第五章 ― 残された世界
沈黙は、永遠ではなかった。
ただ、世界が再び「存在すること」を学び直すには、
十分な長さだった。
神々の直接的な介入を失ったことで、現実は安定し始めた――
だが、それは均一ではない。
空は再び一つの形を取り戻し、
海は沸騰をやめ、
大地は、決して消えぬ傷跡の上で静かに落ち着いた。
人類は、生き延びた。
以前のままではない。
あるべき姿でもない。
信仰が最も濃く注がれていた地域は、今もなお刻印されていた。
そこでは自然が異常な振る舞いを見せ、
季節は一定の順序に従わず、
山々は奇妙な共鳴を発し、
理由を説明できぬ感受性を持って生まれる者たちが現れた。
それらは――残滓だった。
封じることも、追放することもできなかった神性の断片。
特定の神に属することなく、
明確な目的も持たずに存在し続ける力。
神殿は残っていた。
だが、神はもはや応えなかった。
祈りは続いた――
習慣として、恐れとして、あるいは希望として。
それでも、空は沈黙したままだった。
そこから、新しいものが生まれた。
――疑念。
神々は人類を見捨てたのだ、と語る者。
罰を受けたのだ、と信じる者。
そして、より不穏な真実に辿り着く者もいた。
神々は――敗北したのだ、と。
可視の世界の外側で、封じられた神々は断片化した状態で存在していた。
眠る者。
意識を保ったまま、行動できぬ者。
分断の過程で、自らの一部を失った者。
封印を破らずして、彼らは戻れない。
そして封印を破ることは、
戦争を繰り返すことを意味していた。
最終の取り決めは維持されていた。
それを支えていたのは信頼ではない。
――完全崩壊への恐怖だった。
世界の深層、
現実に封印が固定された場所では、
神的構造体が今も稼働していた。
それらは見守らない。
――警告する。
世界が再び破綻するまでに、
どれほどの残留する力を許容できるかを、
絶えず均衡し、計測していた。
表面上は静穏に見えても、
神の亡命地からなお観測していた者たちには、
一つの真実が明らかだった。
人間の世界は、
神の廃墟の上に成長している。
もはや神の存在を必要としてはいない。
だが、その影響を完全に忘れたわけでもない。
それこそが、戦争の真の遺産だった。
自由な世界――
しかし、不安定な世界。
人類が知らぬまま前進するにつれ、
散在する争いの残骸の中で、
運命は再編され始めた。
予言としてではない。
神意としてでもない。
ただ、
残されたものすべての必然的帰結として。
世代を重ねるうち、戦争の記憶は変質していった。
消えはしなかった。
歪められたのだ。
人々は真実の断片を、
神話として、欠けた文書として、
矛盾する伝承として保存した。
神々の沈黙をどう解釈するかは、文化ごとに異なった。
試され、価値なしと判断されたのだと語る者。
世界は完全に人類へ委ねられたのだと信じる者。
だが、残留する力が、
いずれの解釈も完全には定着させなかった。
ある地域では、神性の残滓が自発的に反応した。
理由もなく目覚める古代の遺物。
時間や物質の知覚を歪める特定の場所。
本来なら死すべき事象を、生き延びる人間たち。
それは奇跡ではない。
――遅延した応答だった。
そうした残滓に触れた者たちは、
明確な祝福を得たわけではない。
声を聞いたわけでも、命令を受けたわけでもない。
力は不完全に――
不安定に――顕現した。
導きはなかった。
それゆえに、危険だった。
ある者は、それを利用して支配しようとした。
選ばれし者、預言者、救済者を名乗った。
だが結末は常に同じだった。
力に喰われるか、
周囲を歪め、住めぬ地へと変えるか。
また別の者は、起きている変化を隠した。
内なる異常と共存することを学び、
孤立や絶え間ない恐怖という代償を払った。
その間も、深層の封印は機能し続けた。
残滓が活性化するたび、
世界全体の均衡は一瞬だけ揺らぐ。
埋め込まれた神的構造を通じ、
本来到達してはならぬ数値が記録された。
亡命の地から、
なお意識を保つ神々は、その揺らぎを知覚した。
介入はできない。
だが、観測はできた。
そして、彼らが見たものは、
決して安堵をもたらすものではなかった。
上位の意思から切り離された神性の力が、
新たな顕現の形を見出しつつあったのだ。
それは序列に従わない。
いかなる神群も認識しない。
ただ、人間世界の脆さに反応する。
戦争は終わっていた。
だが、その帰結は――進化していた。
封印以来初めて、
神々の間に不穏な思考が芽生えた。
真の危険は、
神々が戻れることではないのではないか。
――力が、彼ら抜きで存在し続けていることではないのか。
世界のどこかで、
一つの残滓が、異常なほど強く反応した。
破壊は起きなかった。
注目も集めなかった。
だが、それは均衡をわずかに超えて歪め、
戦争終結以来一度も使われていなかった警告を起動させた。
一つの封印が、信号を発した。
微弱で、
古く、
紛れもないもの。
世界は、想定されていなかった閾値に到達した。
その瞬間から、過去は単なる歴史ではなくなった。
――潜在する脅威へと、変わった。




