第10話 懐疑系フレンズ
遂にルナが退院する日を迎えた。
児童施設の職員が彼女を引き取りに来るのは、午後四時頃だとアキ姉から聞いている。
学校からチャリンコをかっ飛ばせばギリギリ間に合う時間だ。
どこの施設に行くのかまだ聞いていないし、施設に会いに行ったときのために、できれば今日来る職員に俺の顔を覚えてもらいたい。
それにしても昨日のアレはなんだったのだろう……。もしかしたら、彼女には人を治癒する不思議な力があるのではないか。オカルト的な話だけどオレはこの目で見ていたんだ、奇跡が起こる瞬間を。それに気になることもある。あの一件の後、気付いたことだがルナの髪の毛先が銀色に変色していたのだ。一センチ程度だけど、亜麻色の髪の毛が変色していた。
「さっきからなにボンヤリしてるの?」
はたと気付くと目の前に綾乃の顔があった。呆けているうちに昼休みに突入していたようだ。
「最近は遅刻しないし、私のご指導ご鞭撻のおかげで心を入れ替えたみたいね。けっこうけっこう」
そんなことを言いながら綾乃はオレの机の上で弁当箱を広げはじめる。
彼女はクラスの特定のグループには所属せず、昼休みになるとふらふら色んなグループを渡り歩いている。こいつのすごいところは誰とでも話せるところと、他人の視線を気にしないところだ。
以前、なんでそんな流浪の民みたいなことをするんだと尋ねたことがある。そのとき綾乃は、「それが一期一会になったとしても後悔しないため」と言っていた。
よく分からないけど、少し羽生先輩と似ている。あの変わり者の先輩も同じようなことを言いそうだから。
綾乃のことを八方美人だと陰口を言うヤツもいるけど、たぶん彼女は本気でクラスの全員と仲良くしたいと思っているんだと思う。
「おい綾乃、そういえばお前、先輩に告げ口しただろ」
「告げ口? 私はただ事実を伝えただけだけど?」
「人はそれを告げ口と言うんだけど……」
「そういえばと言えば、ハルが女の子を海で拾ったとかエリちゃんから聞いたけど一体なんのこと?」
エリちゃんとは羽生先輩のことだ。
彼女に言えば自動的にこっちの彼女にも情報が伝わってしまう。ふたりの仲がクラウドで繋がっていることを失念していた。
別に隠すつもりはないので、俺は羽生先輩に話した事の顛末を綾乃にも話すことにする。
「ふーん、なるほどね。ハルが真面目に学校に来るようになった理由と早く帰る理由に合点がいった。その子に会いに行っているんでしょ、病院に、いやらしい」
「……そ、そうだけど、いやらしくはないだろ」
「コソコソしている時点でいやらしいわよ、ああ、いやらしいぃっ。で、写真とかないの?」
「……」
「あるのね、見せなさいよ」
正直言って写真はあまり見せたくない。なんだか秘密基地がバレたときのような気分になってくる。
「は、や、く!」
しぶるオレを綾乃が急かし、しぶしぶスマホを操作してルナの写真を綾乃に見せた。
それはアキ姉が撮影したルナの画像を転送してもらったものだ。
そこには写真という概念を知らない少女がカメラ目線で小首を傾げる姿が映っていた。
「えっ!? うわっ! うそ、ちょっと待って、めちゃ可愛いんですけど!!」
案の定だ。綾乃が大声で騒ぎはじめる。
「なんだよ、なにが可愛いって?」
そうなると当然寄ってくる輩が出てくる。そいつは今しがた購買から戻って来た渚だった。
「これ見てよ、ハルの彼女だってさ!!」
綾乃が俺からスマホを奪って渚に見せやがった。画面に映るルナを食い入るように見つめる渚の顔が驚愕に染まる。
「はぁ!? え? はぁ!? お前に彼女だと!? どうゆーことだよハル!! ってマジかよ!? 冗談だよな!?」
「落ち着け、彼女じゃないって……。綾乃が勝手に騒いでるだけだ」
「そ、そうか……。ふぅ、そうだよな。ハルに先を越されたかと思ったけど安心したぜ。じゃあこの写真の美少女は誰なんだよ?」
「あー、もう説明すんのがめんどくさいな。海で助けたんだ、今はオレの姉貴が働く病院に入院している」
「最近、速攻で帰宅していたのはその子に会うために病院に通っていた訳じゃねーよな?」
綾乃と同じことを言いやがった。
「まあ、そんな感じだ」
「まあ、いやらしい」と綾乃がお嬢様みたいな口調で言い、「俺にも会わせろ」と渚が菓子パン片手に詰め寄ってきた。
正直に言ってしまえば会わせたくない、けれど会わせない理由もない。それに会わせなければこいつらはずっと五月蝿いはずだ。
「わかったよ。でも退院予定が今日なんだ。だから落ち着いたら紹介するってことで。ぞろぞろ人連れて病院行ったら姉貴に怒られちまうし」
まあ、いいか。ルナのためにも同世代の友達がもっといた方がいいはずだから。
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