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第六章 ― 目覚める影

神々の戦争から、すでに数百年が過ぎていた。

世界はもはや彼らの名を覚えていない。

残っていたのは、その結果だけだった。


伝説は神話となり、

神話は警告へと変わった。

だが、それを真剣に受け止める者は、ほとんどいない。


平和は絶対ではなかった。

しかし、それは続きすぎていた。


――不自然なほどに。


大陸の中心には、黄金都市がそびえ立っていた。

太古の聖なる基盤の上に築かれた巨大な都。

その城壁が放つ光は、金属の輝きだけではない。


秩序。

安定。

そして、揺るがぬ権威。


それは征服によって成り立つ国家ではなかった。


――均衡そのものだった。


都市を治める総督は、

古き血統を継ぐ者だった。


幼い頃から、彼には見えるものがあった。

他の誰にも見えぬ存在。


アレブリヘと、精霊たち。


それらは夢でも象徴でもない。

人の世界と並行して存在する位相に生きる、現実の存在だった。

論理を拒む形状、意味を持たぬはずの色彩、

そして、明確な意志を宿した視線。


長いあいだ、それは呪いだと思っていた。

だが、やがて理解する。


――それは、継承だった。


数多の存在の中で、

ただ一体だけ、常に彼の傍を離れぬ者がいた。


鷲のアレブリヘ。


威厳に満ち、寡黙で、

その瞳は時間の彼方すら見通しているかのようだった。

言葉を発することはない。

だが、その存在は常に警告し、守り、観測していた。


成長した総督には、守るべきものがあった。


その重荷を理解しようとする妻。

すべてを知っているわけではないが、背を向けることはない存在。


まだ幼く、

血に流れる宿命の重さを知らぬ二人の子ども。


そして――

静かに、しかし確実に、亀裂を生じ始めた世界。


最初の兆候は、周辺の村々から届いた。


取るに足らぬ争い。

世代を超えて交易してきた共同体同士の、突発的な憎悪。

「啓示を受けた」

「呼ばれた」

「約束された」


そう語り、武器を取る戦士たち。


原因は、一度も明言されなかった。


だが、総督には分かった。


本来あるはずのない場所に生じる影。

見慣れた顔に宿る、空虚な眼差し。

一瞬だけ、人が人でなくなる感覚。


――何かが、短い時間だけ身体を借りている。


争いの種を植えるには、それで十分だった。


ある夜、宮殿の高所から街を見下ろしていたとき、

鷲が現れ、彼の前に静かに降り立った。


その知らせに、解釈は不要だった。


一柱の神が、生き残っていた。


――Mictlantecuhtli(死と冥界の神)。


隠れ、

待ち、

すでに自らのものではなくなった世界に適応した存在。


正面から世界を破壊することはできない。

だが、内側から腐らせることには、完全に適応していた。


姿を変え、

脆い器に宿り、

人間の怨嗟と不満を糧とする。


彼は、黄金都市を即座に滅ぼそうとはしなかった。


世界そのものに、

自らを壊させるつもりだった。


諸国が再び戦へと歩み始める中で、

総督は、真に恐るべき事実を悟る。


今回は――

神々同士の戦争ではない。


一柱の神が、

人類そのものを武器として振るう戦争だ。


もし黄金都市が崩れれば、

その先を止める均衡は、もはや存在しない。


過去が、目覚めた。


そしてそれは――

静かに、

あまりにも静かに、始まった。

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