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言霊遣いの受難の日々  作者: 春間夏
第二章 日常・夏休み・カオス
14/29

8月5日〜海編〜

…何とか2月中に更新出来ました。春間夏です。



時間が掛かった分だけ、中身はおかしな事になっています。



今言える事は…そうですね。



見逃すな。変態の最期を(笑)。




では、どうぞ。

「………ん」


目蓋の裏にまで染み込んでくるような朝の日差しと、いつもに比べて寝心地が良過ぎるという違和感に壱声が目を覚ますと。


「………ん?」


隣のベッドに、四五六が横たわっていた。

掛け布団で簀巻きにされて、ベッドにロープでグルグルと固定されて。


「……何だそれ」


「俺が聞きてぇよ!深夜2時頃に意識が戻ったらこの有様だったんだぞ!?新手の金縛りかと思ったわ!!」


ダバダバと涙を流し激訴する四五六を見て、壱声は漸く思い出す。


「…あぁ。絶対に身動きが取れないように、俺がやったんだった」


「真犯人が事実を忘れてんじゃねぇよ!?」


「あー面倒くせぇ…何で朝っからそんなにテンション高ぇんだよ…ちょっと待ってろ、今解くから」


四五六をベッドに拘束しているロープを外し、簀巻き掛け布団を縛っていたビニール紐を解くと、やっと自由の身となった四五六はゆっくりと手足を伸縮させた。


「…くぅ、筋肉が固まってやがる…簀巻きの刑は一歩間違えると死んじゃうんだぞ?」


「大丈夫だ、問題無い」


「何の自信だよ!?」


四五六の追及をサラっと流して、壱声は窓から外を眺める。

天気は快晴。文字通り雲一つ無い。


「…海日和だな」


壱声のそんな呟きに、四五六は怒りとは別の感情でわなわなと震え始めた。


「海…海、だと?海と言ったな言ったぞつまり水着だ美少女達の水着が拝める訳だな!?いよっしゃぁあああ!!青と白のコントラストに映える浜辺のパンジー朝顔ハイビスカス!!可愛く美しく鮮やかに可憐な花達が蜜を香らせて俺を待ってるぜぇぇぇぇえぃあ!!!」


今までで一番のテンションで、ティ○レックスもビックリの咆哮を上げる変態希少種。


溢れ出す下心オーラに結構本気でドン引きしつつ、壱声は決心した。


いざとなったら、埋めてでも沈めてでもコイツを止めよう、と。


「…四五六。全編コメディ主体だからってハメを外し過ぎるなよ?『ギャグなら人は死なない』とか決め付けてると痛い目見るからな」


「分かってる分かってる!とりあえず揉むのはセーフっしょ?」


「たわけ!その発言だけでアウトに決まってんだろ!!」


全体重を乗せた蹴りで壁に叩き付けられた四五六を残し。この後の展開に莫大な不安を持ったまま、壱声は朝食の為に食堂に向かうのだった。



現在、午前10時。

海岸の真ん中で、四五六は立ち、叫んだ。


「…何故だぁぁぁぁぁああああああ!!?」


慟哭する四五六に、耳を押さえ顔をしかめた壱声が、うんざりした様子で問い掛ける。


「…うるせぇな。何がだよ」


「何が…じゃあるか!何この仕打ち!海を全く楽しめてないんだけど!?」


「何処がだよ。砂浜の感触、磯の香り、波のせせらぎ、肌を焼く夏の陽射し。海の要素しか無いじゃねぇか」


「あぁ、確かにそうだろう…俺だってその全てを感じているさ。けどなぁ……」


ぐっ、と。一度言葉を飲み。意思を強くして、四五六は叫んだ。


「女の子の水着姿は…目で見なきゃ意味無ぇんだよぉぉおお!!!」


天を仰ぐ四五六の顔には……目隠しがされていた。まるで、魔眼を覆う聖骸布の如く、タオルがグルグル巻きにされていた。更に、それを外す事が出来ないように、後ろ手にされて縛られている。


「俺にとって海は水着!それさえ有れば何も要らない、寧ろ水着が無いなら海なんて干からびちまっても構わない!!俺にだって美少女の水着姿を視姦する権利は有る筈だろう!?そして陽菜ちゃんはスク水と見た!!」


「…口も塞がれたいのかお前は。そして自分の妹をマニアの餌食に晒すような真似をするわけねぇだろ!!」


「…じゅるり」


「まさか『マニア垂涎』をこの目で見る事になるとはなぁ!?そろそろ頭から砂に埋めるぞテメェ!!」


「…分かってねぇなぁ壱声。海×妹=スクール水着(旧)。全国の皆の為にももう一回言うぞ壱声。分かってねえなぁ」


「OK変態。今のが遺言で構わねぇな?」


やれやれと言わんばかりに首を振る四五六。その頭上に雷神の怒りと見紛うばかりの拳を構える壱声。

その間に。


「まぁまぁ落ち着けよ、シスコン&ロリコン。天使が降り立つ平和な海に野暮な諍いを持ち込むもんじゃないぜ?」


腕を割り込ませながら、実行が現れた。


「…別にシスコンじゃないですが、まぁ良いでしょう」


「…確かにロリコンですが、まぁ良いでしょう」


壱声と四五六。二者それぞれの反応をしながら距離を取ると、とりあえず青い海に目を向けた。


…が、視界を奪われている四五六はともかく。やはり壱声は我慢しきれずに実行に視線を戻した。


「…会長。それはいい加減自分で書いてるでしょう?」


「何の事だぜ?」


実行は、水着に着替えた状態で、上にパーカーを羽織っているのだが。

そのパーカーの背中にはこう書かれていた。

『新劇場版』と。

…使徒でも襲来するのだろうか。



「…まぁ、もういいです、別に」


「ククッ、そうしとけ。使徒は来ないが天使が来たみたいだしな」


実行がそう言って視線を投げた先から、砂を踏む軽い音が聞こえた。

壱声は何気なくそちらを向き……。


「おぅ、どうした?壱声。しゃがみ込んで顔を押さえちゃったりして」


「…ほっといて下さい。何の心の準備も出来てなかったんですから」


「んん〜?顔が赤くなってるだけならマシだが…出ちゃってる?鼻から興奮が溢れ出ちゃったかな壱声?」


「出てませんよ!ムカつくなそのニヤニヤ顔!!」


目にした誰もが思わず「イラッ」としてしまう事間違い無し(もし四五六がやろうものなら意識不明のダメージ必至)の笑顔を浮かべる実行に、壱声は慌てて反論する。

…本人の名誉の為に補足するが、鼻血は決して出ていない。


「え〜っと…そろそろ近付いても良いのかしら?私達」


「あぁ、問題無い。寧ろ来てくれなきゃ話が進まないからな」


それじゃあ、と。

それまでのやり取りを傍観していた仄香たちが、ゆっくり近付いてくる。


……そして、全員の姿を目に収めた所で。

壱声は頭を抱える事になった。


「…陽菜。お前が着ている水着の種類に関しては、きっと俺の気のせいだよな?」


「え?何の事?お兄ちゃん」


可愛らしく首を傾げる陽菜が着用している水着。

まさしく、スクール水着(旧)であった。


「他にも持ってたよな?確か…」


「うん。けど、詩葉お姉ちゃんが『陽菜ちゃんが着る水着のチョイスはこれ以外有り得ない』って」


「主犯出て来い。そして詩葉もどうしてその水着なのかなぁ!?」


堂々と前に一歩進み出た詩葉は、スクール水着(新)であった。


「陽菜ちゃんが旧なら、私は新かな、と思って」


「今すぐ此処で逆○裁判を開け。真っ向から異議を唱えてやる」


「異議ありぃー!!早くこの目隠しを取って!俺も見たい!おーれーもーみーたーいー!!」


「その訴えを棄却する!」


一本釣りされたカツオのようにジタバタしながら喚く四五六の顎を、壱声の放った蹴りが掻っ払った。

四五六の類い稀過ぎる頑丈さが有ってこそのツッコミなので、決して真似をしてはいけない。


「…まぁ良いや。着てきたモンは今更どうにもならねぇし」


「そうそう。それに、細かいボケに構ってる余裕は壱声には無いと思う」


「…自分で細かいボケと言いますか」


そもそも俺に余裕が無いってのはどういう事だ、と言おうとした時。


「…うぅ〜」


…そんな唸り声が聞こえた。


「………?」


壱声が声のした方を向いてみると、そこには水着姿の京………と。

京の後ろに体を隠して、少しだけ顔を出しているみなもが居た。


「…え〜、っと。とりあえず…みなも、さん?どうして隠れてるんですか?」


「…壱声、私の方は全然見てくれなかった」


「いや、それはな?みなもに視線が行く前にあの二人の大ボケがあったからであってな?」


「大ボケと言いつつ、実は壱声はスク水の方が好きだから食いついちゃったんでしょ」


「違うから!余りのインパクトそして向こうで転がってる変態のせいで触れざるを得なかっただけだから!!」


「…どうせ私は何もかも小さいもん。キョウちゃんの後ろから何一つはみ出す物が無い程度だもん。今更壱声の興味を引くようなインパクトなんて皆無だもん…」


「…いや、それは…その」


何処か言いづらそうに口ごもる壱声を見て、みなもは更に京の後ろへと縮こまってしまう。

…隠れ蓑にされた京としては、自分だけが壱声の視線に晒されているので恥ずかしい事この上ないのだが。


「…え〜と…あの、壱声?みなもの為と…ちょっとだけ、私の為にも。何か言ってあげて欲しいんだけど…」


困ったように苦笑する京の言葉に、やはり壱声は少しだけ逡巡したが。

やがて、視線を逸らしてポツリと呟いた。


「…一番楽しみにしてた、って言ったらどうなんだよ」


「……え?」


「だから」


顔が赤くなっているのは自覚出来ていたが、それも仕方無いと壱声は割り切った。


「興味、引く必要なんか無ぇよ。元々…みなもの水着姿を、一番見てみたいと思ってたんだからな」


「………ぁぅ」


その言葉を聞いて、みなもの顔もあっという間に真っ赤になっていく。


「……笑わない?」


「…ニヤつかない保証は出来ないな」


「………」


恐る恐る、といった様子で。みなもは京の後ろから出て来る。


「…どう、かな?変じゃない?」


恥ずかしそうに手を組んで、上目遣いにモジモジとするみなもを見て、壱声は言葉を選ぶ事を忘れてしまった。


「…可愛過ぎる」


「…はぅっ…」


ボンッ、と音がしそうなくらいに、みなもの全身が真っ赤に染まった。


「…はぁ、この二人の近くに居ると熱中症になりそうだわ。結局、壱声には私の事は見えてないみたいだし?」


やれやれ、といった身振りで二人から離れていく京に対し、視界ゼロの四五六がビシィ!と親指を立てた拳を突き出した。


「全くだな!水着を着けないとは実にアッパレだぜ宮下!!」


「アンタは心の眼も潰す必要がありそうね!今、直ぐに!!」


踏み込みでバフンッ!と砂塵を巻き上げて、京は四五六に突進。そのままの勢いで、四五六の鳩尾に膝を突き刺した。


「どぅべるっち!?」


何処をどう刺激したら出るのかが全く分からない悲鳴を上げて、四五六は砂浜を転がっていく。


…何度も言うが、四五六の頑丈さ任せのツッコミである。

常識人の皆さんは、加速を付けた膝蹴りなんぞを他人様に見舞ってはいけない。

あと、京はちゃんと水着を着けている。着けてないなんてのは四五六の薄汚れた心の眼を通した妄想なので信じてはいけない。


「…何と言うか。アイツは吹っ飛ぶのが好きだな」


「…どっちかと言うと、吹っ飛ばすのが好きなんじゃないの?壱声とキョウちゃんの方が」


むず痒い青春雰囲気から復活した壱声とみなもが、その様子を見るなりそんな言葉を漏らす。


「いやいや、吹っ飛ばすのが大好きなのは会長…って、そういや会長は何処に行った?」


「…そういえば、副会長も居ないわね」


壱声と京が辺りを見渡すと、日陰の方からこんな声が聞こえてきた。


「…んっ!さ、実行…そこは…日焼け、しない…からっ…」


「しない、とは限らないだろ?油断は良くないぜ、仄香?」


「だ、だからってぇ…んぁっ!そんな所に…日焼け止め、塗らなくたっ、てぇ…うんっ!」


「ムラが出たらどうするんだ?斑点模様の彼女と寝る趣味は俺には無いんだけどな?」


「んぁっ…うぅ、いじ、わるぅっ…」


「ほら…大人しく塗られとけって♪」


「んっ…ひゃうっ!ん、んぅ…ふぁ!?あっ、うぅっ…」


「「……………………………………うっわぁ」」


まぁまぁ一部始終を見てしまった壱声と京のドン引きボイスが重なった。


「…キョウちゃん、何も見えないんだけど…あと何も聞こえないんだけど、壱声…」


そう呟くみなもは、京に目を覆われ、壱声に耳を塞がれている。


しかし、忘れてはいけない。みなも以上に、情報を遮断しなければならない人物が居る事を。


「…く、うぅおぉぉお!!聞いたか一二三四五六…お前は!俺は!この状況を見逃して!後悔しないかいいやする!!今の俺にとってこの程度の拘束具は濡れたトイレットペーパーに等しい!さぁ今こそ立ち上がれ!我に自由を!我はエロスの為に有り、エロスは我の為に在り!!だぁぁぁあらぁぁぁぁあああ!!」


ブチ…ブチブチブチッバチィーンッ!!

豪快な破裂音と共に、四五六の手を拘束していた縄が弾け飛んだ…のは、どうにか納得しても良いのだが。触れていない筈の顔の布まで吹き飛んだのはどういう理屈なのだろうか。


「…では。刮目させて貰おう!!」


そう言って、四五六が目を見開いた瞬間。

右目に壱声の右拳が。

左目に京の左拳が。

ぐっさりと打ち込まれた。


「ッ…ノォォォオオウゥ!?おかしいだろ!壱声は見てるじゃん!!俺だって副会長の乱れた姿を見てぇよ!!」


世界一雑な目潰しを食らった四五六の必死な訴えに、壱声と京はあっけらかんと答えた。


「…乱れた姿って」


「単に、耳の裏を執拗に攻められて、くすぐったがってるだけだしな」


「それじゃあ潰され損だよ!最早潰され損としか言い様がねぇよ!!」


開けられない目を指差し叫ぶ四五六に、壱声は冷静に告げる。


「…言っておくけど、お前が期待するような展開が起こる訳無いだろ。一般向けなんだから」


「言うなよそれを!俺の存在意義が揺らぐだろ!?」


「最初っから必要性に疑問は感じてるから」


「マジッ!?」


ショックで落ち込む四五六を他所に、みなもは壱声と京に問う。


「…何で私は人間フィルタリングを掛けられたの?」


「…みなもには未だ早いかと」


「…みなもには刺激が強いかと思ったのよ」


「私の情操教育が陽菜ちゃん以下だと思ってない…?」


ジト目で睨むみなもから目を逸らして、保護者二人は冷や汗を流す。


「さ、さぁて!そろそろ海で遊ぼうぜ?ページ…いや、時間が勿体無いし!」


「そ、そうね!未だ誰も海に入ってないのに海編とか言っても意味分からないし!」


「ごまかした…世界観を無視してでもごまかした…」


「…いや、あんまりごまかせてなざっぷ!?砂!砂の大量ログインで俺の口と言う名のサーバーがパンクしている!?」


蹴りによって巻き上げられた砂で口の中をジャリジャリにされた四五六を捨て置き、壱声と京はみなもを海へと引っ張っていった。


しかし、いざ波打際までやって来た所で、壱声はポツリと呟いた。


「…海で遊ぶって、何をしたら良いんだ?」


「いきなり根本を揺るがす発言しないでよ…」


引き気味にツッコむ京に、壱声は頭を掻きながらぼやく。


「…いや、一人で遊びに来たってんなら、海なら泳いどけば良い気はするんだけどさ。こうも大人数だと何したら良いんだか…」


「それは…う〜ん。全員が参加しようとすると難しいかも知れないけど。それぞれやりたい事をやれば良いんじゃない?」


「…それもそうか。んじゃ、俺はとりあえず…四五六を見張りながらそこら辺をブラブラしてるかな」


「こんな時にまであの馬鹿に意識を割くのは勿体ないと思うんだけど…」


確かにそうなんだが…と壱声が四五六の方に目を向けた瞬間。


ボバァッ!!と、砂が波の如く舞い上がった。


「「……は?」」


唖然とする壱声と京の目の前で、その砂津波の中から弾き飛ばされるように転がり出る四五六。

それを追うように、何かが飛来し。

ズボァーン!!と、再び豪快に砂が巻き上げられる。

よく見れば、飛んできた物体はヤシの実で。四五六にそれを投げ付けているのは実行だった。


「ちょ、ちょっと待って下さい会長!俺は未だ何もしてませんて!?」


「ん〜?いやいや、仄香の体に下心込みの視線を向けて良いのは俺だけなんだぜ」


「いや、そんな抜群のプロポーション見せ付けられたら男なら誰でも興奮s」


そう叫びながら実行…の背後という位置関係に居る仄香へと四五六が視線を向けた瞬間、実行が右腕を振り抜いた。

咄嗟に四五六が横に飛び退いた直後、まさに頭があった場所を、ジャイロ回転が掛かったヤシの実が通り過ぎ、空気だけを抉り取っていき、遥か後方で盛大な砂柱を立ち上げた。


「避けるなよー。新しい顔を投げてやってるのに」


「いや取り替え出来ませんから!?首から上がログアウトするだけでしょう、あの威力!!」


「はっはっは。面白い事言うなぁ…ほぉれ」


ヒュンッ…チュボォーン!!


「いやぁーッ!?笑いながら殺人ヤシの実を投げないでぇーッ!!」


ヤシの実を投げる実行。

巻き上がる砂煙。

避けて転がって逃げ回る四五六。


その光景を見ていた壱声・みなも・京の三人は、海の方に向き直りながら同時に呟いた。


「「…楽しそうだし、放っておこうか」」


「そーれそぉーれぇー♪」


ヒュヒュンッ…ドバァーン!!


「ぎゃぁぁぁあ!?増えた!二個に増えた!!つぅか、既に、純粋に!ヤシの実投げる事自体が楽しくなってきてるんじゃない、ですかぁ!?」


「うんっ♪」


ヒュヒュヒュウーン…ズドバァァァアン!!


「無邪気に頷いてるけどやってる事は既に爆撃じゃねぇかぁぁぁぁあ!?日本でこんな死に方したくねぇぇぇえ!!」

愉快な爆撃音と悲痛な叫びを背に、みなも・京と別れた壱声は砂浜を歩いていた。

暫く放っておいた詩葉と陽菜が何処に行ったのか気になった…のと、あの爆心地から一歩でも多く離れておきたかったからだ。


「…アイツ等、何処まで行ったんだ?沖に流されてたら洒落にならねぇんだけど」


キョロキョロと辺りを見回すと、壱声の視界に二人の姿が映った。砂浜に居た事に少し安心しながら、壱声は二人に近付いていき…。


「…なん、だと…?」


思わず、そんな声を上げた。


「ん…?壱声、どうかしたの?」


振り向いて小首を傾げる詩葉に、壱声は恐る恐る尋ねる。


「…詩葉。何をしてるんだ?これ…」


「陽菜ちゃんと砂の城を作ってるんだけど…見て分からない?」


「いや…見て分かるから逆に聞いてるんだけどな。聞き直すぞ…『何の』城を作ってるんだ?」


あぁ、と納得したように頷いて、詩葉はさらっと答えた。


「カリ○ストロの城」


「だよなぁ!?完成度高過ぎるだろこれ!どうなってんの?この今まさに屋根から屋根へと飛び移ろうとしているル○ンはどうやったら作れるんだよ!?」


「…どうやったんだっけ?」


「奇跡の産物かよ!いやそうとしか思えないけどさ!!」


一通りツッコんだ所で、ふと壱声は気が付いた。


「…て、あれ?陽菜は?向こうから見た時は二人見えたんだけど」


「陽菜ちゃんなら、ちょっと離れた所で…」


詩葉が、指差した方向を見ると、確かに陽菜が居た。


「ハ○ルの動く城作ってるよ」


「神々の遊びか!!」


陽菜の傍に佇む尋常では無いクオリティの○ウルの動く城。自分の妹にこんな才能があった事に、壱声は驚きを隠せない。


「ちょっと見せ…スゲェ!口の中にカ○シファーが見える!?何これどういう事!?」


「えへへ…ちょっと頑張ってみた」


「ちょっとでこのレベルに辿り着けるのか!?いけるよ!世界に羽ばたけるよこの技術!!」


「え〜…世界は無理だよ。せめてラ○ュタくらい作れないと」


「浮いてるじゃん!世界の砂遊び事情ってどうなってんの!?世界トップレベルは何を作れんだよ!?」


「ん〜…ファ○ナル○ァンタジー、とか?」


「世界観そのもの!?」


「ちなみに日本のトップはワ○メ大使」


「嘘だろ!?」


世界と日本を隔てる断崖絶壁。というか、○カメ大使に負けるハウ○やカリオ○トロって何?と壱声がその審査基準に疑問を抱いていると、カ○オストロの城を作り終えた詩葉が気軽に提案してくる。


「壱声も一緒に作る?手始めに富士○ハイランドから」


「初歩がテーマパークって何だよ!?」


「じゃあ…ネオアームストr」


「長いから!それ名前長い上に完成度高くないとただの猥褻物だから!!」


「もう…じゃあ、猥褻物」


「開き直って作るとでも思ったか!?寧ろそれで俺が作り始めたらどうするつもりだったんだお前!!」


「…物珍しそうな目で、ほんのり頬を染めながら、少し興味ありげにまじまじと眺めてみる」


「止めろ!想像しただけで死にたくなる!入水したくなるからマジで止めて!!」


「では…どうぞ」


「一切作る流れじゃなかっただろ、今!作らねぇよ!作れねぇよ!!」


「…ノリが悪いよ、壱声。じゃあもう海に入ったらいいよ。そしてキロネックスに出くわせばいいよ」


「お前はちょいちょい俺をバッドエンドに導こうとするよな!?そして日本近海にキロネックスは居ないから!」


因みに、キロネックス。

オーストラリア近辺に生息している、世界最強クラスの毒クラゲである。


「…つぅか。こんな芸術作品作るなら、もうちょい離れた場所の方が良いと思うぞ?」


そう言いながら後ろを指差す壱声の背後で、実行のヤシの実爆撃によって四五六が宙を舞う。


「…楽しそうだね」


「まぁ、巻き込まれると被害はデカイ。会長がアレに飽きるまでは距離を取れ」


と、壱声が避難勧告を出した時。まさにその背後に、吹き飛ばされた四五六が着地した。

…いや、顔から砂に埋もれたそれは『墜落』と言うべきか。


「う〜む…巻き上がる砂の衝撃だけで人間を60ヤード飛ばせたか。これってナイスショットと呼んで良いよな?壱声」


それを引き起こしたくせに暢気に歩いてきた実行に、壱声は溜息混じりに言葉を返す。


「いや、残念ながらバンカーですよ」


「むがごがぐぼっどぅふっ!?」


砂に頭を埋めたまま何事かを喚く四五六。

恐らく、「ツッコむ所はそこじゃねぇだろ」と言おうとして、途中で口の中に砂が雪崩れ込んだのだろう…不憫な子だ。


「砂浜でバンカーとか言われてもなぁ…まぁいいや。時に壱声、海と言えば何ぞや?」


「唐突に何ぞやって何ですか…質問もざっくりしてますし」


「まぁまぁ良いじゃねぇの。答えてみ」


「海、つったら…泳ぐ、ですか?」


「いいや」


「…ビーチバレー?」


「い・い・や」


チッチッ、と指を振りながら壱声の答えを否定していく実行。


「分かんねぇかなぁ。簡単だろうに」


「…開幕一番にヤシの実で空爆かます人の『簡単』なんて分かるわけ無いでしょう」


「やれやれ…スイカ割りに決まってんだろ?」


「すっげぇ簡単でしたね!?さっきまでの突飛な行動編集してこい!!」


実行の口から飛び出た海における定番に、驚きながらも若干安堵する壱声に、当の実行はスイカを割る為の道具…いや、武器を手渡す。


「んじゃ、始めるぞ壱声。ちゃんと構えろよー」


「…これはどう構えたら良いんですかね」


「スイカ割りだぞ?難しく考えるなよ」


「ただのスイカ割りで木製バットを持たされたら、難しく考えたくもなりますよ」


「普通に構えろ。『らしく』な?」


それだけ言い残し、実行はいつの間にやら持ち出していたスイカを手の上で弄びながら、壱声から距離を取る。


「…って、会長?目隠ししてくれなきゃ…」


「ん〜?いらねぇだろ…よし、こんなモンかな」


適当な距離を取ってから、実行はスイカを砂の上に置く…事無く、クルリと振り返る。


「じゃ、いくぞーいっせー」


そして、スイカをそのまま。大きく振りかぶって…


「って待てコラァ!アンタまさかさっきのヤシの実よろしくジャイロスイカを投げ付けてくる気じゃねぇだろーなぁ!?」


「え?ダメか?」


「ダメに決まってんだろ!死ぬわ!万が一にこのバットに当てられたとしても手首持ってかれますよ!!」


「自分の可能性を信じろよ、壱声」


「そういう台詞は別の機会にお願いします!今言われても面倒なだけですから!!」


壱声の必死な叫びも虚しく。止まる気配の無い(止まるつもりが無いとも言う)実行は、声を張り上げながら腕を振り抜いた。


「問答無用待った無し!魂の一球受けてみろってなぁ!」


「聞く耳持たずか!?ええぃチクショウ、うっすら感じてはいたけど海の開放感で普段より質が悪くなってやがる!!」


そう言っている間にも、実行が投じたスイカは高速で飛来している。

空気を巻き込み、潮風を捩曲げながら。


(…って待てコラ!言霊も使わずにこのエフェクトはおかしいだろ!?いよいよチートじゃねぇか会長!!)


えぇいどうにでもなれー!?と、半ばヤケクソ気味にバットを振る壱声。


バットの軌道は、見事にスイカのど真ん中を叩く様に描かれ……。


直後。

スイカが下方向に鋭く落ちた。


「なっ…フォークボール!?ってだから待て!スイカでフォークってどういう事だぁぁあ!?」


ある種の超常現象にツッコミを入れながら、壱声が振るったバットは虚空を切り裂く。

そして、フルーツ界の概念をぶち破ったスイカはそのまま砂地へと一直線に突き進み。


めりゅっ、と。


明らかに砂ではない何かの音と共に着弾した。


「「………………」」


実行の何かを哀れむ様な視線を追って、壱声も目線を下に向けていく。


そこには、当然スイカが存在していた。

そう、スイカがめり込んでいた。

ただし。砂に、ではない。


『頭から砂にめり込んでいた四五六の股間に』大玉のスイカが直撃。鎮座していた。


「「………………」」


尚も沈黙が支配する砂浜で、四五六の足が死ぬ間際のバッタのように痙攣を続ける。

そして、スイカがゆっくりと砂の上に転がり落ち。同時に、四五六の動きが完全に停止した。


全てを見届けた実行は、ふぅ…と溜息を吐いて、皆に聞こえるようにこう言った。


「…よし、ビーチバレーでもするか」


「「い、イエーイ!!」」


仕切り直すにも若干無理がある提案だったが、その場に居た全員が、無理矢理な笑顔を浮かべながらビーチバレーに興じたのだった。





※スイカ割りに使用したスイカは、スタッフが美味しく頂きました。





食べ物を粗末にしちゃいけないぜ♪



…バラエティ番組でよくありますよね、『スタッフが美味しく頂きました』って字幕。



どうにも、締めに使いやすいんでしょうか。最後の犠牲者は大体四五六になってしまいます。

…いや、今回は最初から最後までかw



次回、あの城が舞台です。時間が掛かりそうですが頑張って書きます。


では、次の話で会いましょう。

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