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K線上のカグヤ  作者: unnamed fighter


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第13話 劇的シナリオ

 緩やかな坂を下った先にある丁字路を右に曲がろうとしたときだ。


『そっちはダメだ。回り込まれる』


 走りながら視線を右に向けると、あのトンビがオレたちと並走するように滑空していた。


「おまえ……」


『ワシに付いてこい。ワシはトンビだがワシについて来い』とトンビの嘴が人のように動く。


「こんなときに親父ギャグなんてどうでもいいよ! お前の言う通りすればあいつらを振り切れるのか!?」


『無論だ、ワシの眼は他のトンビたちの視界を共有できる。空から眺めれば奴らの動きは丸見えだ』


「なあ、トンビ……お前は一体何者なんだ?」


『お前たちの道案内をする、そういう存在だ』


「オレたちの道案内? 捕まらないように家までの案内してくれるのか?」


『お前の家はもうダメだ。奴らの別動隊が向かっている。奴らから身を隠せる場所へ行くのだ』


「マジかよ……。一体なにがどうなっているんだ……」


 別動隊ってなんだよ、児童施設の職員がそこまでするか? たったひとりの少女のために? 実は警察なのか? ならなんで身分を装う必要がある? 警察っていうより、こんなの謎の組織だろ……。


『止まれ、しばらくあの神社に隠れて呼吸を整えろ』


 トンビの言う『あの』がどっちの方角か分からなかったが、少し進んだ脇道の先に古びた神社があった。小さな鳥居に短い参道、小屋のような社、こんな神社があったなんて今まで知らなかった。

 オレは言われたとおり、鳥居をくぐってルナと一緒に社殿の裏に周り腰を落とす。

 

「大丈夫か?」と息を切らせながらルナに言うと、「大丈夫だ」と答えたトンビがオレの頭の上に乗ってきた。


 お前じゃない、お前に聞いたんじゃない。そしてオレの頭に乗るな。 

 息が上がるオレとは対照的にルナはケロリとしている。一見して華奢で病弱そうなのに意外と体力があることに驚いた。

 彼女はオレの頭の上で翼を休めるトンビのクチバシをつつき始める。


 これからどうしたらいい……。トンビの話では家には帰れそうにない。考えるんだ、身を隠せる場所、あいつらに見つからない安全な場所を……。

 安全な場所かどうか分からないけど、身を隠せそうな場所なんてオレが知る限り頭に浮かぶのはあそこしかない。


「よし……オレの祖母の家に行こう。トンビ、奴らに見つからないように案内を頼めるか?」


『うむ』


「お前、名前は?」オレは頭の上にいるトンビに聞いた。


『名前?』


「しゃべれるんだから名前くらいあるんだろ」


 トンビはしばらく首を回して逡巡した後で「……セイメイだ」と答えた。


「生命? そりゃ生き物だから生命には間違いないけどさ。なんつーか、もっと気の利いた名前の方がいいだろ。よし、今日からお前はセイだ、頼んだぞセイ!」


 セイと名付けて声を掛けるとトンビは猛禽類の眼を瞬かせる。


『任せよ。気は熟した。奴らはお前たちを完全に見失っている、動くなら今だ』


「よし」とオレはルナの手を引いて立ち上がり、頭からセイが翼を羽ばたかせて舞い上がった。



 空を飛ぶセイの後を追ってオレたちは走る。驚いたことに街に設置されている防犯カメラは、ことごとくトンビたちによって塞がれていた。セイが彼らを操っているのか、それともセイの仲間なのか分からないが、オレたちを守護するようにトンビたちが進路にやってくる。そして無事に駅にたどり着いたオレたちは改札を抜けた。


「セイ、お前はどうする? 電車には乗れないぞ」


 セイに尋ねると『お前の近くにいるトンビにシンクロする。問題はない』と妙に小賢しい言い回しでトンビが答える。


「シンクロだって? 憑依みたいに乗り移るってことか?」


『そうだ』


「そりゃベンリだな……、っていうかお前は一体何者なんだよ?」


『セイメイだ』


「いや、それはさっき聞いたよ。まあ、いいや、それじゃああいつら、オレたちを追ってきている連中っていったい何者なんだよ?」


『それは――』とセイが言いかけたところでルナが「ハル、どこにいくの?」とオレの人差し指をギュッと掴んで首を傾げた。


「オレのばーちゃんの家だよ」

「そこでハルとルナ、暮らすの?」


 暮らす――、逃げろと言われたから逃げているだけで、それから先のことは何も考えていない。帰れないのなら、おのずとそうなるだろう。


「しばらくはそうなると……思う」


 そう答えたオレが曖昧に微笑みかけたとき、ホームに電車が入ってきた。


 そのまま電車に乗りこんだオレだったけど、本当にこれでいいのかと思う部分がまったくない訳ではない。オレが起こした事件が家族の耳に入るのは時間の問題だ。まったく無関係なばーちゃんを巻き込んでしまうことになる。誘拐犯の片棒を担ぐことになってしまう。

 いつまで身を隠せば奴らは諦めるのか、そもそも諦めるのか、分からないことだらけだけど今は進むしかない。


 たぶん、きっと、おそらく、いや、間違いなく事情を話せば受け入れてくれるはずだ、ばーちゃんなら。問題は両親とアキ姉だ。いったいなんて説明したらいいんだ……。


 頭を抱えるオレの姿を見て何かを察したのか、隣に座るルナが手を握ってくれた。

 

 誰かが描いたシナリオに導かれるように、大人たちから逃げ出したオレたちは電車に乗って街を出る。


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