃん?」
「……まさか、アンタのクラスじゃないですよね?」
「ん〜? ウチは違うよ」
実行は指で書類をパァン! と弾いた。
「鬼軍曹喫茶だ」
「もうテメェ等は二度と喫茶の文字を使うんじゃねぇ!!」
色々ふっ切った壱声の全開のツッコミが、生徒会室にこだました。
*
「ハァ、やっぱあの会長の相手は疲れるな」
人気の少ない帰り道。
壱声は一人で家路を歩いていた。
夕暮れも半ば、家に着く頃には日も沈んでるかな、と、壱声は空を見ながら思った。
あの生徒会長、壱声がいるとボケ倒しに入る節がある。
その為、普通に話そうとしても倍以上の時間が掛かってしまうのだ。
「ツッコまないとうるさいしなぁ……」
それに、いくらボケても最終的には話をちゃんと纏めるので、壱声もあえてその流れを止める気は無かったりする。
「それで帰りの時間が遅くなる、ってのだけは勘弁してほしいけどさ」
一つ息を吐いて。
早く家に帰ろうと、壱声が歩を進めた先に。
一人の少女が立っていた。
それだけなら、何も奇妙な事は無い。壱声も、最初は何も疑問には思わなかった。
近付いていくと、少女の全体像も掴めてくる。長い黒髪を頭の両脇で束ねていて、薄い桃色のワンピースの上に茶色のベストを着ている。
やはり、特におかしな事は無い。
そう。
まだ日も沈まない時間、周りに誰もいない事を除けば。
「…………?」
その違和感に気付いた壱声は、少女から50m程離れた位置で立ち止まった。
耳を澄ましてみると、遠くからは車の通る音も聞こえてくる。
しかし、その音は決してこちらに近付いてこない。
普段、この時間帯ならばもっと人通りはある筈なのに。
影一つ見当たらない。
家の中から誰かが出て来る様子も無い。
今、まさしく。
ここには壱声と少女の二人しかいなかった。
……何だこりゃ? 一体どうなってんだ?
怪訝に思い、壱声が少女に視線を戻した時。
少女の口が僅かに動いた。
動かないで、と。
「……? っ!?」
瞬間。壱声は身動きが出来なくなっていた。
手足が完全に硬直していた。
まるで。
少女の言った通りに。
「これ、は……!?」
「初めまして、鶴野壱声さん。ううん」
少女は、一歩ずつ壱声に近付いてくる。顔を見ると、素晴らしく可愛かった。かと言って、それを喜べる状況でもなかったが。
「──『決定力』の言霊遣いさん。少しお話しよう?」
「……っ!!」
こちらの正体を知っている。
そして、自らが置かれた状況。
「お前──お前も言霊遣いか……!?」
その言葉に、少女は薄く微笑んだ。
「うん。そうだよ。あなたの『決定力』と似ているけど」
少女は、自らの口を指差して言葉を続けた。
「私の名前は掌上詩葉。言霊遣いとしての能力は『強制力』だよ? 覚えてくれると、ちょっと嬉しいかも」
少し上目遣いに自己紹介をする様子は、実に可愛らしかったが。
拘束されている身としてはたまったものではない。
「で、お前は何で」
「詩葉」
「……は?」
「名前。教えたよ?」
「……いや、お前」
「う・た・は」
「……はぁ」
こっちが折れないと話が進まないのかと、壱声は今日何度目になるか分からない溜息を吐いた。
「詩葉、どうして俺の名前と素性を知ってるんだ?」
壱声が名前を呼ぶと、詩葉は満足したように微笑む。
「家系図だよ」
「家系図?」
うん、と詩葉は頷く。
「私たち言霊遣いは、その血筋を知られない為に家系図を書かない様にしてる。けど、力を分散する前と、その後一世紀半くらいは家系図が残ってるの。古い文献とかに。そこから探っていくと、今の言霊遣いを突き止める事が出来る……らしいよ。まぁ、私は頼まれただけだから、詳しくは知らないけど」
「……頼まれた?」
「そう、頼まれたの。決定力の言霊遣いを仲間に引き入れるように」
「誰にだよ」
「国を変えたいと思ってる人達」
国、という言葉に、壱声は眉をひそめた。
「やめておけ」
「?」
「国を変えたい、なんてのは嘘もいいとこだ。本心は自分達がやりたい放題出来たらそれでいい。そういう連中だろうしな」
壱声の言葉に、詩葉は俯き黙り込んでしまう。
「詩葉、そいつ等に手を貸すのは止めろ。こんな事で言霊遣い同士が争ってどうすんだ」
「──出来ないよ」
それは。
静かな、しかし確かな拒絶だった。
「出来ない。私はあの人たちの味方だもん。……ううん、違う、ね。あの人たちは、私の味方だから」
「……? それは」
「今日はもう帰る。考えといてね、また来るから」
どういう意味だ。
そう言おうとした壱声の言葉を遮って、詩葉は壱声の横を歩き通り過ぎていく。
「待っ……」
「あと一分。そのままでいてね、壱声」
「……っ」
「今日はサヨナラだよ」
その言葉を最後に、詩葉のものであろう足音が遠ざかっていく。
そして、その音も聞こえなくなり。
壱声が漸く動けるようになった時には、既に詩葉の姿はどこにも無かった。
「……ちくしょう」
壱声は、グッと拳を握り締め、呟いた。
「何だってんだよ、一体」
その疑問に答える者は誰もおらず。
壱声は、その疑問を抱えたまま家に帰る事しか出来なかった。
*
壱声は家に着くなり、パソコンを起動していた。
「国を変えたい、なんて言ってる連中だし、適当に検索すりゃそれらしいモノが引っ掛かるかと思ったんだけどな」
結果は芳しくなかった。
「もし、俺が決定力の言霊遣いだと知っていたとしても。真っ当な奴等なら自分で出向いて来るか、自分の部下。最低でも幹部クラスの人間をよこしてくる筈だ。そもそも、自分に充分な発言力があるんなら、わざわざ俺の力を利用しようとは思わないだろうし」
そうなると……と、壱声は考えを巡らせていく。
「俺の決定力を必要とする、今の国の政治に不満がある、って事は。野党の中でも議席が少ない──と言っても、トップの連中なら今回みたいなやり口は選ばない。もしかすると、政党を支持してる考えの過激な連中かも知れねぇな」
そこまで考えると、壱声はパソコンを閉じて席を立った。
「ま、何であれ協力する必要はねぇな」
丁度その時、階下のリビングから妹の陽菜が声を張り上げた。
「おにーちゃーん! ご飯食べないのー!?」
「食べるっつーの──ってちょっと待てまさか陽菜が作ったのか!? 俺が作るから少し待ってろって言ったろーがぁ!!」
リビングのテーブルに広がる惨劇を覚悟し、果して食材は残っているだろうかと思いながら壱声は階段を駆け下りていった。
…はい、お付き合いいただき有り難うございます。
少し物騒になってまいりました。
しかしここから更に物騒になっていきます。
晴れのち曇り、雷注意報発令って感じです。
そして、次回は少し文章量が膨らむかとww
前後編の可能性が……
それでは、また。