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走る神話は機械仕掛け  作者: 映見明日
第3章 今度こそその手を掴むために
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会議室クライシス

 実際、その通りだった。


 「俺の要求はただ一つ。ディバインエンジンは取り戻してやるから、邪魔をするな」


 技術管理局本部上層階にある会議室。そこに集まった管理局や警察、軍など一連の殺人ロボット事件に関わる関係各所のお偉方に向かってユウは不遜な態度で言い切った。


 絶句するお偉方たち。ゲンも頭を抱え、ツカサは開いた口がふさがらなかった。


 この会議室に来る途中、エレベーターの中でゲンはきっちりと釘を刺していた。『話し合いなのだからそのあたり弁えないとうまくいかないぞ』と。その時ユウが『善処する』とだけしか言わなかった時点で悪い予感はしていたが、結果はこれである。酷いというより無茶苦茶である。


 もちろんユウだっていきなり態度を悪くしたわけではない。最初のうちはおとなしくしていた。ゲンから前回の戦闘にて2班が独力で殺人ロボットを破壊したことを報告され、満足げな表情を浮かべたお偉方たちを冷ややかに眺めてこそいたが。


 ではどうしてユウが態度を豹変させたのかといえば、そのきっかけは明確である。お偉方たちが諦めきれずにユウに言ったのだ。『研究所に戻って殺人ロボットへの対抗策を開発してほしい』などと。


 「戦うためだけのものを作るのに協力しろだと? 研究所に戻る気はないとゲンに伝えさせたはずだ」


 ユウはテーブルの反対側の権力者たちを真っ向から睨みつけた。言葉を失っていたお偉方たちはやがてユウに我儘な子を見るような目を向けた。


 「生き残りはしたが爆発事故で頭のねじが外れたのか? こちらは君を心配していたのだが――」

 「俺の命じゃなく、俺の頭の中身を、だろ?」


 皮肉を返すユウお偉方の視線が厳しいものに変わった。


 「自分が何を言っているのか分かっているのかね?」

 「分かってないのはそっちだ。こんなことに時間を使わせやがって」


 ユウはまるで態度を改める気配はない。隣に座っていたツカサは小声で注意しようとするも効果はない。


 「ディバインエンジンの潜在能力は俺にも未知数。全能力を悪意あるものが使えば今すぐにでも世界は滅ぶ」

 「ならばなぜロボットを全部破壊した!」


 先日の戦いにおいてユウは倉庫に保管されていたロボットを解析不可能なまでにすべて破壊した。そのことに不満を持っていたらしいお偉方の一人が噛みついてくる。


 「あれを解析できれば対抗策だって――」

 「ディバインエンジンから出た技術ならお前らにも持つ資格はない」

 「!? 君はまさかわざと……!」


 ユウは全て計算付くだった。誰にも自身のテクノロジーを渡さないためにロボットを破壊したことを明かし、お偉方たちに厳しい視線を向け返す。


 「お前らが兵器をつくる片棒を担ぐ気はない」

 「バカな! 我々は市民を守る力が必要なだけ――」

 「戦いが終わっても力は捨てられない。お前たちは確実にその力を人殺しに使う。正義のためと免罪符をつけて」


 それはここに集まった者たちにとって侮辱にも等しい発言だった。曲がりなりにも正義と平和の守護を職務とする者たちにとって許せるものではない。特にツカサは思わず食って掛かろうとしたがゲンがそれを制した。


 「人間は信用できないと?」

 「こいつらは既に俺との約定を違えている。救える力は滅ぼせる力にもなりうる。そう話してディバインエンジンを預けたのに守り抜かなかった」


 ゲンの問いかけに答えたユウは集まった者たちに向ける視線をより一層厳しくする。『ディバインエンジンを奪われたのはそもそもお前たちの落ち度だろう?』と告げる視線にお偉方たちも流石に言い返せない者も多かった。だがそれが全てではない。


 「そもそも君がディバインエンジンを創ったから……!」

 「だから責任もって戦うと言っている」


 参加者の一人がのたまった。ユウはすかさず言い返す。


 「……俺が元凶だってことは分かってる。もう二度とお前らごときに渡さない」


 ユウは淡々と憤りを最後まで露わにはせずに言い切って立ち上がる。


 「自分のケツも拭けない奴の指図は受けない。邪魔すれば敵とみなす」


 ユウは最後にそう言い残し、踵を返す。

 すると――


 「貴様の考えは分かった。ならばこちらにも考えがある」


 お偉方の一人がそう言ってユウを引き留めた。堂島という名前の恰幅のいい警察閣僚だった。


 「考えだと?」


 足を止めたユウに堂島は臆面もなく言い放つ。


 「貴様のマシンを押収する」


 瞬間、空気が凍り付いた。お偉方のほとんどはそうは感じなかったのだろうが少なくともツカサとゲンにだけはユウの纏う空気が変貌するのがよくわかった。


 まずい。と二人が思った時にはもう遅い。


 「アレにもディバインエンジンが搭載されているはず。稼働状態のそれを研究すれば貴様のような小僧の力など借りずとも――」


 堂島の言葉が強制的に止められる。ユウが誰の目にも追い付かない速度で机の反対側にいた堂島に近寄り、その首を掴んでいた。それにとどまらず、ユウは相当の重さがあるだろう堂島の体を首を掴む片手だけで持ち上げると壁に押し付けた。


 「貴様、死にたいのか?」


 目が本気だった。首には脅しの範疇を超えた圧力が加えられ堂島は咄嗟に命乞いをすることも許されない。


 「やめろ機道!」


 ツカサは叫び、銃をユウに向けた。このような事態を想定して携帯を許可されていたが、まさか本当に使うことになるなど思ってもいなかった。

 ユウは堂島を締め上げたままツカサを横目に見る。


 「その豆鉄砲は俺には効かんぞ」

 「それでもやるだけだ」


 気迫で負けたら勝ち筋はないとツカサは一歩も引かず、それ以上やれば容赦しないと引き金に指を乗せてみせる。その怯まない覚悟に免じてなのか、あるいは単にここでツカサを相手にするのが面倒だったのか、ユウは堂島を掴んでいた手から力を抜いた。

 力なく地べたに倒れてせき込む堂島を心配したものたちが駆け寄ってきて急いでユウから引き離す。彼らを庇うようにツカサはユウの前に出て、今しがたの行動を咎めようとする。


 「お前――」

 「ならば問おう。人を都合よく神としながら預かり物を無くし、あげく詫びの一つもなく殺しの道具を作らせるのが正義か? 大切なものを奪うと脅して……」

 「それは」


 ツカサは思わず口をつぐみユウから目をそらした。それが正義であるはずはない。そう思った瞬間ユウの不遜な態度が腑に落ちてしまう。

 ユウにとってこの交渉は一度約束を破った相手に対するものだった。その上、思い返せば会議の参加者の誰一人ユウにその謝罪や補填をしようとすらしていなかった。


 ならばむしろ穏便に済ませるなど間違いだ。そんなことをすれば自分に対しては約束を破ってもいいと認めるようなもの。だからこそユウはこの日に至るまでのゲンの根回しを台無しにしてでも自身にとって最適な交渉方法を選んだのだ。


 しかしそれを理由にしたところで使った方法が暴力であるならばユウもまた正義ではない。すぐにそう思ってツカサはもう一度ユウを睨む。


 「だが、だからと言って――」


 しかし、そこでツカサは異変に気付いてまたも言葉を止めた。ユウの目はいつの間にかツカサから離れていた。先ほどの発言の最後は言葉を止めたのでなく、何かに気付いてそちらに気をそがれたものだったとツカサは察する。会議室の壁、その向こう側にユウは何かを見つけていた。


 その何かを見つめるユウの顔色が見る見るうちに険しくなっていく。明らかにただ事ではない。


 「機道……?」

 「……に……ろ……」

 「?」


 声が小さくて聞き取れないと耳を近づけるツカサ。するとユウはこれでもかと声を亜張り上げて叫んだ。


 「全員逃げろ!」


 次の瞬間、会議室が大爆発を起こした。

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