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走る神話は機械仕掛け  作者: 映見明日
第11章 偽りの攻防
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洗脳実験

 ユウたちはすぐに現場へと急行した。人のごった返すハロウィンイベントがスレイブロイドに襲われたのだとしたらどう考えても不味い。

 しかしユウたちが駆け付けたとき、そこには奇妙な光景が広がっていた。

 とりあえずけが人は一人もいない様子だった。爆発音こそしていたが殺傷力のある兵器が発動したわけではなかったらしい。

 街にも破壊の痕跡は全くなかったし、ついでにスレイブロイドの姿も発見できなかった。

 代わりに、イベントに参加していた群衆が誰も逃げることなくその場にとどまっていた。すぐにこの場を離れるよう声をかけても、体をゆすっても反応がない。

 全員正気を失っていた。


 「なにこれ……」と思わずリオが呟く。


 近隣住民だけならともかく、集まった仮装集団が一人残らず生気を無くした光のない目で徘徊するその様は奇天烈極まりなかった。なにしろ大半が普通の恰好ではないのだ。普通では無い行動に終始しているコスプレ奇行団には畏怖すら抱ける。

 一体この場所で何が起こったのかと皆あたりを見回す。見覚えのあるドローンが浮遊していたことに最初に気づいたのはユウだった。


 「……よりによってお前か。カレン」


 ユウがにらみつけるとドローンはその場にカレン来栖のホログラムを投影した。


 「邪魔をしないでくれないか。今日はデータ収集が目的だ。君に用はない」


 開口一番にカレンは言ってきた。ユウは目つきをさらに鋭くする。


 「お前、人間の脳を犯したな?」

 「ああ。ディバインエンジンは確かに万能だ。簡単だったよ」


 ユウの指摘をカレンはあっさりと認めた。

 車いすの彼女の言葉はどこか片手間だ。キーボードをせわしなく叩き、目の前の画面に目を凝らしている。ホログラムに投影されているのはカレンと車いすだけなのであくまで推測であるがきっと間違いない。

 そんなカレンの様子に、彼女が今この瞬間もデータをかき集めていることをゲンは見抜く。


 「洗脳、ということか」


 つまりこれは人体実験だ。だからこそ人の多い日時と場所を選んだのだということを皆も察してカレンを睨む。

 特に今晩の予定を誰より気にしていたヒロキたちは思わず声を上げた。


 「ふざけんな。洗脳もそうだけど、なんで今日なんすか。こっちは大事な予定があるってのに!」

 「「そうだそうだ」」


 しかしそんなものカレンは気にもしない。


 「うるさいな。私の成果のおこぼれに預かるだけの分際で。黙って私にーー」


 そこでカレンの言葉が途切れた。ノアが強襲し、大鎌でドローンを真っ二つにしたのだ。カレンのホログラムは跡形もなく消えた。


 「御託を聞く時間が惜しい。さっさと行きましょう」


 巨大な鎌を軽々と振り回したノアは洗脳された街を見据える。


 「どこかにディバインエンジンの力を中継する装置があるはず。それさえ破壊すれば……」


 ノアの口から語られるこの状況を収める方法に2班たちも活路を見出す。


 「ならすぐに捜索にーー」

 「いや、お前らは引き返せ」


 息まく2班たちをユウが止めた。

 なんでそんなことを言うのか聞く2班にユウはカレンが『私の成果のおこぼれに預かるだけの分際で』と口にしたことを指摘した。

 あのセリフは、2班の装備がファーストファイルを利用していることをカレンが気付いていることを意味していた。


 「カレンの言った通り、お前らはあいつの残したファーストファイルというおこぼれに預かってるだけだ。根本的に相手にならない」

 「足手まといって言いたいのか?」

 「他になんといえばいい? 言っとくが俺の加護がなきゃお前らもとっくにアレの仲間入りだからな」


 そう言って洗脳された人々を指さすユウ。

 2班たちは以前にユウから渡されたお守りを取り出す。それが自分たちを洗脳から守ってくれていたのことに気づき、決して手放さないように大事にしまいなおす。


 「どうせ洗脳装置を壊すだけだ。大人しく帰るんだな」


 ユウは2班たちを置いてノアと二人だけで街の中に入ろうとする。だが2班もそんな言葉だけで引き下がれるほど甘い仕事をしているつもりはない。


 「聞けると思うのか。そんなこと」

 「俺たちに逃げは許されない。わかるだろ?」


 ツカサもゲンも口々に言った。それが単なるプライドの話でないことはユウも理解できた。


 「……邪魔したら追い返すからな」


 止む無くユウは2班たちの同行を認めた。




 そうしてカレンの実験場と化した街の中に乗り込んだ一行だったがすぐに音を上げることとなった。

 なにしろ洗脳装置と簡単に言ったものだがその手掛かりは一切なかったのだから。


 『ってどこにあんだよ、洗脳装置って!』


 各人散会し、街のあちこちを探っていた2班たち。情報を共有するために繋がっていた通信に嘆きの声が木霊した。


 『なんかないの色とか形とか』

 『分かれば苦労はないです』

 『カレンことだ。粗末な見た目はしてないだろうが……』


 リオの問いかけにノアもユウも雑な回答しかもたらさない。


 『捜索範囲はこの町全部っすよ?』

 『しらみつぶしで探せと?』

 『確実に日が暮れますよ?』


 思った以上に不味い状況にヒロキたちは嘆き、目の前にいる洗脳された人々を見やる。

 カレンの実験のためなのか彼らは機械的な整然とした挙動しかできず、人間的な動作をしない。

 おそらくカレンは彼らに食事などをさせることなど考えてもいないだろう。放っておけばいずれ限界が来る。


 『戦闘がないだけ幸いと思うしかない。急ぐぞ』 


 ツカサが号令をかける。街に立ち入ったがいまだカレン来栖からの攻撃はない。

 それだけが唯一の朗報だ。洗脳されて自力で逃げられない人々を戦いに巻き込むのは危険すぎる。

 大事になる前に事態を解決しなければと皆気を引き締めて捜索に集中する。




 だがその様子をカレンはずっと見ていた。

 ドローンを破壊されながらもカレン来栖は街の様子を確認していた。

 どこかにある秘密の研究所。カレンが隠れ家として使用するその場所には無数のモニターが並べられ、そこにいくつもの視点から街の様子が映し出されていた。

 カレンのハッキング能力を駆使すれば街に設置されていた監視システムや一般人の携帯カメラの映像を盗み出すことなど造作もなかった。


 「羽虫がうようよと。対策してないわけないだろう」


 カレンはキーボードを叩いて自らの実験を邪魔する者たちへの対抗策を発動した。

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