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第参幕 日向な亜岳

この物語はフィクションです。登場する人物名、団体名等は実際のものとなんら、微塵も、いっさいがっさい関係がありません。

永遠について母親の会話より抜粋

「どうしてあの子はあんなにも目付きが悪いのかしら?」






◆◆◆





翌日

一秒たりとも間違えることなく鳴り響いた目覚まし時計のアラームにいつものように叩き起こされた朝。寝ぼけ眼のまま何気なしにカーテンを開けて朝日を眺める。

そこでふと思い出す。


あぁ、昨日の夜に変なのを見たんだっけか


と。

一応のため一瞬だけ化け物が見えた電柱を見てみるけど、もちろんそこには何も無い。

「ふぁ〜〜〜ぁ。」まあ、そりゃそうだよな〜と安心しながらあくびをする。

一晩たってしまえば大抵のことが気のせいだったんだで済んでしまうのが人間というもので、昨晩の怪奇現象らしきものも適当に理由付けが可能なのも世の中だ。

過ぎた訳の解らないことに心労をさせるのも馬鹿らしいから忘れよう。

そう朝からテンションが下がる精神論をして制服に着替える。

二年目ともなると着慣れたブレザーのネクタイを絞め、必要最低限の物しか入っていないカバンを持ったところで

ダンダンダンダン

と、弟が階段を降りていく音がドア越しに聞こえてきた。

その足音でようやく家族と顔を合わせることができると再び安心。そうこうする間に仕度も終わり、下に降りるためにガチャリとドアを開ける。

去りぎわに見た部屋の窓の景色はいつもと同じ風景。


やっぱりこれが日常だ。





◆◆◆


学校





何事も無く終了。


◆◆◆


放課後



委員会。

そして俺は図書委員。

といってもほとんど幽霊委員に近い形であり滅多に顔を出したりはしないんだけど。

各クラスから一名は必ず選出される図書委員。うちの高校は普通高校のため学科は普通科しかないけれど学年7クラスはあるため単純計算で21人は委員がいることになる。まあ、部活をやってる人間は基本的にそっちを優先させるし、俺みたいにやる気があまりない生徒もいるため実質上稼働している委員は8人ぐらいだ。その8人で放課後の図書委員会の仕事を9割こなしているのだから頭が下がる。

「頭は下げなくていいから真面目に委員会に来たら?。」

「ごもっともです。」

あれ?、なんか心読まれてね?。

「気のせいよ。」

「気のせいか。」

納得。


納得?


「それより父ちゃん。」

「誰が父ちゃんか!!。」

「それよりとーちゃん。」

些細な言い違いだなー。

「あ〜なんだ?」

「これ未返却本のリストなんだけど、一応返ってきてるかもしれないから確認してきてくれる?」

「あいよ。」

そう言って渡されたルーズリーフを受け取って席を立つ。

今いるのは学校の図書室。図書委員会の最中なのだから当たり前といえば当たり前か。

そして俺にルーズリーフを渡したのはクラスこそ違うが同学年の図書委員である‐日向日向《ひゅうが・ひなた‐。

肩の辺りで切り揃えられた黒髪は一度も染めたことが無いというし、素行不良な要素は一切ない。つまりは真面目な図書委員8人のうちの一人だ。

逸脱している名前からわかるように少々癖がある性格であけれど、比較的仲が良い女子の一人でもある。

「げっ、こんなにあるのかよ。」

そんな日向から視線をルーズリーフへと移して呟く。

書かれている本の題名は10以上はありそうだ。

「たまに来たんだからしっかり働きな。」

「昨日も来たよ。」

目ざとく呟きに反応する日向に背を向けて仕方なしに本棚へと歩く。

まったく、こんなふうにこき使われるから来たくなくなるのに。

「黙って働け。」

「心を読むなっ!」




さてと、この未返却本を確認する作業というのは、図書カードの返却に印が付いてないけど、もしかしたら返ってきてるかも。ということでおこなっている。たまにあるんだ、自分で返却する生徒や、間違える図書委員が。

「えーっと、まずは‐アドルフ・ヒトラー著 我が闘争(日本語版)上巻か・・・なんでこんなのが学校の図書室にあるんだよ。」

予想以上に突飛なタイトルに突っ込みつつ、歴史・社会コーナーに足を向ける。

と、

一人の男子生徒が三、四冊の本を片腕にもって本棚と睨みあっていた。

身長は175くらいで痩せ型のこの男子、ブレザーのネクタイの色が薄緑だから一年生だとわかる。だというのに右耳にはピアスが光り、ザンギリのような髪型は茶色が少し混ざっている。もちろんブレザーのボタンは全部はずして着ている。

パッと見不良に見えるこの男子一年生。

入学式を我が校初となる茶髪で挑むという暴挙から始まり、翌日から上級生に目を付けられ、一週間後に数人を病院送りにし、二週間後に生徒指導室に呼ばれ、三週間後には学校に両親を呼ばれるという悪い意味での伝説を造った後輩がそこにいた。

「あっ、とわさん先輩お疲れ様です。」

だというのに懐かれている俺がいる。

別に俺が不良仲間だというわけでは決してない。

「おーっす亜岳あたけ。お前の大変だなぁ、また日向に巻き込まれたのか。」

そしてなんと図書委員。しかもしかも真面目に委員会に励8人のうちの一人というから驚きだ。

「アハハハ。別に好きでやってるかいいっすよ先輩。こうやって返却本の整理してるだけでも楽しいですから。」

そう言って抱えた本を手に取り棚へと戻す亜岳後輩。

この後輩のサクセスストーリーを語ると性質たちの悪い映画が一本出来上がる。

簡単に粗筋を説明すれば、一番最初の委員会をサボタージュした亜岳を日向日向が物理的(文字のごとく)図書室に連行(拉致ともいう)。反抗する亜岳を論理的(広辞苑・六法全書・アンネの日記の角による打撃)で説得し、金曜日の午後から月曜の朝まで三日三晩(これが本当にやった。だって俺が二人に三日間弁当を配達したから覚えてる。)文学の良さと高校生活の大切さをを懇切丁寧(海兵隊式肉体言語を含む)に説明。

気が付けば先生方でさえ手が付けられないと思われていた不良男子生徒が、文学超大好き・夏目漱石は神様ですな生徒に変身(変心)していた。

服装こそ変わらないけれど素行態度は真面目になり。委員会は毎回出席、授業はサボらない、ケンカもしないという様変わりように学校中が驚愕したのは言うまでもない。

俺はそれを実行した日向に恐怖した。

ちなみに弁当を届けた縁で俺に懐いてしまった。呼び名はとわさん先輩だ。さん付けの上に先輩まで付いている。意味が解からない。

「そういえば今日はどうしたんですかとわさん先輩?。先輩が委員会に来るのって珍しいじゃないですか。」

「あ~?。いやな、帰ろうとしたら日向に見付かってよ。半ば強制的に連行されたんだよ。」

これは事実。そうじゃなきゃ帰ってる。

「そっ・・それはご愁傷様っす。」

引き攣った顔になる亜岳。まあ、日向の恐怖を体験した身としてはよく解かるんだろう。

「でもとわさん先輩に来てくれると嬉しいですよ。だって先輩呼ばれないとこないじゃないっすか。ただでさえ図書の男子は少ないんすからもっときて下さいよ。」

そう。呼ばれたら行く。呼ばれないなら行かないのが俺のスタンス。まあ、それが日向にとっては、もやもやさせて、イライラさせる原因らしいのだが。

「善処するよ。」

とりあえずはそう言っておく。

別に委員会が嫌いではないけれど、好きな訳でもないからこれでいいと思うから。

「またそうはぐらかすんすね。」

そう言う亜岳の手にはもう本が無い。話ながら全ての本を元に位置に戻し終えたらしい。ケンカで鍛えられた動体神経がこのような場所で役立っているとは、素行不良に悩んでいたこいつの両親も驚く違いない。

「手伝いますよ、とわさん先輩。」

しかも手伝ってくれるという。不良だけど根はいい奴っていうのは亜岳のことを言うのだろう。

ああ、もう元不良か。

今じゃ文学教日向会の信者だもんな。


◆◆◆


「-アウシュビッツ収容所の真実‐はまだ貸し出し中ですね・・・未返却っと。そっちはどうっすか?」

「あ~?、-赤い悪魔スターリン‐は返却されてるなー。-生涯独裁フランコ将軍‐はやっぱ無いや。」

二人で未返却本を求め(これもおかしな表現だが)本棚を手分けして探す。

しかしこのラインナップはもしかして同一人物が借りてるんじゃないのかと疑わせるなー。

「とわさん先輩ー。」

「なんだー?」

「学校の周辺に不審者が出たって話し知ってますか?」

目と手を休めずに亜岳がそんなことを聞いてきた。

そこで思い出すのが昨日の帰り道に聞いた=鳴き声=と寝る前に見た=化物=

「それって滅茶苦茶恐ろしい鳴き声を出すドデカイライオンみたいな生き物かー?」

「なんっすかそれ?それじゃあ不審者じゃなくて妖怪じゃないっすか。」

たしかに、人間ではねーな。

「オレが聞いたのは駅前の商店街周辺に出没したっていう男二人組みなんですけど。」

「なんだ、裸にコート姿だったていうのかよ?」

「それじゃあ変質者っすよ。」

たしかに、そして今頃捕まってるな。

「その不審者っていうのは、一人がスーツ姿のなんですけど右手に水晶玉を持って駅前をウロウロしてたらしいっす。んでもう一人が山伏の格好をした黒人で、そいつも水晶玉の男と一緒に行動してたって話しです。」

「水晶玉に黒人の山伏?。新手の新興宗教かそいつら?。つーか駅前じゃあ俺ん家の近くじゃねーか。」

「気をつけた方がいいっすよ。宗教関係は恐いっすから。」

俺もそう思うよ。お前みたく日向教に入信したくはないからな。

「そういえばとわさん先輩の言ったライオンみたいな奴ってどっからきたんっすか?」

「あ〜?。気にすんな、適当に言っただけだからよ。ほら俺はもう終わったぞ、そっちはそうよ?」

「‐なんっすかそれ?−のあたりで終わってまーす。」

「言えやっ!!」



◆◆◆


「とーちゃん、亜岳、そろそろ帰えろうか?」

「そうっすねー。」

「・・・結局この時間か。」

図書室の窓から見える景色は既に夕焼けを通り越して薄暗い。

あ〜、昨日のことがあるからこんな時間になりたくなかったのに。

大体なんで途中で帰っちゃいけねーんだよ。

後半ただ単に本読んでただけじゃねーか。

「それは違うよとーちゃん。読むだくではなく作品の内容について活発な意見交換をしていたんだ。」

「だから心を読むんじゃねーよ。サトリかお前は!。しかも意見交換つったって単純に萌がどーだ、パンチラがどーだって下らないことばっかじゃねーか。」

「失礼っすね、とわさん先輩。活動的文化活動ってやつですよ。」

「活動が二回入ってるぞ。」

「失礼っすね、とわさん先輩。攻撃的文化活動ってやつですよ。」

「言い直すなって攻撃的ぃ!?」

「たしかにバニーガールの描写についての亜岳君の意見は非常に攻撃的だったね。」

「恐縮っす先輩!!」

なんだこのコンビ?

付き合うのが非常に疲れるんだが。

「もういいよ。俺は先に帰るからな。」

呟くように言い。下校仕度をする。といっても鞄を手に取るだけなんだけど。

「なに?一人で帰る気?。女の子を送ってあげるくらいの甲斐性はないのとーちゃんは。」

「残念ながら無いな。それに送ってもらうなら亜岳にしとけ。俺よかボディーガードの才能があるって。」

伊達に伝説を造った訳ではなく亜岳はケンカに滅法強い。四、五人ぐらいなら一人で相手出来る程にだ。

まあ、その亜岳を打ち倒した(色んな意味で)日向にボディーガードが必要かどうかはわからないが。

「んじゃーな二人共。戸締まりしとけよー。」

これ以上ダラダラ会話しても遅くなるだけなのでさっさと退室することにする。

「うぃっすお疲れさまでした、とわさん先輩。」

「また明日ね。」

流石にこの段階で呼び止められることもなく、二人に右手軽く振ってから図書室のドアをスライドさせて閉めようとして。



「そういえば、とーちゃんが一人で帰るのも危ないよね。とーちゃんの家って不審者が出たっていう駅前の辺りでしょ?」

「大丈夫っすよ日向先輩。とわさん先輩の目付きの悪さなら不審者もビビって近づかないですよ。」

「アハッハ。たしかにそうかもね。」




「聞こえてっぞっ!!」

ドアの隙間越しに叫ぶ。

陰口は本人の居ないトコでしてほしい。

いや、あれは俺に聞こえるように言ってたよなーオイ。


俺の目付きってそんなに悪いかなぁ?




◆◆◆




すっかり暗くなってしまった道を自転車で駆ける。

昨日よりも遠回りになるが、昨日通ったような森などは無い道を選択した。

この街唯一のマンション団地、と言っても中型のマンションが六棟立っているだけなんだけれど、そこを通る細い道を駆け抜ける。昨日の道よりも街灯が多く舗装も綺麗だから不安も少ないし、通行人にともすれ違っているから孤独でもない。

あれ?、俺ってこんなに臆病だったけか?

ダメだな、昨日のことをまだ引きずってるや。

「明日は図書室に行かないで帰ろう。」

漏れるのは独り言。それが余計に寂しさを増す気がする。別に友達が少ないわけじゃないし、何人かで下校することも多いが、昨日や今日のように一人で帰ることだってある。そういう一人の時は独り言ばかりになるのが癖かもしれない。

なんて思春期のような思考をしつつペダルに力を入れた。

ガタリと段差を乗り越え道路から外れる。入ったのはマンション団地の真ん中にある公園。草野球程度なら可能なこの公園には広葉樹が何本かと遊具がいくつか設置されていて小さいころはよく遊んだものだ。今ではこうやって近道ぐらいにしか利用しないが。

小さな子供に危険という理由で撤去されたジャングルジムの跡が哀愁を誘う。

むしろ大きい体格の大人の方にとってジャングルジムは危険だと思うんだけどな。

と、

ぼーっとしていると突然ガタガタ自転車が揺れはじめた。

必死にというほどでもないが、それなりにハンドル操作をするはめになる。

いくら土の地面とはいえこんなに荒れたっけか?

まるでラグビーとかアメフトの練習でもしたみたいな荒れようだ。いや、ラグビーとかがどれだけ地面を荒らすのかは知らないけどさ。

にしても荒れ過ぎだろうコレは、お役所の整備課は何してんのかね。

と、

自転車を安定させるのに気を取られながら公園の中心まで来たところで、


「っーーーーー!!!!」


真横に


凄まじい勢いで


ダンプトラックにでも突っ込まれたように


自転車に乗ったまま


吹き飛ばされた


「--------!!!!」


浮遊感ではなく飛翔感


拳銃から発射された弾丸を疑似体験しているかのような衝撃


勢いのままグルリと自転車に跨ったまま空中の一回転した時


まるでスローモーションかのように流れる視界に


スーツ姿の男と山伏姿の男二人組のシルエットが


どこか現実的に写り込んで


まるで翼が生えたライオンのようなシルエットが


どこか非現実的に写り込んで





地面に身体が叩きつけられた。


‐グシャリ‐




基本的にまだプロローグみたいな感じです。

まだまだ続きます。

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