第三話:36時間耐久緊急戦略会議ッ!!!2/2
紗奈はシャワーを終えると、ここぞとばかりにバスローブを巻いて上がってきた。
「なんか温泉旅行みたいでいいですね! テンション上がってきました!」
「そうかそうか。パソコンはあっちだ」
「センパーイ。年頃の男女がー。密室でー。こんな色っぽいお洋服ですよー。いやーん! エッチなリクエストとかしたくなっちゃいました?」
「むほほっ! EXCELでリスト作ってね!」
「はい……」
と言うのも味気ないんで、少しぐらい労ってやるか。
紗奈を化粧台に座らせると、ドライヤーとクシで髪をとかす。
「えぇ……ッ」
「たまにはいいだろ」
(あ、すみません。ドライヤー耳元でうるさいんで、こっちで)
(いいけど)
と言っても喋る事はないので、髪にクシを通して行く。
鏡の前でドヤ顔見せたりウインクを作って可愛い顔を見せてアピールを繰り返す。
(うぜえ……)
(またまたー! 可愛いですよー!)
しばらくの間キャキャとはしゃいでいたが、ものの数分で紗奈から表情が消えた。
――そして涙を流した。
(ねえセンパイ――私、こんあに、幸せれ、いいんれひょうか……ッ!)
(あ、やっべ。これ本格的にヤバいヤツだ)
(だって、だって――ベッドで1週間分以上眠って、センパイに女の子にしてもらって、こんなの、こんなのって幸せで――)
女の子してもらってって言い方やめろよ。
(年上の二級部隊のお局から。私使えないって言われて。私が通した企画をただの権威だって言われて、あいつは上に女使ってるって言われてもう悔しくて――)
(はいはいはいはい。いっぱい愚痴っていいぞ)
(ああああああん、センパイ好きぃ……それからね! 琴葉がまた恋愛相談してきてね。私彼氏いないの知ってるのに相談風マウントがもうすっごいウザくて……)
こりゃあ……時間かかるな。
それから二時間たっぷり愚痴らせた後、食事を終えるといつもの紗奈に戻っていた。
いつもの。
それ即ち仕事の始まり。
豪華なカーペットが敷かれているとはいえ、地べた。
地面に座る玲司に合わせ、紗奈も正面に座った。
「八咫は女を集めろってありましたよね。アレはどういう意味ですかね?」
「ドスケベなんじゃねーの?」
「勇者ってそういう……夜の勇者様?」
こいつ『夜の』をつければなんでも行けると思ってるよな。
女についてはある程度の推察ができる。
それよりはこっちだ。
八咫の人間が口にした"巡回イベント"とやらが気になった。
『勇者が欲しがる奴隷の女を買え』
『街で暴れているならず者を取り押さえろ』
『ギルドに行って黒竜退治に行け』
チェックポイントを見るが、幾つか難しいモノが混じっている。
例えばこの奴隷だ。とっくにこの世界ではそんな風習は無くなっている。
「センパイ。奴隷購入ってどうしましょう。いませんよそんなの」
ビッ! と指差す。『お前だろ』と意図が伝わると笑ってくれた。
「アハハハ! もーーー、センパイったら~~~~。アハハハははははははははは――笑えねえよセンパイ」
◇
黒竜退治のため、S~XL個体を集める。
事故が起きないように首輪に即死装置をはめ込む。
となると結構な値段がしそうだと思うが、今回予算は無尽蔵なんで問題ないだろう。
ただ、もしもXL個体を単体で倒す事が出来るとなると軍事利用の価値はかなり期待できる。
その際のデータ観察もしたい。カメラと空間複製魔導も準備すると。それらの人員は……と。
ギルドというのはハローワークでいいだろう。害獣駆除の案件もあるはずだが、有資格者のみなので法改正が必要となると法務部門の梟に……否、制度変更で行けるはずだ。
「なるほど」
各種手続きが多そうだ。
また書類を大量生産する必要があるな。
「あー……そういえば紗奈って可愛いよな」
(センパイ、私こういうの出来るんで……筒抜けと言いますかですね。その……)
可愛い後輩だぜ!
◇
「よし、ここらでいいだろ」
立ち上がる。
三時間作業に没頭していい加減集中力が切れてきた。
「オレは結月に会ってくる」
「ゆずゆずセンパイかー! 懐かしいですねー!」
「ん? ああ……」
「――ッ!?」
――ミス。
致命的なミス。
内省・治安部隊特級クラスの超エリートはその一瞬のリアクションも見逃さない。
「ゆずゆずセンパイと会ってるんですか?」
「……」
瞬きをパチパチしてから、右に左に伺う。何か良い言い訳は落ちてないか。
「お昼はどこに行っていたんですか? まさかアイドルと会ってたりしませんんよね?」
奇遇にも会っていた。
但しアイドルはアイドルでもやべー方のアイドルだった。
「ゆずゆずセンパイとデートしたんですか?」
「……」
さて、時間が押してるんで行かねば。
「おいセンパイ。てめえこっち向け。私が仕事してる間に? センパイは? ん? ランチか? 水族館か? 不純異性行為か? ん? おいセンパイ。なんか言えよセンパイ」
「……」
(おいセンパイてめえ今なに思ってるか聞かせてみろよ。あー、はいはいはい。だから急に優しくなったんですねー! 負い目があるんですかねー。免罪符って言葉知ってるんですかねー! 私髪の毛すっごいキレイになっちゃいましたありがとうですねー!)
(……)
無。石になる。ゼロ。
三極開闢参謀長官ともなれば心理戦もお手の物。
仮に相手が思考盗聴など小狡い真似しようが参謀長官となれば感情をコントロールするのも容易い。
「あ、そういえばリバティ来ました?」
「勝ったよおおおおおおおぉぉぉぉぉ!! ハハハハハ!!! 三連単ぶち抜きよ!!!!」
「へえ……!」
「あ……」
「……」
「……」
ふむ。
(ねえセンパーイ? 厩舎壊れたーって、もしかして競馬場に居たから内省担当で時間取られただけだったりします?)
「上月書記お疲れ様でした。駒ヶ根玲司これより外方行ってきます」
紗奈を振り払うのに30分の時間を要した。




