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第2話:拡大するカオス

進天学園は、くだらない噂話が流れるような場所ではない。次世代のエリートたちが集まるこの学園での「スキャンダル」と言えば、企業の合併や学業成績、あるいは理事会の不祥事といったものが相場だ。しかし、今朝の空気は違った。まるで静電気を帯びたかのような重苦しい空気に、誰もが肌を粟立たせていた。


だが、今回は何かが決定的に違っていた。……すべては、一枚の写真のせいだ。


そこには、進天学園の古い備蓄倉庫から出てくる三人の姿が写っていた。

一見すれば、何の変哲もない光景だ。ただの学生が誰も寄り付かない場所から出てきただけ。だが、その写真を注意深く見た者は、戦慄することになった。


なぜなら、その写真には学園の二大巨頭が写っていたからだ。

ディベート部の部長であり、「論理の女帝」と称される狐乃香 善狐。

そして、演劇部の不動のスター、「学園の輝ける星」狸子 団蔵。

この二人は、多くの生徒にとって「住む世界が違う」存在である。


だが、その二人の間に、一人の極めて平凡な少年がいた。

星野 誠……。

特別な才能もなく、有名でもなく、普段ならどこにいても見過ごされるような平均的な生徒。

だが、その写真は全く別の物語を語っていた。


写真は、三人が日の暮れた時刻に、同じ場所から一緒に出てきた瞬間を捉えていたのだ。

そして、退屈しきった学生たちで溢れるこの学園で、誰かが「最悪の選択」をした。

写真の拡散である。


その後に起こったことは、もはや避けられない運命だった。

噂は瞬く間に進天学園を駆け巡り、まるで火薬庫に火をつけたかのように爆発した。

午前8時、学園の内線サーバーは三度ダウンした。


午前8時15分、「地下室事件」というワードは、進天学園内SNSのトレンド1位を独占した。


「聞いたか? 星野が二人を1時間近くもあそこに留めていたらしいぞ」

「ありえないだろ……あの星野って奴、学園の二人の女王を同時に相手にしてるのか?」

「写真の団蔵様の顔を見てみろよ……なんだか、乱れてないか?」

「善狐様も、どこか虚ろな表情だ……ということは……」


「「「二人が一人の男を奪い合ってる!!!」」」

「「「二人が一人の男を奪い合ってる!!!」」」

「「「二人が一人の男を奪い合ってる!!!」」」


だが、これはこれから巻き起こる巨大な災厄の、ほんの序章に過ぎなかった。

一方、その物語の「主人公」とされる本人は……自分の人生が地獄に変わろうとしていることに、微塵も気づいていなかった。


かわいそうな星野 誠。5分後には、彼のステータスが「空気のような生徒」から「進天学園全男子生徒の公敵第1号」に変わることも知らずに……。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆


さて、我らが(不運な)主人公に話を戻そう。星野 誠は、お気に入りのアニメの最新話が観られなかった悲しみに打ちひしがれながら、進天学園の正門へと向かっていた。

だが、彼が学園に一歩足を踏み入れた途端……。


「いたぞ!! あいつだ!!」


一人の女子生徒が叫ぶと、数秒のうちに何百人もの生徒が彼の前に現れた。巨大なマイクが三つも顔に突きつけられ、巨大なカメラのレンズが彼を捉える。犯人は一目瞭然……報道部だ。なんて嫌な予感だ。


「えっ……」


誠が呆然とする間もなく、質問の嵐が吹き荒れる。


「星野君! 進天報道部です! 噂を認めてください! 昨日、狐乃香 善狐様と狸子 団蔵様と一緒に地下室にいたというのは本当ですか!?」


「あ……昨日のことなら、確かに。彼女たちのせいで随分と長い時間、一緒に過ごすことになってしまって。本当に悲しいですよ」


この大馬鹿者は、二人のせいで放送時間に間に合わず、アニメの最新話が観られなかったことを嘆いているだけなのだが……。


廊下は静まり返った。報道部員たちは互いに顔を見合わせ、興奮で手が震え出す。


一秒。

二秒。

そして――。


完全爆発。


「では……随分と長い時間、二人と『いた』ということですね!?」

別の部員が狂ったようにマイクを突きつける。

「ということは、狸子 団蔵様と狐乃香 善狐様、二人と同時に付き合っているのですか!?」


誠は一瞬で血の気が引くのを感じた。


「は……?」


周囲は狂乱の渦に飲み込まれていく。


「星野君、どうやってそんな偉業を成し遂げたんだ!?」

「本当にあんなに長い時間、彼女たちを相手にしたのか!?」


報道部だけでなく、一般生徒からも質問の弾丸が四方八方から飛んでくる。


「待ってくれ、誤解だ! 二人に頼まれたから行っただけなんだ!」


一瞬の静寂。そして、先ほど以上の爆発が起きた。


「「「神よ、こいつ認めやがったぞ!!!」」」


マイクを握っていた女子生徒がカメラを凝視する。

「星野君が認めました! 彼は進天学園の二人の女王と同時に交際していることを認めました!!」


誠は狼狽し、必死に否定しようとするが、さらに多くの生徒に囲まれ、押しつぶされていく。


「いや、待て! そんなこと言ってない! 話を聞いてくれえええ!!」


だが、もはや誰も聞き耳を持たなかった。

進天学園にとって……。

このスキャンダルは、まだ始まったばかりに過ぎなかったのだ。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「神よ、こいつ認めやがったぞ! 星野君が今、進天学園の二人の女王と同時に交際していることを認めました!!」


廊下でカオスが渦巻く中、学園の北棟では、全く異なる空気が流れていた。

ディベート部のエレガントな部室内には、不自然なほどの静寂が支配している。

狐乃香 善狐は、部屋の主賓席に座り、脚を組んで最新世代のタブレットを手にしていた。

静寂を破るのは、彼女の指先が画面を叩くかすかな「タップ、タップ」という音だけだ。


彼女は報道部のライブ配信を、眉をひそめて眺めていた。画面の中では、星野 誠が無数の生徒とマイクに完全に取り囲まれている。

善狐は沈黙を保ったままその光景を見つめ、やがて疲れ切ったような溜息を漏らした。


「なんて壊滅的な正直さなの、星野君……」


彼女はタブレットの画面を消した。これ以上見る必要はない。

結果はすでに明白だった。

数分後には、噂は学園の隅々まで広がりきるだろう。

そしてその後……。

彼女自身の仲間たちが、彼女を問い詰めに来る。

それこそがディベート部のやり方だからだ。


分析

調査

断定


善狐は一瞬だけ目を閉じ、脳内にある無数の変数データを素早く整理し始めた。


問題はシンプルだった。

噂はすでに消し去るには大きすぎる。ならば、唯一の論理的解決策は「誘導」すること。

噂の焦点を別の方向へ逸らすことができれば……。

被害は最小限に抑えられるはずだ。

彼女の頭の中で、一つの計画が形を成していく。

善狐は再び目を開いた。


(あと15秒で、部員たちがパニック状態でここへ来る。彼らは論理的な裏付けを求めるはず。もしすべてを否定すれば、噂は制御不能な変数として残り続ける。けれど、もし「競合相手」を排除すれば……)


3... 2... 1...


予測通り、部室のドアが勢いよく開かれた。

ディベート部の部員数名が、なだれ込むように入ってくる。


「会長! ニュースを見ましたか!?」

部員の一人が、息を切らしながら絶望的な声を上げた。

「あの男……星野が中庭でとんでもないことを言っています! あれは演劇部の三流役者、狸子 団蔵が仕組んだ嘘だと言ってください!」


室内は静まり返り、善狐はゆっくりと顔を上げた。


「落ち着きなさい。データを分析するのよ」


彼女の声は冷たく、精密で、論理的だった。


「星野 誠のような行動パターンを持つ個体が、狸子 団蔵のように……『作為的』な人間と情緒的な繋がりを持つことは、統計学的に不可能です。彼らのパーソナリティは原子レベルで衝突している。彼女がこの『劇場』を作り上げるために、彼をあの倉庫へ引きずり込んだのは明白ね」


部員たちは、彼女の圧倒的な自信に心酔したように頷いた。


「では……団蔵様との話はデタラメなのですね?」

一人の女子部員が、希望を込めて問いかける。


「私の見解を疑うのかしら……」


善狐の鋭い視線に、その部員は思わず身をこわばらせた。


「め、滅相もございません、善狐様……っ」


善狐はしばし沈黙し、窓際へと歩み寄った。


「それと、星野 誠との関係についてだけれど……。データがまだ数値化できていない事象を、言葉で説明する必要性は感じないわ。仕事に戻りなさい」


部室内は、墓場のような静寂に包まれた。部員たちは目を見開き、互いに顔を見合わせる。


(善狐様は……否定しなかった……)


部員全員が、同じ思考を共有した瞬間だった。

善狐は静かに目を閉じた。計画通りだ。

この馬鹿げた噂の戦争における、最初の一手……。

それは今、完璧に遂行された。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「論理の女帝」が外科手術のような精密さでカードを切っている頃、進天学園のメイン講堂では、全く異なるドラマチックな熱気が渦巻いていた。


狸子 団蔵は座ってなどいなかった。彼女はステージの真ん中、自分を照らし出す一筋のスポットライトの下に立っていた。彼女の手にあるのはタブレットではない。シェイクスピアの台本の裏に隠したスマートフォンだ。彼女もまた、報道部のライブ配信を凝視していた。


「ふふっ……」


艶やかだが、何らかの意図を含んだ笑みが彼女の唇からこぼれる。


「誠君、役者としては大根だけど、脚本家としては最高ね。『二人に頼まれた』……なんて刺激的なセリフかしら」


団蔵は流れるような動作でスマートフォンを仕舞った。彼女に「15秒」を計算する必要などない。数えきれないほど舞台に立ってきた彼女は、観客の鼓動を感じ取ることができるのだ。カーテンの裏で「下僕」たちが息を潜め、自分たちの世界が崩壊していないという証を、スターの口から待っていることを彼女は知っていた。


(私の愛すべき直感が正しければ、エキストラたちが騒ぎ出すまであと……3、2、1)


「団蔵様ぁ!!」


演劇部の部員たちが取り乱した様子で駆け込み、一瞬で彼女を取り囲んだ。


「ひどすぎます! あの星野とかいう下俗な男が、カメラの前であなたの名を汚しています!」


一人の男子部員が、絶望に満ちた声を上げる。


「あなたに頼まれて倉庫に入ったなんて抜かしているんです! あの氷の女、善狐にグラフや統計で洗脳されたに違いありません!」


団蔵はそのすべてを聞き届け、今こそが演技の時だと確信した。

彼女は手にしていた本を床に落とし、口元を片手で覆った。肩がかすかに震え始め、伏せられた瞳からは人工的な涙が溢れ出す。


「……なんて、恐ろしいこと」


彼女の声は、最後列まで届くような絶妙な囁きとなって響いた。


「あれは本当に、いたたまれない状況でした……。確かに、私たちはあそこにいました。でも、誠君は……とても脆い人なの。きっと狐乃香さんに、嘘をつかなければ内申書を台無しにする、と脅されたに違いないわ。彼女はいつも、私たちが共有しているものに嫉妬していたから」


部員たちが一斉に息を呑む。


「……では、善狐様が彼らにそれを強要したと?」


彼女は溜息をつき、押し殺したような呻きを漏らした。


「狐乃香さんは魂のない世界に住んでいるの。彼女は誠君を、管理されるべき『研究対象』としてしか見ていない……」


団蔵は悲劇のヒロイン然とした、それでいて気高い姿勢を取り戻して言った。


「けれど、私たちの物語は……まだクライマックスを迎えていない劇のようなもの。これ以上は話せないわ、心が張り裂けそうだもの」


団蔵はくるりと背を向け、舞台の影へと消えていく。その背中は、あまりにも儚げに見えた。


(団蔵様は……否定しなかった……)


部員全員の脳裏に、同じ考えが浮かんだ。


(彼女は狐乃香を操り手だと言った。けれど、自分と星野とのことは『悲劇の愛の物語』だと暗示している! あの論理の魔女が、私たちのスターから共演者を奪おうとしているんだ! 阻止しなきゃ!!)


演劇部員たちが怒りに燃える中、幕の裏に隠れた団蔵の顔には、獲物を狙うような笑みが浮かんでいた。


「……本当に扱いやすい子犬たちね。さあ、狐乃香さん、これにどう答えてくれるかしら?」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆


その日の残りの時間、進天学園はもはや学び舎ではなく、イデオロギーの戦場へと変貌を遂げた。それぞれの陣営は静かに牙を研ぐ。片や「論理の軍勢」、片や「演劇の軍団」。


ところで、諸君はこう思っているだろう。「星野 誠はどこへ行ったんだ?」と。答えは単純。彼は校長室に身を隠していた。幸運なことに、校長は今日、欠勤していたのだ。


そして、運命の放課後が訪れる……。


進天学園の中庭は、今にも破裂しそうなほどの熱気に包まれていた。そこは完璧に二つの勢力に分断されている。

左翼には……。

敵を殲滅する準備を整えたディベート部。

右翼には……。

かつてないほど感情を昂ぶらせ、この状況に燃える演劇部。


その中心で、二人のリーダーが対峙した。視線が衝突した瞬間……戦争が始まった。


「あなたの脚本はもう退屈だわ、狸子。星野君から手を引きなさい。データによれば、彼はあなたのような人間が管理できるリソースではないの」


善狐が先制攻撃を仕掛ける。その声は氷のように冷たく、その眼差しはまさに殺意そのもの。なんという緊迫感だろうか!


「なんて残酷なのかしら、狐乃香さん!」


団蔵は悲劇的な優雅さでハンカチを瞳に当て、即座に応戦した。


「あなたは彼の心を、自分自身の退屈なガラスの箱に閉じ込めたいだけ。彼は魂のある物語を生きるべきなのよ。あなたのエクセル・シートに並ぶ数字になるためではなくてね!」


団蔵のカウンターアタックが決まった! 善狐の攻撃的なトーンに一歩も引かない彼女の姿勢に、群衆から怒号のような歓声が上がる。


「感情的投射。証拠なき論拠ね」


善狐は声を荒らげることなく、淡々と返した。


「あまりに初歩的なテクニックだわ、狸子」


団蔵は驚きと嘆きに満ちた表情で口を開く。もちろん、ただの演技なのだが。


「……見える? 今この時でさえ、あなたはすべてを数字に還元しようとしている……」


彼女はそっと、自らの胸に手を当てた。


「あなたには理解できないこともあるのよ……心がないんだもの」


善狐は彼女を正面から見据えた。その鋭かった瞳には今、明確に相手を叩き潰そうという意志が宿っている。


「そして、あなたには維持できないこともあるわ……嘘をつかなければね」


これで、緊張感は完全に制御不能となった。最悪だ、なんてことだ!

だが、すべてが取り返しのつかない破滅へと向かう直前、ディベート部の二人と演劇部の二人が、一人の少年を引きずってきた。誠だ!


「捕まえたぞ!!」


この哀れな犠牲者は、手足をカーテンの紐で縛り上げられていた。調理場のゴミ箱の裏に隠れているところを見つかったのだ。


「こいつが元凶だ!」


捕獲者たちは叫び、二人の天才の真ん前、中心地へと彼を投げ出した。


「……死にたい」


誠が恐怖に震えながら呟く中、善狐と団蔵が彼に歩み寄る。二人の眼差しは対照的だった。

善狐は権威を持って彼を見下ろし、団蔵は仕組まれた悲しみを浮かべる。二人は同時に、まるで凡人を裁く女神のように彼へと身を乗り出した。


「真実を話して、誠君……」

団蔵が囁く。


「星野君、この欺瞞ぎまんを今すぐ終わらせなさい」

善狐が命じる。


もはや失うものは何もなく、脳内ではアニメのオープニングテーマがリピート再生されている誠は、顔を上げた。その瞳は血走っている。


「いい加減にしろ!!」


誠が絶叫し、その場にいた全員が静まり返った……。


「俺は二人とも付き合ってなんてない!!」


彼の忍耐は限界を超えていた。


「閉じ込められたかって!? ああ、そうだとも! でもそれは、そこの『論理の天才』がボロいドア一枚開けられなくて、そっちの『演劇のスター』が怖がって子供みたいに泣きじゃくったからだ! 俺はアニメを観に帰りたかっただけなのに、30分間もこいつらの叫び声や喘ぎ声を聞かされる羽目になったんだよ! あんたたちは、ただの頭痛の種だ!」


……。


絶対的な静寂。誰も動かず、多くの者が息を呑んだ。そして、ざわめきが波のように広がり始める……。


「『叫び声と喘ぎ声』……?」

「『女帝』がドアを開けられなかったって……?」

「『スター』が地下室で泣きじゃくった……?」


二人の「完璧」という名の名声が、リアルタイムで崩壊していく。生徒たちは疑念の目を向け、善狐と団蔵を凝視した。二人は生まれて初めて、「社会的敗北」という名の冷気を感じていた。


団蔵の笑みが消え、善狐の眉がわずかに潜められる。


その危機の瞬間、二人の視線が交差した。言葉はなかった。ただ、共有された生存本能の火花が散っただけだ。その一秒、禁断の同盟が誕生した。


今ここで誠を止めなければ、すべてを失う。二人はそれを瞬時に理解したのだ。


先に動いたのは団蔵だった。


「なんて破廉恥なの……!!」


団蔵が突然叫び、震える指で誠を指差した。


「自分の変質的な妄想のために、私たちをわざと閉じ込めたことを隠そうとして……よくもそんなデタラメを捏造できたものね!」


続いて善狐が歩み寄り、冷徹な声で追い打ちをかける。


「明白だわ……不適切な行動によって注目を集めようとする典型的な個体のパターンね。今の告白は、彼の犯罪的思考を証明しているに過ぎない。二人の女性を逃げ場のない場所へ誘い込み、今度は下劣な嘘で私たちの名誉を傷つけようとしている。……部員たち、刑を執行しなさい」


「「「はい、善狐様!!」」」

「「「承知いたしました、団蔵様!!」」」


群衆が爆発した。しかし今度は、怒りの矛先はすべて誠へと向けられた。


「ま、待て! え、何!? 俺はそんなこと言ってない!!」


だが、もはや手遅れだった。リーダーたちの怒りに煽られた数百人の生徒たちが、一斉に中心へと襲いかかる。生存本能に突き動かされた誠は、どうにか紐を振りほどくと、脱兎のごとく学園の出口へと走り出した。進天学園の生徒の半分が、その後を追いかける。


「捕まえろ!!」

「成敗してやる!!」

「逃がすなあああ!!」


誠は死に物狂いで走った。中庭の陣形は崩れ、学園全体を巻き込んだ大規模な追走劇へと変貌する。


……喧騒が遠ざかっていく中、二人の天才だけが中庭に取り残された。彼女たちは同時に、制服についた埃を払った。


「勘違いしないで、団蔵。これはあくまで必要な停戦だったに過ぎないわ。あなたのせいで私の論理が受けた損害は、利息をつけて返してもらうから」


善狐は相手を見ることなく、冷ややかに告げた。


「奇遇ね、狐乃香さん。私も同じ気持ちよ」


団蔵が答える。その瞳の奥には、一切の笑みがない。


「でも、次は……私のものに触れさせたりしないから」


善狐は感情を排した声で返した。


「次は……嘘をつく必要すらなくなるわ」


こうして、二人の少女の間の戦争は、ようやく幕を開けたばかりだった。


第2話:完


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆


皆さん、こんにちは!! お元気ですか?

ついに、この素晴らしい(?)物語の第2話をお届けすることができました。


正直に言うと、これを書くのが楽しくて仕方ありません。二人の天才美少女に振り回され、ボロボロにされる哀れな誠君を見るのは、本当に最高ですね(笑)。


ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます!

もしこの物語を気に入っていただけたなら、ぜひ「お気に入り登録」や「いいね(ハート)」で応援をお願いします。皆さんの応援が、執筆の大きな励みになります!


一点、お伝えしておきたいことがあります。前作はあらかじめプロットをすべて決めていたのですが、今作はまさに「今、書きながら」進めている状態です。そのため、更新に少しお時間をいただくこともあるかもしれませんが、決して皆さんを見捨てたりはしません!


目標としては、週に4〜5話ペースで更新していきたいと思っています(できれば、ですが……ハハハ!)。

誠、団蔵、そして善狐の三人のドタバタ劇は、まだまだこれからが本番です。たっぷりとお楽しみいただけるはずですよ!


それでは、今回はこの辺で。

第3話もどうぞお楽しみに!


愛すべき作者より:零時卿


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