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恋してしまった、それだけのこと  作者: 雄樹
第六章 【未来15歳/沙織27歳】
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第80話 クリスマスキャロル【未来15歳/沙織27歳】

 クリスマスの朝。

 昨夜から楽しみすぎてドキドキしすぎて、ほとんど寝ることができなかった。でも眠気なんて全くない。むしろワクワクが止まらなくて、布団の中で嬉しくてごろごろしてしまう。

 スマホを開いて、昨夜、沙織さんと交わしたメッセージをもう一回見てみる。


『沙織さん、明日のデート、とっても楽しみです!』

『私も楽しみよ、未来』

『クリスマスデートですもんね!沙織さんとのクリスマス!』

『未来、可愛い』


 繰り返しみながら、頬が溶けてしまいそいうになるのが分かる。胸の奥が熱くなる。枕に顔をうずめて、ちょっとだけ深呼吸をする。


「…よしっ!」


 起きる。

 今日は沙織さんとのクリスマスデート…最高に可愛くならなくっちゃ。沙織さんに惚れ直してもらうんだ。


 火照った顔を冷ますために、洗面所へと向かった。鏡を見る。そこにはいつもより頬を紅く染めていて、目をキラキラさせている私の姿が映っていた。

 えへへ…と思いながら鏡を見ていたら、後ろから私を呼ぶ声がした。


「…未来、浮かれすぎ」

「玲央!?いつから見ていたの!?」

「嬉しそうに部屋を出て、そのまま鏡の前でニヤついている姿、全部」

「に、ニヤついてなんかいないもんっ」

「…その顔でそれを言うのは、さすがに無理があると思うぜ…」


 玲央はあきれ顔を浮かべる。でも、その顔の中に優しさがにじりこんでいるのが分かる。あいかわらずの金髪三連ピアスで見た目だけは怖いんだけど、その中身は実はとても優しいというのは、もう一緒に暮らし始めて半年経過している私にはバレバレだった。


「今日、どこか行くのか?」

「えーっと…その…友達とお買い物、行こうかなって」

「そうか。水瀬先生とデートなのか」

「…」


 バレてる。

 いや、私と沙織さんが付き合っているって、玲央にだけは打ち明けているから当たり前といえば当たり前かもしれないのだけど。


「未来、お前は嘘をつくのが壊滅的に下手くそなんだから、そこはちゃんと自覚しろよな」

「…分かってるよ」

「いや、分かっていない」


 玲央は真剣な表情になって、私を見つめてきた。


「浩平さんと母さんに…気づかれたらどうするんだ」

「…」


 背筋に冷たいものがはしるのが分かる。そうだ…そうだった。沙織さんとのクリスマスデートが楽しみすぎて、浮かれすぎていて、大事なことを忘れることだった。


 私と沙織さんは、年の差が12あって。

 叔母と姪で、女同士。


 いくら私たち2人の間では真剣な交際だったとしても…世間一般の目からしたら、非常識な関係、なんだ。


「玲央は…優しいね」

「優しくなんかないさ」


 玲央は頭の後ろで手を組むと、やれやれ、と言った感じで言葉を続けた。


「お前と水瀬先生との関係を俺にバラしたのは、未来、お前自身なんだからな…俺を勝手に共犯者に巻き込みやがって…」

「その点については、少し反省してる」

「少し、かよ…」


 もしも俺がバラしたらどうするつもりなんだ?と聞いてきたので、玲央がそんなことするわけないもん、と唇を尖らせて返答をかえした。


「母さんと浩平さんを悲しませるなよ。そのためなら、俺はこれからもお前の共犯者になってやるから」

「…うん、ありがとう、玲央」

「そして、その上で」


 ちゃんとお前も幸せになれよ、とだけ言うと、玲央は口の端を少しだけあげて自分の部屋へと戻っていった。

 その背中が少しだけ、いつもより大きなものにみえた。



■■■■■



 リビングに降りると、つむぎがクリスマス用の絵本をみながらソファの上で転がっていた。

 足をぱたぱたさせながら絵本を読んでいるその姿は、たとえようもなく可愛い。

 その足が止まる。

 つむぎが私を見て、嬉しそうに立ち上がり、私にむかってぱたぱたと走ってきた。


「ねーちゃ、おはよー!」

「つむぎ、おはよう♪」

「ねーちゃ、なんかきょう、いつもよりいい匂いのかおしてるー!」

「…いい匂いの顔って、どんな顔なのよ」


 頬に手を当ててみる。気合いれて顔洗ったから、いい匂いするのかな?


「えへへー、ねーちゃきれいー!」


 つむぎは私に飛びついてきた。

 慌てて受け止める。まだ小さいつむぎだけど、さすがに抱き上げるにはもう重すぎるくらいには成長している。

 つむぎのほうこそ、いい匂いがする。

 頬をぺたりと当ててきて、そのすべすべした肌に少しだけ嫉妬する。


「未来、今日は友達と出かけるんだって?」


 奥でコーヒーを飲んでいたお父さんが、新聞から顔をあげて聞いてきた。私は少しだけ、ちくんと胸が痛んだけど、さっきの玲央との会話を思い出して、できるだけ平静に答えた。


「うん。クリスマスだし、みんなで集まって遊ぼうかって」

「そうか、楽しんでこいよ」

「…ありがとう」


 ごめんなさい、お父さん。あなたの娘は悪い子です。いま、嘘をついて、恋人とクリスマスデートに行こうとしているような娘なんです…


 お父さんの後ろに立っていた茜先生が、声をかけてくる。


「未来ちゃん、帰りが遅くなるようなら、その時は一回連絡ちょうだいね。今夜はクリスマスケーキも準備しているし、私も腕を振るって豪華なクリスマス料理作って待っているからね」

「うん…できるだけ遅くならないようにする」


 私はそう答えると、思う。


(みんな、暖かくて、優しくて、私はすごく、恵まれているよね)


 だからこそ、ほんの少し、胸が締め付けられる。


(でも…私はこんないい家族に…嘘、ついてる)

(私が会いに行くのは、友達なんかじゃない)

(沙織さん)

(恋人、なんだよ)


 本当は、ちゃんと伝えた方がいいのかもしれない。

 けれどそんなことをしたら…この暖かさが壊れてしまいそうで…ううん、壊れてしまいそう、じゃない、たぶんバラバラに壊れる。

 あたたかな家族を映していた鏡でも、一度割れてしまうもとに戻らない。


 だから私は。


 笑って、ごまかした。



■■■■■



 部屋に戻って着替えて、コートを選んで、指先にほんのりと色をつけた。

 鏡の前でくるっと回ってみると、胸の奥がふわっとする。


「…どうかな…」


 ちょっとだけ大人っぽくて、それでいて、無理はしていない服。

 沙織さんに「可愛い」って言ってもらえるかな。


 スマホが光った。

 見てみると、沙織さんからのメッセージ。その名前を見るだけで、胸がときめいてしまって仕方がない。


『おはよう、未来。今日のクリスマスデート、楽しみにしているね』


 私も…私も、とっても楽しみ!

 もうこれだけで心が満ちてしまう…


「よし、行くか!」


 私はそう言うと、元気よく部屋を出る。

 待ちきれなくて、小走りで玄関にいくと、靴を履く。

 とんとんとして、扉を開けて、


「行ってきますー!」


 と、家に残るお父さんと、茜先生と、つむぎに声をかける。

 お父さんと茜先生は優しく手をふってくれて、つむぎはぶんぶんと手をふって私を見送ってくれる。


 外に出る。

 12月の風は冷たく頬を刺す。


「未来」


 頭の上から声が聞こえてきた。見上げてみると、二階の窓から玲央が私を見下ろしていた。


「…楽しんでこいよ」


 クールな表情の中に、どこか優しさが滲んでいる。


「うんっ」


 私は笑うと、大きく手を振る。

 玲央はそれをみて、小さく手を振り返す。


 冬の光が少し眩しい。

 頬にあたる風は相変わらず冷たい。


 けど、私の心の中は、ぽかぽかと暖かい。


 私は今から、恋人に、会いに行くのだから。




■■■■■



 街のイルミネーションが眩しく輝いている。

 赤、青、緑、黄色、さまざまな色どりで飾り立てられた街は、いつもの街とはまるで違う別世界の風景のようだった。


 冬の冷たい空気が肺の中にはいるけど、その冷たさは手の暖かさで溶けてなくなってしまう。


 私の左手は、沙織さんの右手と繋がっていた。


「寒くない?」

「沙織さんの手が暖かいから…大丈夫です」


 恋人と過ごすクリスマスが、こんなにも幸せなものだなんて、知らなかった。

 世界が輝いて見える。キラキラしている。

 空気も喜んでくれているような気がする。幸せが粒となって私の周りに漂っている。


「…未来?」


 ぼぅっと浮かれている私を見て、心配そうに沙織さんが私を見つめてくれる。

 その視線を浴びるだけで、私はまた溶けてしまう。


「もう少し近づいても、いいよ」


 沙織さんの絡んだ指が少し強くなる。私は身体を沙織さんに近づける。いい匂いがする。いつもと違う香水の匂い。今日のために、クリスマスの為に、私のために、沙織さんが用意してくれている、特別。


(好き、だぁ…)


 身体の細胞の一個一個に好き、という感情がのっかってくる。

 胸の鼓動が高鳴って、周囲が何も見えなくなる。


(今の私たち、どんな風に見えているのかな)


 教師と生徒?友達同士?恋人同士?

 分かんない。分かるのは、今私が幸せだってことだけだ。


 人ごみの中を歩いているだけで、今日は特別なんだって分かってしまう。

 すれ違う人たちみんなが、幸せそうで。

 みんなで幸せを分け合っているような気がする。


 クリスマス。


 たぶん、一年で一番、みんなが優しくなれる日。


 そんなクリスマスを恋人と一緒に過ごせるなんて、たぶん今の私は世界で一番幸せな女の子なんだろう。


 沙織さんと一緒に街をあるいて、クリスマスを楽しんで。

 雑貨屋を覗いてみたり、ホットココアを半分こして飲んだり。

 

(好き)

(幸せ)


 世界が輝いている。

 そんな風に歩いていて、私はふと、足を止めた。

 ごくん、と唾を飲み込む。

 ここが私の中の、今日の目的地だった。


 何日も前から下見をしていて、何度も何度も店の前を歩いて。

 今日、さりげなく、ここへと沙織さんを誘導して歩いてきたのだった。


「未来?」

「あ、あの、あのあのあのあの」


 口調が変になってしまう。

 落ち着け、私。

 よし、深呼吸一回。はぁー。すぅー。うん。


「沙織さんっ」

「は、はい」

「なんかきれいなみせがありますねちょっとだけよってみませんか」


 ひらがなでしゃべってしまう。


 偶然を装って歩いてたこの店は、ガラス越しにキラキラ光るものが並んでいる。

 アクセサリーショップ。

 視線を向けただけなのに、心臓がぎゅっと縮こまってしまった。


「…沙織さんと…おそろいの…指輪とか…欲しいな、って…」


 言ってから、顔が熱くなる。

 言っちゃった…言っちゃった。

 でも、一度出た言葉はもう元には戻せない。


 おそるおそる、私は沙織さんを見る。

 沙織さんは、目を見開いてお店を覗いていて。

 その顔が、横顔が、綺麗で。

 輝いていて。

 握られる手が、ぎゅっと、強くなって。


「…未来から…言ってもらえるなんて…」

「だめ…ですか?」

「だめなわけ、ない」


 沙織さんの手が震えている。


「…こんなの…反則…だよ」


 沙織さんは私の手を引っ張ってくれる。


「入ろう、未来」

「…はいっ!沙織さんっ!」


 私たちは、恋人同士で、お店へと足を踏み入れた。




■■■■■



 店内は柔らかい照明で照らされていて、静かにきらめく銀色のアクセサリーたちが所狭しと淡く光っていた。

 クリスマス、という響きが最高のディスプレイになるのかもしれない。


(今日は、特別な一日)


 その特別な日に、特別な人と一緒にいる。


 店員さんにすすめられて見せてもらったのは、華奢なシルバーのリングだった。

 細くて、主張しすぎなくて…


「沙織さん…私…これ…好きです」

「うん。私も…好き」


 好き、と言いながら、私を見てくれる。

 その好きは、リングが好き、っていう意味?それとも、私のことが、好きっていう意味?


 ケースから出されたリングは、一層美しく見える。

 サイズを測ってもらって、白いリボンの小さな箱が二つ、私の手に渡った。


 心が溶ける。


「つけていかれますか?」


 店員さんに尋ねられる。

 私は沙織さんを見つめる。沙織さんはにこっと笑って答えてくれた。


「今、お願いします」


 私の胸が、とくんと鳴る。

 胸がくすぐったくなって、落ち着かなくなる。


 震える手で、そっと、リングを手に取る。

 沙織さんの指を見る。

 綺麗で、長くて、すらっとした指。

 爪先も綺麗に整えられていて、ほんのりと薄紅色。


 つけるのは、人差し指。

 人差し指に着けるリングは「インデックスリング」と呼ばれるらしい。

「指針」や「指標」という意味があって、夢や目標に向かって進む後押しをしてくれるとか…


(私と、沙織さんの、夢)


 もう今この瞬間に、すでに夢はかなっている気がする。


 私は沙織さんの指先に触れて、そっと、リングを滑らせた。


 恋人の指に、リングを。


「…沙織さん…すっごく…似合っています…」

「未来に言われると、嬉しい…」


 うっとりと眺めてくれる沙織さんは、いつもより更に、魅力的に見える。


 次は、私の番。

 沙織さんの指先が、そっと私の人差し指に触れた。

 もう、これだけで、心臓が止まりそう。


(もう何も考えられない…)


 ドキドキする。

 胸が痛い。

 そっと、沙織さんが、私にリングをはめてくれる。

 沙織さんの指先が…白くて、綺麗。


「はい、これでお揃い…だね」


 少しはにかみながら、沙織さんがリングをつけた手を私に見せてくれた。

 私も同じように、手を見せる。


 二つのリング。

 沙織さんの人差し指と、私の人差し指。

 銀色に輝くその光は、私たちの新しい絆、だった。



■■■■■



 店を出ると、もうすっかり暗くなっていた。

 12月夕方は、陽が落ちるのも早い。

 飾られた電飾が、さらに美しく街を彩っている。


 沙織さんと握りあっている手。

 その手に、リングの感触を感じる。


(お揃いの指輪)


 えへへ。

 えへへへへへ。


 嬉しい。

 心が盛り上がっていくのが分かる。


 クリスマス、という雰囲気がそうさせるのかもしれない。


 私は、沙織さんを見つめた。

 綺麗な沙織さん。

 輝くイルミネーションを背景にした沙織さんは、本当、女神様に見える。

 こんな綺麗な人が…私の…彼女なんだ。


「沙織さん」

「…なに、未来」

「私…我慢できません」


 見続けるのが恥ずかしくて、顔を伏せる。

 手をぎゅっと握りしめて、リングの感触を感じながら、言う。


「キス、したいです」


 頬が熱くなる。

 真っ赤。

 燃えそう。


 しばらく、沙織さんは沈黙していた。

 クリスマスの喧騒が柔らかく私たちを包み込む。

 こんなに人に囲まれているのに、今は世界に私と沙織さんの2人だけ、という気がしてくる。


「…人の少ないところに、行こう」


 沙織さんはそう呟くと、私の手を引いていく。

 私は抵抗せず、沙織さんについていく。


 手を握ったまま。

 リングとリングがあたる。

 絆がつながっている。


 建物の影に入った。

 周りの喧騒が遠くなり、見上げた空には星空が見えた。

 息遣いだけが白く浮かんでいる。


「…未来…本当に…したいの…?」

「…したいです。クリスマスだから…じゃなくって、沙織さんだから…」


 見上げる。

 目が潤んでいるのが分かる。

 沙織さんだから…というのは、嘘じゃない。でも、クリスマスだからじゃなくって、というのは、嘘かもしれない。


 今日は、特別な日なのだから。

 クリスマスなのだから。

 うん。やっぱり、そうだ。

 私は素直に、自分の心に従った。


「クリスマスに、沙織さんと…恋人のキス、したいです」


 私の言葉を聞いて、沙織さんは小さく息を呑んだ。

 そっと、私の頬に手を触れてくれる。


「…未来」

「…はい、沙織さん」

「実はね、私も…」


 優しく、微笑する。


「今日はね、本当は朝からずっと…未来とキス、したいって思っていたの」


 沙織さんの唇は綺麗なリップが塗られていて。

 沙織さんはいい匂いがして。


 その唇が、触れる。


 甘い。

 気持ちいい。


 唇と唇が、触れあう。

 キス。

 沙織さんとの、キス。


 クリスマスの、恋人同士の、キス。


 沙織さんの唇は柔らかくて、優しくて。

 頭の奥がしびれるほど気持ちよかった。


 そっと、唇が触れるキス。

 


 クリスマス。

 雪が、降ってきた。

 キスしている頬に雪が触れて、溶けて、水となっておちる。


 私は、ほんの少しだけ、勇気を出した。


「…っ」


 触れた唇を、そっと、少しだけ、開いて。

 ちょっとだけ。


 舌を。


「…っ!?」


 沙織さんの中に、少しだけ、私が入る。

 暖かい。

 沙織さんの中。

 初めて入る、恋人の中。


 唇を通して、舌先を通して、私の心まで沙織さんの中に流れ込んでいってしまうような気がした。


「ん」


 あ。

 触れた。

 柔らかい。


 沙織さんの…舌。


 ちょっとだけ。少しだけ。

 舌先と舌先が触れる。


 沙織さんの腕が、私の背中に回った。

 リングの感触が背中から伝わる。

 私も、沙織さんの背中に手を回す。

 私のリングの感触も、沙織さんに伝わっているかな。


 キスの深さはまだ浅くて、でも甘くて、頭の奥からじんわりと溶けていく気がして。


 舌と舌が触れていて。


 そして。

 ゆっくりと離れた時、沙織さんが顔を真っ赤にしているのが分かった。

 まつげがかすかに震えている。

 真っ赤。

 本当に、顔が、真っ赤。


「未来…反則」

「えへへ…」

「こんなキスされたら…私…」


 沙織さんの息が白い。

 沙織さんの口。

 さっきまで、あの中に、少しだけ、私が。


「もう一回、したくなっちゃう…」

「…いいですよ」

「…本当…ずるい…」


 沙織さんは本当に、誰よりも幸せそうで。

 たぶん私も、同じ顔をしている。


 


■■■■■



 もう帰らなきゃいけない。

 2人で街を歩き出す。

 指は絡んだまま。

 リングは柔らかく銀色に光っていて、きらきらとした光が揺れている。


 この冬の夜のどこよりも暖かいのは、隣に沙織さんがいてくれるから。

 沙織さんも、私で暖かくなってもらえていたら、嬉しい。


 どんなにつらいことがあっても、どんなに悲しいことがあったとしても、メリークリスマスっていえば、幸せになれるんだと、聞いたことがある気がする。


 本当かな?

 本当かも。


 世界が一番、優しくなる日。

 世界で一番、優しい言葉。


 いまの私は世界で一番幸せで。


 メリークリスマス

 メリークリスマス


 この幸せがずっと、続きますように。

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