どこどこどこ リンゴウサギのかくれんぼ
ここは藤の花保育園。
2時30分になります。
「みんな、起きて」
先生がお部屋のカーテンを開けてくれました。
すみれ組のそらくんは、もうすぐで3歳になるのが楽しみな元気な男の子。今日もお外で沢山遊んで、たっぷりお昼寝もしました。
「今日のおやつ何かな」
お隣で寝ていたはずの仲良しのレイちゃんは先に起きていた。レイちゃんは今日はおねしょしなかったから、お着替えはなしと先生に言われている。
「そらくん、今日のおやつはリンゴだよって先生が言ってた」
「僕、リンゴ大好き」
お口に入れるとしゃくしゃくして、甘くていい匂いもする。
先生がおやつを持ってきてくれた。手を洗ったら椅子に座って、おしゃべりしないで待つ。
時々ハリーくんがツンツンってするからケンカになるけど、そうするとおやつをもらうのが最後になっちゃう。
「はい、どうぞ」
オリビア先生はいつもニコニコしていて、すごく優しいから大好き。でもオリビア先生に大好きって言うと、レイちゃんがダメダメ、オリビア先生と結婚するのは僕だもんって怒る。
「いただきます」
手をパチンとあわせてご挨拶。
でもね、今日のリンゴ。いつもと違うよ。まだ赤い皮がついてる。ちょっと硬くて好きじゃない。
「今日はお休みのお給食さんの代わりに、セイラちゃんのお母さんが用意してくれました」
お家が果樹園をしているセイラちゃんのお母さんは、時々お給食のお手伝いに来てくれる。
「今日のおやつはリンゴのウサギさんです。皮にも沢山栄養があるから、残さず食べてね」
セイラちゃんと仲良しのハロルドくんは、はーいと大きな声でお返事していた。
「食べられないなら、僕が食べてあげる」
レイちゃんは苦手なものがあると、こっそりヴィンくんに食べてもらっている。
「レイちゃん、ひとつは必ず食べようね」
オリビア先生に言われると、レイちゃんは大嫌いなグリーンピースも苦手なお魚も残さない。先生にはいいところを見せたいんだって。
「僕もひとつにしようかな」
「えーん、えーん」
「レイちゃん、今なんか泣き声がしなかった?」
「つぼみ組の双子が泣いてるのかな」
まだ赤ちゃんの双子のルーくんとアナちゃんはレイちゃんの弟と妹。すごく可愛くて、すみれ組の子はいつも遊んであげている。
オリビア先生がお寝坊さんたちが起きたのかしら、見てくるねと駆けて行った。いつもは廊下を走ってはダメって言うのに。
お皿の上にはリンゴウサギがふたつ。ひとつだけ食べてご馳走さまを言うと、また声が聞こえる。
「みんな、僕の自慢の赤いお洋服が嫌いみたい」
僕のお皿から聞こえた?
そらくんはじっとお皿の上に残ったリンゴウサギをみます。
ぴょん。
「リンゴウサギが跳ねた!」
すごく驚いたけど、お皿から落ちなくて良かった。2歳のおにいさんがこぼすのは恥ずかしい。
「リンゴは跳ねません」
アグネスちゃんは時々大人みたいなことをいう。ハリーくんが、跳ねるリンゴのウサギだっているかもしれないって、アグネスちゃんのことを叩いた。
「ハリーくん、叩いてはダメ。アグネスちゃん痛がってるよ」
「アグネスちゃん、ごめんね」
「大丈夫。あとで倍にしてお返しするから」
「アグネスちゃん、ちょっとこちらに来て。先生とお話ししましょう」
怒ると怖いアガサ先生がお隣の部屋へアグネスちゃんを連れて行った。
「また跳ねてくれないかな」
そらくんはリンゴウサギの耳を引っ張ってみた。
「痛いよ。お残しする子とはバイバイだ」
「待ってよ」
「見つけたらお皿に戻ってあげる」
それっと、リンゴウサギはお皿からぴょんと飛び降りると、お部屋の外に出て行ってしまった!
「大変! 逃げたリンゴウサギを追いかけよう」
お残しした子のお皿のリンゴウサギも、みーんな飛び出して行ってしまった。
「みんなで探そう」
すみれ組さんとリンゴウサギのかくれんぼが始まりました。
お部屋に残ったのはセイラちゃんとハロルドくんだけ。
「みんな行っちゃったね」
「僕たちはここでおやつのお代わりして待ってようよ」
2人は先生にもうひとつくださいな。お皿にリンゴウサギをのせてもらった。
「どこに隠れてるのかな」
遊戯室まで来たそらくんとレイちゃんは、先生に『子どもは開けてはいけません』と言われている道具入れの中をのぞいた。ほんのすこーしだけ扉が空いていたから、いるかもしれないよ。
物がたくさんあって、静かでドキドキする。レイちゃんのお兄ちゃん達の好きな、勇者のでてくる迷路の冒険ゲームみたい。
「怖くないように手をつなごうよ」
「うん。2人なら怖くない」
勇者に変身して、ちょっと暗い道具入れに入ってみました。
体操するときに使うマットや跳び箱を見つけた。
「年長のお兄さんみたいに、1番高いところからジャンプしてみたいな」
レイちゃんはどこでもジャンプするのが大好き。
「怖くないのかな」
「先生に勇気のバッジをもらって、エイって飛ぶんだって」
「超カッコイイ!!」
運動会で使った旗が棒からぶら下がってお化けに見えた。
レイちゃんはお化けが苦手。そらくんは、手をグーにしてパンチの真似をしました。
「お化けが飛んで来たら、僕がやっつけてあげる!」
並んだ三角コーンは、恐竜の背中にあるひれみたいだね。
今度はレイちゃんが恐竜をキック!
大繩は大きな蛇かな?
2人で蛇の上に乗っかると、ぴょんぴょんしてやっつけました。
ボールに触ったら爆発するかも!
どうする? パンチしたらダメだよね。
あれあれ、リンゴウサギを忘れてない?
2人が話していると、くすって笑う声がした。
「(この中にいるよ)」
「(どこかな?)」
お耳に口を近づけてこそこそ話。ちょっとくすぐったい。
ここかな? あっちかな? どこどこどこ?
「見つけた!!」
レイちゃんが紅白の玉入れの中に隠れていたリンゴウサギを見つけました。耳の先を少しかじった後があります。これは僕のリンゴウサギだ。
「ごめんね。もう僕はお残ししないよ」
「お耳をかじったら、最後まで食べてね」
レイちゃんがもう1度謝ると、リンゴウサギはぴょんとレイちゃんの手の上にジャンプして来てくれました。
次はそらくんのリンゴウサギを探しに行こう。
廊下にはしょんぼり歩いているハリーくんがいました。
「ハリーくんのリンゴウサギもまだ見つからないの?」
「お庭を見に行ったけど、お砂場の赤いバケツの中にも、花壇のお花の中にも、ブランコの上にも、どこにも僕のリンゴウサギはいなかったの」
「かくれんぼ上手なリンゴウサギだね」
困った、困った。
「あっ今日はお話のお姉さんがきてる! いいなぁ」
すみれ組さんのおとなりのチューリップ組さんに、読み聞かせにきたイザベルお姉さんをレイちゃんが見つけました。
「むかーし、むかしあるところに…」
「いた!」
ハリーくんがチューリップ組さんの部屋に入り、イザベルお姉さんの真っ赤な髪の中で、お話を聞こうとしていたリンゴウサギを見つけました。
食いしんぼうのハリーくんが、1番大きいのくださいと言ってお皿にのせてもらったリンゴウサギ。
「僕がくださいっていったのに、お残ししてごめんなさい」
「見つかっちゃったね。お皿に戻るのはお話を聞いてからでもいい?」
「なら一緒に座って聞こうよ」
そらくんはレイちゃんとハリーくんにまた後でねと言って、1人でリンゴウサギを探しに行きました。
「いない、僕のリンゴウサギはどこにいるんだろう」
そらくんは悲しくなってきました。
「もうお残ししないから出てきてよ」
お鼻がムズムズして、涙もこぼれてきそうです。
「どうしたの?」
お昼寝から起きた双子を他の先生に頼んできたオリビア先生が、そらくんを抱っこしてくれました。
「あのね。僕のリンゴウサギさんだけ出てきてくれないの」
「それは悲しくなっちゃうね」
「もう絶対にお残ししないから、出てきて欲しいの」
「そうね。好き嫌いしないで食べてくれたら、リンゴさんも先生も嬉しいわ」
「約束するよ。もう好き嫌いしないよ」
「約束してくれるの?」
あれ、どこからか声がします。
「きっと僕のリンゴウサギだ」
そらくんとオリビア先生は下駄箱や棚の上をさがしましたが、どこにもいません。
「ここだよ、ここ」
「あらっ! 先生のポケットの中だわ」
オリビア先生が赤いエプロンのポケットをのぞきました。
「とっても温かくて、気持ちよくて寝ちゃったよ」
でも抱っこされたそらくんの足がポケットにあたって起きちゃった。
「見つかって良かった。あのね、さっきはごめんなさい。もう好き嫌いしないよ。だって僕は勇者だもん。お約束は守るよ」
「じゃあ、お皿に戻るよ」
リンゴウサギはそらくんの頭にぴょんと飛び乗りました。
「もう1度、いただきます」
「美味しいね」
「明日もリンゴウサギがいいね」
「そらくん、そらくん起きて」
「…もうかくれんぼはおしまい。おやつは全部食べたよ」
「そらくんはまだ寝ぼけてるのかな? おやつはこれからよ」
お隣のレイちゃんが「そらくん、迷路楽しかったね」って笑っている。
オリビア先生も夢の中で2人は冒険してきたのかなって笑っています。
「いたただきます」
今日のおやつはもう知ってる。
僕たちの大好きなリンゴウサギ!
皮まで全部いただきます。