本を積む(なに読んでんの? 俺編)
「おお、君は妖神グルメではないか」
「なにそのおどろおどろしいの」
「タイトル通り。グルメっす。
以下引用。
海底都市ルルイエで復活の時を待つ妖神クトゥルー。
その狂気の飢えを満たすべく選ばれた、若き天才イカモノ料理人にして高校生、内原富手夫。
ダゴン対空母カールビンソン! 触手対F-15!
神、邪教徒と復活を阻止しようとする人類の三つ巴の果てには驚愕のラストが待つ!
いや、ほんと、俺なに読んでんの?という体験ができると思いますよ。たぶん。
調べたら新装版出てた。」
「出版社からのコメント
「和製クトゥルー神話の金字塔」と言われた「妖神グルメ」。巻末に世界地図、年表、メニューと付録もついております。
めにゅー? めにゅーってなんの?」
「あはははは。(視線を合わせず、ほかの本を取り出す)
カレンの台所がなぜここに……」
「小説かなんか?」
「これは、料理本であって料理本ではない稀有な本でね」
「料理の本は料理の作り方書いてあるんだろ……。うん? ぼったりとくつろぐ鶏肉? 人生のスポンジ作業? なにつくらされんの?」
「普通に唐揚げとクリームコロッケ」
「マジか」
「マジのマジです。なんか、友達とわきゃわきゃいいながら料理するようなノリといいますか、すでに物語として成立しているレシピといいますか。表現が楽しい。それ、そういう表現する?とか思う。
でも、すぐに何か作りたい人には向いてない。読みだすと読むから」
「なにその表現」
「料理作ろうとしてたの忘れる」
「……ある意味致命的だな」
「ですよ……。読み物としておすすめ。これもなに読んでんの俺と我に返る瞬間はある(二回目)
おお、こんなところにSelf-Reference ENGINEが」
「今日、変なところに変な本落ちてない?」
「そういう日もありましょう。
これは短編集なんだけど、後藤さんがすき」
「後藤さんがなにすんの?」
「後藤さんが、増えたり、減ったり、爆発したり、殺し合ったりするよ!」
「……なにそれ」
「読めば事実は理解できるが、なに読まされてんの? 俺? みたいな気分になる(三回目)」
「どーなのそれ」
「得難いよ。読みやすいのに、なんか変なんだ。まあ、怒って本投げる人もいるかも」
「普通の本はないわけ?」
「普通の本ねぇ。定義から教えてくれたまえ」
「……普通にラブコメしようぜ」
「あったかなぁ。異次元にでも吸い込まれたかな。
あいたっ」
「床にも本を置くからだ。
ええと、高慢と偏見、とゾンビ?」
「ああ、それは高慢と偏見にゾンビを加えた、みたいな話。高慢と偏見が元ネタっていうの? これはニンジャが出てくる。ニンジャスレイヤーみたいなニンジャが」
「ニンジャスレイヤーこの家にある?」
「ない。身内が持ってて貸してくれるっていうのに1巻が消息不明で読んでない」
「幻のニンジャ?」
「ほんと、どこいったんだか。
で、まあ、半端な知識で申し訳ないですが、そんなイメージで」
「高慢と偏見って古典だよね。恋愛小説」
「初対面の印象最悪の二人が、色々あってハッピーエンド」
「どこにゾンビいれるの?」
「そこかしこに。サラっと説明されて、は? と思える。やっぱりこれもなにを読んでいるの(4回目)と思うわけですよ」
「……ほんと、おまえ、なに読んでんの?」
「わからぬ。でも、これ、映画化されてんの」
「……映画ってホントに劇場でしたわけ?」
「そう。2016年に。アマプラに入ってると思って油断してたら、いつの間にか無料ではなく課金対象に……。見たい映画は隙をさがして見なければいけませんね」
「(予告編を見て)あー、確かに、ゾンビいるわ。麗しいお姉さま方が、武装しとる。ガーターベルトにナイフ挟むのか……」
「そこがいいところよ。
そうそう原作には姉が好意を持つ相手を寝取る妹がいるんだけど、意外と好きよ。あの子。割とひどい目にあいながらもたくましく生きていく」
「古典にもいるのか、お姉さまの婚約者はいただきました(はぁと)みたいなの」
「そのあとのざまぁもつけておきます。みたいなの。
読み返して、そういえば、そーゆーことだよなと理解しました。ああいうの発祥はどこなんでしょうかね」
「さあ? 古そうではある」
「新発想なんて存在せぬわっ! といわれて久しいですからな。ミステリなんてアガサ・クリスティ一人でやりすぎてる」
「そんなだっけ?」
「ええと、皆殺し、みんな犯人、語り手が犯人とかかな。ほかにもあるはずだけど割愛。長くなる。ポアロ氏への偏愛とか、ミス・マープルへのあれこれとか。わたしゃ、ああいう老人になりたいよ」
「安楽椅子探偵になるのは無理なのでは?」
「ふわふわしたものを編む柔らかいおばあちゃんですよ! まずは編み物をマスターせねば」
「形からはいるのもなんかね……」
「観察眼もバイタリティも足りないっす」
「もう、詰んでね?」
「そんなことない。きっとそうだ。でも、死体が近くにあるのは遠慮したい」
「死体がなければミステリじゃない」
「黒後家蜘蛛の会がある。って脱線が……」
「なんかもっと変な本あんの?」
「え、あー、始末人シリーズかなぁ。明朗健全始末人。なんか、みんな、おかしい。以上。
あとは現物をご確認ください」
「なにそれ」
「あのですね、恨み晴らします系なんだけど、依頼がさぁ……。
ええと、部屋が片付けられない奥さんがいて、旦那さんが浮気するんだけど」
「ふむ」
「旦那さんが病気で倒れます。そこで、ご両親を家に呼ばねばなりません。さて、片付けなきゃ」
「……はい?」
「でしょ? 片付けるのは大事だが、しかし、旦那はどうすんのよ? という間に旦那死亡。葬式も終わっちゃった。で、浮気相手の殺害を依頼するわけですよ」
「……どういうこと?」
「説明しながら、説明できてねぇと打ちひしがれる。で、ダチョウさんが」
「なんでここでダチョウよ?」
「わかる。わかるけど、いるんだ。ダチョウ。しかもしゃべる。思念でしゃべってるかもしれないが、会話可能。なんか改造されちゃってる系」
「(無言)」
「あとサンマが」
「サンマがなにすんの!?」
「分け合えなかった悲しみからの依頼」
「……ほんと、なに読んでんの?」
「こればかりは読んでみないとわからん。紙の本は出回ってないようなので、中古で見かけたらチラ見していただけると……。電子書籍出てるけど、読んで! と万人は勧められぬ」
「シュールを超えている気はする」
「俺は何を読んだんだ(5回目)って感じ」
「……?」
「どうした?」
「部屋の隅からなんか、あたま? 頭かな」
「は?」
「いぬ?」
「はっ! や、やつはティンダロスの猟犬! 鋭角から入ってくるぅ!」
「どうすんだよ!」
「角を埋めればいいのだよ。あ、パテもないぞ?」
「妖神食べるような話をするからっ!」
「ぎゃーっ」
本日の本棚
妖神グルメ
カレンの台所
Self-Reference ENGINE
高慢と偏見とゾンビ
明朗健全始末人