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第四章 ― 総力戦

最初の神が堕ちたあと、

抑制という概念は消え去った。


神の分断は、世界の均衡以上のものを変質させた。

それは――永遠という思想そのものを、砕いた。


神々は理解した。

失うのは影響力だけではない。

存在そのものが、消え得るのだと。


支配を巡る争いとして始まったものは、

やがて生存を賭けた闘争へと変わった。


信頼なき同盟が結ばれた。

互いを認めたことのない神群が、必要に迫られ、

戦略を共有し、領域を分け合い、信徒すら融通した。


一方で、いかなる結束も拒み、

絶対的な力のみで意思を押し通そうとする者たちもいた。


空は、もはや一つではなくなった。


戦線へと、分かたれた。


ある領域では、複数の神が同時に支配し、

相反する法則が重なり合った。

また別の地では、神の気配そのものが消え、

守護も、意味も失われた広大な空白が残された。


人類は、その狭間に取り残された。


相容れぬ神の約束に駆動され、

人の戦争は増殖した。

聖都は同じ時代のうちに興り、そして滅びた。


信仰は、もはや避難所ではなかった。


――武器となった。


最強の神々は、真の姿を現した。

崇拝されるためではない。

威圧するために。


その顕現だけで、現実は歪み、

世界には消えぬ傷が刻まれた。


星は、耐え始めた。


爆ぜたわけではない。

崩れ落ちたのでもない。


――疲弊したのだ。


神性と物質の境界は不安定化し、

力の断片が地上へと落下した。

山に、海に、そして人の肉体に宿り、

触れられたものは、もはや元には戻らなかった。


止めようとする神々もいた。

勝利とは、廃墟を統べることに等しいと理解していたからだ。


だが、もはや止まれぬ者もいた。

戦争が彼らを作り変えていた。

争いこそが存在理由となり、

退くことは消滅を意味した。


戦争が極点に達したとき、

世界は抵抗することをやめた。


破壊されたからではない。

あまりにも多くの意思を、

同時に支えきれなくなったからだ。


各地で現実が破綻し始めた。

時間が反復する場所。

物質が形を保てぬ領域。

信仰が、何の応答も生まぬ空白。


神々は、同時にそれを知覚した。


このまま続ければ、

手に入れるべき世界そのものが、消える。


争いが始まって以来初めて、

完全な停止が試みられた。


平和のためではない。

生存のために。


なお理性を保つ神々は、最終の評議を開いた。

それは、いかなる単一の領域でもなく、

あらゆる天の残骸から鍛え上げられた空間だった。


そこに序列はない。


あるのは、結果だけ。


議論は短かった。

立場はすでに明白だった。


世界を封じ、永遠に分割する。

信仰を安定させるため、神群を抹消する。

すべてから退き、人類に世界を委ねる。


どの選択も、全員が受け入れられるものではなかった。


そのとき、最後の決断が浮上した。


それを提案したのは、

最強でも、最古でもない。


――すでに、失いすぎた者たちだった。


神々の直接的な存在を、世界から犠牲にする。


滅ぼすのではない。

消し去るのでもない。


――隔てるのだ。


それは封印を要し、

分断を伴い、

記憶の喪失と、不可逆の弱体化を伴う選択だった。


神々は存続する。

だが、自由に介入することはできない。


世界は傷を負ったままだが、

安定へ至る可能性だけは残される。


全員が同意したわけではない。


拒んだ者たちは、最後に一度、意思を押し通そうとした。

それが引き起こしたのは、

戦争全体で最も壊滅的な衝突だった。


規模ではない。

――代償において。


最終の封印が起動したとき、

空は内側へと崩れた。


落ちたのではない。


閉じたのだ。


神の存在は、世界の表層から追放された。

残されたのは残滓――

力の欠片、意思の残響、消し去れぬ傷跡。


沈黙が戻った。


それは平和ではない。


――疲弊だった。


世界は、生き残った。


だが、もはや同じではない。


そして神々は理解した――遅すぎる理解だった。


この戦争に、勝者はいなかった。


残されたのは、

ただ――名残だけだった。

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