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走る神話は機械仕掛け  作者: 映見明日
第11章 偽りの攻防
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マの悪い展開

 10月31日。ハロウィン当日。

 多くの者の予想通りにその手のイベントが開催されて街は賑わう。その様子はテレビ中継され、2班オフィスのテレビ画面にも映し出されていた。

 その日2班に出動の予定はなかった。

 幸いにというわけではなく、この日に間に合うように仕事を片付けたためだ。機道教から押収したリストを頼りにした摘発は昨日で全て完了していた

 しかし仕事がないからと言って彼らはやたらと職場を離れるわけにもいかない。

 なんとなしにオフィスにいた者たちはテレビの中継を横目に暇つぶしの遊びに興じていた。山札から引いたカードで役を作りテーブルに広げる。

 結果、負けたのはユウだった。


 「またか……」

 「すごい。10連続ブタですよ」

 「どういう確率してんすか?」

 「他は完璧なのに何で運だけないのさ……」

 「俺が聞きたい」


 ヒロキたちに言われて、辟易した態度でなんの役も出来ていないカードを放り捨てるユウ。

 既にユウは10連敗だった。そしてその間ユウは真面目にやっているのにただの一度も役を作ることが出来ていなかった。まさに天文学的確率の負けっぷりであった。


 「あんたにも苦手があったのね。はい、罰ゲーム」


 そう言ってリオがユウの頭に何かを乗せる。猫耳のついたカチューシャだった。ユウは抗議の視線を向ける。


 「……聞いてないぞ?」

 「いいじゃない。せっかくハロウィンなんだから。ほらノアも楽しんでる」


 意地悪な笑みでリオが指さした先では、ノアがばっちり仮装をしていた。白いローブを被って大鎌を肩に乗せている。死神か何かのつもりなのだろう。

 かく言うリオもいつもよりさらにメイクが派手で飾りにしかならない小さな帽子を髪に止めている。ハロウィンを口実にメイクを楽しんでいると見えた。

 2班は任務の危険さの代わりに職場環境は緩い。かなり不利な条件で命かけさせられるのに無駄な規則まで気にしたくないとずっと前にゲンが上層部にかけあって無益な規則を無くさせたのだという。


 結果として、少し前までの暇を持て余していた期間に各人色々持ち込んでいた。ヒロキの筋トレ器具しかり、レンタロウのアニメグッズしかり。一昨日ノアがチセと遊ぶのに使っていたゲームはアトムの私物だ。

 当然かつてはツカサがその緩さに文句を垂れていたらしいが、今では整理整頓さえしていれば何も言わないという。

 だから職場で少しくらいハロウィンを楽しんでも規則としては何の問題もないのだ。


 「どうです? こんな格好、今日しかできない」


 ノア達は普段はできない格好で得意げに胸を張る。


 「いいねえ、魔女っ娘も死神娘も」

 「いや、その鎌本物じゃ……」


 呑気にのたまうケイトに反しユウはノアの持つ鎌を見て目を細める。

 どう見てもいつも戦闘に使っている剣を変化させただけの正真正銘の凶器だ。ユウは苦言を呈そうとするが、すぐに言葉を飲み込んだ。


 ノアもリオもまだ若い。年食ってからじゃ羽目を外したくても外せなくなるのだ。ならば偶にはいいだろう。

 ゲンも後ろで黙ったまま何も言わないのだ。やたらに青春を投げ捨てるような真似をすることもあるまい。そんな風に考えてユウは後ろを一瞥する。デスクに座したままのゲンはなんだかいつもと様子が違っていた。



 今日のゲンは嫌に静かだった。いつもゲンは物静かだが、その種類が違うのだ。

 ユウたちがポーカーに興じている間も全く興味を示さなかったし、珍しく心ここにあらずといった様子でじっと黙り込んだまま。

 当然ユウ以外もゲンの様子が普通では無いことに気づいていた。だけど皆ゲンが何を考えているかは見当がついていた。

 黙したままのゲンの視線が時折チラチラと机の上のカレンダーを見るのだ。

 そのカレンダーには10月31日のところにだけペンで印がされているのを皆知っていた。



 そろそろゲンになにか言ってやった方がいいだろうか。何人かがそう考え始めたころ、オフィスにいなかったツカサとナナコが戻ってくる。


 「ただいま戻りました。って、機道? なんだその恰好?」


 顔を合わせるや否や、目を丸くするツカサたちにユウは自分が猫耳姿なのを思い出す。


 「敗北の結果だ……」


 恥を忍び、嫌に可愛らしい姿で屈辱に耐えるユウにツカサたちは小首を傾げつつも持っていた大きな箱を机の上へと運んだ。

 ハロウィンの日に2班に仕事がなかったのは、ゲンの娘の誕生日だったからだけではない。そんな私的な理由だけでスケジュールを調整できるほど彼らの仕事は甘くない。

 2班にとって31日が特別な理由がもう一つあった。それは今日が兼ねてより望まれていた新装備の受領日だったということだ。

 ツカサと一緒に受け取ってきた箱の中身をナナコが披露する。


 「これが我らが新戦力、”TG602”です」


 テーブルの上で開帳される長大な砲身を備える大型銃器だった。明らかに普通のそれとは違うハイテクな見た目をしていた。


 「随分とごついなこいつは」


 早速新装備を持ち上げてみたケイトはその重みに思わず顔をしかめる。他の者もその無骨な見た目に虞を抱いていた。


 「これ以上の小型化はできませんでした。しかし理論上、物理装甲ならばこの装備の敵ではありません」


 説明するナナコ。するとユウが目を細めてTG602に顔を近づけた。


 「やはりお前らの装備、ファーストファイルを利用してたんだな」

 「「ファーストファイル?」」


 ユウの口から出た単語にヒロキたちが首をかしげる。するとリオが説明する。


 「カレン来栖がサイバーメテオを開いたとき、唯一抜き出せたデータのことよ。破損して穴だらけだったけど、そこには地球外の超常的な兵器技術が記載されていた」

 「だからサイバーメテオは危険視された。俺たち2班が設立された理由か」

 「そういうこと」


 ツカサの指摘に頷くリオ。


 「今じゃファーストファイルの復元は国際条約で禁止されてる。けど復元するまでもない部分はこの国の外交カードであり、切り札ってわけ」


 明かされる自分たちの装備の出自にヒロキたちも生唾を飲み込んだ。


 「俺らそんなの使ってたんすか」


 改めてケイトの持ち上げた銃を見つめる一同。

 一人ナナコは怪訝にユウを見つめた。ディバインエンジンというオーバーテクノロジーの悪用にはアレほど怒り狂うユウが、2班の装備の真実に気づいていながら黙認していたことが不自然に思えたのだ。


 「気づいてたんですか? ならどうして……」

 「俺が作ったものじゃないからな。それでどうなろうと知ったことじゃない」


 ユウはぶっきらぼうに答えた。ディバインエンジンだってサイバーメテオから引き出した叡智ではないのか? 自分が作ったかどうかがそんなに重要なのだろうかとナナコは訝しむ。

 しかしナナコがさらに疑問を重ねるより先に、アトムとレンタロウが不意に言った。


 「こんなもの使わず済めばいいよね」

 「全くです。少なくとも今日だけは」


 二人はじっとTG602を見つめていたが、やがてそんなことよりも大事なことがあると目線を逸らした。

 「そうだな」とヒロキも同調し、3人一緒になって天に祈りを捧げるように手を合わせる。今日だけはこのまま何も起こりませんようにと祈っているのは明らかだった。


 3人とも小難しい些事よりも目先の問題の方を重要視していた。新装備の強力さなどよりも、今晩開催される村国チセの誕生パーティーにゲンが無事に参加できるかどうかの方が大事だったのだ。

 他の皆も確かにその通りかもしれないと思う。

 ずっと黙っていたゲンも部下たちの気遣いを見て、再びカレンダーに視線を落とす。それに気づいたノアがとうとう話しかけた。


 「いいのですか? ここにいて」

 「パーティーは夜だ。休暇を取ることもない」


 なんのこととは言っていないのにすぐに言い返してくるゲン。しっかり娘の誕生日を意識している。

 しかしだからこそノアは嫌な予感がよぎった。


 「ですが、ここにいるとーー」


 言いかけたとき嫌な予感は現実のものとなった。

 点けっぱなしになっていたテレビ。ハロウィンイベントを生中継していた画面の向こうで、突如として爆発音がとどろき悲鳴がつんざき、そして画面が暗転した。

 即座に皆異常事態を察した。何が起こったのかは分からないが、何かが起きたのは間違いない。それに暗転する直前に鋼鉄の腕のようなものが見えた気がした。

 ほどなくして直通回線がコールを鳴らす。耳にあてた受話器から内容を伝え聞いたツカサは無慈悲に告げる。


 「……出動要請です」


 祈りが届かなかったことにヒロキたちは顔を歪ませ、ノアは思わず言った。

 「ほらこうなる」と。

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