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走る神話は機械仕掛け  作者: 映見明日
第2章 ミチとの遭遇
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遅れてきた男

 町の反対側。知らせを受けた青年が3人組と合流すべく足早に歩き出していた。

 この真夏の暑さにも負けずに襟はぴっちりと正し、風貌には頭髪から靴の先まで一部の乱れもない。清廉潔白とか規律とかの概念が人の形をしたような風貌の青年。


 彼の名は桐谷ツカサ。24歳。村国ゲンによって呼び寄せられた5人のうちの一人。すなわち先進技術特務部第二班なるチームのメンバーだ。真面目そうな見た目の通りに灼熱の熱気の中を結構な距離歩くことになっても文句ひとつ言わない。同時に、状況の変化を上官と共有することを怠ることは無かった。


 『そうか。やはり街に行っていたか』

 「はい。まだ敵は遠くまで逃げていないはず。班長の推測通り、機道ユウも探しているようです」


 耳にあてた携帯から聞こえるゲンの声にツカサは答える。


 2班がユウを見つけたのは偶然ではない。共に同じ『敵の捜索』という目的を持って街を歩いていたからだ。


 敵とはすなわち、ユウを襲った殺人ロボット及びそれを送り込んできた何者かのこと。それはまだ近くにいる可能性があると、ゲンは考えていた。

 なにしろユウが襲撃された山は遠方からたどり着くには立地がさほど良くない。にも拘らず敵はたった数時間の間にあれだけの数の殺人ロボットを揃え二度に渡って襲撃を行った。一度目の襲撃が思いがけず失敗し、慌てて二度目の凶行に及んだとするならば、まだ遠くまで逃げおおせる時間はたっていない。町の出入り口に緊急配備した検問に何も引っかかっていないことをあわせると、麓の町に敵の拠点があることすら考えられた。


 だからこそゲンは呼び寄せた5人の部下に町で敵の手掛かりを探すとともに、同じ発想から街に立ち寄るはずの機道ユウの位置を補足しておくように指示を出した。


 そうして街のあちこちに散らばって敵の手がかりを探していたツカサたち。そのうちの3人がユウを運よく発見したというわけだ。


 「これから接触します」

 『分かった。俺たちもあと5分で合流する』


 通信が切れる。3人組からの連絡があった地点まであと少しだった。ゲンが来る前に到着しておこうとツカサは歩調を早める。

 これからかつて世界を救った神様と相対することになる。そこにいくらか緊張もあるのか神妙な面持ちで足を前に進めるツカサ。


 ふと、その足が歩みを止める。真横に向けた視線が道の脇にあった洒落た雰囲気の喫茶店を見つめた。


 この期に及んで怖気づいて逃げ出したくなったわけでも、とうとうこの灼熱の熱気にやられて休憩したいという怠け心が沸いたわけでもない。ただ喫茶店のガラスの向こう側に、共にこの街にやってきて職務に励んでいるはずのもう一人の仲間の姿が見えただけだ。


 自分も含め他の皆が汗を流しながら仕事に邁進しているという時に、同じ立場のはずの奴が冷房の効いた喫茶店の中で涼しい顔をして優雅にお茶をたしなんでいるのを目撃したら、唖然として足も止まる。

 あまつさえそいつが近隣に住む女子大生と思しき若い女と一つのテーブルを挟み二人きりで楽し気に話しているともなれば、乗り込んで文句の一つも言わなければ気が済まないというものだ。


 「アイツ……」


 一応は仲間のはずの男ににらみを利かせて店内に入ったツカサは、窓際にいたやたらにルックスのいい同い年の青年に怒りの形相で近づいた。


 「お前は勤務中に何をやっている?」


 声量こそ抑えているが声色からにじみ出る怒りは隠し切れない。巻き込まれた若い女もびっくりしている。ところが怒りを向けられている当の本人はまるで気にも留めない。


 「見て分かんないか副長? 女の子との一期一会を楽しんでるのさ」


 余裕を全く崩さぬ青年=立花ケイトは悪びれもせずに言い切った。あまりにも堂々とした態度にツカサの感情は怒りを通り越して呆れに染まりため息を吐き出した。


 「またナンパか。お前ってやつは……」

 「ため息つくと幸せが逃げるぜ。真面目なのはいいが堅物なのは問題だ。俺様を見習えよ」

 「どこを! どう! 見習えってんだ!」


 思わず口調が荒くなるツカサに、ようやくケイトは顔を向ける。ほほ笑むだけで数多の異性、もしかしたら同性をも虜にできそうな凄まじく綺麗な顔を。


 「そうカッカしない。どうせ5人もいるんだ。全員揃って汗にまみれることないだろ」


 にこやかに笑う目の前のイケメン。ツカサとは対照的に服は涼し気に着崩しているが、その容貌は顔もスタイルも一級品。絶世の美男子という言葉が似合う男はおそらくこの世に彼だけだ。顔面だけでも金がとれるし、人ごみを歩けばナンパするどころかされまくるに違いない。だというのにこの男は自分から女に声を掛けるからたちが悪い。今ケイトと卓を同じにしている女もついさっきまで頬を紅潮させ満更でもない雰囲気だった。


 別にプライベートでやる分には構わない。だが今は職務遂行中。彼はモデルではなく、ツカサの同僚だ。


 「……説教と始末書。どっちが望みだ」

 「どうせどっちもくれるくせに」


 ケイトはふざけたように肩をすくめて火に油を注ぐ。いよいよツカサは沸点に達し怒りの怒号が響く。


 ……と、その時だった。店の外からドンッ! と町中にも響き渡りそうな鈍い衝撃音が聞こえてきた。

 何かが起こったと判断するには察するに余りある空気の震えにツカサは自分がどこへ向かっていたかを思い出した。


 「立花。流石に分かってるよな?」

 「はいはい」


 あからさまに残念そうにケイトは一緒にいた女に別れを告げる。名残惜しそうな女をその場に残し、二人分の飲食代をレジに置くケイトを引き連れてツカサは店を飛び出した。

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