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第4話:部活動の狂気(前編)

図書室の静寂は、かつては天国のような救いだったが、今は紙で作られた墓場のように感じられた。星野ほしの まことは椅子に座ったまま石のように固まり、手に持った百科事典第7巻と机の上に広げた手帳を、まるで死刑宣告書か何かのように見つめていた。


「……冗談だろ」

誠は呟いた。その声は震え、体全体が振動しているかのようだった。

「地獄のウェルカムパーティー委員会が仕掛けた、質の悪い冗談に違いない」


壁の時計を見た。午後3時45分。あと15分。細胞分裂でもしない限り、彼に残された寿命は正確に15分だった。


(もし講堂の狸子まみこのところに行けば、間違いなく狐乃香このかがNASAの衛星で僕を追跡して、『契約不履行』で処刑しに来る。でも、もし狐乃香のところに行けば、狸子が廊下の真ん中でオスカー級の悲劇を演じて、僕を再び……国民的な悪役に仕立て上げるだろう)


誠は勢いよく立ち上がり、椅子が床と擦れて悲鳴を上げた。彼は絶望に顔を覆ったが、鼻の下に付け髭の接着剤が残っていることなど、すっかり忘れていた。


(2階は講堂。4階はディベート部室。距離にして階段3つ分と長い廊下が2本。全速力で走れば120秒で移動できるけど……一体どうやって、経済のディベートとロミオとジュリエットの稽古を同時にこなせって言うんだ!?)


足がガクガクと震え始めた。誠は自分の足に躓きながら図書室を出て、銀行強盗でもした犯人のように廊下の左右をキョロキョロと見渡した。廊下の冷たい空気も彼を落ち着かせはしなかった。通り過ぎる生徒一人一人が、時間が進んでいることを彼に突きつける。チク、タク。


「クソっ! 僕はただのモブなんだぞ!」

階段へ向かいながら、彼は必死の囁き声で叫んだ。

「モブのスケジュールがこんなに詰まってるわけないだろ! 僕のこの物語での台詞は『おはよう』だけでいいはずなんだ!」


焦りながら廊下を駆け抜け、この時間に数少ない生徒たちを避けて進む。


(待て、落ち着け、考えるんだ誠。二つの部活。二人の天才。二つの問題。これは同じ日に宿題が二つ重なったようなものだ。しかも両方とも期末試験で、重なってるなんて誰も教えてくれなかったパターンだ)


彼は落ち着こうとしたが、恐怖は消えない。


(でも……よく考えたら、そんなに深刻じゃないかも。ただの体験入部だ。一回ずつ行けばいい。義務じゃない。終わったら両方の部活から問題なくおさらばできる。そうだ、完璧だ!)


若く、そして純粋すぎる誠はそう考えていたが、現実にはその場当たり的な計画が通用しないこと、そしてそれが何よりも不完全なものであることを、彼はまだ知らなかった……。


歩きながら思考を巡らせていた彼は、再び図書室に戻ってきてしまい、自分が円を描いて歩いていたことに気づいた。


「ああ、もう!」


時計を見ると、すでに午後3時49分だった。


(待てよ)


手帳を取り出す。二人の名前を見る。時間を見る。両方とも「午後4時00分」と書いてある。


(……本当に、二人とも4時って言ったのか?)


一瞬の静かなパニック。その後、彼特有の妙な冷静さで誠は推論を始めた。


(ええい、ままよ。狸子まみこは役者だ。役者は人が劇場に遅れてくるのには慣れてるはずだ。というか、日本では始まってから入るのも普通だよな。そう、それが文化だ、ブラザー)


彼は能天気に考えた。


(逆に狐乃香このかは……あの女なら、僕が図書室から到着するまでの正確な時間をすでに計算しているはずだ。一分でも遅れたら、国際犯罪でも犯したような目で見られるに違いない)


狐乃香の視線を想像しただけで、誠は全身を千本のナイフで貫かれたような感覚に陥った。そして結論に達する。


(想像しただけで痛い。別にどっちが大事とかじゃないけど、これがベストなはずだ)


まずは狐乃香のところへ行く。 彼は心の中で「効率のためだ」と言い訳をしていたが、将来的にその言葉を後悔することになる。……ああ、なんてこった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆


誠は息を切らし、制服は着崩れ、髪はボサボサの状態で、ちょうど1分前に到着した。

ディベート部のドアを開ける。

12対の目が一斉に彼を向いた。


静寂。


狐乃香このかは前方に立ち、論理式と図解で埋め尽くされたホワイトボードの横にいた。彼女は彼を見、時計を見、そして再び彼を見た。


「3時59分。1分前の到着ね」

「……それって、悪いこと?」

「いいえ。許容範囲よ」


まことは、彼女の顔に0.2秒ほど安堵のようなものが走ったのを見逃さなかった。すぐにいつもの石像のような無表情に戻ったが。

部員たちは、動物園に間違えて入り込んだ珍獣を見るような目で誠を見ていたが、何かが起きる前に……。


「この、不届き者が!」


数人の部員が誠を捕まえ、押さえつけた。


「えっ!? なんだよ、待て!」


誠は必死に抵抗したが、すぐに眼鏡をかけた部員が疑問に答えた。


「よくもノコノコと……数日前に善狐ぜんこ様を侮辱しておいて! 叩き出してやる――」


その言葉が終わる前に、部室内の空気が凍りついた。部長である彼女の、冷徹な声のせいだ。


「やめなさい……今すぐに」


誠を含め、全員が硬直した。彼を押さえていた部員たちは震え上がりながら手を離した。


「ぜ、善狐様、でもこいつは……」


狐乃香は彼らの方へ歩み寄り、誠以外の全員が恐怖で後退した。


「この人は私の招待客よ。確かに過去には私を困らせたけれど……」


彼女は部員たちを冷たく見据えた。


「彼に文句があるなら、私を通しなさい。分かったかしら?」


部員たちは震え上がり、声を揃えて返事をした。

「は、はい! 善狐様!」


部員たちはそれぞれの活動に戻っていった。その様子を目の当たりにし、狐乃香このかと正対したまことは、彼女が全員に対して持っている絶大な力と権威に圧倒されていた。


「さあ、ついてきなさい、誠……」


彼は反論ひとつせず、彼女に従った。


数分後……。


狐乃香はいつもの効率的なやり方で課題を説明した。それは通常、部員たちが8つの手順を踏んで20分かけて解く形式論理学の問題だった。

誠はそれを読み、見つめ、まるで逆さまの地図を見るようにひっくり返した。

部員たちは「見ていられないな」という視線を交わす。

狐乃香はタブレットを構え、彼の思考プロセスを記録しようと静かに観察していた。


すると、誠が言った。

「答えは『C』かな?」


静寂。


「……どうやってその結論に至ったの?」

狐乃香が、完全に抑揚のない声で尋ねた。


「いや……見た感じ、Cかなって」

「見た感じ?」

「うん。他の選択肢は何か変なんだ。これだけは違和感がない」


部員の一人が憤慨して手を挙げた。

「そんなのメソドロジー(手法)じゃない! 8つの手順を一つも踏んでいないじゃないか!」


「……でも、正解よ」

狐乃香は誠から目を離さずに言った。

部室に絶対的な沈黙が広がる。


狐乃香はゆっくりと近づき、別の問題を差し出した。さらに難解で、彼女自身でも解くのに時間がかかる(といっても最大40秒程度だが)問題だ。

しかし、誠は3秒見つめただけで答えた。


「『B』?」


……正解。


(……何なの、これ)


狐乃香このかは10歳の頃以来感じたことのない感覚を味わっていた。それは、初めてチェスで負けた時のような……説明のつかない、抗いがたくも不快な高揚感。


「星野君。プロセスを説明しなさい」

「プロセスなんてないよ。ただ……どれが間違っていて、どれが正しいか、なんとなく感じるんだ」

「なんですって?」


彼女はフラストレーションを感じ、机に強く手をついた。

「そんなの論理ロジックじゃないわ……!」

「でも、合ってるだろ」


まことは傲慢さも自慢もなく、ただ事実としてそう言った。それが逆に、狐乃香を最も困惑させた。


(ありえない……プロセスも、手法メソドロジーもない。あるべきものが何一つないのに、正解に辿り着くなんて。この馬鹿……私の読み切れない、別の次元にいるというの?)


さらに彼女を困惑させたのは、他の部員たちが誠を驚きの目で見始め、部内が「驚嘆」と「存在への屈辱」で二分され始めたことだった。

誠は自分のバッグを拾い、自分が引き起こしたメンタル・カオスなどどこ吹く風で言った。


「それで……テストは合格?」


その質問で、狐乃香は自分の世界から引き戻され、数秒間沈黙した。


「……データが不十分だわ」

「それって、イエスかノーかどっち?」

「木曜日にまた来なさい、ということよ」


誠が彼女を見る。彼女は氷のような冷徹さでその視線を受け止めた。

しかし、タブレットの影に隠れた彼女の指は、一度だけ震えるように動いた。……なんてことだ、あの偉大な狐乃香が初めて揺らいでいる。


「じゃあ……木曜日に。みんな、バイバイ」


まことは脱兎のごとく部室を飛び出した。部内には死のような静寂が残り、一人の部員がようやく口を開いた。


善狐ぜんこ様……本当に、彼をまた来させるのですか?」


狐乃香このかはすぐには答えなかった。閉まったドアを見つめ、それからタブレットに目を落とした。そこには観察記録があるはずだったが、画面は白紙のままだった。


(なぜ、私はこれを数値化できないの?)


長い間、狐乃香が即答できなかったことはなかった。


「……ええ」

彼女はようやく答えた。

「まだ分析すべき変数があるわ」


だが、その声は初めて、いつもより自信が欠けているように聞こえた。

彼女は生まれて初めて、自分自身に確信が持てなくなっていたのだ。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆


誠は階段を猛スピードで駆け下り、時計を見た。午後4時52分。


(よし、まだ時間はある。狸子まみこがドラマを始める前に講堂に着けるはずだ)


しかし、彼は急に足を止めた。


(待てよ……もう4時52分か)


不吉な沈黙が彼の脳内を支配する。


(狸子は……52分間も僕を待ってるんだな……)


彼の顔から血の気が引いた。考える間もなく、彼は人生がかかっているかのように講堂へ向かって爆走した。実際、ある意味で人生がかかっていた。

なぜなら今、彼の命は本当にこれにかかっていたからだ。……ああ、恐ろしい!


第4話:完


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆


皆さん、こんにちは!

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。第4話、いかがでしたか?


それから、少し謝らせてください。ここ数日、仕事でかなり忙しくて投稿が遅れてしまいました。でも、少しずつ時間が取れるようになってきたので、また頑張ります(約束ですよ!)。


もしここまで楽しんでいただけたなら、お気に入り登録などで応援してもらえると本当に嬉しいです!


それでは、地獄の(笑)第5話でお会いしましょう。またね!


作者:零時卿

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