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走る神話は機械仕掛け  作者: 映見明日
第10章 神殺し
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矛盾を孕む者たち

 やがて2班の要請によって警官隊が応援にやってきた。

 無暗に顔をさらすわけにもいかないユウとノアは先んじて帰路につき、残った2班たちは被疑者の連行と現場検証に付き合う。

 これで機道教の暗部は白日の下にさらされる。カルト教団として知名度が上がり教団は社会的な制裁も受けることになるだろう。

 だけどユウの本質の一端に触れたツカサの胸には複雑な思いが渦巻いていた。

 ユウは乱暴者だ。それでもこれまで一線を越えることは決してなかった。だからツカサもユウをただの乱暴者とは思わなくなりつつあった。

 だけど真実はツカサの想像を超えていた。

 人間を本気で憎んでいるからこそ生かして苦しめることをこそ最上の罪とする。それがユウの真実だったのだ。



 ……だけど、本当にそれだけだったのだろうか?



 「素直ジャナイ人デス」


 帰り道を走る最中、ノアに話しかけられてユウは目を細めた。


 「なんの話だ?」

 「……ワタシハ学ビマシタ。人間ハ矛盾スル事ノ出来ル生物ダト」


 マシンノアはユウから操作権を奪い取り勝手に路肩に停止する。人型に変身し面と向かってユウと向き合う。

 なぜわざわざ変身するのか。それはノアだけが知るもう一つのユウの真実をちゃんと突き付けるためだった。


 「病院での戦いでリミッターを埋め込まれたワタシは咄嗟に貴方のためのエネルギを確保した。なのに、あなたはそれをツカサに譲った。自分が死にかけになりながら」

 「……」


 ユウは黙り込む。ユウへのエネルギ供給を担いすべてのデータを把握しているノアがそのことを気づかぬわけがないのは承知していたはずだが、やはり直接指摘されたいことではなかったようだ。


 そう。ユウはツカサをずっと前から守っていたのだ。病院での戦いのとき屋上から落下しただけでユウは血まみれになったのに高威力の弾丸をまともに食らったツカサが軽い脳震盪で済んだのは、ユウがツカサに渡したマスコットを通じて防御能力の大半を譲り渡したからだった。

 それだけではないとノアの指摘は続く。


 「ここ最近の訓練もツカサたちの生存確率を少しでも上げるため。全性能の1割すら発揮できなくなった今のワタシ達では、もう助けてあげられないかもしれないから」


 想像の多分に入り混じる推測だった。けれどノアの表情には確信が宿っている。


 「どうしてそう思う?」


 ユウに問われたノアは自分だけが知るもう一つの真実を口にする。


 「だって貴方は、人が死ぬ夢を悪夢と言ったじゃないですか」


 僅かにだがユウが動揺した気がした。一週間前既に自分が他者の死を嫌っていることを認める発言をしてしまっていたことにたった今気づいたのだろう。

 だからノアは畳みかけるように続けた。


 「それにワタシは一度も貴方が自分のために動くところを見ていない」

 「……」

 「ツカサだってきっともう分かってます。貴方の優しさを」


 それもまたノアは確信をもって言った。自分には不摂生なのに他人には世話を焼くユウの姿をツカサも見ていたのだから。なんだかんだ理屈をつけて人を助け続けてきた姿もツカサは見ていたのだから。

 ユウの奥底にある真心にまだ気づけぬほどツカサもバカではないはずだと。



 きっとノアの思っていた通りだったのだろう。


 「それでもお前は……誰も殺さなかった。全員救った」


 現場検証の進む礼拝堂で、捕まえた信者たちを全員車へと乗せたツカサはその事実をかみしめるように口にしていたのだから。




 しかしユウ自身だけは己の善行を認めようとはしなかった。


 「そんなんじゃない。俺は本気で人間などどうなっても……」


 自分が優しいなど錯覚だ。人間を助けたつもりなどないと頑なに言い続ける。

 でも悲しいかな。ユウが何を言ってもノアにはそれは偽悪的なものにしか思えなかった。

 ユウが自分のことを本気でそう思っていることもまた真実だったからこそ。


 「ええ。本気でそう思ってるのでしょう。貴方は決して噓を言わない。でもだとしたら――」


 ノアは少し悲しげな表情で自らの結論を口にする。


 「だとしたら貴方は優しすぎる」


 残酷で冷酷な本心を抱えながら結局人を助けてしまう。自分が殺したいほど憎む相手すら見捨てきれない。そんな性質の悪い人を表現する形容はそれしか思いつかなかった。


 『救いも罰も生者の特権』


 あのセリフの最も重要な部分は罰ではなくきっと救いの方だ。死んだら罰も救いもない。

 誰もが生きて罰を受け、最後には救われるべきだ。ノアにはユウが、どこか壊れた思考回路の奥底で自覚のないままそんな考えに縛り付けられているように見えてならなかった。

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