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言霊遣いの受難の日々  作者: 春間夏
第二章 日常・夏休み・カオス
12/29

夏休み〜8月4日〜(前編)

さて、お遊びは2〜3回じゃ済まなそうだぜ…




…書いてる自分で想定外でした。こんな事になろうとは(汗)



先に謝ります。ごめんなさい

8月4日、午前5時。



普段なら、壱声も未だ寝ている時間帯なのだが。今日は携帯のアラームを掛けてこの時間に起きていた。


「〜っ…。流石に少し眠いな…」


夏の夜明けは早く、カーテンの向こうは既に明るくなっている。欠伸をしながらカーテンを開けると、その明るさが寝起きの目に染みた。


「…さて。眠り姫たち…いや、詩葉はもう起きてるかもな。陽菜を起こすとするかな」


いつもより一時間も早い時間。壱声は隣にある陽菜の部屋に向かった。


「…陽菜〜、起きてるか〜?」


ドアをノックしてみるが、一切返事が無い。


「やっぱ寝てるか…入るぞ〜?」


聞こえているかどうかは分からないが、一応断ってからドアノブを回す。


「…妹の部屋ってのも、何か緊張するな…」


入ってみると、自分の部屋とは明らかに違ういい香りが鼻をくすぐる。

花のような甘い香りに、一瞬、森の中で深呼吸したくなるような感覚に襲われる壱声だったが。


(…て、オイオイ。妹の部屋の匂いを嗅いでマイナスイオン効果を受けてどうすんだよ。四五六じゃあるまいし)


四五六の名前を思い浮かべた瞬間、「これじゃいけない」と立ち直る事に成功した。意外と便利かも知れない。


(陽菜は…思いっ切り寝てるな)


見ると、掛け布団を抱き枕代わりに抱き締めて熟睡している。


「…にゅぅ…おにいちゃん……ぇへへ…」


「………………」


何だか嬉しい寝言を呟いているので、壱声は起こす事に躊躇いを覚えたが。仕方無いと割り切って陽菜の肩を揺らした。


「…ほら、起きろ陽菜。お前のお兄ちゃんは羽毛100%の肌触りじゃないだろうが」


「…んぅ…にゃ、ん〜?」


子猫のような声を上げて、陽菜の目がうっすらと開いた。


「…にゅ?おにい、にゃん…?」


「…寝言の方が発音良いのかよ」


普段はツインテールにしている髪は下ろしてあり、肩に届く程度のセミロングになっている。

寝ぼけ眼をくしくしと擦る妹を見て、壱声はしみじみと思った。


(…人によってはクリーンヒットすんだろうな、陽菜みたいな女の子って。俺は妹って線引きがあるから平然としてられるけど)


義理の、とかついてなくて良かったわー…なんて事を壱声が考えていると、未だ半分以上夢の世界に居る陽菜がポツリと呟いた。


「…うにゅ。そう遠くにゃい未来に待っていりゅ…衝撃にょ真実を、おにいちゃんは知るよしもにゃかった……」


「寝ぼけてると心が読めるのかお前!?そしてその伏線は何っ!?」


「…んぅ?何の事、お兄ひゃぁ…ん…にゅ、眠い……」


「…あ、いや。何でもない。起きたんなら別にいいや…」


ん〜?と唸りながら、陽菜は枕元の時計が示す時間を確認した。


「……何でこんなに早起きなの?」


「今日から2泊3日で島に遊びに行くって言ったろーが。二度寝しないで着替えろよ?」


「…分かった。着替え……」


コクン、と頷くと。未だ壱声が居るにも関わらずパジャマのボタンを外し始める陽菜。

布の奥にある僅かな膨らみが見えそうになり、壱声は慌てて陽菜に背を向けた。


「ちょっ!?と、とにかく寝るなよ!!」


赤くなった顔を隠すように、急いで外に出ようとドアノブに手を掛けた壱声の耳に聞こえたのは返事ではなく。


「……すぅ……」


「そんな状態で寝るなっつったろーがぁあ!?あぁもうどうすれば…ハッ!詩葉、助けて詩葉ぁー!!」


こうして、鶴野家の朝は騒々しく過ぎていく。





そんな鶴野家の朝から、更に一時間遡る。

午前4時。一二三四五六は、大きな大きなボストンバッグに色々な物を詰め込んでいた。


「ふ〜んふふ〜ん…デジカメ、CCDカメラ、ボイスレコーダーに高性能集音マイク。充電済の予備バッテリー…おっと、防水カメラも忘れちゃいけないなぁ…SDカードの準備も抜かり無し、と……」


一般家庭に無いだろそれってレベルの装備までテキパキと用意しながら、その顔は終始ニヤニヤしている。


「…小さなモノから大きなモノまで、お姉さんからロリまで…此処まで揃い踏みの桃源郷…ヌハハーッ!盛り上がってまいりましたぁー!!」


こうして、四五六の朝は不穏に過ぎていく。






「……これが良いかな?けど、こっちの方が良い気もするし……」


午前5時10分。

みなもは、鏡の前で一人ファッションショーに興じていた。


持って行く荷物はバッグに詰め終わっているし、忘れ物が無いかチェックもしてある。


ただ、今日着て行く服だけが決まらずにいた。


「…うぅ。大丈夫かな…おかしなとこ、無いかな…子供っぽくはない…と思うけど、仄香さんが居るから…私じゃどう頑張っても子供っぽく見えちゃう気もするし……」


鏡の前で、自分の尻尾を追い掛ける子犬のようにクルクル回り、不自然な所が無いか確認しようとする。


「……私服を壱声に見られるの、初めてだし…大丈夫かな…?変に思われたりしないかな…」


う〜う〜唸りながら悩み続け、みなもの朝は慌ただしく、何処か微笑ましく過ぎていく。


午前6時20分。

集合場所にしていた蒼葉ヶ原高校の正門に、壱声率いる鶴野家は向かっていた。


「…陽菜、そろそろ歩く気は無いか?」


「…まだ眠い……」


壱声に背負われたまま、下りたくないというアピールなのか、首筋にギュッと抱き着く陽菜。


「…自前の荷物に陽菜の荷物。おまけに妹一人背負って歩くだぁ?俺は何の修業中だっつーの」


「…いいお兄ちゃんになる為の修業」


「ほぅ…それをさせてるって事は、何か。陽菜の中では俺はいいお兄ちゃんとして認定されてないって事か」


「…うぅん」


きゅ、と。擦り寄るような感覚で、陽菜は壱声の耳元に顔を近付けた。


「いいお兄ちゃんじゃないと、こんな風にしてくれないもん…優しいお兄ちゃん、大好きだよ」


「っ……そ、そうか」


クラスの妹派閥が聞いたら、今の一言で7回は死ぬんじゃないだろうか。

流石の壱声も、顔が赤くなってしまう…


「………………」


ゲシッ!


「痛っ!?待て、待て詩葉!軸足の膝の裏を蹴るのはとてもマズ…痛いっ!!何で!?何でそんな不機嫌の突沸現象が起きてんの!?」


「ググれカス」


「理不尽っ!!そして痛いっ!!」


そんな結構危険な掛け合いをしている内に、高校の正門が見えて来た。


「おーぅ壱声。楽しそうだな」


「何処がですか!もう右足がプルプル痙攣始めて…痛いっ!違うから、『だから蹴るなら左足にして』って振りじゃないから!つか何で少しずつ鋭さ増してんだよ!?武○を彷彿とさせたわ今のローキック!!」


最初は爪先で突く程度だったが、今や腰の捻りも加えたものになっている。


「…壱声なんて、島の洋館でゾンビに襲われればいいと思う」


「俺だけ別の世界に行くよねそれ!何なら後のシリーズで再登場するよねぇ!?」


壱声と詩葉のやり取りを見ていた仄香が、クスクスと堪え切れなくなったように笑った。


「…おはよう、壱声くん。その子が詩葉ちゃんでいいのかな?」


「…あぁ、はい。おはようございます、副会長」


仄香は詩葉に歩み寄ると、自然に、優雅に手を差し出した。


「初めまして、詩葉ちゃん。透葉仄香と言います。…残念だけど、私の島でウイルスの研究はしてないわよ?」


「…掌上詩葉です。それはとても残念でなりません」


会話の内容を除けば、実に模範的な初対面の挨拶を交わして握手する二人。


「…ん〜、けど、透葉製薬レベルの企業なら作れそうな気はするけどな」


「さっきから要らん爆弾ばっか落とさないで下さいよ会長!!」


ハッハッハー、と清々しく笑う実行。今日も謎のTシャツは健在で、『松茸御飯』と書いてある。

…夏休みなのに。


「…えっと。後三人、ですか」


「だなー。まぁ、集合時間には余裕あるし」


今の会話に違和感を覚えた人は居ただろうか。


現在集まっているのは、壱声、詩葉、陽菜、実行、仄香。

前回の話し合いで確定していた面子の残りは、みなもと四五六の二人だけ。


しかし、壱声が告げたのは『三人』。つまり、後一人。誰かが来るのだ。


「うわっ、もうこんなに集まってるんですか!?早めに出たつもりだったのになぁ…」


そして。残り三人の中で一番乗りは、その『誰か』だった。


この『誰か』が誰なのか。説明するには、少し時間を遡る。


そう。今回の別荘行きが決まった、あの日の放課後の事である。


7月16日

蒼葉ヶ原高校・放課後


「…何か大変な事になったなぁ」


放課後になり、壱声は一つ溜息を吐いた。


「っと。とりあえず、みなもにはさっさと伝えておくか…」


そう呟いて席を立ったが、どうやらその中に自分の名前が含まれていたのを聞き取ったらしく。みなもの方から壱声に近付いてきてくれた。


「…私がどうしたの?」


「ん。夏休みに…な……どうすっかな。正直に言うべきか……」


「………?」


「…四五六の発案で、副会長が持ってる島の別荘に2泊3日で遊びに行くんだが、みなもも一緒にどうだ?」


「…四五六の発案っていうのが凄く引っ掛かる……」


「やっぱそこか…伏せれば良かったな四五六の名前……」


ある意味で絶大な効果を持つ四五六。女性関係で名前を出すのは禁忌かもしれない。


「…まぁ、アイツが変な行動をしようとしても、会長が仕留めるだろ。副会長も居るわけだし」


「……かも知れないね」


「あと…その、何だ」


頭を掻きながら、壱声はみなもから視線を逸らして呟いた。


「…俺だって、アイツの馬鹿にみなもを巻き込むつもりは無いから。心配すんな」


少しぶっきらぼうに壱声が言ったその台詞に、みなもは。


「……うん。壱声が守ってくれるなら、行く」


嬉しそうに微笑んだ。


「「がっはぁ!!?」」


…死傷者を多数出して。


「だ、大丈夫か!?しっかり…チクショウ、幸せそうな顔してるのに心肺停止してやがる!!」


「綺麗だろ…?信じられるか?死んでるんだぜ、それ」


「いや諦めるなよ!?誰だ、今綺麗に締めようとした奴!!」


「くぅっ…何て、何て罪の無い罪な笑顔なんだ!誰も死んだ事を後悔していないなんて!!」


何処か向こう側のそんなやり取りを気にしない形で、壱声は話を進める事にした。


「…サンキュ。で、みなもは元から誘うつもりだったから構わないんだけど…あと一人くらい、誰か誘えそうな奴は居ないもんかな」


「…う〜ん」


恐らく、会長や四五六のキャラも含めて、あまり面識の無い人物にもすぐに順応出来るのは誰かを考えているのだろう。みなもは暫く頭を捻っていたが、やがてポツリと呟いた。


「……キョウちゃん?」


「…キョウちゃん?」


誰だそれ?と言おうとした壱声だったが。その言葉を遮るように、こちらに近付く影があった。


「ねぇ、みなも。向こうで○斗有情拳を食らった感じになってる男子は一体何なの…?」


それは、空手三段のポニーテール少女だった。

とりあえず、壱声は軽く挨拶しておく。


「おぅ。アレは気にするな、宮下三段」


「ちょ…何よその呼び方!?私は死んだ○界戦線に居た覚えは無いんだけど!!」


「その的確な返しにビックリだよ。他にも選択肢あっただろうに」


壱声が妙な所に感心していると、みなもが宮下三段と呼ばれた女子に向かってこう言った。


「…キョウちゃん、丁度良かった」


その言葉に、壱声は思わず聞き返した。


「……え、キョウちゃん?コイツが?何で?」


すると、キョウちゃんと呼ばれた本人が溜息混じりにそれに答えた。


「…あたしの名前。京都の京って書いてミヤコって読むから。漢字をそのまま読んで、『キョウちゃん』なのよ」


因みに、フルネームは宮下京(みやしたみやこ)である。


「あぁ、成る程…あれ?何か別の呼ばれ方もしてなかったか?」


「全体的に縮めて『みやみや』とか、ね…繰り返すくらいなら『みや』だけで良いし、『みや』まで言うならいっそ普通に名前で呼んで欲しいんだけど…」


逆にメンドーだと思うんだけどねー、と苦笑する京を見て、壱声は確かにな、と応じた。


「ま、俺が名前で呼んどくから。それで我慢しとけよ、京」


壱声に名前で呼ばれた瞬間、京はビクッ!と体を縮めてしまった。


「ふぇっ!?あ、いや、えぇ?そんないきなり名前で呼ばれると…でも、あれ?みなもの事も名前で呼んでるんだし、壱声にとっては普通なのかな…?けど心の準備が…」


小声で何やら苦悩する京を見て、どうしたんだろうかと首を傾げる壱声に、みなもはややジト目になって呟いた。


「…流石だね、壱声。一言の決定力が桁違い」


「いや、いきなり何の事でしょう!?」


このようなやり取りの後、京に今回の計画を説明し。京も参加する事になったのである。


そして、今に戻り、8月4日早朝。


集合場所たる正門前に、京がやって来たわけである。


「…って、あれ?壱声。その子達…誰?」


京の視線は、詩葉と陽菜に向いていた。


「あぁ、京は知らないんだったな、そう言えば…こっちが妹の陽菜で、こっちは…」


壱声が紹介しようとしたが、それを遮るように詩葉が一歩前に出た。


「借りぐらしの○リエッティです」


「居候の詩葉だろう!何故いきなりボケたんだよ!どうした!?」


「初見のインパクトは大事かな、って…」


「だからって大雑把にボケてどうすんの!?キャラメイクで大事故起きただろ、今のは!!」


「…といった具合で、漫才をやらせて貰ってます。私が受けで、壱声がツッコむ」


「そこはボケを担当してくれませんかねぇ!?意味合いおかしくなるだろう!!そして漫才はしてねぇよ!!」


詩葉の乱心気味なボケにツッコみ切った辺り、どう考えても息ピッタリの漫才だと思う。


「…えっと。とりあえず、仲が良い事は分かったわ」


「そ、そうか…まぁ、悪い奴ではないから、仲良くしてやってくれ……」


息切れを起こしながら、壱声は思った。何で俺は出発前からこんなに疲れてるんだろう、と。


しかし、そんな疲れ気味の壱声の耳に。尚更疲れる声が届いた。


「おはよーございまぁーす!!さぁ皆さん(特に女子)、主に素肌を曝け出していきましょう!!」


「当社比3倍のテンションで変態発言垂れ流してんじゃねぇよ!!」


壱声の振り向き様の右ストレートが一閃され、四五六がアスファルトに沈んだ。


「ぐっふぅう…!だがしかし!俺を心配して女の子達が近寄って来てくれる筈!そして絶対的ローアングルから望むは聖域たる絶景!!スカート最高!!」


「その発言の前から距離取ってたよ。そしてその心情吐露100%の発言でしっかり5mは離れたよ」


壱声の冷静なツッコミに、四五六はとても残念そうに起き上がった。

…ダメージは残ってないのだろうか。


「…なぁ、四五六。今回の日程は2泊3日なんだが」


そこで一度言葉を区切り、壱声は四五六が持っている荷物に目をやった。


「…お前だけ、一週間くらい居座るつもりなのか?」


そこにあったのは、大人一人が入りそうなサイズなのに、パンパンに張り詰めた巨大なボストンバッグだった。

…まぁ、朝の準備の様子から分かる通り。この中は撮影・記録・盗撮・盗聴グッズで一杯なわけだが。警察が持ち物検査をしたら事情聴取されそうなレベルの品揃えなのだが。


「…壱声。一つ、言っても良いか?」


「…?まぁ、別に」


すると、四五六は深呼吸して、明後日の方を向いて満面の笑みを浮かべた。


「皆!この作品に登場する人物は、全員が18歳以上だy」


「んっだよその無理矢理なエロゲ解釈はぁ!つぅか何しでかすつもりだテメェ!!」


全てを言い切る事叶わず。壱声の放った上段回し蹴りに頭を横から薙ぎ払われ、四五六は再び路上の粗大ゴミに成り果てた。


「…会長。持ち物検査を敢行しましょう。四五六だけ」


「オーライ。面白くなりそうだな…四五六の形が」


形!?と四五六が恐怖に震えるのに構わず、壱声と実行は四五六のボストンバッグを開けた。


そして、露になる数々の…盗聴器や小型カメラ。

…何か、こう。ブルブル震える、ホビーショップでは売ってない類の玩具まで。


「……四五六。テメェ、マジで何をするつもりだった。あとその玩具を没収という名目で私物化しようとしないで下さい会長。副会長の顔が真っ赤です」


実行にもしっかり釘を刺しつつ、被告人・四五六に真意を問う壱声。それに対し、四五六はフッと笑った。


「…壱声。俺の性欲は一○八あるんだよ」


「煩悩全てが性欲か。今此処で払拭してやろうか。あとその玩具をポケットに入れるのは止めて下さい会長。副会長がアワアワしてます」


「…おや、これは」


カチッ。…ヴィ〜ンヴィ〜ンヴィ〜ン…


「動作確認も止めろコラァ!もう副会長が卒倒してるわ!あと陽菜がちょっと興味持ち始めちゃったからマジ止めて下さい!!」


「分かったよ。…今夜は楽しくなりそうだ」


「…会長絡みの描写は全カットですね、分かります」


「おいおい…まぁ仕方無いな」


「譲らない!?嘘だろ!?」


「番外編として勝手に収録するわ…えっと、ハンディカメラは…」


「お願いだから勘弁して下さい…」


実行のネタだか本気だか分からない発言に、壱声は土下座で懇願するしかなかった。


「必死だな、壱声。心配しなくても冗談だよ」


軽く笑って、実行は四五六に視線を向けた。


「ま、とりあえず。こっちの怪しい物品は没収。普通のデジカメとかはそのままにしといてやるから、それで我慢しろ」


「えぇ〜……」


口を尖らせる四五六に、壱声も合わせて釘を刺す。


「えぇ〜じゃねぇよ。こんなモン持ち込めると思ってたのか」


「…ちぇ、分かったよ。どうせ半分はネタで持って来たヤツだし」


持ち主である四五六が折れたので、壱声は一安心して…真の敵に目を向ける!


「…で、会長。その没収した物品は何処に置いておくんですか」


「生徒会室か俺の家かで迷ってるんだが、どう思う?」


「やがて私物化する気じゃないですよね?つぅか後者は完璧に私物化する気ですよね!?」


「………………」


「あぁっ、とうとう無言でポケットに詰め放題ですか!?」


この裏ボスはチートです、勝てません。壱声は実行から逃げ出した!


「壱声も少し持ってけよ。ほら一番エグいヤツ」


しかし回り込まれてしまった!


「いや要らないで…エグい!?これはもはやグロの領域でしょう!!武器になり得ますよ、このフォルム!!」

「これぞエクスカリバー」


「これが!?そりゃアーサー王も湖に返すわ!むしろ捨てたんじゃないでしょうか!!」


もう好きにして下さい…と、四五六の無法地帯バッグを実行に任せ、今度こそ壱声は逃走に成功した…ちょっと遠くから、「壱声くん!?諦めないで、私の色々な今後が凄く不安なんだけどー!?」と、仄香がオロオロしていたが。


「…え、と。四五六も来たわけだし、後は…みなもだけか」


携帯で確認すると、待ち合わせの時間まで後10分程ある。


「ま、のんびり待つか…未だ急かすような時間じゃないし」


そう言って、漸く落ち着こうかと思っていた壱声だったが、復活した四五六がそれを許さない。


「おい壱声!よくよく見れば、陽菜ちゃんと一緒に居るあの子はぁ!?」


「…あぁ…お前も見てたんだったな、あの動画を…」


途端にげんなりした様子で、壱声はその事実を思い出した。


「…ちょ、ちょっと待てよ?あの子が詩葉ちゃんなのか?って事は、お前が『留守を任せるのは申し訳ない』とか言ってたって事は…え、嘘だろ?」


「…俺ん家に、居候してる」


壱声の口から放たれた衝撃の一言に、四五六は膝から崩れ落ち、叫んだ。


「…そんな…つまり、壱声、お前は……可愛い実妹のみならず、居候の美少女とも!トイレやお風呂や着替えにバッタリ遭遇イベントを堪能出来るって事なのかぁーっ!?」


「お前の発想はつくづくベクトルが残念だな!?そんなイベント…ねぇよ!!」


「考えた!?否定の前に一瞬考えましたよこの子ったら!!スケベ!変態!ロリコン!シスコン!エロゲ世界の住人め!ノベライズされて書店の隅っこに置かれちゃえ!!」


「今の罵声のたった一つもお前にだけは言われたくねぇよ!!」


「おぉう、確かに!?俺が言えた義理じゃねぇ!!」


「認めるのかよ!?じゃあ何の意味も無いわ今のやり取り!!」


と、まぁ。こんな不毛な言い合いで無意味な体力を余計に使ってしまい、壱声が本気でくたびれてきた、そんな時。


「…お、壱声。待ち人来たる」


遠くの方を眺めていた実行が、そんな声を上げた。


「…はい?」


壱声が目を凝らすと、道の遥か向こうに小さな人影が見えた。

バッグの大きさはそれ程ではない筈だが、持っている人物が小さい為、バッグを持っているのか振り回されているのか分からない。

…という時点で、あの人影が誰なのか大体特定出来るのだが。


「…あれ、持ってるバッグの大きさは、ちょっとしたスポーツバッグくらいだよな?」


持ち主がみなもだと、四五六のバッグと同じくらいの荷物を持っているように見えてしまう。


「大分フラフラしてるなぁ、みなもちゃん。小走りだから余計に重心が安定しないのか」


実行が呟いた通り、みなもの足取りは右に左にと揺れて実に頼りない。


「…うっわぁ、転びそうで見てられねぇ。俺、ちょっと行ってきます」


だんだん心配になってきて、壱声は堪らずみなもに駆け寄っていく。


「おーい!大丈夫か、みな…も…」


しかし、みなもの姿をしっかりと目にした瞬間。

壱声は、思わず立ち止まってしまった。


「…ふぅ…あ、壱声…」


そこに居たみなもは、壱声にとって初めて見る私服姿だった。

普段見慣れた制服姿と違って、それはとても新鮮で。壱声は思わず話す言葉を見失ってしまった。


…まぁ、みなもが普段より頑張って選んだ服で。しかも此処まで急いで来たから頬を赤らめていたりするので、攻撃力が5割増しになっているせいもあるのだが。


「…どうしたの?もしかして、どこか変?裏返しになってる?そもそも似合ってない…?」


慌てて服装を確認しようとするみなもを見て、壱声は何か言おうとしたが、全く考えが纏まらない。


「あ、いや…えっと」


なので、見て感じたままを口に出してみた。


「その、大丈夫だ。すげぇ可愛いから」


「ふぇっ!?」


普段は絶対に出ない声を発して、みなもは顔を真っ赤にしてしまった。


「みなもの私服を見るのが初めてってのもあるのかも知れねぇけど、すげぇ似合ってる。可愛いよ、ホント」


「えっ、あ、ぅ…えと」


予想していなかった壱声からのベタ褒めに、みなもはワタワタしてしまう。


「……ホント、に?」


呟くような声で聞くみなもに、壱声は迷い無く頷いた。


「あぁ…ほら、バッグ持ってやるから。皆の所に行こうぜ」


そう言って差し出された壱声の手に、漸くみなもは笑顔を見せた。


「…うん」


そして、その手に。

自分の手を重ねた。


「…えっと、みなも?バッグをだな?」


「…大丈夫」


「いや、遠目で見てもフラフラしてたし」


「壱声がこっちの手を握っててくれれば、大丈夫」


だから、と。みなもは小さく首を傾げた。


「…離さないでね?」


「う……」


今度は、壱声が赤くなる番だった。そっぽを向くように視線を逸らして、噛みそうになりながら呟く。


「…向こう、着くまでだぞ」


「うん」


着いたら着いたで、また色々と責められそうな気がするけどな…と、壱声は心の中でうっすら覚悟を決めた。

そして、案の定。

壱声がみなもと手を繋いで戻って来たのを見て、早速実行が爆弾を放り込んできた。


「ダメだぞ壱声。みなもちゃんの体を支えるって建前で揉んだりしちゃ」


「してねぇよ!ホンット掻き回すの好きだなアンタ!!」


「あぁ、大好きだな。因みに、仄香は掻き回されるのが好きだよな?」


「な、何で受動態に変換して私に振るのっ?」


「あーもう!その流れの話はやめぃ!!」


今回、実行に好き勝手喋らせると色々厳しい事になると確信した壱声は、実行のターンを強制終了させた。


「全員揃いましたし、そろそろ出発しましょうよ…というか、移動手段は何なんですか?」


壱声からの改めての質問に、実行はうむ、と頷いて、厳かに告げた。


「そらをとぶ」


「全角ひらがな表記!?ポ○モンですか!?」


「ポ○ポでな」


「過酷!!」


一通りボケてから、実行は仕切り直して説明に入った。


「まぁ、そのままだけどな。空路を使う」


「…空路、って。空港のある島なんですか?」


いいえ、と。仄香が笑いながら答えた。


「空港なんて豪華なものじゃないわ。プライベートジェットが離着陸する為の滑走路が一本あるだけよ」


「前から思ってましたけど、副会長の物差しは目盛りの単位が間違ってませんか?」


仄香の場合、本当に大した事なさそうに言うので、あまり気にせず聞き流しそうになるが。実際とんでもない話である。


「そして…一つ、重要なお知らせがある」


「…?何ですか、突然」


先を促す壱声に、実行は大仰に頷き、声を張り上げた。


「島に移動した後は……後編に続くっ!!」


「「嘘っ!?」」


まさかの展開に、その場に居た全員が声を揃えてツッコんだ。


「全員揃った『だけ』ですよ!?」


「まぁ、逆を言ったらな。それ『だけ』でこんなに尺を取ってるのに、このまま続けて島での様子とかやってられないだろ」


「しゃ○くり007よりぶっちゃけてますね!!」


「じゃ、島の滑走路でまた会おう」


「あぁ、引き延ばしは確定事項なんですね!!」




…と、言うわけで。

島に着くには、もう暫く掛かりそうだった。

そんなこんなで春間夏です…今一度陳謝します、申し訳ありません(土下座。むしろ土下寝)



こんな事になろうとは誰が予想したでしょうか。ギャグの駆け込み乗車が如何に危険かって事ですね……




次回、漸く島に到着。

…まだ一日目、なんですけどね……



………マズイ流れです。島に着いてからの彼等の暴れっぷりは未知数ですよ…連泊にした過去の自分の発想を殴り飛ばしたい気分です




とにかく、次回……ちゃんと8月4日は終わらせます。ご容赦を

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