第18話:『人間』プロトコル
「話しなさい。正確には、何があなたを壊したの?」
狐乃香の言葉は、静かな水面に石を落としたかのように中庭に響いた。残酷さからではない。放たれた言葉一つ一つが、どれだけの重圧を与えるかを正確に把握している者特有の精度で。恐ろしいほどに……。
返答の代わりに、鉛のように重く不快な沈黙だけが落ちた。夕暮れの冷たい風が放棄された中庭を吹き抜け、枯れ葉がひび割れたコンクリートを擦る音を立てた。
麻美子はゆっくりと震えを止めた。彼女の呼吸は不自然なほど安定していた。女帝の容赦ない視線を完全に避け、虚ろな瞳を煉瓦の壁の死角に固定していた。
「これは……ディベート部の部長には関係のないことです」
麻美子は呟いた。その声はざらついており、まるで声帯が感情の乗せ方を忘れてしまったかのようだった。安っぽい防衛線。簡単に貫通できる段ボールの盾だった。
狐乃香は目を細め、目の前の少女をスキャンした。いつもの微細な表情の変化、顔の筋肉の緊張、社会的仮面を暴露する癖を探った。かつて、狐乃香は麻美子の心をまるで開かれた本のように読むことができた。確かにこの女優は天才であり、見事な演技で彼女を欺くこともあったが、狐乃香は常にその『糸』を見抜いてきた。しかし、今は……。
【読み取りエラー。】
狐乃香は一秒間、その事実を処理した。
明確なパターンがない。辿るべき糸がない。彼女の前にいるのは、役を演じる女優でも、助けを求める怯えた少女でもなかった。ただ、細かく砕け散った一人の女性がいるだけだった。砂嵐を映し出す、割れた鏡の破片。
狐乃香は内なる苛立ちの痛みを覚え、それに続いて純粋な驚きを感じた。彼女の純粋な論理が人間を推論できなかったのは、これが人生で二度目だった。最初の一人はもちろん、星野誠である。
(論理が彼女の表面で弾かれている……)
狐乃香は毅然とした姿勢を崩さずに分析した。
(このまま臨床的な尋問で攻撃し続ければ、彼女の防衛システムは完全に閉ざされる。シャットダウンし、最終的には何も得られなくなる)
そして、冷徹なデータ処理の最中、一つの『変数』が現れた。
星野誠。
狐乃香は彼のことを考えた。騒々しく、不器用で、どうしようもないほど人間らしい彼を。推論で人を武装解除しようとは決してせず、ただ純粋な共感で真っ向からぶつかっていく彼のやり方を。
(もし星野くんが私の立場なら、きっとすでに麻美子に口を開かせ、彼女を助けていただろう。でも、私は彼とは違う……)
誠の名前を思い浮かべた時、狐乃香の胸に奇妙な変化が起きた。
トレーニングの数日間で気づいていた、あの小さな「非効率的な熱」が再び灯ったのだ。それは穏やかな鼓動であり、彼女の内部防御の氷をミリ単位で溶かしていく感覚だった。狐乃香はまだ、自分のデータベース上でこの感情が一体何なのか、ラベルを貼るつもりはなかった。しかしこの瞬間、赤い空の下で、彼女はただ一つの経験的真実だけを認めることにした。
その熱は、とても、とても心地よいものだった。
(……いいわ)
息を吸い込み、狐乃香は決断した。
(意図的なエラーを起こす。今回だけね……)
そして彼女が準備を整えている間、麻美子はすでに立ち去る準備をしていた。
「お気遣い……感謝します。でも、私は大丈夫です。ただ、練習のための静かな場所が必要だっただけで。もう帰りますから」
地面から台本を拾い上げ、そして……。
狐乃香は一歩前に出た。追い詰めるためではない。寄り添うために。
「弾蔵さん」
彼女を呼んだその声には、今回ばかりは刃がなかった。柔らかく、無防備でさえあった。
「暗闇の中に閉じ込められ、外にいる怪物が無敵だと信じ込んでしまう気持ちは分かるわ。誰も助けに来てくれないと感じて、ただ自分を喰い尽くされるのを待つしかないと思う気持ちも」
麻美子はハッとして顔を上げた。あの揺るぎない狐乃香に見えた共感のひび割れに驚き、瞳孔が開いていた。
「あなたの戦術的なミスを裁くためにここにいるわけじゃないわ、麻美子」
彼女の下の名前を架け橋として使い、狐乃香は続けた。
「私がここにいるのは、あなたが一人で溺れるのを放っておけないからよ。星野くんも、きっとそうするわ」
その名前は鍵となった。しかし、狐乃香はその鍵が開けるものに対して、全く心構えができていなかった。
麻美子の唇が激しく震えた。恐怖によってそれまで堰き止められていた涙が、ついに彼女の瞳に溜まり、溢れ出していく。だが、それは決して安堵の涙ではなかった。彼女は喉を掻きむしるような、痛々しいほどの苦悶とともに泣いていた。
「羨ましいわ、善子さん……」
麻美子はさらに強く自分を抱きしめ、完全に警戒を解いてむせび泣いた。
「羨ましい……星野くんみたいな人を、あなたの『パートナー』にできるなんて」
中庭は、一瞬にして絶対的な静寂に包まれた。
狐乃香はすぐには答えなかった。
なぜなら、彼女の内側のどこか――普段なら純粋な論理が息づく、データと結論の間の空間にある何かが、長い間していなかった行動をとったからだ。
……停止したのだ。
【パートナー?】
最初の思考は自動的、かつ誤りであり、彼女も即座にそれを理解した。
【いいえ、それは違う。私と誠くんはそういう関係じゃない】
しかし、二番目の思考が最初の思考のすぐ後ろから、準備をする暇もないほどの速度で押し寄せてきた。
【待って……だとしたら、私は誠くんにとって何? そして、彼は私にとって何……?】
そして、そこにあった。狐乃香がそれまで一度も直面したことのない問い。そうする理由がなかったからだ。これまでのシステムはその機密データを必要とせずに正常に作動していたし、いくつかの変数は役に立ち続ける限り、名前のない未定義のままで放置することができた。
しかし、今はその名前が重要だった。
麻美子が何かを失った者の声でそれを口にしたからだ。もし麻美子が失ったと思い込んでいる前提が「誤り」であるなら、そこには狐乃香が処理すべき直接的な結果が生じる。だが、それを正しく計算するための十分なデータが、今の彼女にはまだなかった。
【私と誠くんは友達。それは明白よ】
それは正しい。
【でも、ただの友達というだけじゃない】
それもまた、正しかった。
【……その先にあるものは、何?】
彼女は思考を巡らせたが、いかなる答えにも辿り着けなかった。
事実上すべての事象に対して明確な答えを持っていたはずの狐乃香の胸のどこか――普段なら未回答の問いなど存在しない場所に、その疑問がぽっかりと浮遊したまま残された。ここ数日間、確かにそこに居座り続け、名前をつけるよりも楽だからと「システムエラー」としてアーカイブし続けていた、あの熱とともに。
だが、今はそれを深く分析している場合ではなかった。なぜなら今……彼女の目の前には、もっと緊急性の高い事態が存在していたからだ。
「弾蔵さん」
彼女の声はいつものトーンに戻っていた。的確に。しかし、以前にはなかった何かがその底に潜んでいた。
「あなたが何を見たと思い込んでいるのかは……」
そしてまさにその瞬間、中庭の脇の影から、一つの人影が動いた。
足音はしなかった。
ただ、完璧な妨害は予告なしに訪れるものだと学んだ者特有の忍耐強さで、最初からそこにいて正しい瞬間を待っていた誰かの気配だけがあった。
朝比奈美羽が影から這い出てきた。それは優雅さではなく、摩擦の不在が生む滑らかさ。空気の抵抗を受けるだけの十分な実体を持たないがゆえに動く、不気味な何かのようだった。
彼女は後ろから麻美子に近づいた。
そして、彼女を抱きしめた。
力任せではない。その仕草が、本当は違うのに「保護的」であるかのように見せるため、どれだけの圧力を加えるべきかを正確に知り尽くした者の、計算された精度で。
麻美子の身体が強張った。
「麻美子さん」
美羽の声は、狐乃香の耳にもはっきりと届く囁きとなって響いた。つまり、そうなるように意図されて放たれたということだ。
「この人に何も話す必要はないわ。あなたはもう、必要なものをすべて持っているもの。中へ戻りましょう」
狐乃香は美羽を見た。
そして、正確には怒りではないが、それに酷似した感情を覚えた。破壊的なメカニズムがリアルタイムで作動しているのを目撃しながら、それを単純にシャットダウンできない時に生じる――冷徹で明確な軽蔑。
「弾蔵さん」
狐乃香は、役に立つ情報をもたらさない背景の雑音を無視するかのような無関心さで、美羽を完全にスルーして麻美子に直接語りかけた。
「彼女の言うことを聞かないで」
麻美子は狐乃香を見た。
それから美羽に目を向けた。美羽の抱擁はそこにあり続け、すでに欲しいものを手に入れているがゆえに力を込める必要すらない何かのように、優しく、そして執拗だった。
「狐乃香さん、私……」
「麻美子さん」
美羽の囁きが再び、今度はより近くで、麻美子の耳元に直接向けられて届いた。
「西園寺様が仰ったことを思い出して。雑音は気を散らせるだけ。雑音はあなたを理解しない。雑音は、あの人のようにあなたを理解することなんて決してないわ」
狐乃香はその言葉が突き刺さった正確な瞬間を見た。
比較的コントロールされたままの麻美子の表情ではなく、その姿勢によって。無視するのが容易であるはずの何かが、そうではないことを意味する、肩のわずかな強張りによって。
狐乃香は口を開いた。この「寄生虫」を叩き潰そうとした。
そしてその時、中庭の入り口から、ある声が届いた。
静かで、的確で、焦りのない声。
「こんな場所で会うなんて、興味深いね、善子さん」
狐乃香はゆっくりと振り向いた。その声を聞いただけで、それが誰であるかの見当はすでに完全に追いついていた。
西園寺遥が中庭の入り口に立っていた。両手をポケットに突っ込み、周囲の空間が最初からすべて彼のものであったかのような佇まいで。夕暮れの赤い光が彼を背後から照らしており、それが偶然ではないことは明白だった。
二人は視線を交わした。その相互認識の瞬間、双方が異なる方法で、しかし同時に処理する何かが起きた。
遥は「善子」という姓を目にし、この国の本物の権力を持つすべての家系の系譜をアーカイブしている者特有の効率性でそれを分類した。第一線の政治家一族。一人娘。誇張ではないという知性の評判。この特定の時間の、この特定の中庭で見つかるとは計算していなかった変数。
狐乃香は「西園寺」という姓を目にし、誠から聞かされていたすべてのことと、彼女自身がその家系について知っていた決して少なくない知識とを結びつけた。彼が空間を占有するその物理的な存在感は、まさに彼女が想像していた通りであり、その静けさは平穏ではなく、無関心を装った絶対的なコントロールだった。
(そう、あなたなのね……)
彼女は強調することなくそう思った。
【予想していたよりも若い。予想していたよりも慎重。】
【そして、まさにその二つの理由ゆえに、より危険。】
「西園寺くん」
狐乃香はいつものトーンで言った。挨拶としてではなく、一つの確認として。
遥は微かに微笑んだ。自分と同等の「ステータス」を持つ者に認識されたことを、どこか愉しむかのように。
「善子さん」
彼は同じトーンで返した。
中庭は沈黙に包まれた。
狐乃香の左側では、美羽が相変わらず麻美子に腕を回したまま、狐乃香にはもうはっきりと聞き取れない何かを囁き続けていた。
彼女の正面、入り口に立つ遥は、効果を発揮するためにわざわざ明確にする必要すらなく、ごく自然に最もダイレクトな出口を塞いでいた。
狐乃香は二秒足らずで状況を評価した。
【麻美子は現在、危機的状況にあり、美羽という寄生虫が彼女を感情的にブロックしている。他方で、西園寺遥が唯一の可能な出口を塞いでいる】
彼女は一瞬、目を閉じた。
【この対話の好機は閉じた】
後悔することに時間を無駄にすることなく、それを受け入れた。それはデータだった。データは嘆くものではなく、処理するものだ。
しかし、彼女はもう一度だけ試みることを決めた……。
「弾蔵さん」
麻美子は彼女を見た。
彼女の瞳には、狐乃香が中庭に到着した時にはなかったもの――問い、あるいはその萌芽のようなものが宿っていた。
しかし、美羽が抱擁をわずかに強めた。そしてその問いの萌芽は、より古く、より強固な何かの背後へと消え去った。
狐乃香はそれを見逃さず、この状況でこれ以上追及することは、意図したのとは逆の効果を生むことになると判断した。
彼女は遥の方へと向き直った。
「時間は十分にあるようね」
焦る必要がないがゆえに急ぎ足とは無縁な、彼女独特の歩調で中庭の中央へと歩みを進めながら言った。
彼の三メートル手前で足を止める。
正面から彼を見据えた。
「私に何か言うことがあるのかしら、西園寺くん」
遥は、彼特有の外科手術のような精密な観察眼で、しばし彼女を凝視した。
「いくつかあるね」
彼はついに言った。
「まずは一番明白なところから始めよう。善子家の人間が、夕方の6時に高校の演劇部の裏庭で何をしているんだい?」
「西園寺家の人間と同じことをしているつもりよ」
狐乃香は、一ミリたりとも平静を崩さずに返した。
「心配される必要などないはずの誰かを、心配しているの」
その後に続いた沈黙は、それまで中庭を満たしていたどの沈黙とも異なる質を帯びていた。
それは、互いの出力が互角であり、かつベクトルが真逆であることを今まさに認識し合った、二つの『システム』がもたらす沈黙だった。
夕暮れは依然として、彼らの頭上の空を真っ赤に染め上げていた。
そして、星野マリ以外のほぼ全ての事象に恐怖を覚えたことのない狐乃香善子は、89年前の新聞を持ったある少年に「友達にならないか」と尋ねられて以来、最も興味深い会話に臨むための思考回路を研ぎ澄ませた。
つづく……
第18章:完
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どうもどうも、みんな戻ったよー! まだ死んでない(今のところ)から、この小説のありがたい第18章をここに届けるよ。
うん、ぶっちゃけ一週間(あるいは2週間近く)消えてたけど、勉強が忙しかったのと、病気から回復するのに必死だったからなんだ。でも、もう完全に元気になったよ、よっしゃーー!
それと勉強に関しては、まあ、もう実質的に大学への進学が決まったようなもんだから、いよっしゃーー! これからこの小説を書く時間がもっと増えるはず。信じて突き進めば、今月中に第40章までいけるかも(毎日更新する勢いで言ってるけど)。まあ、冗談だけどね。でも、これからもっと章を追加していくのは確実だから、焦らずに信じて待ってて。僕を信じて、諦めないで!
さて、次のエピソードは覚悟しておいてね。きっと遥と狐乃香が精神的にぶつかり合って、お互いを破壊し尽くすことになるから。どうやってそれを書くかって? 全然思いつかないけど、全力でやってみるよ。
ということで、読んでくれてありがとう。次の章で会いましょう!
零時卿より




