第伍幕 起床が奇妙
死んだような目付きが弟
殺した犯人の目付きが兄
◆◆◆
ぼんやりと意識が覚醒される。
うっすらと眼球に光が差し込む。
「知らな・・・知ってる天井じゃん」
視界に写ったのは記憶にある天井。
「てっ、なぜに図書室!?」
ただし家ではなかった。
円形タイプの蛍光灯ではなく棒状タイプの蛍光灯は絶対に自分の部屋ではないし、ていうか、天井に貼ってある《飲んだら乗るな、読みながら乗るな。酔う!!》という謎のポスターで判断。
どちらかというと謎の明朝体文字ポスターで決断(数年前から色褪せることなく鎮座しているポスター。意味と何故天井に貼ってあるかも不明な学校の15不思議の一つ)
「あ〜〜〜?、あれ?。なんで図書室にいるんだ?。たしか委員会を終えて帰ってる途中のはず・・・あれ?、なんか途中であったような・・・?・・・記憶が曖昧な・・・あれれ?・・・たしかに帰ったよな???」
ん?
ちょっと待て。
なんか記憶が無いぞ。
たしかに図書室から出た。
うん。これは確か。
んで自転車に乗った。
うん。これも覚えてる。
そして家に帰ろうとして・・・帰宅路をいつもと変えて・・・公園を横切ろうと・・・。
公園を横切ろうと
公園を
「・・・夢落ち?」
なんか公園で死にかけた、もとい、死んだ記憶があるんだけど。
こう、自転車ごと吹き飛ばされてグシャグシャになった記憶が・・・・。
いや、
いやいや、
いやいやいや。
やいやいやい。
なんつー夢だよ。
ありえないだろ現代日本であんなこと。
うっすらと変な二人組が記憶にあるけど冗談だろ。
本当に、なんつー夢見てんだよ俺。
笑っちゃうね。
「となると、どうして図書室で寝ていたかという疑問にぶつかるわけだが・・・」
まっ、どうせ本でも読んでたら寝てしまったか、日向に気絶させられたんだろ。
後者だったら後で仕返ししてやる。もう何度目だよ・・・・はあ、仕方ない。
帰ろう。
「あ〜〜よいしょっと」
とりあえず結論付けて立ち上がる。
真っ暗な図書室の中、ボロボロの制服のまま、床に直接寝てたようだ。体の節々が痛い痛い。
あれ?
ちょっと待て。
《ボロボロの制服》?
「なんでこんなボロボロなんだよ?」
至るところがほつれたり破れてるし、砂やら土がこびりついてるし、まるで自転車で盛大にクラッシュしたような・・・・。
「・・・いや、亜岳のイタズラだろ」
そうしとこう。
とりあえず今はそうしとこう。
「ま、まあこういう日もあるよな。と、とりあえず時間を確認しないと。あんま遅いと母さんに起こられるからな」
えーっ、図書室の時計はと・・・暗くてよく見えないな。なら腕時計は・・・
左手首の腕時計は・・・
「・・・無い。」
ていうか左手が無い
いや
あるといえばある。
ただし
「前足?」
生まれてこの方ずっと一緒だった左手の代わりに付いていたのは
真っ白な毛に覆われていて
肉球があって
攻撃力が低そうな爪が生えた
そんな《手》だった。
チャンチャン♪
「じゃねーよ!!」
待て。
待て待て。
ちょっと待て。
「一体全体何事だんべ?」
混乱の余り語尾がおかしくなった。
いや、おかしいのは俺の左手だ。
てゆうーか左足?
着ぐるみの可能性は
指先に力を入れて・・・
「あっ、動く」
なら右手で引っ張ってみて・・・
「取れねーし」
つねると・・・
「痛い」
・・・
幻覚
「そうだ幻覚だっ!!」
もしくは幻影だ!
「あはははは、幻覚だ幻覚だ幻覚だ、イッツァミラクルマジックマッシュルーム」
笑いながらブンブン左手を振りましてみる。
幻覚を振り払うようにぶんまわす。
ガリガリと記憶が、公園での記憶が蘇る。
それを振り払うようにぶんまわす。
結果
《ガン!!》
「痛ったぁー!!」
本棚におもいっきしぶつけた。
ガンガン痛みます。
ジンジン痛みます。
マジで痛ぇぇー。
えっ? じゃあマジで本物なのか・・・いや、
いやいや、
まあ、待て。
焦るな焦るな、せっつくな。まだ答えを出すには時期焦燥だってな。着ぐるみを中から接着剤で固めた可能性も否定できない。
と、とにかく、
とりあえず左手のことは置いておこう。そうだ、時間だよ時間。時間が知りたかったんだ。腕時計が無いなら図書室の時計を見ればいいジャマイカじゃなくて、じゃないか!
と、混乱する頭で周囲を見渡そうとした時
「ほほう。無事に戻りてたまわるか・・・呼ばば降りてたまわるか・・・」
誰かの
俺のじゃない誰かの声が聞こえた。
女性の、若いけどなんだか渋い声が背後から聞こえた・・・・・・って、
え゛、警備員?
ギギギギと錆びた扉のように軋みながら振り返る。
まずいだろ、こんなボロボロの服で馬鹿みたいな左手で、しかも夜中の図書室だよ? 言い訳のしようがないっつーか、警備員って女性だったけか?
いや、そんなことより上手い言い訳を・・・
と振り向いた先にいたのは
「なにせ久方ぶりじゃったからの、かかか、戻りてよかった。善哉善哉」
月明かりに照らされた机の上で、身長は150くらいだろうか、高くても160程の背丈に腰まである長い銀髪をたなびかせながら笑う紅い瞳の全裸の女性
もう一度言おう
ぜ・ん・ら・の女性
「ん? どうしたのじゃ、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしておるぞ」
「きゃ・・・」
「きゃ?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」
「ぬぉ! やかましぃわぁ!」
悲鳴を上げたら怒られた。
つーか、は?
え?
何?
誰?
何なんだこの状況?
誰なんだこの女?
?
え?
いや?
いやいや
いやいやいや
やいや
いやいやいやいやいや
やいやいやいやいやい
落ち着け!
落ち着け!
オチツケ!
お茶漬け!
奈良漬け!
じゃなくて落ち着け俺!
いいか、いいか俺!
考えるんだ! 今何をすべきか考えるんだ! 何を言うべきか考えるんだ!
全力で見る?
・・・変質者か俺は!
全力で相対する?
・・・変質者か俺は!
全力で脱ぐ!
・・・変質者か俺はってどうした脳髄! しっかりしろ理性!
全力で逃げる?
しかないだろ!
よーし、結論は出た。細かいことは後回しだ! 女のことは見なかったことにするんだ!
いいか俺!
まずは、まずは、まずは
「どうしたのじゃさっきから? 挙動不審じゃぞ。まぁわしの美しいぼでぃーを拝謁できたのじゃから仕様が無いかの、かかか」
まずは・・・
「まずは服を着やがれ!」
「おぉう。反魂したてじゃというのに元気な奴じゃの・・・ん?」
え?
反魂?
なんつったこの銀髪変態女は?
いや、目を閉じてるから見えて、見てない、絶対見てないんだけどね!
でも今、普通の人生の中だったら聞かない言葉を・・・・・・
「ぬぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ひぃ!」
こ、今度は叫び出したしなんなんだよこの銀髪っ娘!
「裸ではないかぁぁぁ!」
「今更かよっ!」
「ぁぁぁぁ・・・まあ、よいわ」
「よくねーよっ!」
全然よくねーよっ!
って、
あ・・・・・・
逃げそびれた。
「ぬぅ・・・仕方ないの・・・服なぞないし・・・おおい御主よ、ちょいとカーテンを貰うぞ」
「は?」
「そりゃ・・・ふむ、いささか大き過ぎるかの・・・こう・・・ふん・・・これぐらいか・・・こう回して・・・ぬおっ、ホックが刺さった! 地味に痛いぞ!」
なんか掛け声の後にバリバリとホックの外れる男がして、こうビリビリと布が裂ける音がして、ゴソゴソと何かの音がして、
「もう良いぞっと・・・何をしとるか目を開けい」
何か言われた。
いいのか? 信じるぞ、信じるからな、絶対に信じるからな! 目を開けるからな!
と、ゆっくり瞼を上げた視線の先に写ったのは、
図書室の窓に使われてと思われる灰色のカーテンをインドあたりの民族衣装みたく身にまとったさっきの銀髪女が・・・って、
あれ?
それはともかく、完全に逃げるタイミングを逃してないか俺?
「かかか、中々良い目付きをしとるではないか御主」
え? 目付きを褒められた!
「猛禽類を思わせる鋭さに、この世が憎くて仕方がないといわんばかりの怨嗟が宿っておるのぉ」
いや、けなされてないか?
いや、いやいや、何落ち着いてるんだよ。よくよく考えてみろ、最初と状況が変わってないぞ!
裸の女性がカーテンを身に纏っただけだぞ。十分に変質者だって俺!
い、今からでも遅くない、急ぎこの場から、図書室から脱出を
と、
逃げようと、
走ろうと、
一歩踏み出して
ーズダンー
と転んだ。
それはもう盛大に転んだ。
ただ問題なのは転んだことじゃなく、呆れたように眺める銀髪の女でもなく
転んだ足元に、
いや、転んだ右足の足元に
自分の右足が取れて、落ちていたこと。
◆◆◆
「・・・は?」
頭が真っ白になるっていうのはこういう状況で使うんだろう。
目覚めてからの急展開、驚天動地に脳の処理がオーバーした。
理性がショートして
本能が役目を忘れた
「・・・は?」
つまり、
つまりは、えーーっと、
足だ。
右足。
くるぶしの辺りからつま先までの右足。
いつもの靴を履いた俺の右足・・・あっ、土足だ。
じゃなくて。
右足
赤い液体が溢れてる右足
本来結合されてる筈の足首付近からは、ボロボロのズボンから染み出すように赤い紅い朱い液体が・・・・・・血液が・・・血が・・・血・・・!
「血ぃぃぃぃぃ!?」
活動再開ー叫ぶ!
躍動復活ー喚く!
再度ー眼を見開く!
「ち、あ、ぎ、あ?、き、ききき、ち、は、ははははは、い!、血!、あ、足?、痛、痛くない?、足!、ぎ、ひ、ひぃ、痛くないけど、ひひ、ひぃぃぃぃぃ!」
パニック
なんで、なんで、なんで右足が取れてるんだよっ! はぁ? 意味解んねーよ。わかりたくもねーよ!あし、足、あし、あしぃぃぃぃぃ。
「えぇい! 喚くな煩わしい。僅かばかし術が失敗しただけじゃ、今に治すから黙っておれっ!」
あ? は? なんだよ? なんの用だよ銀髪女ぁ! こっちは足が、足が取れててそれどころ・・・失敗?
術が失敗って言わなかった?
て、呆けていると。
いつの間にか近づいていた銀髪女が、
《グワシ!》
落ちていた右足を拾い、俺の横にしゃがみ込み。
《ベロリ》
血が溢れる傷口(?)を舐めて、
《グチャリ》
乱暴に舐めた右足の傷口(?)と右脚の傷口(?)をくっつけ、
「ほーぅ、ほーぅ。戻りたまへ、帰りたまへ。其の躯に戻りたまへ。故里ならば戻りたまへ。故郷ならば帰りたまへ。
寄り人は、今ぞ寄り来る長浜の、九品仏の浄土を訪ねてたんべ、五品山の地獄を尋ねてたんべ。
雌鳥雄鳥鳴きまして、葦毛の馬に手綱揺りかけ待ち給う。迷い子たれば呼びたまへ。亡者申します、亡者まします、まします亡者の名を喚びて。 ほーぅ、ほーぅ。
戻りたまへ帰りたまへ、ほーぅほーぅ。
一百三十六地獄から、御主よ降りて給われー
故郷の御霊よ還りて給われ」
呪文、というかお経みたいな言葉を発した。
で、
「うむ、こんなもんかの」
納得したのかなんなのか知らないが、うむうむとうなづきながら俺の足を握っていた手を放すカーテン女、すると、
「くっついた・・・」
もう今日俺はどれだけ驚けばいいんだろうか。
たしかに、確実に右足は取れてたはず、転んだ拍子(?)に外れたはずなんだ。
なのになんだ!
なんでこのカーテン銀髪女が変な呪文(?)を唱えたら元に戻ってるんだよ・・・。
一体全体俺は何に驚けばいいんだ?
左手がモフモフの前足になったことか?
変な銀髪カーテン女が居ることか?
右足が外れてくっついたことか?
気がつけば図書室で寝ていたことか?
それとも、公園で死にかけた記憶があることか?
誰か教えてくれ・・・。
「かかか、驚いておるの、唖然としておるの、困っておるの、良い顔じゃ、わし好みの良い顔じゃ、かかかかかかか」
・・・ああ、そうかい。そういうことかい、あれだろ? この目の前で呵々大笑しているこの銀髪カーテン女に聞けってことだろ、ええ神様よぉ。
全部、全部知ってるんだろこのカーテン女がよぉ。オーケーオーケー把握した。ああ、把握したとも。驚き過ぎて逆に冷静になってるからさ、もう多少のことなら驚かないぞ。
「うむ? ほう・・・目付きが変わったの、良い目付き・・・あ!」
「へ?」
パサリと、なんの脈絡もなく、つーかこの場面でそうなるの?とツッコミたくなるくらい突然に、銀髪カーテン女が纏っていたカーテンが
ズレ落ちた。
つまり
俺の目の前に再びぜんら・・・
「うぬ、やはり即席では「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びました。
ゴメン、流石に驚くって
「まてぃ御主! さっきから御主の叫び声はわしの台詞のはずじゃろうて!」
「ぁぁぁ! そうかもしんないが服を着ろ! なんでもいいから服を着やがれぇい!」
ダメな方向に阿鼻叫喚
床にはいつくばりながら金切り声を上げる男子高校生と、全裸で間違った叫び声を上げる銀髪女の構図が出来上がった。
これだけは言っとこう、俺は何も見ていない。
◆◆◆
はてさて、
さてはて、
さいはて、
最果て!?
とか、どこにたどり着いのかは知らないが、とりあえず、俺が今、おかしな状況に陥っているのは確かだろう。
「落ち着いたかの?」
ああ、落ち着いたよ銀髪カーテン女。
「かかっ、やはり良い顔をしておるの、何より眼が良い。その恐怖を具現化した眼が良いのぉ、かかかか」
うるせー、この目付きは生れつきだ!
とかなんとか思いながら銀髪カーテン女と相対する。
相対と言っても俺は床に胡坐をかいて座り、銀髪カーテン女は図書室備え付けの椅子に座っている(ふんぞりかえっている)から見下ろされている状況なんだが。
ああ、銀髪女はちゃんと服を纏っているからあしからず。
で、
「てめーは誰で、なんで俺は図書室に居て、さっきの足が取れたのとくっついたのはいったいなんで、この左手(前足)は一体全体何なんで? どうして手前は裸なんだよ!?」
聞いて尋ねて詰問する。
返事は答えは回答は
「そうさのう・・・ふむ、まずは順を追って話そうかの。御主、この学び舎の近くにある公園での記憶はあるかや?」
公園?
思い出す。夜の公園、自転車で横断しようとした公園。
死んだような
死んだ記憶がある公園・・・いや、生きてるから気を失っただけなのかな?
それはともかくあの公園のことか?
「俺がチャリで入っていった公園のことか? なんか吹っ飛ばされた記憶しかないが、つーか吹っ飛ばされてから記憶が無いんだが・・・あっ、かすかに変な二人組がいたのを覚えてるな、後よくわかんねー動物らしき物体もいたような気もする」
「ふむ、そこまで覚えておればよいか。では至極簡単に説明してやろう。御主を吹き飛ばしたのは、その見たという二人組じゃよ。確か水晶球を持った男じゃったはずじゃて。そして御主は吹き飛ばされた衝撃で左手がもげ、右足はちぎれ、乗っておった“ちゃり“は大破し、ついでに部品が腹に刺さり、内臓は潰れ、血液を地面に垂れ流しておった訳じゃて。ボロ雑巾の様とはよく言ったものじゃの、無様な死に様だったて、かっかっかっかっ」
かっかっかっ・・・て、待て。ちょっと待て、ちょいと待て。
「おいおいおいおいよー。あのよぉ、そんなこと言われても信じられると思うか? 第一俺は生きてるし全然無事だぞ!」
たしかに服はボロボロになってるが、息してるし、腹にチャリは刺さってねーし、内臓だって大丈夫だよな? 左手も右足も健在だ・・・左手?右足?
えっ?
「話しは最後まで聞くものじゃぞ。よいか、たしかに御主は死んだが、それは肉体的に死んだのであって魂までは死んでおらんかったからの、腹に刺さっておった物を抜いて傷を塞ぎ、ちぎれた右足も繋いでの、左手だけはどこに飛んでいったのか見からんかったから代わりにわしの躯の一部を分けて代用させ、後は人目に付かず、尚且つ御主の匂いが濃い此処(図書室)で夜行の秘術を使い御主を呼び戻した訳じゃて」
なぁ、どこからツッコミを入れればいいのかな?
まあ、そんなことはいいから、
「・・・さて、ドッキリのカメラはどこかな? おーい、居るんだろー亜岳に日向。いい加減出てこいよー、今ならまだ手の平にシャーペン注射の刑で許してやるからさぁー」
夢にしちゃーリアルだからきっとドッキリカメラだろう。そう結論して辺りを見渡す。きっとどっかにいるはずだ、日向あたりならやりかねん悪戯だからな。そう、この銀髪っ娘はバイトかんかだろう。
「はぁ、やはり信じんか。仕方ないのぉ・・・おい御主っ、ほれ、天井ばかし見ておらんでこっちを見よ、少しばかり怖いぞ」
あーなんだよぉ、エキストラの人は関係ないから黙っていてくれよ。きっと亜岳が天井から降りてくるはずなんだよぉ、きひひひ笑いながら降りてくるんだって。
「じゃからわしの方を見んか! ってぬお! 恐! 睨むでないわっ!」
睨んでねーよ、初期設定のままだよ。
「ふんっ、まあ、よいわ。ではそのまま見ておれよ、ゆくぞ」
おう、逝ってこい・・・て、ん?
《バキリ》
あれ? なんか爪が伸びてないかこの銀髪っ娘?
《ギガリ》
気のせいかな、羽根が生えてないか?
《グチャギリャ》
尻尾? ねぇ? その纏ったカーテンから出てきたのって尻尾?蛇?
《ベリガキビリ》
毛? 毛皮なの? 羽毛なの? 爪なの? あれ? 顔は? おい銀髪っ娘、顔はどこいった?
《ジャリガチュラバリバリグチュベチャガキポイーンデログギガヂへっくっしゅんダリギギギダギャゲキゲキバリズダヅダズンタッタポニョガリガキズギャガキ》
・・・・・・!
・・・・・・・・・・あ
・・・・・・・・・・・・あああああ
「あ、あ、あああ、あああああ」
『ふむ、少しはこれで信じられるかの』
俺の目の前に現れたのは、さっきまで銀髪カーテン女だった存在は
猿と猫を足したような顔に、虎のような胴体、鷲とか鷹のような前足に、狐か狸を思わせる後足、尻尾が蛇で、鳥のような羽と蝙蝠のような羽が一対になった翼の・・・
翼の・・・
翼の・・・・何だ?
えっ? あ? は?
「・・・化け物」
そう、化け物としか言いようがない、説明のしようがない、納得のしようがない恐怖が
化け物が、薄暗い図書室の中、巨大な図体を鎮座させて圧倒的な存在感を漂わせていた。
こいつは、どこかで・・・ああ、ああそうだ、このシルエットを見たことがあるぞ。たしかに記憶にある。いつだ、いつの記憶だ、この、この化け物をどこで見た?
『かかか、この姿で御主の前に現れるのは二度目になるのかの』
まるで脳に直接響いてくるような声が聞こえた瞬間思い出した。
そうだ、こいつは昨日の夜に俺の部屋の窓から見えたシルエットにそっくりなんだ! いや、まったく同じなんだ!
で、
結局なんなの?
なんなんだ?
「てめーは一体全体なんなんだよっ!」
混乱のあまり叫んだ。理性が追いつかなくて叫んだ!
あらん限り叫んだ。
『かかか、わしが何者か問うのか?』
巨大な図体の化け物がゴリゴリと首を動かす。
『見てわからんか?』
圧倒的な恐怖が俺に一歩近づく。
『御主が言ったではないか、化け物と』
ゾクリ、と体が震える。
『じゃが、わし的にはこう言って欲しいの』
人ではない、何なのか解らない瞳と目が合う。
『妖怪、と』
そう言って、目の前の化け物はニタリと”笑う”。恐ろしく笑う。
『十六夜に鳴きし姿無き妖怪、”鵺”とな』
俺はただ、恐ろしくて、恐くて、ただひたすら、眼前の化け物を、妖怪を、鵺と名乗る妖怪を見てることしか出来なかった。
『かっかっかっかっか』
得意げに笑うおぞましい鳴き声だけが図書室に響き渡った。
『かっかっかっかは、はっ、はっくしょんっ!』
くしゃみが最後にむなしく響いた。
「・・・・・」
『・・・・・』
返せっ!俺の恐怖心を返せ!
ついでに家に帰せ!
久しぶりの更新です。
お待たせしましたごめんなさい。
といいますか、待ってた人なんているんだろうか?
はてさて、さてはて、最果て。
とりあえず『この最悪なる世界と』が完結いたしましたのでこちらを再開します。一応ですが『最悪なる~』の主人公も登場させる予定です。というかもう居る描写はあります。興味がありましたらそちらも読んで頂けると嬉しいです。一応前作よりもギャグ分を多めにしたいと思ってます。簡単に言えばはっちゃけるつもりです。ですが作者にお笑いの才能が隕石にぶつかって死ぬ確率並に無いのでご了承下さい。
ちなみに、作中で銀髪っ娘が喋った「ほーぅ、ほーぅ」からの呪文(?)は某戦国爽快アクションゲームのとあるキャラからきています。つーかほとんどそのまんまの部分もあります・・・大丈夫かなぁ?
わかった方がおりましたら感想にて教えて下さい。特に何もありませんが嬉しいです。
そんな作者と、若干まずいんじゃないかと思ってる小説ですが、これからもよろしくおねがいします。
さて、ネコミミをどこにいれるか・・・。