可愛いリアには旅をさせよう
この世界には様々な世界が重なり合ってできていますよ、と村の長から聞いた。
リアは、全く信じなかった。
どこかの世界とどこかの世界が重なっているのではない。
層になっている訳でもない。
リアや長ことノノの村の一番樹にはゆうやけ、と呼ばれる小さな獅子が二体いて、黒い獅子は人間世界から、白い獅子は闇の世界から互いの世界への架け橋となっているらしい。
らしい。
「あの、ばあさま。私、そろそろ。」
「あぁ、リアか。そうだね、そうだ。立派なお役目にあたる栄光を頂けて、ねぇ、流石ハルさんのとこの娘さんだ。」
「そんでもって、闇の世界は寂しがり屋が多いんだ。私達が持つ勇気と正義の気配で満ちた、魔力を渡さねば。これは友好の証と向こう100年なるのだよ。っと、リアじゃないか!あのあれがさ、」
「やぁデーア叔父さん。今日も本当いい天気ね」
リアは長の屋敷の中で正門へと向かって歩いている。
長の言葉を無視し、叔父の子どもたちへの洗脳を見過ごし、テンプレを置いておき。
「リアちゃん、とっても綺麗ね!きっと闇の長の方も寵愛してしまうわ!」
「リア姉、リア姉、それドレスっていうんでしょ?どこで買ったの?」
「リア、私達も途中までだけどご一緒させてもらうわ」
いろいろな人の「祝言」を聞き、正門に出ると、庭には満開の桜が咲き誇り、長を含め村中の人が集まっていた。
リアが一歩踏み出すと、品定めするような視線は消えた。
「ムーア村に、幸運がありますように。」
短い別れの言葉を呟き、庭の後ろの背景を占める、高い山のてっぺんに、一番樹があるあたりに微笑みかける。
リアが手をかざすと、足元がひび割れ、そこから淡い光が漏れ出し、更に淡いもやのような霧のような階段があの山のてっぺんまで出来上がった。
「おおお、あれはかのサン=リベールの架け橋かっ」
長が感嘆する。
私はため息をついた。
「、、、姉さん」
誰にも聞こえない声で呟くと、一度振り返ってカーテシーをする。
「それではお仕えに参ります」
そう言って、自分に転移魔法を掛けた。靄のようにふわふわと私は消えた。
ぐわんぐわんと視界が混沌したのち、私はのどかな草原に立っていた。
田舎らしい木々は青々とし、まるで花畑のように小さな花を咲かせる雑草が群生している。
近くに山は見つからない。ここよりも高い山はここら辺にはないからだ。
「姉さん!!」
辺りを見まわしていると、後ろにパステルカラーの小さな塔があった。そこから伸びる小道にサン=リベールこと、姉さんが立っていた。
あの無駄に尊厳ある靄の階段は姉さんが出してくれたものだ。
「リベール姉さん!結婚して下さい!」
「嫌よ」
「私はあいつ、カルマよりも姉さんのことを100倍は愛しているわ!それなのに、なんで、そばにいさせることさえ許さないの?」
「私はあんたが嫌いだからよ、リベリア。あんたの霊力、魔力、呪術、全てが嫌いだわ。何より嫌なのは、こんなに嫌だと言っているのにあんたの前では呪いさえ使えないことよ」
「ああもう、私と姉さんはだから、運命だと言っているじゃない。だから早く私を幸せにしてちょうだい。そして、姉さんも私との愛の巣に堕ちるのよ!」
ぷんぷんと怒る2人は、その可愛らしい見た目で全く迫力が出ない。
全くもう、不公平なことだわ、とリリ改めリベリアは顔をしかめる。
すると、塔の扉が開いて、カルマ、ゴリゴリマッチョがやってきた。
2人の声を聞いたのかもしれない。
「ちっ」
「よ、リリベル今日もかわいいな」
「ふっざけんじゃねーよ、だわ。またそんな疲れた顔するテメェにはリベール姉さんを任せられないのよ、ウシかヤギの方がよっぽど手入れされてるわよ。自分適当にするなんて地獄のガマガエル並みだわ。言うことはないの」
「えー、ここ三日くらい食事をしていません。」
「ほんとなんで立っていられるのかしらねぇ、ええ、はぁ」
危篤患者でも見るような目つきでリリベルがカルマを貶していると、ぎゅっとリリベルの足に何かが捕まった。
「ちょっとー、リリ姉ちゃんが呆れちゃったぁ、しゃん。カルマせっかくリリ姉ちゃんの帰りを待ってたのに。」
「わぁスミレ!久しぶりぃ〜!お姉ちゃんまた、旅に出されてたのよ。」「ほんとなんで十種も魔力を混ざっているのかしらね。おかげさまでどこどこの娘やら孫やら大忙しよ。そんでもってなんでか追い出されるのよねぇ。ムーア村だってあんな伝承なかったでしょうに。ややこしいわ」
この子はリリベルの妹の、スミレだ。
とても可愛らしい幼い少女だ。
久しぶりの再会に2人でしばらく話に花を咲かせる。
そんな2人の横で、リベールとカルマはリリベルを見つめていた。
「なんであの子は私を愛して、なんかいるんでしょうね。カルマもありがとうね、私の嫁だなんて言ってもらって。元許嫁なだけでしょ私達は元来。あなたに不本意なことこの上ないわ。リリベルはきっとあなたに恋なんか、しないに決まってる」
「父から婚約解消の知らせが届いた時リリベルのそばにいられなくなることを想像して、腹が立った。それだけだ。好きだなんて、そんなことしない」
そんな2人をスミレが穴を開けるほどじっと見つめていた。
全て神のみぞ知っているのだ。
この後、スミレが広場中の花を集めて、そのすべてに加護を込め、それをカルマの行動範囲全てに降り注ぎ、更に王国の四大魔剣を手にして、カルマに結婚を申し込んだ。
スミレは2人が本物の夫婦でないことをとっくに知っていたからだ。
お読みくださり本当にありがとうございます!
結構このキャラ達好きです〜。
(長、どうしよう)