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第七話:チーム鴉

鴉の部隊は三人の長から成り立つ。

書記長:上月紗奈うえづきさな

共議長:臥雲文隆がうんふみたか

内偵長:天野空也あまのくうや


一級の上、『特別一級』の位を持つ三人が同じ場所に招集された事は過去の例から鑑みるに話題は一つだけ。


さらにその要素の後ろ盾となる場所は参謀長官室。

それをここに集まる三人は理解しており、普段とは違うスーツ姿で待機する。


つまり――、


「つまりですね。センパイ方を差し置いて私が昇進する発表会なんですよ」

「ブスさあ。身の程を知れば?」

「陰キャセンパイは降格したからって、僻むのやめてくださいよ。だから陰キャなんですよ」


あ、そうだ! と紗奈は思い出す。


「昔の上司だからって、私が昇進したらちゃんと敬語使ってくださいね」

「ブス」

「いいですよいいですよー。あと数分だけは上官侮辱罪を水に流してあげますね」


元管理官補佐から降格し内偵長となった天野空也は挫折知らずの上月紗奈とは犬猿の仲である。


学歴社会は幼稚園から始まるのは社会に浸透している。

幼稚園受験に受かったエリート。その上位の子達を集めたクラス。

そのクラスでもさらに上位者を集め、上位の上位の上位の……


それを繰り返し、頂きを登り続けた一握りのエリートであっても未だに挫折を知らない者は極少数。


その一人が上月紗奈である。


「ねえブス。やったら? 仕事」

「あ、そうだ。陰キャセンパイに明日仕事振ってあげますね」

「部下になるお前が?」

「おもしろーい。初めて陰キャセンパイの顔見た時にも面白い顔だなーって思ってました」

「……」

この二人が仲が悪いのはいつも通り。


それはいいとして、本来『共議長』の名の通り宥めたり仕切ったり場を回すはずの臥雲文隆が一言も喋らずにいることに気づいた。

「体調不良? 臥雲がうん

「臥雲センパーイ。ちゃんと休まないとダメですよ。あは、明日から上司の私が臥雲センパイの仕事軽くしてあげますね」

(ん?)

天野が見つけたのは黄色い袋が臥雲の足元に置かれていた。


何かの手土産か……そういう露骨に媚びる貢ぎものを参謀長官は好まない。

仮に昇進の場としても……いや、仮に天野が昇進した時に、確かに簡素でもお祝いの品があった方が良いか。

こういう気の利き方は流石最年長だなあと天野は思ったが、臥雲の様子はおかしかった。

室内20度のやや寒い気温。それなのに彼の額にうっすら汗も滲んでいる。


「……ッ」

臥雲は天井の染みを数えていた。

それもそのはず、先に情報を知った臥雲はこの後起こる一動作、一アクションを絶対に間違えてはいけないと何度も何度も頭の中でシミュレーションを繰り返す。

本番では一つの動作。一つのミスが許されない。

今あるカロリーを大切にするために、心を無にして節約モードに入っているのだ。



コンコン、とドアがノックされると、三人が全員立ち上がる。

「定刻だ。参謀長官駒ヶ根玲司、入る」

いつものおちゃらけの駒ヶ根玲司ではない。


今日、この場は正式に参謀長官としての肩書を帯びての対面になるのだ。

玲司は腰掛けると、三人の表情を眺める。

そこから「まずはお疲れ」と切り出し、軽く仕事の進捗を伺っていく。

内偵長『天野空也』、共議長『臥雲文隆』と続き最後に書記長『上月紗奈』からの簡単な報告を受けた後、三人の視線が参謀長官に向く。


「……」

玲司は意図的に"溜め"を作る。

重要な話をするぞと、間を作るのが上手い。



「この度、我ら鴉は特別一級任務を受諾した」

その発言に目を丸くしたのは内偵長の天野空也ただ一人。

来たか……と覚悟を決めて無理やり笑みを作ったのが共議長の臥雲文隆。

「それに伴い、この度空席だった『参謀長官補佐』の役職に"二名"抜擢ばってきする」

(来ましたーーーーーー!)


事実上のNO2。

参謀長官の上の役職は管理者、副総統、総統とあるがそれらは40歳以上という年齢制限があるため、キャリア組の頂点こそが参謀長官。

その補佐、即ちNO2を二名も……、

(ん、二名……?)


紗奈は嫌な予感がした。

もし隣の陰キャと一緒に昇進なんてなれば、喜びは半減する。


「入れ」

玲司が短く命ずると、ドアにノックの音。

キレイな髪を靡かせながら、まだスーツ姿が似合わない小柄な女の子が玲司の隣に立った。


「文化・芸術部門! つ、通称『孔雀』から入庁しました……茅ヶ崎ノキアです! えと…よ、よ、よろしくお願いします……!」

緊張が伺える様子で深々と頭を下げると、玲司は満足そうに微笑んだ。


「彼女は飛び級に次ぐ飛び級の天才だ。茅ヶ崎はまだ若く、人間力は未熟な一面もあるかもしれないが、皆の力で支えてやってほしい」

「はあ……?」

と、天野が返事をするもののよくわかっていない。それはおさである三人とも同じだった。


孔雀。そこは鴉の三次部門の組織になる。

内省・治安省の『鴉』の下にある文部科学省『杜鵑ホトドギス』の下にある文化・芸術部門の孔雀だ。

入庁条件として『特別二級』である鴉に対し、最高位で『三級』の孔雀の人物が何をしにここに出向いたのか。


言ってしまえば“下のランクの天才”だ。

格下の部門から来た子が、今回の案件用に抜擢された――それだけだ。


玲司は説明を続ける。

「従来、補佐は内部からの選出になるが例外的案件のため外部人材からの抜擢になった」

この時点で、それがどういう意味か理解できた者は一人もいなかった。

「茅ヶ崎君は君達の上司になる」

は……? と呟いたのは誰の声だろうか。

「ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

「……」

何が起こっているのか。

三人は誰一人として目の前の光景を理解できず、ただ小さな少女を眺めた。


「そして、もう一人の参謀長官補佐だが――」

「――ッ!」

そうだ、補佐は二人だと初めに説明があった。



実績で言えば『共議長』だが、新しい案件では『内偵長』かもしれない。

しかし共に特別一級の説明を受けたとなれば、これはもう『書記長』で当確なはずだ。


(そうですかそうですか。彼女が参謀長官補佐というのは、あくまでこの案件の話であり、だから二名だと。勇者様接待のポジションの子ですね。センパイが求める本当の枠は私で、だから二名だと言うことですね!)

誰もが次の言葉を待つ。

補佐に任命するのは、選ばれるのは――!


玲司の口に注目する。

発する口があいうえおのどの母音を発するのかというレベルで凝視をすると、口が縦に開く天野の「あ」を――

(――ッ!)

そのコンマ1秒にも満たない天野の興奮と、


「入れ」

ガチャリと、ドアが開くと誰もが思考を奪われその人物を眺めた。


――その姿を一目見ただけで、天野空也は壊れた。


「アイドルジョッキーから入庁した星乃芽衣だ」

「うわあああああああああああああああ!!!」

陰キャでなくとも奇声を上げることなんて滅多にないだろうに、空也はただただ現実を拒絶した。

そんなリアクションをされた星乃芽衣は腕を組みながらうんうんと頷く。


「天野ぉ~。そんなに喜ぶなって。あ、そういやお前私の握手会来なかったな」

「い、いやいやや、その、し、仕事! 仕事で!」

がっしりとフレンドリーに肩を組まれる。


「あ? お前が仕事が遅い話か。いいぜ。上官として後でいっぱい聞いてやるよ」

「ひッ――!」

絶望の表情を浮かべる横で、満面の笑みで迎え入れたのは臥雲文隆。

ここで彼の中のスイッチを全部入れる!!!


「星乃さん! お待ちしておりましたー! うわー、マジか。本当にまた星乃さんと働けるなんて夢みたいだ! あ、コレお土産のバームクーヘンです。星乃さんの好きなチョコレート味です」

「おー、お喋り野郎! お前は相変わらず可愛いなあ。後でシバいてやるよ」

「あはははは! 星乃さんこそ相変わらず豪快ですね! お元気そうでよかったです! あ、そういえば星乃さんってめっちゃ有名なアイドルじゃないですか。鴉なんかと両立ってできるんですか?」

「ハッハッハ! 可愛い事言うよな本当、お前やっぱ気が利くしモテるだろ。後でシバいてやるよ」

「いやー、星乃さん。勘弁してくださいよー。モテるとか、超人気アイドルなんかと比べたら――」

「――俺の握手会来なかったてめえら一人ずつシバくって言ってんだが?」

「……」


空気が、凍る。


(話を脱線させようとする臥雲も上手いが、絶対相手を殺すマンのメイメイは手強いなあ)


アイドルはタバコを取り出すと口に咥えた。

「え、あ、あの。星乃……センパイ? ここ禁煙で……」

「あっそ」

構わず火を付ける。

なんなんだこの人と思ったが、それは別の意味ですぐに直面する。


星乃の半径50cmの空間だけが切り取られ、そこだけが野外へと隔離されていた。


(空間魔法……まさか、魔導筆? いつ……え、なんですかこのオバサン。こんな高度な魔導筆を……)

(オバサンとはいい度胸だなクソガキ)

(――えッ!?)


特級超能力テレパシー。脳内会話など、超が付く一部の人間のみが扱える特異能力。

さらに心を読むシンパシーともなれば、それを会得する者は片手で数えるのみだ。


「イラつかせてくれるが、その歳でシンパシー使えるってなりゃ能力はそれなりに使えるらしいな。将来有望枠か。逆にそんな期待の新人と肩並べてるクソ野郎共。生きてて恥ずかしくねえのか?」

「…………ッ」

ガタガタと空也は震え続ける。

全てを諦めた文隆は天井の染みを数え始めた。


パンッと手を叩く参謀長官。

「初めましてもお久しぶりも。ま、このチーム六名で仲良くやってくぞ」

「はい!」

唯一元気よく挨拶したのは、蚊帳の外だった茅ヶ崎ノキア。

「任務名の公表は、秘匿保持を担保できる十名以下に限り、国王の許可を得た。残りの四名は作戦を進めながら考える」

「……」

ふー、と芽衣は煙を吐く。やはり国王。国単位の案件。それもよりによって特別一級。

そうなると戦争か諜報か資源奪取かと――何を言われてもろくでもない案件だ。

動揺を見せないように予め細目を作っておくと、


「チーム鴉――これより異世界勇者を接待する!」

ご拝読ありがとうございました!

応援コメントが多ければ続編を。少なければ次回作を作成していきます

続編を書く場合、同タイトルでアップし直す予定ですので是非作者ブックマークをよろしくお願いします。

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