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走る神話は機械仕掛け  作者: 映見明日
第1章 ボーイ・ミーツ・マシーン
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旅立ち

 戦いを終えて一休みしていたユウたちのところにゲンとナナコがやってくるのはそれから程なくしてだった。


 「助けられてしまったようだな」

 「礼ならノアに言え。俺一人じゃ来なかった」


 頭を下げようとしたゲンをユウはそっけなく拒否する。

 それを受けてナナコが「ありがとうございました」とノアに向かって頭を下げる。


 「問題アリマセン。旅ハ道連レ世ハ情ケデス」 


 ユウとは違って素直に礼を受け入れるノア。それを聞いてゲンがユウに問いかける。


 「旅? ……まさかロボットを全部自分で倒す気なのか?」

 「そのつもりだ。止めるのは無理だぞ。人間どものためにやるわけじゃないからな」


 短い会話から相手の目的を察して見せるゲンの優秀さに感心しながらユウは若干脅すように言った。私人の武力行使を警察が認めるとは思わなかったから。

 ところがユウの予想とは裏腹にゲンは説得や、もう一度交渉しようとはせずに何か意味ありげに思案し始めた。


 何か懸念することがあるそんな顔だった。「どうした?」と聞くとゲンは意を決して口を開く。


 「実はな、俺たちがここに来たのはタレコミがあったからだ。お前がここにいるとな」

 「何……?」


 眉を顰めるユウにゲンは話した。数日前、突然自分のところに電話があり、女の声が機道ユウの居場所を知らせてきたのだと。


 「「女?」」


 思わずユウとノアはナナコに視線を送ったが、当然彼女は自分じゃないと首をぶんぶん横に振った。


 「マスター、コノ場所ヲ誰カニ?」

 「教えた覚えはない」


 ノアに問われてユウは改めて振り返るが、自分が死んだことになっているのもあってこの場所を誰かに教えたことなど皆無だった。

 確かにそれは懸念事項といえた。もしかするとことは単に殺人ロボットを処理すればいいということでもないのかもしれない。だがもうユウにもノアにも後に引く気はない。


 「まあいい。覚えておこう……っとそうだ。こいつは返すぞ」


 なんでもないようなことに振舞ったユウは壊してしまっていた携帯をナナコに投げ渡す。修復は完璧になされて傷一つない。


 「え? 私の携帯? 全部治ってる!? なんで!?」


 訳が分からないと戸惑っているナナコを横目に、ユウはヘルメットを被ってノアのハンドルを握った。


 「じゃあな。先行ってる」


 それだけ言って止める間もなく二人は走り去る。

 またしても置き去りにされ唖然とするナナコ。一方でゲンはユウの言葉のニュアンスに目ざとく気づいていた。


 「あいつ。気づいてるな……」

 「? 何のことですか?」

 「あのロボット、増援を送るのが早すぎるってことだ」


 ゲンは携帯を取り出しどこかへ通信を送った。


 「俺だ。もう街にはついてるか? ああ、そうだ。敵はまだ近くにいる」


 ◇


 ユウたちの戦った山の麓にある町、そこに近づく一台の大型車両があった。荷台にも人を載せられるように改修された特殊な車両。ゲンが通信を送った相手はその中にいた。


 「はい。わかりました。対象の捜索に入ります」


 そう告げて通信を切る若い男。彼を含めて5人の男が車内にはいた。


 「初の実戦投入、ですか?」

 「可能性はある。心の準備をしておけ」

 「脅かさないでほしいっすよ。班長達も殺されかかったのに」

 「でも無事でよかったよ。これも間に合ったし」

 「ホント丸腰でなくてよかったぜ。ナナちゃんに感謝だな」


 男たちは大事に運んできた少し大きめのジュラルミンケースを横目にしながら話す。

 何やら物騒な香りの漂う会話だが『これ』と呼んでいるケースの中身が彼らの精神を支えているのか悲壮感はない。


 ただし、ゲンからの通信を受けていた男だけは何やら神妙な面持ちを崩さない。

 彼はしかめっ面のまま、手にした携帯端末の画面を見ながら呟く。


 「だが……そもそも機道ユウが最初から協力していれば……」


 画面には今しがたゲンから送られてきたユウの写真が映し出されている。現在の機道ユウはこんな姿をしているという情報共有のために送られてきたものだ。


 機道ユウ。かつて世界を救った英雄。だが今では人間は嫌いだと救う価値もないと悪びれもせず言い放つようになってしまった謎多き少年。その写真をじっと見つめる男。


 「機道ユウ。お前は世界を救った神様なんじゃないのか?」


 問いかけるように呟く声にはどこか恨めしさが混じっていた。


 ◇


 そんなことは知らず、ユウとノアは走る。


 「マズハドコヘ?」

 「とりあえず街だな」


 取り留めもない会話をしながら山を抜け、道路に降り立ち、二人は未知なる世界に飛び出す。


 太陽の暑さも、風の香りも。川のせせらぎも過行く景色も、何もかもが新鮮。故に、この先に何があるのかもわからない。

 そんな世界を共に踏みしめているような不思議な感覚を覚えながら。


 ◇


 こうしてワタシたちは走り始めた。いずれ神話となるだろう物語を。


 目的地も定まらない行き当たりばったりな旅。


 永い旅になる気がした。でもきっと。いいや、必ずよい旅になると思えました。

ここまでで1章です。楽しめていただけていたら幸いです。

以後も同じようなペースで章が切り替わっていきますので、引き続きお楽しみください。

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