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第四話:八咫があっての鴉

静かに引き戸が閉じる音がすると座敷にわずかな緊張が漂う。

部屋の障子越しに漂う灯りが二人の影を滲ませている。


「何故鴉などに引き継ぎが必要なんでしょうか?」

主宰官に食い下がるのは夜兎忍音やとしのね。八咫の宮司長の役職を持つ事実上のNO2である。


「『鴉』といえば叩き上げの組織だ。弱肉強食、絶対服従――良い意味での実力主義。対照的に、八咫は血筋と伝統を重んじる。


保守を象徴するような和の空間。床の間には桃の花が一輪淡く咲き、掛け軸には水墨で描かれた山水画。

そんな贅沢な空間で部下から詰め寄られるとなれば、主宰官の神城としてはたまったもんじゃない。



しかし一方で部下の言い分はわかる。

八咫の手柄をそのまま半分鴉に分け与えるなど何処に道理があると言うのだ?

「鴉は鴉らしく死肉を漁る下賤な鳥であるべきですわ」

八咫烏。八咫があっての烏。もとい鴉だ。

言い分はわかる。しかし内省を司るのはあくまでも別省庁だと言うのだから仕方がない。

「鴉なんて必要ありません。私の手配で行けますわ」

「……」


夜兎の提案。

一見すると若さの跳ね返りに思えるが正直宮司長の中でその提案は揺れていた。

手柄は欲しい。省益を考えれば特別一級はあまりにも美味しい。

五大省庁とは名ばかり。"神事爽秋省"は他の四つの省よりも権限は少なく『王のお気に入りの占い屋』と揶揄されているのも知っている。


特別一級。


この成果を受諾すれば功績としては大きい事この上ない。

しかし失敗もある。もし失敗したとなれば……それを鴉に被せたい。

「私、夜兎家ならば王への口利きもできますわ。それに、何より――」

簡単な仕事だと言いたいのだろう。

それは過去の事例からも容易い想像が付く。


異世界勇者。

これがよほどのイレギュラーが来ない限り、赤子の手をひねるような容易さ。


ただ、唯一の懸念点。

異世界勇者は"その世界の頭脳に収まる"特性を持つ。


能力は人知を超えたモノ。或いはオーバーテクノロジー。超科学。超魔導。それらが大いに期待できる。

しかし頭脳だけはこの世界の主軸人物に収まる。


一般国民が主体になれば問題ないが、もしもそれが八咫や鴉の狡猾さを主軸にされたのなら、とんでもないイレギュラーな異世界勇者が現れる事になる。

「……」

神城はまだ口を開けない。

それだけにこの仕事は美味しい。手柄が取れる。イレギュラーの可能性は限りなく低い。


但し、ある。

ある一定の確率で、最悪の目が。


そして繰り返しになるが、その最悪な目を考慮したとしても美味しいと思える特別一級任務でもある。


「神城主宰官殿。内省に関しては確かに鴉が入った方が円滑に進みます。しかし、異世界勇者を理解しているのは我々八咫ですわ」

自信に満ちた物言いもわかる。

そう。何を隠そう神城自身その可能性も考慮して伏せていた情報も持っている。


異世界勇者が何を望むのか?

八咫だけはそれを知っている。


そこでようやく神城は口を開いた。

「夜兎。目に見えない色んな手間がある。自分の体験外の作業の軽視は良くないぞ」

前髪を掻き上げながら、ふう、と一般論を吐く。

「奪うなら、鴉が仕事を終えてからだ」

その言葉に夜兎は仮面の下で微笑んだ。

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