表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
走る神話は機械仕掛け  作者: 映見明日
第11章 偽りの攻防
100/103

ゲンの娘

 特別な日というのは誰にだってやってくるものです。

 人間は地球の周期に番号を振って意味を付けた。祝日や祭日、その他もろもろ。人間だけが数字に感情を乗せる。

 だから、人が魔に化けるその日に、それ以上の意味を見出す者がいた。それはあの子であり、彼女でした。

 そして彼であり、ワタシ達でもありました。

 結局、その日は皆にとって特別な日となってしまいました。


     ◇


 それは月の暮れのことだった。ロングコートにマフラーを肌身離さない機道ユウの出で立ちが少しは季節感に馴染み、それとは裏腹に強靭すぎる肉体を持つがゆえに白銀ノアが気温に合わせた服を選ぶのに苦心していた10月末日。具体的な日付を言ってしまえば31日。


 先進技術特務部第2班は壊滅した。戦場で軒並みやられてしまったのだ。

 女たちは気絶して敗走する車両に揺られていた。


 「なぜこんなことに……」


 意識のない友人二人を見下ろすノアは、焦燥した表情で無念を露にする。


 他方、男たちは脅威の真っただ中に取り残されて倒れ伏していた。駆け付けたユウは意識のない彼らの体に手を伸ばす。


 「足手まといが……」


 悪態をつきながら男どもを乱暴に掴んでずるずると引きずっていくユウ。


 ―ーなんでこんな日に限って……。


 ユウとノアは一緒にいたわけではない、だが同じことを考えていた。本日10月31日には特別な意味があったからだ。

 世間一般的な観点では10月31日の持つ特別な意味とはハロウィンを指すのだろう。

 すなわちは収穫祭。仮装した子供たちがトリックオアトリートと呪文を唱えて闊歩するあれである。この国においてはなぜか大人までコスプレして乱痴気騒ぎするのが通例であるが、そんなことはどうでもいい。

 ユウたちが10月31日に特別な意味を見出したのはごく最近のことだ。

 事の発端は二日前。ユウが児童誘拐犯となりかけた日にまで遡る。


     ◇


 10月下旬の2班は連日出動続きだった。

 先日、機道教とかいうふざけた教団に大打撃を与えたが予想通り殺人ロボット=スレイブロイドの流通はさして衰えることはなかった。だがその代わりに2班は機道教から取引リストを押収できた。それはごく一部ではあったが機道教がどこにスレイブロイドを卸していたのか推測できるものだった。

 2班はそれを頼りにして倒すべき敵を片っ端から摘発していたのだ。

 当然ユウとノアもそれに参戦していたが、顔を無暗に晒せない立場上、戦闘終了次第後始末を2班に任せて先に帰る決まりだった。


 そんなことが続きすぎてもはや日常となってしまったその日。2班たちがようやく仕事を終えて本部オフィスに戻ってくると、例によって先に帰還していたユウがどこかの女児を連れ込んでいた。

 思わずツカサたちはオフィスの入り口で固まった。信じがたい光景に眼をこするが幻覚ではない。

 女の子はノアと肩を並べて座り込み、オフィスに備え付けのテレビで対戦ゲームに興じていた。騒がず冷静にコントローラを連打する女の子。対するノアは掛け声交じりにボタンを操作していたが、やがて帰ってきた皆に顔を向ける。


 「おや、やっと来ましたか。ゲーム借りてますよ」


 それだけ言って、ノアはまた女の子との勝負に戻る。

 固まっていたツカサたちは、少し離れた場所にいたユウに白い目を向ける。ユウはテレビとは反対側にあるテーブルで何やら細々とした作業をしつつ、ノア達を後ろから見守っていた。


 「ちょっと、あの子誰よ?」

 「まさか……」


 何人かは児童誘拐を疑っている目をしていた。それも致し方ない。

 「とうとうやったか……」とか言われても文句を言えない程度にはユウは普段の素行が悪い。誰一人ノアの方が何かやったとは疑わないのも日ごろの行いの差だ。

 ユウ自身それは自覚している。とはいえ誤解されたままでは面白くもない。


 「そいつはーー」

 「なんの騒ぎだ?」


 入り口を塞いでいた部下たちを押しのけ部屋に入ってきたゲンによって、誤解を解こうとするユウの試みは止められる。

 代わりに女の子がコントローラーの操作を止めないままに口を開いた。


 「おかえり、お父さん」

 「ああ、ただいま。…………ん?」


 何気なく返したゲンが一拍おいて硬直する。


 「「お父さん? ってまさか……」」


 声をそろえてゲンを見るツカサ達。

 ようやく皆女の子が、ゲンのデスクに置かれている家族写真に写っているのと同一人物だということに気が付いた。


 「チセ? なんでここにいる?」


 突然職場に現れた実の娘に流石のゲンも戸惑いを隠せない。

 全員が困惑を浮かべて静かになったのを見計らってユウはやっと事の経緯を説明する。


 「そこで会って連れてきた。俺の正体見抜かれたんでな」

 「「はあ!?」」


 ユウの正体。それは国家機密レベルの秘密だ。さらっととんでもないことを口にされて皆、驚きを露にする。


 「お前に似て聡い奴だ。10歳にしてはやる」


 恨めしさと称賛の入り混じった眼差しをゲンに向けるユウ。すると幼女がもう一度口を開いた。


 「まだ9だよ。明後日までは」


 そんなことが起きたのが10月29日。

 つまるところ10月31日とは2班班長村国ゲンの愛娘にして機道ユウという最高機密に触れたスーパー小学生、村国チセの誕生日だった。


 さて、それを踏まえたうえで改めて、2班が壊滅に至るまでに何があったかを31日の朝から順を追って見ていこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ