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走る神話は機械仕掛け  作者: 映見明日
第11章 偽りの攻防
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ニ班壊滅

 ツカサを襲ったユウはもちろん偽物だった。本物のユウは別の場所で洗脳された人々相手に無双していた。ユウが人間相手にくだらない情けをかけるはずがない。たとえ相手が巻き込まれた被害者だろうが、優美に着飾っていようが、創作上のヒーローやヒロインの格好してようが、それはユウにとって戦うことを躊躇う理由にはなりえない。

 ユウの周りには、彼を害そうとして返り討ちにあったコスプレ集団が積み重なっていた。昏倒した群衆のカーペットの上に一人たたずむユウ。

 そこにカレンの差し向けた者がやってくる。それはなんと、ツカサの姿をしていた。


 「全部倒したのか?」

 「ああ」


 背後から声をかけてきたツカサにユウは顔もむけずに返事をする。その背中はとても無防備だ。がら空きの背中にツカサは迫る。


 「なら次へ行こう。ここにいても埒が明かない」


 淡々と告げながらツカサはゆっくりとユウに近づいていく。ユウは背中を向けたまま動かない。

 そしてついに手が届く距離にまでユウに近づいたツカサは、どこからともなく短刀を取り出した。まだ振り向かないユウに向けてツカサは刃を振りかざす。


 「雑なエミュすんなよ」


 次の瞬間、貫かれたのはツカサの方だった。ユウの貫手がツカサの胴体に穴をあけ、火花を散らさせていた。振り向いたユウの左目はとっくの昔に戦闘モードの発動を示す赤に変色している。

 その瞳は冷酷に目の前のツカサが偽物であることを見抜いていた。


 「アイツがこの状況で、小言の一つも言わずにいるものか」


 ツカサの姿をしていた偽物の化けの皮が剝がれていく。本当の姿を晒した量産型スレイブロイドの躯はユウが腕を引き抜くと力なく地に崩れ落ちた。


 「カレンめ。またくだらない改良したのか」


 通常のスレイブロイドならちゃちな作り故に破壊すれば爆発するはずだ。以前にカレンがスレイブロイドを使った時もそうだったが、彼女はやはり、自分の使う物の欠陥は許せないらしい。

 自分への復讐を計画する女の几帳面さにユウは微妙な顔をするユウ。

 しかし今はそれについて感嘆してる時間はない。カレンの策略に気付いたユウは目を閉じた。


 「ノア」


 洗脳装置を探し出すために別れて行動しているはずの相棒の名を呼ぶユウ。カレンの手によるジャミングで通常の通信はできない。だがすぐにユウの脳内にはノアの声が返ってきた。


 『分かってます。どうせワタシに人間は切れない』


     ◇


 ユウの声を聴きながらノアは全力疾走していた。ノアもまた戦闘モードに移行し、道を塞ごうとする敵を全部切り捨て決して足を止めさせなかった。

 カレンは知らなかったのだろう。

 戦闘モードに移行したユウはノアと以心伝心。ジャミングの環境下だろうと心を通じ合わせられることを。既にノア達は互いの状況を共有していた。

 なおかつノアの振るう剣には対人用セーフティがあり、人間判別装置として機能していたこともカレンは認識していなかったに違いない。無論人体が切れないだけなので、衣服は細切れだし、殴殺には使えてしまう。しかしそれもノアの技量をもってすれば無問題。

 だからノアは誰にも進撃を邪魔されることなく、苦戦していたケイトとゲンの元までたどり着くことが出来た。

 ピンチに陥っていたゲンたち。その頭上を飛び越えて戦いに割り込んだノアは間髪入れずに剣を振るった。

 力は必要ない。ただ触れるように切っ先を閃かせる。それだけで人間ならば纏う布地を切り刻まれて気絶し、紛れ込んでいたスレイブロイドは無抵抗に体ごと別断れて残骸と化した。


 「ケイトとゲンを確保。これからナナコたちのところへ向かいます」


 あっという間に敵陣を蹴散らしたノアはユウに念話を送ると、ゲンたちに目を向けた。


 「さあ、行きましょう」


 ゲンたちは、ノアによって周囲と背後の一直線上に築かれた敵の山に呆気に取られていたが、声を掛けられるとすぐに真面目な顔で頷いた。

 ノアは即座に走り出す。道を阻む一切を自慢の剣技で切り捨て撃進し、すぐに群衆に取り囲まれた装甲車にたどり着く。

 そして見つける。意識を失うリオとナナコ。それにとどめを刺そうと拳を振り上げる、自分と同じ姿をした敵を。


 「お前は……!?」


 ノアは一瞬驚きつつもすぐに事態を理解し頭に血が上った。自分の姿を使って友を傷つけた敵への怒りが爆発する。

 その場で剣戟の嵐を巻き起こし、群がる敵陣に道を切り開く。

 対人用セーフティのついた剣はいくら振るっても人間にだけは衝撃しか伝わらない。だが人間でないものに対してその刃は如何な装甲であろうと両断する脅威だ。

 数秒と使わずにノアはその場にいた全員を返り討ちにして、自分の姿を利用した不届き者に迫った。その罪科は重い。ノアは自らの鏡写しに対し無数の斬撃を見舞った。

 100を超える破片になって崩れ落ちた偽物を蹴り飛ばしたノアはすぐにリオたちに駆け寄って息があることを確かめる。

 大丈夫、気絶しているだけだ。ほっとしていると。ノアが切り開いた道を追いかけてゲンとケイトもやってくる。


 「二人は無事か!」

 「大丈夫。生きてます!」

 「よし。一旦離脱するぞ!」


 ゲンたちは装甲車に飛び乗ると敵の増援が来る前に車を発進させてその場から逃げた。


     ◇


 一方そのころ、ユウの偽物の襲撃を受けたツカサは辛うじてその攻撃を避けていた。


 「なんの真似だ……!」


 ツカサはユウが偽物であると気づいたわけではなかった。しかし攻撃を避けられた。

 ツカサはまだユウをあまり信用していなかったから。ユウが人間に牙をむくような事態も想定のうちだったから、攻撃に対応することが出来たのだ。

 そしてユウが人間の敵に回ったのなら、それを迎え撃つ覚悟も準備もツカサにはあった。

 なおも襲い掛かってくるユウの偽物。ツカサは攻撃をぎりぎりで躱し、手にしていた銃のモードをスレイブロイドにすら有効な威力を持つ実弾に切り替えた。

 どうせ相手は機道ユウだ。殺すつもりでやっても大したことにはならないし、それくらいでなければ太刀打ちできない。

 ツカサは躊躇なくユウに向けて殺すつもりで引き金を引いた。

 ユウの偽物はその反撃を予想していなかったのか真正面から食らった。するとその姿が揺らぎ一瞬だけ真の姿が見えた。銃撃を防御姿勢も取らずに喰らったせいで擬態に関わるパーツが破損したのだ。火花を散らし部品を落としながら、辛うじてユウへの擬態を保って後ずさる。


 「!? そうか、お前偽物か」


 相手の落としたパーツを拾ったツカサはその正体に気が付く。

 これで本当に躊躇する必要もないとツカサは銃を握りしめる。

 だがユウの偽物は正体を見破られたのが余程問題だったのか路地裏の向こう側へと消えていく。


 「待て!」


 ツカサは追いかけるも姿を見失う。すぐ後ろで気絶したままの仲間たちを守るためにも一人気を張り詰めて周囲を警戒してさらなる襲撃に備えるツカサ。


 「お前は本物か?」

 「!?」


 突然背後からユウの声がしてツカサは反射的に引き金を引いた。

 だがそのユウはさっきまでの偽物とは違い、きっちり銃弾を弾き落としてお返しとばかりに拳を繰り出してきた。

 流麗な軌跡でツカサのみぞおちにめり込むユウの拳。その感触にツカサは覚えがあった。


 「なんだ……本物か……」

 「こっちのセリフだ」


 そのまま気絶するツカサ。現れたのは本物のユウだった。ユウは咄嗟の反撃で気絶した人間を一人増やしてしまったことにため息をつく。

 仕方がないとユウはマフラーを追加の腕へと変える。自前のものと合わせて腕は4本。ユウは腕一本に一人ずつ倒れた男を掴むと、4人まとめて引きずって歩き出した。


     ◇


 これがことの顛末。こうして2班は壊滅したのである。

 気絶したまま運ばれていく者たち。彼らは意識の深層で皆一様に同じ夢を見た。

 それは二日前の出来事の回想だった。敵の策略に嵌った皆は自戒を込めて無意識のうちに、自分たちの敗北によって一番悲しむであろう女の子のことを皆思い出していた。

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