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恋してしまった、それだけのこと  作者: 雄樹
第七章 【未来16歳/沙織28歳】
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第100話 2月の向日葵【未来16歳/沙織28歳】

 バレンタインデーを明日に控えた、2月13日の夜。

 私は部屋の電気を消して、月明りだけを頼りに椅子に腰かけていた。テーブルの上にはワインの入ったグラスと、綺麗に包装されたチョコレートがひとつ。


「未来…喜んでくれるかな」


 そう呟きながら、グラスを傾ける。まるで流れ出した血液のように深い赤色をしているワインが月明りの下で揺れて、芳醇な香りがただよってくる。

 少し大人になったような気分になるけど、実際、私はもう28歳。立派な大人だった。


 部屋の端を見る。

 そこには、かつて私が大好きで、愛していて、そして最後までその想いを告げることができなかった姉さんの写真が置いてある。

 私はワインを一口飲んだ。身体が熱くなり、心がとろんと溶けていく。


「結局、姉さんにはチョコレート渡せなかったね…」


 誰も聞いていない部屋の中で、ぽつりとつぶやく。月明りに照らされた姉さんの写真はもちろん返事をしてくれることはない。それでもかまわず、私はワインを飲みながら、姉さんに向けて語り掛けていた。


「チョコレートだけは、毎年買っていたんだよ?」


 去年は渡せなかった。

 今年は必ず渡そう。

 来年こそ渡そう。


 毎年そう思って、毎年渡せなくて、毎年後悔だけが残って。


 そして結局、姉さんは死んでしまって、チョコレートを渡す機会も、想いを告げる機会も永遠に失ってしまった。


「姉さん…好き…ううん、好き、だったよ」


 告白をする。聞いているのは、物言わぬ写真の中の姉さんと、私だけ。

 グラスをふって、中のワインが揺れるのを見て、少しまぶたを閉じる。少し酔いが回ってきたみたいだった。私はグラスをテーブルに置いて、そのまま頬をテーブルにつけた。


「今は、ね。未来と付き合っています。姉さんの娘と…付き合っています」


 テーブルは冷たい。その冷たさに、私の体温がうつっていって、少しずつ暖かくなっていく。


「未来が好きです。大好きです。明日、このチョコレート渡して、もう一回、未来のことが好きって伝えてきます…」


 アルコールに浸された頭で考える。私は未来が好き。愛している。それは間違いない。でも、それから先…どうなるのだろう。


 姉さんは家庭を作った。そして未来を産んで、紬希を産んで、愛をちゃんと形にして残していった。

 その点、私と未来はどうなんだろう。


(叔母と姪)

(12歳の年の差)

(女同士)

(教師と生徒)


 私と未来との間には、様々な障害がある。そんなことは分かっている。分かった上で、私は未来を選んだ。私は未来が好き。この気持ちにだけは嘘をつけない。

 私は、姉さんが好きだった。あの恋は、私の最初の恋で、私の原点。

 私は今、未来が好き。この恋は、私の最後の恋で、もう未来以外を愛せない。


(けど…)


 私にとっては最後の恋でも、未来にとっては…どうなんだろう。未来の気持ちは痛いほど伝わってきている。未来は私を愛してくれている。それは間違いない。それがちゃんとわかるくらいには、私と未来は恋人だった。


(それでも)


 未来にふさわしいのは…私じゃないかもしれない。

 気持ちだけでは乗り越えられない現実も、たしかにある。

 姉さんみたいに子供をつくり、家庭をつくり、世間的にも認められる…という未来は、私と未来の間には決して訪れないだろう。


(本当に未来の幸せを考えるなら…)


 私は、身を引いた方がいいのかもしれない。

 私だって、絶対に乗り越えることができないと思っていた姉さんの喪失から、立ち直ることができた。それは未来のおかげだったけど、新しい恋は、昔の恋を綺麗な思い出に変えてくれることだってできるのだ。


(だから…もしも未来が私と別れたとしても…いつか新しい恋人を作って、そして私のことは思い出にして、ちゃんとした幸せを手に入れることだって…)


 と思いながら…吐きそうになった。

 未来が、私の人生から、消える?

 もう未来は私の身体の細胞のすみずみまで食い込んできている。私の毛細血管の中には未来への想いが赤血球と一緒に流れている。


 ワインをまた一口飲む。

 私、お酒には強くないのに…でも、飲まないとやっていられない。


(姉さん…)


 頭がぐるぐるしてくる。回る頭で姉さんに語り掛ける。姉さんは幸せだった?未来にも、姉さんみたいな幸せを掴んでもらった方がいいのかな?でも、でもね。わがままだって思っているけど、我儘だとは分かっているけど、それでも、私。


(幸せになりたい…)


 未来の幸せを願っているのと同じくらい、ううん、それ以上に、自分勝手だけど、私、自分が幸せになりたいんです。

 だから、ワインの向こう側に見てる、今日買ってきたチョコレートを見つめる。明日、未来に渡す予定のチョコレート。私の気持ちを込めて、私を未来にあげたい。だから、だから、お願い、未来。


「私を…捨てないで…」


 返事はなく、月明りだけが私を照らしていた。




■■■■■



『沙織さん、放課後、いつもの場所で、いいですか?』


 スマホに未来からのメッセージが届く。

 私は胸がとくんと動くのを感じた。28歳の女が、16歳の女の子からのメッセージに一喜一憂してしまうのは滑稽なことなのかもしれない。

 でも、仕方ないじゃない。

 大好きな人からのメッセージなんだもの。


『はい、大丈夫です』


 そう返事をかえすと、胸に手をあてて、呼吸を整える。うん。大丈夫。私は平気だ。

 お昼の職員室はざわついている。ざわついている…とはいえ、生徒たちみたいにバレンタインデーに浮かれているわけではない。ただ単に、普通の、いつも通りのざわつき方だ。


(バレンタインデーに浮かれているのは、私だけかな)


 そんなことを思ってしまう。

 思いながら、隣の席に座っている結城先生を見つめた。結城先生は可愛らしいお弁当箱を広げていた。ウィンナーに、卵焼き。彩りも鮮やかで、可愛らしくて美味しそうだ。


「ご自身で作られたんです?」


 ふと、聞いてみる。結城先生はにこりと笑って、


「はい。朝起きて、お弁当作って、同じものを姉さんにも渡しているんです」


 だから今、離れていても、私と姉さんはつながっているんですよ、と答えてくれた。結城先生はお姉さんとお付き合いしている…結城先生に言わせるなら、お姉さんと結婚、しているということらしい。


(もちろん、日本の法律上では結婚できませんよ。女と女だし、姉妹ですから。でも、そんなの関係ないんです。世間の誰が認めてくれなくても、私と姉さんだけが分かっていればいいんです。私は姉さんの妻で、姉さんも私の妻です。私たち、心の中で結婚しているんです)


 かつて、結城先生は私にそう伝えてくれた。言いながら、愛おしそうに薬指にはめた指輪をうっとりと眺めていた姿を思い出してしまう。


 今も、結城先生の薬指にはあの時と同じ指輪がつけられている。

 結城先生は強い。強くて、迷いがない。

 私は、人差し指につけた自分の指輪にそっと手を触れた。大事な、未来とのお揃いの指輪。私と未来とのつながり。


(未来…)


 恋人のことを思う。私の大事な未来。愛している人。でも、どれだけ愛していたとしても、いまの結城先生みたいに、私は薬指に指輪をはめる自信も覚悟も…いまは、持っていない。


「水瀬先生?」


 ぼんやりしている私に向かって、口に卵焼きを頬張りながら、結城先生が語り掛けてきた。


「どうされたんです?お昼、食べないんですか?」


 綺麗な金髪。卵焼きの黄色よりも、もっと純粋に光っている金髪。結城先生はいつも綺麗で、そして強くて、私の憧れでもあった。


「え、そんなことは…私はお弁当持ってきていないので、ちょっとパンでも買ってきますね…」


 と言っていた時、職員室の扉が開いた。

 同僚の鷲尾先生が入ってくる。29歳で、私より1つ年上の鷲尾先生は、手に沢山のチョコレートを抱きかかえていた。


「いやー、生徒たちから沢山もらっちゃいましたよー。ははは」


 嬉しそうに笑っている鷲尾先生。そのまま歩いてきて、私たちの傍にくる。


「水瀬先生、結城先生、お疲れ様です」

「…おつかれさまです」


 私は、この鷲尾先生が少し苦手だ。悪い人じゃない。いい人だとは分かっている。特に裏表がある性格でもなく、生徒思いで、生徒たちからも好かれていて…でも、時折向けられる、私への好意が…申し訳ないのだけど、少し辟易してしまっている。


「すごい数のチョコレートですね」

「そうなんですよ。ありがたいけど、困っちゃいますね」


 笑って、鷲尾先生は自分の机に手にしていたチョコレートの束を置いた。もともと雑多な机の上が、さらに混沌とした状態になっている。


「生徒たちの気持ちは嬉しいんですけどね、まぁ、同年代の子たちに比べたら私みたいな年上の異性に憧れるのも仕方ないかもしれませんね。いやぁ、若いっていいですね」


 一過性のはしかみたいなものですよ、ははは、と言いながら鷲尾先生は笑っている。その笑いの中に、一切の邪気は含まれていない。ただ純粋に、心の底からそう思っているのが分かる。分かるからこそ…少し、いらっとしてしまった。


「同じチョコレートもらうなら…同年代の相手の方が…嬉しいですね」


 そう言いながらちらっと私を見てくる鷲尾先生に対して、


「そうですか。鷲尾先生ならいい人が見つかりますよ」


 とだけ返す。

 鷲尾先生は少ししゅんとして、隣で結城先生がくっくっくと笑っていて、私は憮然とした表情のままで「では、お昼の買い出しにいってきます」とだけ言って職員室から出ていった。


 別に鷲尾先生は悪くない。

 当たり前で、普通で、何の問題もない。

 むしろ、生徒にも人気で、真面目で素敵な先生だ。


 でも、それはそれとして。


(…むかつく)


 どうしても、そんな感情が湧き上がってくるのをとめることは出来なかった。


(同じチョコレートもらうなら…同年代の相手の方が…嬉しいですね)


 ごめんなさいね。私が渡そうとしている相手は、12歳も年下の可愛い女の子ですよ。


 足音が大きくなる。

 大きくなって、そして、立ち止まって、足音は消える。


(でも…そう…だよね…)


 ああ。

 分かってしまう。

 あれが、普通で、普通じゃないのは、私の方なんだと。


 バレンタインデー当日。

 浮かれている校内の中で、私はそう思って、少しだけ、寂しくなってしまった。




■■■■■



 放課後。

 校舎の裏側。

 未来との待ち合わせ場所の大きな木の下で、私はチョコレートを持ったまま、空を見上げていた。

 2月の空は澄んでいて、春の予感を感じさせた。


 人の気配はない。ここはめったに生徒が来ない場所で、だからこそ、私は時々ここで未来と会っていた。

 生徒と教師の密会…密会だなんて言葉を使うと仰々しく感じるかもしれないけど、でもまさに、言葉の通りの秘密の出会いだった。


(誰かに…見られたら…)


 どう言い訳すればいいのだろう。会って話をしているだけなら、普通の教師と生徒の関係だと思ってもらえるだろう。けど、チョコレート交換をしている場面なら?今日はバレンタインデー。普通の人は違う。こんな日にチョコレート交換をしているところをもしも他の人に見られたら…言い訳なんてできない。


(本当なら、学校で受け渡しなんて…やらないほうがいいわよね…危険すぎるわよね)


 頭ではそう思うのだけど、心がそれを拒否してしまう。


(会いたい)


 会いたくて、会いたくて、仕方ない。

 一分でも、一秒でも早く、未来に会いたい。恋人に会いたい。

 そして、会ったなら…

 一分でも、一秒でも、長い時間をともに過ごしたい…


 足音が聞こえてきた。

 少し足早な音。うん。間違いない。

 私がいま、ずっと待っている、会いたい人の足音。


「…未来」


 恋人の名前を呼ぶ。

 向こう側から、女生徒の姿がみえる。


「沙織さん…」


 やっぱり、未来だった。学生服姿も可愛い。とっても可愛い。もうこのままぎゅっと抱きしめたくなるのをぐっと抑える。スーツ姿の私が女生徒を抱きしめている姿なんて、もしも誰かに見られてしまったら…なんて事をどうしても考えてしまう。


「ごめんなさい、こんなところに呼び出したりして」


 息を切らしながら、未来が口を開く。愛おしい。その姿を見ながら、私も言う。


「ううん、いいのよ…私だって、同じだから」


 早く、会いたかったから。

 恋人に、会いたかったから。

 抱きしめて、キスしたかったから。

 いろんな感情がぐるぐる回るけど、その感情の奥底にあるのは、共通して未来への溢れんばかりの熱い想いばかりだった。


 風が吹く。

 2月の風は、冬と春の間の風で、まだ冷たいけど、その中に暖かさが混ざっているような気がする。


「沙織さん」


 未来はそう言うと、手にしていたチョコレートを取り出してきた。市販のもの…じゃない。あれは、未来の…手作りだ。嬉しい。とっても、嬉しい。未来が、私の為に、私だけのために時間を使ってくれた…労力を使ってくれた…そう思うだけで、もう背骨が溶けそうになるくらい幸せを感じてしまう。


「未来」


 私も恋人の名前を呼んで、用意していたチョコレートを取り出す。想いが溢れてきて、もう止まらない。自然と、言葉が漏れてくる。


「好きです」

「好きよ」


 そう言って、お互いのチョコレートを交換すた。

 交換するとき、未来の指が少し私の手に触れる。あ。気持ちいい…。未来の指、好き。この指で…触ってもらいたい、なんて思ってしまう。


(…)


 しばらく、見つめ合う。

 なんて可愛い子なんだろう。私の恋人は、なんて可愛いのだろう。若くて、キラキラしていて、そして私をしっかり見つめてくれている。

 その純粋な瞳に吸い込まれそうになる。一切の曇りのない、今日の空のような透き通った瞳。愛してる。もう、未来の全部が欲しい。


 私は、未来が好き。

 そして、未来も、私が好き。


 自分の好きな人が、自分を好きでいてくれる。これは奇跡だと思う。こんな幸せなことってないと思う。

 私は、かつて姉さんのことが好きだった。

 でも、姉さんが好きな人は…私ではなかった。

 あれが当たり前。

 想いが全部伝わるなら、この世の中は簡単すぎる。現実は簡単じゃない。想いのほとんどはすれ違う。

 それなのに。


 未来は…私を…愛してくれている。


(私なんかが…こんなに幸せになっても…いいのかしら…)


 想いながら、未来から渡してもらったチョコレートを抱きしめる。愛おしくて愛おしくて仕方がない。私の為に、時間を使ってくれた。その事実だけで、もう身体が暖かく火照ってくる。


 私たちはしばらく黙っていた。

 この沈黙すらも心地よい。

 恋人と同じ時間と場所を共有しているなんて…これ以上の幸せなんて、あるのだろうか。


 風が吹いた。

 柔らかい風。


 その風に押されるかのように…未来が、一歩前に進んできた。

 未来が私を見つめてくる。

 その澄んだ瞳は、私の瞳より少し上にあった。


(未来…いつの間にか…)

(私より…大きくなったんだな)


 と思った。

 いつまでも8歳の女の子じゃない。

 出会ったばかりの8歳の可愛い姪っ子は、今ではもう、16歳の私の心をとらえて離さない素敵な恋人に成長していた。


 未来が、口を開いた。


「沙織さん…」


 そして、未来は息を吸って、吐いて。

 まっすぐ私を見つめたまま、口を開いた。


「愛しています」


 うん。

 私も同じだよ…私も、未来を、愛しているよ。

 そう伝えたいと思った。

 そう伝えなきゃいけないと思った。

 私がそう伝えようとして、口を開こうとした時。



 風が吹いて。



 未来は私より、私の想いより、一歩先にいたことを知った。




「私と…結婚してください」

 



 未来はそう言うと、顔を真っ赤にして、風に吹かれながら、でも瞳だけは閉じずにじっと私を見つめてきた。


(…)

(…こん)

(…結婚)


 その言葉が私の脳に届くまでに、少し時間がかかった。

 届いてから理解するまで、さらに時間がかかった。


 沈黙が続く。


 今まで、未来から何度も何度も「けっこんして」と言われてきた。

 そのたびに私は笑い、ちょっと嬉しくなり、そして少しだけ上から目線になって、そのたびにはぐらかしていた。


 子供の可愛い冗談。

 子供の可愛いお願い。

 子供の…子供の…


 でも、今、目の前に立っているのは、もう子供じゃない。

 8歳の頃の未来じゃない。

 16歳で、もう分別がついていて、私の恋人で。


 そして…


(でも、まだ、大人じゃない)


 子供と大人の間。

 大人になりかけている、羽化しかけている少女だった。


(結婚)


 私と未来は恋人同士だけど、でも。

 叔母と姪で。

 12歳も年が離れていて。

 女同士で。

 教師と生徒だ。


 だから、結婚なんて、できない。

 できないのは…分かっているのだけど。


 先ほどの結城先生を思い出す。

 あの薬指にはまっていた、指輪が脳裏に焼き付いている。


(もちろん、日本の法律上では結婚できませんよ。女と女だし、姉妹ですから。でも、そんなの関係ないんです。世間の誰が認めてくれなくても、私と姉さんだけが分かっていればいいんです。私は姉さんの妻で、姉さんも私の妻です。私たち、心の中で結婚しているんです)


 そういう関係も、あるのか。

 そういう関係を続けている人も、いるのか。


 正直に想う。

 見えていなかったけど、でも、私の心の奥底に確かにあった想いを見つめる。


(うん)

(私…結城先生を見て…すごいと思いながら…)

(でも…本当は…)

(嫉妬、していたんだ)


 私にはできないことをさらりとやってのけている人。

 美人で、素敵で、私とは違う人。

 乗り越えた人。


 未来を見る。

 未来はずっと、私の返事を待っている。

 

 可愛い。

 可愛くて、抱きしめたくて、キスしたくて、

 大切な大切な、私の、恋人。


 私の心に問いかける。

 世間体も、常識も、仮面も、全部取り払った後、私の心に残っているものは何なのだろう?


(私は未来を…愛している)


 ただ、それだけだった。

 私は、未来が、好き。

 愛してる。

 未来が、欲しい。


 好きな人を求めていて、好きな人に求められていて。

 だから、そこから導かれる答えは、すごくシンプルなものだった。


「未来…」


 その言葉をつげようとした時。

 昨夜の光景が、浮かんだ。

 月明りの下、姉さんの写真の前で、ワイン飲みながら考えたこと。


 そして、


(未来のこと、お願いね)


 ふいに、姉さんの最後の言葉が思い浮かんできた。

 死んでしまった姉さん。

 大事な娘を残して、死んじゃった姉さん。

 私が大好きだった姉さん。


 私は、託された。

 愛した人から、愛した人を託された。


 私は、未来が好き。愛している。

 だから、私は、未来を…幸せにしてあげたい。


 私の幸せは、未来の中にある。

 そして未来の幸せが…私と一緒にあることを望むのなら。


 私は大人で。

 未来はまだ大人になりかけている…少女だから。



「未来、私も、あなたのことが…好き…愛してるわ」

「…沙織さんっ」


 満面の笑みを浮かべる未来。

 今は2月だけど、もう真夏の向日葵が咲いたかのような気になってしまう。


 私は手にしていた、未来からもらったチョコレートをぎゅっと抱きしめた。未来の心を抱きしめた。


「だから…」


 だから、私の出すべき答えは、


「未来が…18歳になったら…18歳になっても、それでもまだ、私と結婚したい、って思ってくれるなら…」


 私は、笑う。

 これが…私の出した結論で…私の嘘偽りない、本心。


「その時は…結婚、しましょうね」

 


 向日葵が咲き誇る未来を、夢見て。

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