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走る神話は機械仕掛け  作者: 映見明日
第2章 ミチとの遭遇
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技術特務部第2班

 数分後、表通りにてユウとノアは、ついに全員揃った先進技術特務部第二班。通称『2班』と相対することとなった。


 「貴方達7人ガ2班、デスカ……」


 不機嫌そうに腕を組んで壁に背を預けた態度で向き合うユウとは裏腹に、ノアはずらり並んだ2班メンバーを興味深く見つめる。

 2班のメンバーは総勢7名。班長の村国ゲン38歳と技術顧問の麻宮ナナコ23歳については既に知っての通り。そして残りの5名こそ、後からやってきた男たち。班の任務実動を担う者たちだ。

 その内の3人は、倒れそうになったノアを助けたこともあってユウが裏通りから戻ってくる頃には互いの自己紹介を済ませてしまっていた。


 「天野ヒロキ。上地アトム。人見レンタロウ。貴方達ハ既ニ記憶シマシタ。ヨロシクデス」


 3人の顔と名前を確認してノアは、自身にとって貴重な正体を隠さず話をしてもいい相手に挨拶した。


 「よろしくっす」とラフに返す筋骨隆々としたガタイのいい男が天野ヒロキ23歳。見た目通り2班きっての力自慢。


 「よろしく」と応える顔立ちから異国の血の混じっていることがわかるのが上地アトム21歳。日本語の発音と使い方に若干不安を感じる帰国子女。


 そして眼鏡をかけている2班最年少、人見レンタロウ20歳は「よろしくお願いします」とお辞儀をした。


 先んじてノアと友好を結んでいたナナコの取り成しのおかげか、あるいは単に彼らの人がいいからなのか、喋るオートバイという不可解極まりない存在に若干の戸惑いを残しつつも三者三様に全員ノアのことを受け入れる意志を表明するようにはにかんだ。


 ノアはまだ名前を知らぬ二人へとヘッドライトを向ける。


 「ソシテ貴方達ガ……」

 「立花ケイト。で、こっちのお堅い顔したのが桐谷ツカサ」

 「何がお堅いだ。お前は女にしか興味がない変態だろ」

 「いや。大半の男はそうだろ……」


 ものすごく語弊のあることを言っておどけるケイト。そのことも含めノアの電子頭脳はデータを逐一記憶していく。


 立花ケイト24歳。2班きっての問題児。女好き、サボリ魔。だがイケメン。とにかくルックスがいい。そんな男。


 そして最後の一人が桐谷ツカサ24歳。正義を重んじる生真面目な男。さっき突き飛ばされたことも忘れてノアはしっかりその顔も記憶する。


 だがその間もツカサの目はただ一人ユウだけを見ていた。ただじっと不機嫌そうに会話にも入らないユウを睨んでいた。

 ツカサの目にはまだ先ほどの光景が焼き付いていた。かつて世界を救ったはずの少年が破壊と暴力をまき散らし、その身に宿る圧倒的な力を人間に向けた恐るべき光景が。


 そんなことは知らず、2班全員の顔と名前を記憶したノアは満足げにエンジンを高鳴らせた。


 「嬉シイコトデス。正体ヲ隠サズ話セル友人ガコンナニスグ出来ルナンテ。ワタシハノアデス。ソシテソコノガ――」

 「俺の紹介は必要ない。どうせ名乗らずとも全員知ってる」


 今度は自分たちの番だと名乗りを上げユウのことも紹介しようとしたノアだが、ユウの方はぶっきらぼうに自己紹介することを断った。まるでここにいる奴らと関わるのは御免だと言わんばかりの態度に、ツカサはとうとう我慢ならなくなった。


 「お前、どういうつもりだ?」


 目つきをさらに鋭くしてツカサはユウを睨みつける。


 「あんなことして。お前の力は世界を救うためのものじゃないのか?」

 「勝手に他人の力にラベルを貼るな、邪魔しやがって……」


 ユウはすかさず言い返す。今にも沸騰しそうなツカサの怒りにもまるで怯まず、それどころか話すことすら面倒そうに文句をたれる。


 「邪魔だと?」

 「そもそも俺は売られた喧嘩に大枚はたいてやっただけだ」


 悪びれる様子の一切ないユウ。その言葉に嘘はない。敵の情報を求め裏路地に入ったユウに先に喧嘩を吹っかけてきたのは不良たちの方だった。また大怪我はさせても命までは奪っておらず、あの後彼らは自力で逃げかえっていったのは確認済み。だがだからと言ってユウがやったことは到底ツカサにとって認められるものではない。


 「だからってあれじゃ正当防衛にもならない! お前が死んだと聞いてどれだけの人が心配したと思ってる? それがあんな……」

 「心配? 笑えん冗談だ」

 「なんだと?」


 まるで会話をする気のないようなユウに熱くなるツカサ。「よせ桐谷」とゲンがなだめるのも聞かない。


 「ですが班長! コイツは無関係の人間を――」

 「そうとも言い切れないぜ」


 怒り心頭のツカサを諫めるように遮ったのはケイトだった。


 「少し前から町の悪ガキどもが妙に活気づいてるらしい。まるで強力な武器でも手に入れたみたいだってあゆみちゃんが」

 「あゆみちゃん?」

 「さっきお茶した女の子」


 聞いたことのない名前にヒロキが首を傾げるとケイトはあっけらかんと言った。


 「いくら顔がいいからって平日の昼間からふらついてる奴についてくるほど女の子たちだってバカじゃないぜ?」


 これでも説教すんのか? と言いたげに、得意げにツカサを煽るケイト。


 「なるほど。ナンパに見せかけて情報収集。さすが立花さん」

 「いや、麻宮先輩。この人仕事とプライベートの区別ないだけですよ」


 見事にケイトの詭弁に騙されるナナコにレンタロウは仕事にかこつけて女性をひっかけていただけだと指摘して恨めしそうな顔をケイトに向ける。レンタロウと一緒に尾行に汗を流していたあとの二人にも同じ顔を向けられるがケイトは懲りない。


 「なんだよお前ら。どうせなら仕事を最大限楽しもうって心意気が悪いってか?」


 そういう言い方されるとなんだかケイトのやり方ももっともな気がして3人組は微妙な顔を見せる。感心すればいいのか呆れればいいのか。ツカサも流石に困り顔。

 そんな様子を見ていたノアが一言「愉快ナ人達デス」と呟いた。

 怒るに怒れなくなったツカサはさておき、ケイトは話を続ける。


 「あゆみちゃんが言うには行方不明者も出てるそうだ」

 「行方不明? ナゼ、ソレデ騒ギニナラナイノデス?」


 疑問を口にするノアにケイトは答えるのを僅かに躊躇う。するとゲンが口を開いた。


 「消えたのが全員ロストエリアの住人だからか……」


 その言葉にケイトは頷き、他の2班たちもユウも納得したような反応を見せた。唯一ノアだけにはその単語の意味すら分からない。


 「ロストエリア?」

 「捨てられた場所だよ。この街は半分、20年前のままなんだ」


 アトムの説明にノアが聞き返そうとすると、ユウが腕組みを解いた。


 「やはりそこだな……」


 呟くと壁から背中を離しどこかに向かって歩き出す。

 「どこへ行く?」とゲンに問われたユウは足をいったん止める。


 「警察なんかに用はない。上は汚職塗れ、下っ端は実戦経験も人出も足りないようじゃ足手まといだ」


 ユウの口から飛び出たのはかなりきつい言葉だった。だが2班はそれに言い返せない。耳が痛いが本当のことだったから。


 「まあ、一応島流し部署だからな……」


 潔いのか恥を知らぬのか、ユウの指摘を認めてしまうケイト。


 「だからこそ正義を果たす力がいるんだ!」


 ツカサはケイトが口にした事実に抗うように叫ぶ。


 「お前はただの技術者だ。事件解決は俺たちの仕事。お前が協力さえしてくれれば俺たちでもっとたくさんの人を――」

 「興味はない。そんなこと」


 たくさんの人を救える。そう言おうとしたツカサの言葉をユウはにべもなく一蹴した。

 どれほど強大な力を持っていようとユウは所詮一個体。人を確実かつ広範囲にわたって守るという目的を果たすのであらば多くのものに力を託す一介の技術者であるべきだ。その理屈が分からぬユウではない。だがそれをユウは興味がないというあまりにもシンプルな言葉で拒否した。

 理由も簡単。人間が嫌いだからに他ならない。


 「人間なんてくだらない。それを害するなんてもっとくだらないことにディバインエンジンが使われるのが俺は気に食わないだけだ」

 「お前……人間を何だと思ってる?」


 正義感に燃えて問うツカサにユウは顔だけ振り向けて冷たい意志の宿る瞳を覗かせた。


 「俺にすがりつかなきゃ救えないような、どうせすぐ滅びる世界を創ったゴミどもが何だというんだ?」

 「!? 貴様、それでも一度は世界を救った男か!!」


 もう我慢の限界だ。目の前の男は世界を救った英雄ではなく、気まぐれで世界の命運を弄ぶ悪鬼。怒りのままユウに掴みかかろうとするツカサをノアが止める。


 「落チ着クノデスツカサ。マスターハ――」

 「これが落ち着いてられるか! 命も心もない機械に何が分か――」


 瞬間、ツカサの頬を衝撃が貫いた。ユウの放った渾身の右ストレートがさく裂したのだ。あまりのことに口をあんぐり開けたりして仰天する2班たちの前でツカサの体は宙に放物線を描いて飛んだ。


 「相手を間違えるな。それが貴様の正義というなら相手になるぞ」


 今度はユウがキレていた。静かなものではあるが先ほどのツカサと同等以上の怒りに駆られて拳を握っていた。

 地面に体を打ち付けられたツカサは助け起こす仲間の手を振り払い負けじとユウを睨み返す。


 「貴様、本当に人間より自分の発明のが大事というのか」

 「当然だ。人間のどこに価値がある」

 「ただの鉄の塊が人の命より大事なわけないだろ!」

 「まだ殴られたりないか。上等だ、表出ろ」

 「ここが表だ!」


 二人の男は互いにもう引けはしないと拳を構えんとする。勿論ツカサの側に勝ち目はない。しかし、それを言い訳に大人しくするツカサではないし、可哀そうだからで拳を収めるユウでもない。

 止めようとする者たちを無視して両者はついに――。


 「ヤメナサイ、マスター!」


 ノアがクラクションを鳴らした。音量のリミッターを強制解除して鼓膜を破らんばかりの音圧で。何人かが耳を抑えて顔をしかめる事態にはなったが、それによってユウとツカサの衝突は回避された。


 「ワタシナラ大丈夫デスカラ……」


 ユウが顔を向けるとノアはそう告げた。感情こそ感じられないものの無用な争いを拒む言葉にユウは不機嫌そうな顔のまま拳を緩め、踵を返した。

 去っていくユウにノアはついていく。2班たちはツカサを助け起こしながらそれを見送る。


 「くそっ! 何なんだアイツは!」


 怒りの矛先を失った拳をツカサは地面に叩きつける。しかしそれでもその目は、前を行く少年を追い続けた。

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