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K線上のカグヤ  作者: unnamed fighter


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第16話 自称型エイリアン

 ジーナばーちゃんにさんざん脅されて弄られた後でやっと朝食だ。

 朝ごはんを食べながら報道番組を眺めていたが、美少女の誘拐事件について何も報道されていなかった。児童施設の職員が警察に通報していないとは考えづらい。まだ公開捜査されていないのか、それとも警察に通報できない理由があるのか、ま、深く考えてもしかたない。


 皿洗いを終えて玄関で靴を履いているオレに「ハル、どこいくの?」とルナが声を掛けてきた。


「ん? さっきばーちゃんに言われた野菜の収穫だよ」


「ルナも手伝う」


「ほんと? 助かるよ。それじゃあ一緒にやろう」

  

 オレが生まれる前まで、ジーナばーちゃんの家はそれなりに大きな農家だったらしい。今は庭にある小さな畑で細々と野菜を栽培しているだけだ。基本的に売り物ではなく自分が食べる分と物々交換用だ。ばーちゃんはそれだけで十分だと言う。こんな不便な場所から引っ越さないのは、じーちゃんとの思い出があるこの地を離れたくないのだと思う。


 もいだトマトを「食べてみる?」と差し出すと、彼女はこくりと頷いてトマトを受け取った。


「ハル、『いただきます』ってなに? 朝ごはんのときにハルとアケミが言ってた」


「え? あー……それはね、命を頂くから『いただきます』って言うんだよ」


 たぶんそんな感じだったと思う……。


「これも命?」と、ルナは両手で持った真っ赤に熟れたトマトを見つめる。


「うん、植物も生きているから命だね」


「じゃあ、今は死んだの?」


「そういうことになるね。でも食べればオレたちの命に変わるんだ」


「命に変わる?」


 意味にピンと来ないようだ、彼女は眉間にシワを寄せた。

 困ったことにそんな仕草も可愛くて仕方ない。やはりオレはこの少女に恋をしているのだ。まだ出会って間もないだとか、彼女のことを何も知らないだとか、そんなことは関係ない。彼女の容姿が良いから惚れたって? ああ、そうさ。だからなんだ、ルッキズム上等、この気持ちは偽物ではない。


「……ルナはどこに住んでたの?」


 おそらくこの質問はアキ姉や警察に何度も聞かれたのだろうけど、改めて聞いてみることにした。


「わからない」


 用意されていた言葉を告げるようにルナは答えた。トマトから離れた黄金色の瞳がオレを捉える。


「本当の名前もまだ思い出せない?」


「……思い出せないじゃなくて、名前はない。だから本当の名前もルナはルナ。ルナの最初の記憶はハルにあった日から始まった、たぶんそう」 


 ルナの瞳が瞬く。


 その言葉は取り留めがなく、どこか詩的であり、現実ではあり得ない内容だったけど、なんとなく腑に落ちてしまった。

 彼女ならあり得るのではないか、と。

 ルナが病院に搬送された日、アキ姉が言っていた『あの子、記憶を思い出せないんじゃなくて元々ないのかもしれない』というセリフが頭をよぎる。


「じゃあ、あの日にルナは生まれたってこと?」


「そうだと思う……、んっ」


 あっさりと肯定した彼女はトマトを咥えてかじりついた。


「でも、そうだとしてもさ、ルナを産んだ親がいるはずなんだよね」


「ん……うんだおや……?」


 頬張ったトマトをムシャムシャと咀嚼してゴクンと呑み込み、彼女は「それはね、ここだよ」とピーマンが実った畑を指差した。


「え? ピーマン畑で生まれたってこと?」 


「うん!」


「……」


 ふーむ、なるほど。桃太郎は桃から生まれ、かぐや姫は竹から生まれ、ルナはピーマンから生まれたのか。確かに欧米では赤ちゃんはキャベツ畑で生まれるという――、ってんなバカな……。


「うそ、冗談です」


「なっ!?」


 ルナが冗談を!? 不意打ち過ぎてビビった……。


「な、なんだ冗談か……、ちょっと本気にしたよ」


「ほんとはね、あそこー」


 そう言って彼女は空を指差す。その指先をたどっていくと、昼間の空に薄っすらと輝く月が浮いていた。


「ルナは……、月から産まれたの?」


「そう」


「マジ?」とオレが首を傾げると、ルナも「マジ?」と首を傾げた。


 遂に本人の口から明かされた彼女の真実、それは自称宇宙人だった――。


 オレはどういうリアクションをすればいいのだろう。鼻で嗤ってやり過ごした羽生先輩の戯言が途端に真実味を帯びてきてしまったではないか。

 しかし、ルナは海の中から泡と一緒に浮かんできたから月から産まれたってのは理屈に合わない。いや……待て、かぐや姫も竹の中から出てきたのだ。竹取物語を軸にして考えれば、産まれた場所は地球上ならキャベツ畑だろうとピーマンだろうと海の中だろうと、どこであっても問題ない。


 なによりルナの不思議な治癒能力に加えて、偉そうにしゃべるトンビと少女を狙う怪しい組織……。ルナがかぐや姫だというトンデモ設定も、あり得ると思ってしまう自分がいる。

 それでも非現実的過ぎるだろがぃ……。


「そうか……あのトンビ、セイなら何か知っているかもしれないな」


 ぐるりと周囲を見渡すとビワの木にトンビがいたので、「なあ、セイ」と声を掛けるも返ってきた返事は「カァー」だった。


「カァーってカラスかよ……。お前が普通のトンビじゃないことは分かっているし、モノノ怪の類だとしても初期設定くらい守れよな」


 なんにせよ、セイには会話する気がないようだ。



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