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恋してしまった、それだけのこと  作者: 雄樹
第五章 【未来14歳/沙織26歳】
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第47話 お昼会議。【未来14歳/沙織26歳】

 春の昼休み。

 校庭の桜はもう散りかけていて、風が吹くたびに開いた窓から花びらが入ってきて、机の上に落ちてきている。


 私はお弁当の蓋をあけながら、そっとため息をついた。


「どうしたの、未来ちゃん?なにか考え事?」


 自分もお弁当を食べながら、美月が口に卵焼きをふくんだままで尋ねてくる。私の席は教室の後ろの方で、そこで机を4つ合わせて、私、美月、凛、葵の4人でお弁当を食べていた。

 ちなみに颯真は学食で買ったパンを口にくわえたまま、もうグラウンドに出て友人たちとサッカーをしている。

 部活でもサッカーをしているのに昼休みにもサッカーをするなんて、本当に身体を動かすのが好きなんだな、と思う。


「考え事、ってほどじゃないんだけど…」


 そう言いながら、ウィンナーを箸でつつく。このお弁当は私が朝起きてつくったもので、お父さんにも同じようなものを作って渡している。まるでお母さんになったみたいだった。


「なにか心配事でもあるの?」


 隣に座っていた凛が、心配そうに見てくる。

 凛と葵のお弁当は見た目も中身もまったく同じなのに、凛がまだほとんど手をつけてないのに葵の方はすでに半分以上食べ終わっていた。


「ううん、有難うね、凛」


 大人しそうにみえて、実際大部分は大人しいのだけど、それでも凛は激情家で、清楚な見た目と裏腹に内面はたいてい熱くどろどろ燃え滾っている。私を心配してくれているのは本当だと思うけど、逆に私以外に対してはわりとクールというか、ほとんど冷淡な態度なのは直した方がいいのにな、といらない心配をしてしまう。


「本当?そうは見えないけど」

「なんでも私に相談してね」


 凛と美月がほぼ同時に言ってくる。

 そして、お互いの目をみて、お互い少し膨れたかと思うと、また私に向かって心配そうな目を向けてくる。

 凛は黒髪ロングで清楚な見た目。

 美月は昔から変わらないツインテールで、大人しそうな見た目。

 2人同時に心配してくれて、2人とも目が「私の方が心配しているんだから」と訴えかけてきているので、まるで私は両腕を引っ張られて大岡裁きをされているかのような気分になる。

 ありがたいことだけど。


 ちなみに葵は興味なさそうにお弁当を食べていた。

 短髪で活発そうで明るくてクラスの人気者のこの葵は、その実、ふたごの凛のことしか気にしてはいないことを私たちは知っている。私たちのグループの中で一番の問題児は、まちがいなくこの葵だった。


「ねぇ、美月」


 やっぱり、一人でもやもやしていても仕方がないので、相談することにする。

 私に声をかけられた美月は、一瞬、凛の方をみると少し勝ち誇った顔をした。対する凛は、わかりやすく、ぐぬぬっと悔しそうな顔をする。


「…颯真と、最近、どう?」

「えっ」

「いや、なんていうか、あの」


 クラスで一番人気の男子である颯真は、私の親友である美月の彼氏でもあった。美月と颯真が付き合いはじめたのはもう一年くらい前の話で…その時はいろいろあったものだけど…この場にいる凛と葵がきっかけというか、騒動の原因ではあったのだけど…でもなんだかんだで1年間も付き合っているのだから、いろいろ進展があったのではないか、とも思うのだ。


「えーっと、普通だよ、ふつうっ」

「普通って、具体的にどんな感じ?」

「ぐたいてきに…って」


 顔を真っ赤にして恥ずかしがっている美月。

 そんな美月を見て、凛がにやっと悪そうな表情を浮かべる。


「もうえっちした?」

「そ、そこまではしてないよっ」


 慌てて否定する美月。手をぶんぶんとふって、真っ赤だった顔がさらに真っ赤っかになる。もう赤くないところを探す方が難しいくらいだ。


(…ん?)


 ちょっと引っかかる。美月のさっきの言葉。そこまではしてない…そこまで…そこまで?


「じゃぁ、どこまでしたの?」


 まるで私の疑問を代弁するかのように、凛が横から口をはさんでくる。見るからに嬉しそうだ。普段見せている清楚系のキャラクターとのギャップがすごい…けど、凛の本性はこっちの方なんだと私は知っている。


「どこまでって…」

「ほら、未来が知りたがっているんだから、ちゃんと答えなさい」

「いや、別に私はそこまで…」

「いいから、こんな面白そうな…ごほん、こんな大切なことを共有しないなんて、それでも私たちは親友同士なのかしら?」

「別に凛と親友になったつもりは…」


 困っている美月に、嬉しそうな凛。私はその2人の間で場をとりつくろう。

 葵はといえば、完全に興味を失っていて、お弁当完食した後、暇そうにどこから取り出してきたのか折り紙で鶴をおっていた。本当、凛のこと以外にはまったく興味をしめさないな、この子。


「ではでは、えっちの定義から始めましょうか。何をもって、えっちとするか。そうすればあなたも答えやすくなるでしょう?」


 そう言って箸を美月に指し示す凛。なんてお行儀が悪い。


「えっちの定義って…」

「もうキスした?」

「それ、定義でもなんでもないじゃんっ!」


 目を見開いて凛に向かって抗議する美月。私はその2人のやりとりを見ながら、実は興味はしんしんなので、まるで聞いてないよーな風を装いながらも耳はダンボにしていた。


「拒否権!拒否権を執行します!」

「それはもう、したっていっているみたいなものよ?」

「それも拒否権っ!」


 うつむく美月。勝ち誇って見下ろす凛。

 かくして常任理事国を追い詰めた議長さまは、勝ち誇った顔をして私を見つめてきた。


「…ということらしいわよ、未来」

「えーっと、あの、その、凛…」


 もうちょっと、お手柔らかにね、はは、と力なく笑う。

 そうかー、美月と颯真、もうキスまではしてるのか…

 小学校時代からの親友同士が付き合って、そんな風になっちゃうのって、なんか、すごく変な感じで胸がもやもやする。


「…なに、凛?」


 じっと私を見つめたままの凛を見て、問いかけてみる。

 凛は頬を薄紅色に染めて、


「べつになんでもないわよ」


 と言って、ぷいっと顔をそらした。

 その後ろで、すごい形相で私を睨みつけている葵がいた。今にもかみつかれそうだ。いや、私、別になにもしていないんだけど…していないよね、たぶん。


「あのね、美月」

「…私は貝です」

「えーっと…」

「シャコ貝です。もう何もしゃべりません。私なんて海の底に沈んでいるのがお似合いです」

「あはは」


 どうしよう、これ。

 私は美月に語り掛けるのではなく、天井をむいて、そっと、心情を吐露してみる。


「…付き合うって、どんな感じなのか、知りたかったの」


  耳をぴくっと動かし、けっこう簡単にシャコ貝が開いた。これじゃシャコ貝じゃなくって、雑魚貝だよ…なんて心の中でひどいことを私は思った。反省。


「未来ちゃん…?」

「あ、雑魚貝が動いた」


 あおり立ててくる凛。いや、雑魚貝って、私の心の中読まれていないよね?


「うるさいなぁ、もう」


 文句を言いながら顔をあげる美月。私を心配してくれているのがすごく伝わってくる。昔から変わらない、この美月の優しさが好き。


「あのね、私ね、昔からずっと好きな人がいるんだけど…」


 知ってるよ、という表情の美月。

 少し悲しそうな顔をする凛。


「まだ付き合ってはいないんだけど…付き合いたいの。だから、付き合うってどんなものなのかな、って知りたくて」


 私たちの中で付き合っている人がいるのは美月だけだから、聞いてみたかったの、と、素直に心の中を告白してみた。


「…私と颯真は」


 ゆっくりと、美月が口を開く。

 いろいろ言葉を選んでいるのが伝わってきて、いろいろ深く考えてくれていることも伝わる。このツインテールの私の親友は、本当にいつも私のことを大事にしてくれていて、私にはもったいないくらいのかけがえのない宝物だ。


「最初は…ぎこちなかったよ…ずっとずっと、小学生のころからの幼馴染だもん。幼馴染から恋人になんて、すぐに変われるわけがないよ」


 でも、ちょっとずつ、ちょっとずつ、関係を変えていったの。


「察してほしい、なんて心で思っていても伝わらないから、具体的なことをたくさんしてみたの。例えば、手を握ったりとか、お弁当つくったりとか、デートしたりとか」


 付き合うって、心がつながることだけじゃなくって、その心をつなげるために、行動していくことなんじゃないかな。


「行動、か…」


 美月の言葉を聞いて、私もいろいろ考える。

 行動…行動。

 待っているだけじゃ、何も変わらない。


(そういえば)


 この前だって。

 私が、沙織さんにメッセージを送らなかったら、私の気持ちは沙織さんに伝わらなかったし。沙織さんが公園に来てくれなかったら、あの桜の下にふたりでいることもできなかった。


「私も…もっと、何か、しようかな」

「私、協力する」


 私の言葉に、すかさず答えてくれたのは凛だった。

 この子は、清楚なようで、曲がっているようで、その実、一番まっすぐな子なんだと思う。


「もちろん、私だって!」


 負けじと、美月も宣言してくれる。本当に、ありがたい…


「葵も手伝ってよね」

「凛がそう言うなら」


 葵も即答する。

 一番まっすぐな子が凛なら、一番ブレ無い子はたぶん葵だと思う。


「…みんな」


 有難う。

 私は幸せものだな…こんなによくしてくれるのに、私から返すものが何もないのが申し訳ないくらいだ。


「私ね、未来から、たくさんのものもらっているから」


 また、凛が私の心を覗き見たかのように、私の心に答えてくる。


「だから未来は気にしなくていいんだよ…私も…私たちも、みんな、未来のことが好きだし、未来の役にたちたいの」


 そう言うと、凛はかたわらにいた美月を見つめる。美月もにこっと笑って、「大好きだよ、未来ちゃん」と答えてくれる。嬉しい…嬉しすぎるよ。


「具体的な行動といえば…」


 美月が首をかしげていろいろ考えている。

 そして、私を見て、口を開いた。


「未来ちゃん、未来ちゃんの夢って、小説家になることだよね」

「…うん、一応…そうだけど…」


 夢を直接問われるのは恥ずかしいから、玉虫色の返事でごまかしてみる。

 美月の横で、凛が「あ…そうか」と何か気づいたような表情をしている。

 自分が先に気づけなかったことに悔しそうな顔をしながら、凛は美月を肘でつつく。

 うながされた美月は、私をみて、ゆっくりと、提案してきた。


「未来ちゃん…ラブレター、書かない?」

 

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