金曜日。君を待つ時間。
社会人になんてなるもんじゃないという気持ちに関しては、日々深め続けてるわけではあるけれど、それでもまあそこそこ悪いことばかりじゃないって気持ちも同時にあって。
「それはどういう?」
「お休みの前の日を口実に、君に会えるし」
なんなら、木曜日から楽しかったりする。
君を待つ時間は、案外苦にもならないのだ。
今日は金曜日。学生の頃も、なんだかんだで嬉しい日ではあったけれど、それはあくまでも仮初の嬉しさで、1週間の一先ず終わりという区切りになった今としては、とてつもない嬉しさがある。華の金曜日、なんて言い方はもうすっかり廃れているけど、その言葉が生まれたわけはちょっと理解できる。
「飲んですらないのに、口が軽くなりすぎてない?冷静さ失ってる?」
「失ってるかもしれないけど、その分照れ隠しで毒を吐きたがる君のクセも、見れるからお得すぎる」
彼はばつの悪い表情で、お冷やを口に運ぶ。どうやら、今日のところは私が勝ちきれそうだ。
「テキーラショットで飲ましてやろうか」
「そんな学生にしか許されないノリ、絶対君はやらないでしょ」
学生時代によく使っていた飲み屋さんとは違って、今は良くも悪くも客層が社会人ばかりだ。ショットでイッキコールなんてしようものなら、お店から叩き出されかねない。
「あの頃は、あの頃で良かったけどね〜」
「それを言えるほど、俺たちは歳をとってはないと思うけど」
「でも、あの頃の」
少しアングラな感じで、周りは同じような学生ばっかりだった、まるで。
「隠れ家みたいな感じのあそこも、悪くなかったと思わない?」
「まあ、否定はしない」
店員さんが、飲み物を持ってきてくれた。二人で、ジョッキとジョッキを軽くぶつける。チンと軽い音がした。
グラス交換制なんてことも、気にしなくていいのだここは。
「久々に、行きたいなぁ、あそこ」
「あー、うん」
あんまし乗り気じゃない返事。
「普通に実家の近くだから、ありがたみがあんまりないんだよな」
「じゃあ、一緒に行こうよ。君の実家も混みで」
ゲホッと、彼が軽くむせた。
「冗談………じゃない、ですよね?」
「冗談に見える?」
「これが冗談だったら、どんだけ練習したのかが気になるかなあ」
まあ、本気は本気。けれど、冗談で流せる程度の余地は残していたのだけれど。
「それで、君がやけに気にしてるバッグに入ってるであろう、暫定給料3ヶ月分のアクセサリーについてなんだけど、さ」
「なんで気づいてんのさ」
気づいてないと、こんなことは言えないに決まっている。
居住まいを正すカレ。
私は大きくひとつ頷いた。