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言霊遣いの受難の日々  作者: 春間夏
第四章 日常パート2
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約束のダブルデート(後編・1)

あ、現実でもこちらでも存在感が希薄。そんな春間夏です


テンポ良く書いていきたい希望だけは捨てていません。ホントですよ


あと、後編・1です。ご容赦を





「よし、壱声(いっせい)。原生林バーニャカウダを頼もうぜ」


「のっけから何言ってんですか絶対頼まねぇよ!?」


メニュー表を眺めていた実行(さねゆき)が顔を上げてから最初のやり取りがこれである。適当に作り上げた架空メニューかと思いきや実在するらしいから恐ろしい。


「…凄いわね、ここ。普通のメニューと本能が頼む事にブレーキを掛ける系のメニューがほぼ1:1よ」


仄香(ほのか)がメニュー表を眺めながら愕然と呟く中、みなもが壱声の袖をチョン、と引っ張る。


「……壱声。この、オリンポス山プリンってどんなの?」


「みなも、それだけではないけど特にそれは頼むべきじゃない。オリンポス山とか用いてる時点で作らせちゃいけない種類の代物だ」


みなもの素朴な疑問に対し、壱声は「多くを知るなかれ。ただし好奇心は捨てろ」と断言した。ちなみにオリンポス山、火星に存在する現在確認されている中で最大の火山である。ざっくり割愛しても標高2万メートルを遥かに凌ぐ、まさしく神々住んでる系の山を模したプリンと考えたら壱声の判断は何も間違っていない。


「そうだな。せめてこっちの1/10000スケールモンブランにするべきだろう」


「まぁ、それなら……いや待ってください会長。あの山、1万で割っても40センチ後半の高さなんですけど?結局ただの質量兵器なんですけど!?」


縮尺の数値に騙されそうになった壱声だが、どんなに縮めても原寸は山である。この店、余計な単語が付属していないメニューしか手を付けてはいけない類の魔境らしい。


「もっとシンプルなメニューにしましょう。変な欲を出すと特典としてもれなく後悔が付いてきますから」


「なら――限り無くシンプルな、この『質量』を頼むか」


「ラスボスが魔王くらいシンプルに最強じゃねぇか!?メニュー表にそうとしか書けない何かとか怖過ぎるわ!!」


壱声(いっせい)……こういう場所では遊び心を持たないとだな」


「会長、知らないんですか?好奇心って猫だけじゃなくて人も殺せるんですよ」


死因が遊び心とか絶対遠慮します、と実行(さねゆき)の悪ノリモードを全否定する壱声。と、そんな時。

何だか既視感を覚える形で、テラス席側に備え付けられたスピーカーのスイッチがONになった。


《さぁ、御来店中の皆様……恐らく、今世紀最初で最後になるでしょう。世界樹にチェーンソーを突き立てるが如き蛮勇を、とくとご覧あれ!3番テーブル席に、SAN値直葬の『質量』が顕現致します!!》


――()()は、()()()()()()()()運ばれてきた。


最早、生態系の縮図と呼んで差し支え無い。大地たる米・緑地たる野菜・水源たるハッシュドビーフ・そこに住まう魚・そして動物(にく)


箱庭のようなその光景を、しかし正確に把握する事は叶わない。


何故か?

理由は単純――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


結果として、あらゆる物質の集合体であり、その全容すら本能がモザイクを掛けてピントがボケる。そうして完成する、何だか(うずたか)い山みたいな物体――『質量』以外にどう言い表せようか。


「………なぁ、壱声(いっせい)。あれ、調理工程は存在するのか?厨房で人〇錬成に失敗したとかじゃないよな?」


「……俺に出来るのは、違うと祈る事だけです」


実行(さねゆき)の「あの物体は合法か?」という問いに、「そうであれ」としか返せない壱声。みなもと仄香(ほのか)に関しては、最早チラ見した『質量』が料理だと認識する事も出来ずに「え………何、あれ」と呟くのが精一杯の状態だった。


そして、各々がメニューを確認して、ゆっくりと頷いて。心の声が完璧に一致した。


至極普通(いちばんいいの)を頼もう、と――


           *


…さて、それぞれの注文した品が届いた。


「………天ぷら蕎麦(そば)なんてあったんですね、この店」


「うむ、(いき)だよな。それも十割蕎麦とは恐れ入る。天ぷらの揚げ方もマーベラスだ」


感服しながら割り箸を手に取る実行(さねゆき)の隣では、仄香(ほのか)がナイフとフォークに手を添えながら呟く。


「このハンバーグステーキも、国産牛と国産豚を店内で合挽きにして、甘味を引き立てる為の玉ねぎ以外は何も入れずに作られているみたいだし。ソースも濃く感じ過ぎない絶妙な味に仕上げられているわね」


壱声(いっせい)の隣では、みなもがスプーンを持って口元を緩めていた。


「……シーフードドリア、美味しい…エビ、プリプリしてる。チーズも、焦げてる所はパリパリで、中はトロトロ……はふぅ」


そして、絶妙に半熟な卵で包まれたオムハヤシを食べながらそれを聞いていた壱声が、ふと呟く。


「……あれ、トータルしたら何に力を入れてる店なんですか、ここ。メニューには中華もメキシコ料理もインド料理もありましたけど」


「………『食』じゃね?」


「成る程」


どんな欲求にも応える精神か、そりゃ納得だ…と、実行(さねゆき)の答えに頷く壱声。ただ、どんな欲求に応えたら『質量』が出来上がるんだろうか。暴食の化身(グラトニー)でも来店した経験をお持ちなのかなこの店は、と考えていると、テーブルの向こう側で実行(さねゆき)が仄香のハンバーグステーキに視線を向ける。


「……見てると気になってくるな。仄香(ほのか)、一口貰っても良いか?」


「うん?勿論構わないけれど…じゃあ、私もお蕎麦(そば)を一口貰って良いかしら」


「あぁ、交渉成立だな。それじゃ、先に仄香に蕎麦を進呈しよう。ほら」


そう言って、実行(さねゆき)はそれが当然の流れと言うように一口分の蕎麦を箸で(すく)って仄香の前に差し出した。それに対し、仄香も何の疑問を挟む事無く口を開き、実行(さねゆき)が差し出した蕎麦を口に含んで「うん」と頷く。


「本当、美味しいわね…お蕎麦の専門店にも劣らないくらい。それじゃ、今度は実行(さねゆき)の番ね」


一口サイズに切り分けたハンバーグステーキをフォークに刺して、今度は仄香が実行(さねゆき)の前に持っていき、それを実行(さねゆき)が食べる。


「……おぉ、美味い。こっちも絶品だな…どっちも700円とか、コストパフォーマンス良過ぎるだろこの店」


……さて、そんな『恋人同士で成立した常識』を目の前で展開され。

「あ、何か嫌な予感がするぞぅ」と壱声(いっせい)が思った直後。


――ツンツン、と。

壱声の右腕を、みなもが指でつついてきた。


「………えと、壱声。………交換、しよ」


「………あ、やっぱそうなります?」


ですよねー、この流れだとそうですよねー、と心の中で呟いた壱声(いっせい)は、もうこの状況でごねるのは野暮だろう、とオムハヤシをスプーンに取り、みなもに向けて差し出した――が。


「………………ぇ、ふぇ?」


みなもが、()()()()()()()()()と目を見開いて頬を紅潮させるのを見て。「あれ?」と思い――壱声は、何かに気付いたように即座に実行(さねゆき)(ほう)へ視線を向ける。


(――掛かったなぁ、壱声(い・っ・せ・い)?)


愉悦に浸るような笑みを浮かべながら、そう口の動きだけで語る実行(さねゆき)。それにより、壱声は今の状況を完全に悟った。


(……し、しまった。会長と副会長はそもそも恋人同士、しかもお互いに食べさせ合う程度は日常と言い切れるレベルの進展具合!それを見せられた後のみなもからの一口交換の誘い――あぁ、それ自体は特に不自然は無い。ただ、俺とみなもは()()()()()()()()()()……ならば、少なくとも初手は()()()()()()()()()()()()()()()一口取って貰うようにすれば良かっただけの事!にも関わらず、()()()()()()だと思い込んでタイムラグ無しで『あーん』の構えを取ってしまった――これは、俺の完全な失策!!)


しかし、気付いたからと言って差し出してしまった一口オムハヤシを勝手に引っ込めるわけにはいかない。

もう投げてしまった球だ、バッターであるみなもが打つか、見送るかの二択である。


そして、みなもは。


「――………あむっ」


ホームランをかっ飛ばした。

カチッ、と口の中でスプーンと歯がぶつかる音がするくらい、勢いに任せてオムハヤシを頬張る。

それが恥ずかしかったのか、ゆっくりとスプーンから口を離して、椅子の背もたれに寄りかかってモクモクと咀嚼(そしゃく)して。


「………ん、その、美味しい。………ありがと」


頬の赤みが抜けないまま、呟くみなも。が、壱声(いっせい)としては今「あーん」に使ったこのスプーンの今後の所在に関して絶賛脳内会議紛糾中である。


(……どうする、これ。このまま使うの?めちゃくちゃ間接キスですけど。だからって洗ったり拭いたりしたらみなもが傷付くかもだし。取り替えるのも似たようなモンだし。でも堂々と使って大丈夫なのかって考えたらワーキャー)


「………、えと。壱声………」


「わっきゃい!?」


心の声の末尾と「あっ、はい!?」が完璧に噛み合った結果の奇声だった。仄香(ほのか)は口元を手で押さえて壱声から顔を背け、実行(さねゆき)に関してはそんな気遣いもせず堂々とニヤニヤしている。仕切り直す為に一度咳払いをしてから、壱声はみなもに向き直る。


「………いや、何でもない。で、どうした?みなも」


「どうした……って、いうか……お返し」


「ん?あ、そっか。えっと、じゃあ……」


一口貰おうかな、と言おうとした壱声の前に、スプーンが差し出された。シーフードドリア搭載済みで。


「………ん、壱声………あ、あーん」


「わっきゃい」


しまった、返礼じゃなくて返杯だった、と壱声の口から奇声リターン。え、マジですかみなもさん。いやこの流れを続けてしまったのは俺だけど、と冷や汗を流す壱声に、実行(さねゆき)が「ヘイヘイ」と手を叩く。


「ん?どうした壱声。シーフードに対抗してチキンになったのか?うーん、うまい。コン〇ーム1枚」


「勝手に深読みした挙げ句とんでもない物届けないでくれません!?」


「10枚達成すると、副賞として必ず破けるハプニング系のやつを1枚進呈」


「ぶっ殺すぞテメー」


いよいよ最上級の脅しで実行(さねゆき)に「マジいい加減にしろや」と伝え、壱声は深く溜め息を()いた。


「んー、と……じゃあ、みなも。貰って良いか?」


「………ん。………どぞ」


では、と壱声、みなもが差し出すシーフードドリアを口に運び――


カシャシャシャシャシャシャシャ!!!


(連写だと!?)


実行(さねゆき)が瞬間で構えた携帯電話から発生した高速シャッター音に驚愕しながらも、壱声(いっせい)はひとまずシーフードドリアを味わう事を優先する。


「………うん、こっちも美味いな。ありがとう」


「…ん。………ぁ」


と、どうやら。みなもも、壱声と同じ「この後のスプーンをどうするのか問題」に突き当たったらしく、どうしようかと視線を泳がせる。

すると、そんなみなもと壱声に対して実行(さねゆき)が「ん?」と不思議そうに首を傾げた。


「どうした二人とも。そもそも、自分が使っていたスプーンで食べさせた時点で相手にとっては間接キスになってるんだ、今更だぞ?」


「「………………………」」


実行(さねゆき)の指摘に、ゆっくり赤面するみなもと壱声。その空気を振り払うように、壱声は先程の実行(さねゆき)の行動を()(ただ)す事にした。


「……で、何で連写しやがったんですか」


「あぁ、ついこの前スマホを新調してな。画素数が上がったのでつい」


「はぁ……で、撮った写真はどうするつもりなんですか?」


実行(さねゆき)は、スマホを操作しながら壱声の質問に答えた。


「ん?蒼葉ヶ原(あおばがはら)高校の裏掲示板に投稿してスレ立てしてやろうかと」


「色々と待て」






……むずかしい。にちじょうせいかつ、むずかしい


どうにか書きます。書きますので。はい


ではまた、平成が終わるまでに

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