第102話 感動しない卒業式【未来16歳/沙織28歳】
3月1日。
卒業式の日。
私は講堂の中で綺麗に並べられた椅子に座って、式が始まるのを待っていた。
私たち在校生は講堂の後ろ側で、卒業される先輩方は講堂の前方に座っている。厳粛な空気の中、私は眼前に座っている先輩方の背中を見ながら、思っていた。
(この卒業式は…絶対に感動的なものにはならない)
式が始まるまでもう少し時間がある。
私は目を閉じて…今朝のことを思い出していた。
今朝、生徒会室に集まって、凛の送辞の練習に付き合っていた時のことを。
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「…私たち在校生も、先輩方が築いた伝統を守り、発展させていくことを誓います。卒業生の皆様の今後のご健康と、さらなるご活躍を心よりお祈り申し上げ、送辞といたします。在校生代表、2年1組、白鷺凛」
凛は文章を最後まで読み終えると、息をひとつはいて、私たちを見つめてきた。
「送辞、こんなものでどうかな?」
「うん、いいと思うよ」
「さすが会長、さすがですー!」
私は思ったとおりの感想を述べて、朝比奈さんは手を叩いて凛を讃えていた。
生徒会室の後ろ側で後方腕組みをしていた葵は、何も言わず、私だけは分かっているというような雰囲気でうんうんと頷いている。
本番前の最後の練習を、生徒会メンバーで揃って生徒会室でおこなっていたのだった。
「それならよかった」
手にしていた文章の紙を二つに折って、凛はそれを大事そうに懐の中にいれた。
さすがに、少し緊張しているのが分かる。
ふぅとため息をついて、私たちを見つめる。
「もう卒業か…早いね…」
感慨深そうにしている凛の髪は、昨日までは腰のあたりまで伸びていたはずなのに、今朝は肩のあたりでばっさりと切られていた。
朝、それを見た時にびっくりして、「凛、いったいどうしたの?」と聞いてみたところ、軽く、「気分転換」とだけ答えられた。
あんなに綺麗だったのに、もったいない…と思わず口に出しそうになったけど、ぐっとこらえた。凛の気分転換が何なのか、それははっきりとは分からないけど、ただ、他の誰かはともかく、私だけはそこを追及してはいけないのではないか、と思ったから。
「寂しくなるね」
自分で言ったその言葉につられて、また寂しくなる。
まだ式も始まっていないというのに今からこんな気持ちになるのだから、実際に式が始まってしまったらどうなってしまうのだろう。
今、この生徒会室にいるのは、私と凛、それに雪原くんと朝比奈さんの4人だけだった。
いつもなら、ここに寝ているはずの神美羅先輩がいて、神美羅先輩をいじっている楼蘭先輩もいるはずだった。
それが、今は4人。先輩はいない。
この光景が一時的なものではなく、これからずっと続くものなのだと考えたら…胸の奥にぽっかりと穴が開いたような気がして、寂しくてたまらなくなる。
そう思い、みんなでしんみりとしていた時。
「やっほー!」
当事者である神美羅先輩が、相変わらず美しい銀髪をたなびかせながら陽気に入ってきた。そして凛を見ると、指さして大声で語り掛ける。
「あー!凛、髪切ってるじゃん!いいねぇ、似合ってるよ!」
先ほどまでのしんみりした空気はどこにいったのか、神美羅先輩は生徒会室の雰囲気を一変させてしまった。
普段通りだなぁ、と思って先輩を見る。いつも通りじゃない箇所が、ひとつあった。
先輩、胸に白い薔薇の花のコサージュをつけている。ただそれだけで、あぁ、この先輩は、本当に今日、卒業されていくのだと感じてしまう。
「凛、送辞の練習していたんだね」
「はい。私が在校生代表ですから」
「凛なら慣れているだろうから、安心だ」
そう言いながら、神美羅先輩は胸のコサージュを指さした。
「ちなみに、答辞は私がする予定なんだよ」
「…でしょうね」
納得しかない。神美羅先輩は…素行は大変問題児であらせられるのだが、学業の成績だけは常に不動の学年トップであり…高校最後の模擬試験では、校内どころか全国でも1位をとるという、まるで冗談みたいな結果を残されていたからだった。
(…そんな人が卒業して大学に進学しないんだから、なぁ)
先生方も真っ青になっていたのを思い出す。望めばどこにだって行ける人なのに、望んでどこにも行かないだなんて、いったいこの人は何を考えておられるのかなぁ。ぼんやりとそんな事を思っていたら、神美羅先輩がつかつかと歩いてきた。
「未来、今日はよろしくね」
「…はい」
ぽんと頭に手をやられ、そして神美羅先輩はそのまま私を通り過ぎて、凛の前に行く。凛を見つめるその紅い瞳はとても優しそうな光をたたえていて…
「凛、今日の式の事なんだけど」
「はい、先輩。何でしょう?」
「みんながあんまり感動しないようにしてくれるかな?」
さらっと、とんでもないことを口にする。
「え…?」
「いやぁ、ねぇ。凛はスピーチとか挨拶とか送辞とかいろいろ慣れているじゃない?その分、うまいし、みんなを感動させるのは簡単だと思うんだよね」
「はぁ…」
「そしたら、式がしんみりするじゃない?私、苦手なんだよねー、あんな雰囲気」
好き勝手なことを言っている。まったく…この人は…最後まで、自由気ままなんだから。
楼蘭先輩と一緒ではなく一人で来たのは、こんなことを言ったらすぐに頭を叩かれて、ずるずると生徒会室から運び出されるだろうから、警戒したのだろう。先輩も少しは成長してきた、というところなのだろうか。
「だから、みんなを感動させて泣かせるんじゃなくって、簡単にシンプルに、スピーディに終わらせてもらいたいんだよ」
「…どうしてそんなに、泣かせたくないんですか?」
まぁ別に、泣かせようとしているわけじゃないんですけど、といった表情で凛が尋ねた。
神美羅先輩は…本当に嬉しそうに…悪戯っぽく笑った。
「吸血鬼は、流れ水が苦手なんだ」
そして、ウィンクする。
「だって私、吸血鬼だから」
何度も聞いた、神美羅先輩の決め台詞。この台詞を聞くのも今日が最後なのだと思うと…やっぱり、寂しい。
■■■■■
私が物思いにふけっている間に、卒業式は滞りなく進んでいた。
卒業生が入場されて、国家が斉唱される。
卒業生の人数や成績などの学事報告がされた後、卒業証書が授与されていた。うちの高校は人数が多いので、1人1人に手渡されるのではなく、卒業生代表である神美羅先輩が受け取っていた。
(何かされるかな?)
期待2分、不安8分で見ていたけど、神美羅先輩は特に何かするわけでもなく、粛々と、普通に受け取っていたのが少し意外だった。
それから、校長先生の式辞。
もうかなりのお年をめされた校長がおぼつかない足取りで壇上に登り、いつも通り、ごくごく簡単に短く言葉を話された。
普通、校長の話といえば長いものというのが通例なのだろうけど、うちの高校にはそれは当てはまらないのだった。長い話で貧血で倒れる生徒もいないし、とてもいい傾向だとは思う。
そしていよいよ。
在校生の式辞の時がやってきた。
凛は立ち上がり、綺麗な背筋のままで一歩一歩壇上へと歩いていく。
普段通りのその姿。普段と違うのは、今まで腰まで届く美しい黒髪だったのが、今日はショートカットになっているところぐらいだった。
(凛、頑張って)
心の中でエールを送る。
私の気持ちが届いたのか、私の隣を通るときの凛は、少しほほ笑んでくれたような気がした。
凛は壇上に立ち、マイクの前で、その透き通った声を響かせる。
「卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。私たち在校生一同、心よりお祝い申し上げます。」
粛々と、淡々と、一文字ずつ、丁寧に。
凛は言葉を選びながら、心を込めて、話をしていく。
(神美羅先輩は感動させるな、なんて言ったけど)
(…無理、だよね)
凛の言葉に淀みはない。流れるように流暢に、美しい旋律で、でも機械的なものではなく、ちゃんと凛の言葉で、私たちの心にしみわたってくる。
「……私たち在校生も、先輩方が築いた伝統を守り、発展させていくことを誓います。卒業生の皆様の今後のご健康と、さらなるご活躍を心よりお祈り申し上げ、送辞といたします」
練習通り、完璧に、最後まで凛はやりきった。
あとは在校生代表として、名前を告げるだけ。
ただ、それだけなのに。
しばらく、沈黙が続いた。
ざわめき始める構内。
凛はうつむいていた。
うつむいたまま、言葉を続けた。
「…今朝、私がこの送辞の練習をしていた時…」
何を言っているのだろう。こんなの、練習に無かった。いつも完璧を目指している凛が、完璧ではない送辞を続けている。
「そこにおられる卒業生代表の神美羅先輩がやってきて、言われました。みんながあんまり感動させないようにさせてくれ、と。なんて我儘な先輩なんでしょう」
声が震えている。
もう凛は完璧じゃない。完璧じゃないからこそ…
心に、響く。
「本音をいえば、私は、こんな先輩のことが苦手でした。なんでもできる癖に、何もしないで、でも肝心な時だけはちゃんと支えてくれる、そんな先輩のことが苦手で、そして」
凛は顔をあげる。
泣いていた。
「大好きでした」
涙があふれているのがみえる。顔はくしゃくしゃで、いつも日本人形みたいと言われる整った美しさではなく、そこに立っているのは白鷺凛という、ただの1人の女の子だった。
「だから、先輩のいう事を、聞いてあげます。先輩の最後のお願いを、聞いてあげます。私は…みんなを感動させたいなんて思っていません。在校生代表として、先輩に…先輩方に、お伝えしたいのは、感動なんかではなく…」
涙を袖でふき取り、しっかりと神美羅先輩…ではなく、卒業生の方々全員を見つめながら、凛は言った。
「感謝です」
「先輩方、本当に、今まで…有難うございました」
そして深々と一礼をすると、顔をあげて、涙の痕を残したまま、「在校生代表、白鷺凛」とだけいって、壇上から降りていった。
(凛…)
凛。私の親友で、大好きで、誇らしい、最高の友達。
凛が私の隣を通るとき、私を見て、やってやったよ、といった顔で笑ってくれたから、私も泣きながら笑い返した。
会場内がざわついている。
そこらかしこで、すすり泣く声が聞こえてくる。
一種独特の雰囲気の中、今度は答辞が始まる。
銀色が。
美しい銀髪の女性が、壇上に立つ。
もちろん、それは、神美羅先輩であり。
凛々しく立ちながら、困ったなぁ、といった表情を浮かべていた。
それが少しおかしくなって、後ろに座っている凛の方を見つめてみた。先ほどまでの殊勝な雰囲気とは違い、いかにもやってやったわよ、といった風なドヤ顔を浮かべながら、凛は笑い返してくれた。
「あー」
マイクから神美羅先輩の声が聞こえてきた。
「この雰囲気、どうしようかね」
そう言うと、神美羅先輩は腰に手をあてて、背筋をピンと伸ばして、こほんとひとつ咳払いをした後、答辞をはじめられた。
「暖かい陽の光が降り注ぎ、桜の蕾も膨らみ始め、春の訪れを感じる今日、卒業の日を迎えました。本日、お忙しい中、私たちのためにご臨席くださいました皆さま、誠にありがとうございます…」
ここまで言われた後、なぜか神美羅先輩は口を閉じた。
沈黙が流れる。
そして…笑い始めた。
「やめたやめた。一応、卒業生代表だし、最後くらいはちゃんと真面目に話をして終わろうかと思ってたんだけど、やーめた」
講堂がざわめく。
厳かであるはずの卒業式が…規律とルールで守られているはずの卒業式が、ものの見事に音を立てて壊されていく。
「凛。ありがとう。凛の気持ち、伝わったよ。うん。これは私だけじゃない、私たち卒業生…全員の心に、ちゃんと伝わったと思う」
そう言いながら、神美羅先輩は壇上から私たちを見つめる。その紅い瞳はステージの照明に照らされて、いつもより深く、星を砕いたかのように綺麗に煌めいてみえた。
「ご来賓の皆様、保護者の皆様、先生方、私の最後の我儘をお許しください。私たちは今日卒業します。だから、これは本当に最後の言葉なんです。だから、最後に好き勝手言わせて頂きます」
神美羅先輩は、手を胸にあてられた。そこにある薔薇のコサージュを愛おしそうに撫でられると、言葉を続けられる。
「私はこの学校がけっこう好きでした。とはいえ、私は寝るのが好きなので、授業中も休憩時間も放課後も、たいてい寝ていたんですけどね。たくさん怒られましたし、まぁ、怒られるのも仕方ないかなーと思っています。ごめんなさい。最後ですけど、謝ります。遅いですかね?遅いでしょうね。でもまぁ、反省しないよりは、反省する方がいいでしょう」
好き勝手言われてる。
「私は自由にやらせてもらいました。どうしてこんなに自由にできたのか…それは、正直に言うと、私が強かったからです。3年間成績トップでしたから、だから私の自由という名の我儘は許されました。最低ですよね。はい、知っています。知っていますけど…でも、これも最後だから許してくださいね」
立つ鳥跡を濁さずという言葉があるけど、この神美羅先輩という立つ鳥は、わざわざ水の中を足でばしゃばしゃかき回して飛び去っていくつもりなのだろうか?ここまで来るといっそのことすがすがしくなってくる。
「本当は退屈でした。高校なんて、なんのためにいくのだろう?勉強のためでしょうか?勉強だけなら…正直、私には必要ありません。言う資格ありますよね?私より成績いい人なんて誰もいないんですから。退屈、退屈。どうしようもなく、退屈」
神美羅先輩は目を閉じて、そして、目を開けられた。
「最初、退屈だったことは本当です。でも、今は…楽しい。退屈なんて思っている暇なんかありません。最高です。最高の高校生活を送ることができました。それは…」
ほほ笑まれる。
優しい笑顔。吸い込まれそうな笑顔。
「平凡な答えかもしれませんけど、人に、出会えたからです。人に、恵まれたからです」
私たちを見る。
私たちだけじゃない、みんなを見ている。
「私一人だけなら退屈な世界も、みんなに囲まれたら…輝いて見えます。同じ世界を見ているのに、全然違う世界になるんです。すごい。素敵すぎる。私…」
「生きてて、よかった」
まるで、死のうとしたことがあるみたいな言葉だった。
「先ほど、私が自由に出来たのは私が強かったからだと言いましたけど、訂正します。私、間違っていました。私が自由に生きれたのは、死ななくて済んだのは、退屈に押しつぶされなかったのは、それは私がすごかったからじゃなくって、私に関わってくれたみんなが、みなさんが、すごかったからです。助けてくれていたからです」
神美羅先輩は、ゆっくりと感謝の言葉をのべていく。
「先生方、有難うございます。こんな私を見捨てないでいてくれて」
「同級生のみんな、有難う。直接話をした人もいるし、まったく話をしたことが無い人もいるけど、でも、いてくれて、支えてくれて、有難う」
「後輩のみんな、有難うね。おかげさまで、とっても楽しかったよ。この高校は…楽しい高校だよ。安心していいよ。私が、保証する」
さっき、凛は感動ではなく感謝を伝えたいといった。
今も、神美羅先輩は、感謝を伝えている。
同じ思いなのだろう。
同じ思いが、つながっているのだろう。
「これから先、いろいろな事があると思います。けれど、この3年間の思い出があるから、私は大丈夫です」
「在校生のみなさん、みなさんも、これからいろんな事があると思います」
「それは勉学のことかもしれませんし、スポーツのこととか、人間関係のことかもしれません。恋のことかもしれませんし…」
神美羅先輩が、私を見たような気がした。
その紅い瞳が、まっすぐに見えたからだ。
「許されない恋をすることがあるかもしれません」
胸が、なる。
言葉が、刺さる。
「でも、そのすべてに、ちゃんと意味があります。残るものがあります。私はこの3年間で、この高校で、それを学びました。だから、胸を張って言えます。これから先、あなた方に、何があったとしても…」
優しい笑顔。
暖かくて、柔らかで、そして…
「大丈夫、だよ」
最後の、笑顔。
「あらためて心から感謝の言葉を述べ、答辞とさせていただきます…」
「卒業生代表、神美羅由良」
われんばかりの拍手の中、こうして、卒業式は終わった。
私の心の中に…いろいろな…暖かいものを、残して。
■■■■■
卒業式が終わった後、校門まで写真撮影をして、いろいろ別れを惜しんで、泣く人はないて、笑う人は笑って、そんな中に。
「そんなわけで、ちょっくら旅に出てきます」
と言いながら、爆音を響かせながら制服姿でバイクにまたがっている人がいた。
神美羅先輩だった。
「…先輩、これ、なんですか?」
「ん?ハーレーダビッドソン」
先ほどまでの感動はどこに行ったのやら、悪戯っこのような笑顔を浮かべながらそう答えられる。
いや、私が聞いたのはバイクの種類じゃなくって、どうしてバイクがあるのかっていう話なんだけど…まぁ、いいか。
「由良、うるさい」
そしていつも通り、頭を楼蘭先輩にどつかれる。
「痛いよ、蘭子」
「ヘルメット被ることの大事さを教えてあげたのよ」
まさかノーヘルで運転なんてしないわよね、とため息をつく。
「もちろん、ヘルメットの大事さは知っているさ」
と言いながら、神美羅先輩はヘルメットを楼蘭先輩へと投げ渡した。
「これ、何?」
「ヘルメット」
「いや、それは分かってるわよ。私が聞いたのは、どうして私にヘルメットを渡したのか、という事よ?」
「…?バイクに乗るときにヘルメットをかぶるのは常識でしょう?」
「由良、まさか」
私をこのバイクに乗せる気?卒業式終わったばかりなのに?制服で?馬鹿じゃないの?
「さ、早く早く、家までちゃんと送ってあげるから」
「…はぁ」
まったく…この馬鹿吸血鬼の無職予備軍が…といろいろ悪態をつきながら、結局のところ、神美羅先輩の無茶に最後までちゃんと付き合うのが楼蘭先輩なのだった。
後ろに楼蘭先輩を乗せた神美羅先輩が、ちょいちょいっと私を手招きで呼んだ。
なんだろう?と思いながら、顔を近づける。
神美羅先輩の綺麗な銀髪が近づく。揺れる。そしてそっと、耳打ちされた。
「未来、頑張りなさい。あなたならきっと…」
ちゃんと幸せに、なれるから。
そしてヘルメットをかぶると、アクセルを吹かす。
後ろに座った楼蘭先輩はぎゅっと神美羅先輩を抱きしめて、「絶対にスピード出さないでよね。絶対よ、絶対だからね。これ、フリじゃないからねっ」と叫んでいた。
「分かってる分かってる♪」
と分かっていない顔で神美羅先輩は笑うと、私たちを見た。
私を、凛を、雪原くんを、朝比奈さんを。
みんなを見ると、
「じゃーねー」
と、まるで近所のコンビニに買い出しにいくかのような軽い声をかけると、ものすごい勢いで、楼蘭先輩の悲鳴と共に、
去っていったのだった。
■■■■■
こうして卒業式が終わり、残った生徒会メンバーで簡単な打ち上げをした後。
とっぷりと日が暮れて。
私は家に帰って。
玲央くんと、つむぎと、お父さんと、茜さんに迎えられて。
「いい卒業式だった?」
と聞かれて
「…すごかった」
と微妙に違う答えをかえした後、部屋に戻った。
ベッドに横たわり、目を閉じて、神美羅先輩の言葉を思い出して。
(大丈夫)
(幸せになれるから)
心が暖かくなる。
なにか…救われた気がする。
私は、スマホを手に取り、そして、ダイヤルをかける。
すぐに、つながる。
離れている距離が一瞬にしてつながって、心が溶ける。
私は、大好きな人に、最初の一言を告げる。
「…もしもし、沙織さん…」
こうして私の高校二年生は終わり。
私は高校三年生になる。
沙織さんと高校で過ごす…最後の、一年を。




