視界を奪われし王、世界を越える
Mictlantecuhtli(死と冥界の神)は手を上げた。
煙を上げる廃墟の中で、Itzacoatlの身体――盲い、砕かれた存在――は跪いていた。
もはや脅威ではない。
見ることはできない。
抗うこともできなかった。
彼の死は、この出来事の終幕となるはずだった。
黄金の都の陥落を象徴する、最後の儀式として。
だが、打撃は訪れなかった。
何の前触れもなく、神性の光が降り注いだ。
それは夜を引き裂き、まるで幾世紀ぶりに天そのものが介入を選んだかのようだった。
温もりはない。
慈悲もない。
ただ、古く、遠く、避けられぬ力。
Mictlantecuhtliは一歩退いた。
その瞬間、初めて――
何かが彼の掌から零れ落ちた。
光は完全にItzacoatlを包み込んだ。
痛みは消え、世界の雑音は途絶えた。
敗北した統治者は、永遠に失われたと思っていた感覚を、ほんの一瞬だけ取り戻す。
沈黙。
言葉はなかった。
約束もなかった。
ただ、現実そのものが彼を引き剥がすかのような、絶対的な力。
Mictlantecuhtliは咆哮した――
だが、すでに遅かった。
Itzacoatlは、自らの知る世界から排斥された。
Mictlánの力の及ばぬ彼方へ。
影の支配しない地へ。
神々が彼の運命を刻まなかった領域へ。
東アジア。
日本。
しかし、到達は即座ではなかった。
Itzacoatlにとって、それは瞬きに等しかった。
だが世界にとっては、歳月が流れた。
その身体が、層を、時を、砕けた記憶を越えて彷徨った年月。
彼の名が伝説となり、囁きとなり、やがて忘却へ沈んでいった年月。
一方で、Mictlantecuhtliは止まらなかった。
黄金の都が都市の死骸と化すと、残されたすべてを破壊した。
神戦争の後に課された最後の秩序を打ち砕き、なお封じられていた神々を解き放った。
古き力は次々と世界へ還り、領土を、人々を、信仰を奪い合った。
世界は、再び裂けた。
かつて黄金の都であった場所の中心で、Mictlantecuhtliは最後の業を始めた。
黒きピラミッド。
石ではなく、骨と血と死で築かれたもの。
一つ一つの層は破壊された記憶。
一段ごとが捧げ物。
かつて交易と笑いと光があった場所に、今立つのは――
Mictlánの絶対支配を示す記念碑。
その都市は、もはや名を持たなかった。
ただ一つの役割だけを残して。
影の玉座。
遠く離れた異国の地で、Itzacoatlの身体は、ついに物質世界へと落ちた。
盲い。
刻印され。
それでも、生きている。
どれほどの時が過ぎたのかも分からず。
何が救われ得るのかも知らぬまま。
だが、神々は戻った。
そして――
物語は、まだ終わっていなかった。




