被験者
「では、始めるぞ」
白髪のオールバックをした老人が助手の二人に合図を送る。
「「はい、よろしくお願いします」」
二人の助手は同時に返事をし、三人の前で横になっている女性の死体を次々と鎖や手錠で固定していく。
その死体には既に注射痕が腕にあり、近い時間のうちに注射を刺されているのが分かる。
「ご苦労」
老人は一つの注射器を手に取ると迷いなく死体の体に刺して中身を注入していく。
「さぁ、適応するかな」
老人は期待の眼差しを死体に向けるが、死体には特に変化は見受けられなかった。
その後も5分無言の時間が過ぎていくが女性の死体に変化は見当たらない。
「不適応か、、
一時間変化がなかった場合、火葬場に送ってくれ。
私はカルテを記載後別の実験室に向かう」
老人は手を覆っていたゴム手袋を取ると入り口にかけてあったタブレットを取って部屋から退出していく。
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一時間が経過し、助手達は死体につけていた鎖や手錠を外していくと横にさせていた女性を担架に乗せて部屋を出る。
助手達が出ていく部屋の扉の上部にはプレートで"I"と書かれていた。
「こんな若いのに可哀想にな」
助手達は長い廊下を担架を押しながら進みながら雑談を始める。
死体は大学生くらいの年齢で、髪は短く中性的な顔立ちをしているため男性に間違える人もいるかもしれない。
「まぁ適応者なんてかなり低確率なんだ。
割り切るしかないさ」
二人が少し話す間に廊下の一番奥まで辿り着く。
奥の壁には四角い一般的なエアコンと同じ大きさの扉が付いている。
助手はその扉を開けると死体を頭から入れていく。
死体は中に入っていくと下に向かって落ちてゆき、すぐに鈍い落下音が微かに響いてくる。
「よし、理事長に報告しに行くぞ」
二人は落ちていった死体のことにはもう意識は向いておらず、すぐに次の作業に向かっていった。
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落ちて行った女性の死体は積み重なった死体の上に落ち、それがクッションとなることで特に損傷を受け無かった。
トクン
落ちた死体は積み重なる死体の山の一部にこのまま同化していくかと思われたが、何故か死体の心臓が小さな鼓動を今始めた。
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「起きてください」
真っ白な世界の中に七人の人物達が円を描くような配置で地面にうつ伏せで倒れている。
声の主はこの七人の真ん中に存在する宙を浮かぶ水晶玉から発されていた。
水晶からの呼び声によって七人の人物達はそれぞれ立ち上がる。
"あん?
なんだここは!!
天国か?"
七人の中で一番体格が良い男性が真っ先に声をあげる。
『天国?
おかしの山と空を飛ぶケーキはないの、?』
その男性の言葉を聞き男性の隣にいる、小学生くらいの年齢の少女が悲しそうに呟く。
「すみません、、
ここにはお菓子やケーキは存在しないのです、、」
水晶は申し訳なさそうな返事をすると、一人の腰の曲がった老人が立ち上がる。
【ではここは天国ではないのかのぉ?】
老人は朗らかな表情で水晶に向かって尋ねる。
「そうですね。
ここは天国ではないです」
水晶が老人の問いに答えると今度は青色のアフロが特徴の青年が話し出す。
《じゃぁ、ここは何なんだいー?》
青年は陽気な声と共に笑顔で疑問を口に出す。
「ここは意識世界。
今あなた達は一つの体に七人全員の意識が混在している状態なのです」
〈ひっ、一つの体に七人の意識だって!?
意味が分からない!
自分はあの時間違いなく死んだんだ。
何で死んだ自分の意識が別の体に入ったって言うんだ!?〉
水晶の回答を受けて長身で長髪の男が頭を抱えながら早口で喋り出す。
{普通は一つの体に一つの意識よね?
しかも死んでしまった私たちの意識が何でまだ存在するのかも不思議よ〉
次に話し出したのは金髪の女性で右手を顎に当てて現状を整理しながら話しているようだ。
[待ってくれ、ここにいる全員死ぬ直前の記憶が存在しているのかい?]
そして、この場にいる最後の人物が発言をする。
茶髪の髪は綺麗に整えられており、かけられているメガネは知的な雰囲気を醸し出している。
そして男の問いに対して全員が黙って頷くと男は少し驚いた表情を浮かべ、すぐにもう一度話し出す。
「そうか、、何故僕の死ぬ前の記憶が思い出せないんだ、、?
いや、すまなかった。
僕一人の問題で議論を止めるべきではないな。
説明を続けて頂きたい]
男は冷静さを取り戻し、水晶に向かって話を催促をする。
「はい、皆さんは全員一度死んでしまったことは事実です。
しかし、皆さんにはある一人の女性の体に入り成し遂げてもらう使命ができたのです。
そのためにあなた達は転生をしたと考えてください」
"転生? 使命?
転生は100歩譲ってもいいとして、何で俺らが一つの体に入んなきゃ何ねーんだよ!"
水晶の話を聞き真っ先に体格の良い男性が怒り気味に声をあげる。
男は逆立った黒髪に赤色のメッシュが入っており、その怒った表情は気の弱い人が正面に立っていれば恐怖してしまうだろう。
現に長身の男はその声を聞くだけで肩をすくめてしまっている。
「詳しい理由を話している時間は、申し訳ないのですが残されていないのです。
もうすぐ私はこの場からいなくなってしまいます」
確かに水晶は先ほどから光を発していたが徐々にその光は弱まっている。
「最後に伝えておきます。
この体はあなた達7人の意思を含んでおりますが、この体を動かすことができるのは一人だけです。
代表者はこの水晶に触れてください。
皆さんどうか、、
よろしくお願いします」
水晶は最後に言葉を言い残すと発していた光は消えて、代わりに水晶の中が白く濁り始める。
{ちょっと!
まだ聞きたい事が色々とあるのよ!?}
金髪の女性は焦ったように水晶に話しかけるが、やはり返事は無い。
[なるほどな。
現状を納得はできないが、理解はした。
とりあえずこの水晶に触れればこの体を動かせると言う事か?]
メガネの男は話しながら水晶に近づいていくと迷う事なくその手を触れる。
"おい!
何勝手に触ってんだよ!!"
強面の男が止めに入ろうとするが、すでにメガネの男は水晶に触れておりその体は水晶に吸い込まれてしまった。
『消え、、ちゃっ、た?』
少女はその様子を見て目を見開きながら呟くが、この場にいる全員が同じ感情になっていた。
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