同体
徐々に意識が覚醒していく感覚がする。
心地よい眠気を振り払いながら、重たい瞼を持ち上げる。
「皆さん無事に手術は成功したようですね!
ただ、私が沢山いるのは少し怖いですが、、」
目を覚ましたアオイの視界には自身と同じ姿の人物が8人おり全員が白衣を来ていた。
「良かった!
アオイも無事に目覚めたな!
確かに不思議な光景だよな」
ベッドで横たわるアオイの体を起こすのをナリアが手伝いながら話している。
姿は全員同じなので口調や言葉使いで誰が話しているか判断するしかないが、不思議なことにアオイは口を開いていない他の七人がそれぞれ誰なのか分かっていた。
「全員の手術は無事成功した。
もうお前達を拘束する理由も無くなった。
約束通りここから外へ出してやろう」
アオイから一番離れた手術室の入り口に立っていたアスナはタブレットを操作して何かの作業をしながら話てきた。
〈や、やっとここから出れるんだね?〉
レオンが心配そうな表情をしながら問いかけるが、アスナは気にせず話を続ける。
「しかし、忘れてはいけないことが何点かある。
まず、お前達全員は既に死んでおり外にでても元の生活に戻ることは許されない。
死んだ人物が別人になって戻って来たなんてことが起きればパニックとなるだろう。
それに誰もそんなうわごと信じないだろう」
アスナが手術室を出ていくとその後ろを全員が着いていく。
アスナは歩みを止めないまま話し続けており、階段を登って上の階層へと進んでいく。
当然白服の従業員達とすれ違う事になるが、既に連絡がいっているようで捕まえにくることは無いが、同じ姿の人物が9人もいる光景に唖然として立ち止まっていた。
「そして、当然のようにお前達に戸籍などは与えられないため外で職につくこともままならないだろう。
そこで提案だ」
アスナが振り返り、両腕を組みながら言葉を続ける。
「外にお前達のような適応者が集まっている組織がある。 その組織はある目的のもと活動をしており、お前達の事も面倒をみてくれるだろう。
私もその組織の一員で、適応者をその組織に斡旋する役割を担っている」
アスナはポケットからバッジを取り出し左胸につける。
バッジには蝶々のデザインが施されており、青と白の綺麗な装飾であった。
「組織の名はフライ。
組織の目的は隣国からの侵略の阻止だ」
【隣国とはダチュラ国のことかな?】
ライが口にしたダチュラ国とは、ライ達が住んでいるプロテアの隣に位置しており、事あるごとに小競り合いをしている。
「あぁそうだ、知っての通りダチュラ国と我が国は犬猿の中であり、頻繁に工作員などを送って来ており我が国の中枢に入り込んでいる。
例えば、警察のトップである署長がダチュラ国の工作員だ」
アスナが警察のトップが隣国の工作員と口にした瞬間全員が動揺し始めた。
{ちょ、ちょっと待ってよ!
署長がダチュラ国のスパイ?
そんな筈は無いわよ!
そもそも警察になる際に戸籍情報はチェックされるわ!}
アスナの話を聞きアインがすぐさま否定する。
アインは酷く動揺しており、アスナの言葉を信用できていない様子だ。
「そんなものいくらでも偽造できる。
ダチュラ国の技術力は我が国よりとても進んでいるからな。
そういえば一人警察組織に所属していた女がいたな。 お前がアイン・ルドベキアか?
警察組織に所属していたお前であれば違和感に気づいている筈だ。
この国の警察の上層部は無能で固められ市民からの反感を強く買っている。
それは我が国の治安を悪くし市民からの反感を買って少しでも国力を下げさせるというダチュラ国の企みがある」
アインはアスナの話を聞き何か思い当たる事があるのか、それ以上アスナにくいかかる事は無かった。
「そこでフライから警察組織に一人潜り込ませており、現在副署長にまで地位を上り詰めている。
現状のフライの目的は副署長を署長に押し上げ、ダチュラ国の工作員である現在の署長を失脚させることが目的だ。
当然ダチュラ国の工作員からの邪魔が入る上に、戦闘になることもあるだろう。
死傷者も頻繁に出る。」
全員が黙って話を聞いている中で、アスナは無表情で話を続ける。
「本来は選択肢などなく組織に送る手筈なのだが、私は約束は守る。
お前達が外で自由に暮らしたいというのであれば、その要望を受け入れよう。
偽造した戸籍と十分な金も与えよう。
それぞれのカードに連携されている口座に既にお金は振り込んである。」
アスナは全員に黒いカードを渡すと話を続ける。
「フライに入って我が国の為にその身を捧げるか、外の世界で平穏に暮らすか選べ」
アスナが皆に問いかけると全員が顔を見合わせて沈黙する中、一人即答する人物がいた。
[僕はフライという組織に入ろうと思う。
ここまで足を突っ込んでしまったんだ。
普通の生活にはもう戻れない。
それに、ダチュラ国はフライを疎ましく思っているんだろう?
実験体であった僕たちを野放しにしてくれるとも思えない]
開口一番に話したのはパスであった。
{あたしも入るわ。
警察のトップがが隣国の工作員なんてとても許せる事じゃない!
あたしも戦うわ!!}
パスに続いてアインも組織の参加を表明する。
【ワシも組織に入れてもらおう。
80年生きたこのプロテアを守りたいからのぉ】
〈じ、自分も入りたい!
ドープさんに生かされたこの命、ドープさんに胸を張れるように生きたいんだ!〉
続く、ライとレオンも組織に入る決意を決めた。
『ノースも
《ダメだノース》
これまで黙って話を聞いていたノースも参加を表明しようとしたら隣に立っていたジャックに止められてしまった。
『何で?
ノースも皆んなの役に立ちたい!!』
ノースは語気を強めてジャックに問いかけた。
《ノースよく聞くんだ。
組織に入るのはとても危険な事なんだ。
君はまだ子供だ。
外の世界で色々と学んで、心を養っていく必要があるんだ。
俺と一緒に平和に暮らそう、、》
ジャックは悲しげな表情で優しく諭すようにノースを説得するが、ノースはジャックの提案を首を横に振って拒否する。
『ノースは皆んなと一緒に行くよ!
お話は難しかったけど、何となく理解できたよ。
危険だってことは分かってるし、遊びじゃないってことも分かってるの。
だけど、もうノースは誰かとお別れはしたく無いんだよ、、』
ここまで涙を流すような事の無かったノースが泣き顔でジャックに訴えかける。
《ノース、、、》
ノースの強い思いを聞いてジャックは言葉を失ってしまう。
「ジャック、巻き込みたくないっていう気持ちは分かる。 俺も娘がいたからな。 だけど、子供っていうのは俺たちが思っているよりずっと物事をよく考えているし、しっかりしているよ」
そばにいたナリアがジャックの肩に手を置きながら話に入ってくる。
《・・・分かったよノース、それじゃぁ皆んなと一緒に行こう。 確かにノースの力が無ければここまで来れなかったんだ。 またノースの力が必要になる筈だ!》
ジャックがノースの頭を撫でながらノースの組織入りを認めると、ノースはパァッと笑顔になり涙を拭きながらジャックを抱きしめる。
{あたし達もいるんだからそんなに心配しなくても平気よ!}
横にいるアインの言葉を聞いてジャックは頷く。
「もちろん俺もフライに入らせてもらう!
そんな話を聞かされたら、外で平穏になんて暮らせないぜ!」
続いてナリアも参加を表明すると、残りはアオイ一人となる。
「皆さんと同意です。
私達でこの国を守りましょう」
アオイの言葉に全員が頷くとアスナは満足そうに振り返り歩き始めた。




