ホストの罠
老人の部屋のTVからニュースが流れていた。
キャスター「本日、ホストが逮捕されました。若い女性をツケで飲ませて、後日高額な売掛金を請求するという手口です。容疑者は支払いに困った若い女性を風俗店に紹介して、返済に充てさせていました。被害者は数十人に上るとみられています。」
老人「ふーん。ホストも悪いが引っかかる女も馬鹿じゃのう。」
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後日、いつものように老人が散歩をしているとある家から怒鳴り声が聞こえてきた。
娘「もう、ほっといてよ。」
父親「娘が風俗店に勤めるのを黙って見ていられるか?」
娘「しょうがないでしょ。私が馬鹿だったのよ。もう他に方法がないのよ。」
娘は走って行ってしまい、父親は泣き崩れた。
ワシは興味本位で聞いてみた。
老人「娘さんに何かあったのかい?」
父親は泣き続けていて何もしゃべってくれない。
しばらくすると落ち着いたようで、老人を家の中に入れて話を教えてくれた。
父親「実は娘がホストにはまってしまって、大きな借金を作ってしまいました。明日から風俗で働くと言うんです。」
老人「うーん、しかし騙される娘も悪くないか?これだけニュースで騒いでいるのになぜ分からんのじゃ。」
父親「おっしゃる通りだと思います。」
老人「しかも、普通の若い子はホストクラブなど行かんだろ。あんたが甘やかして育てたんじゃないのか?」
父親「そうかもしれません。私が年を取ってからの子で、一人娘なものですから、可愛い可愛いで育ててしまいました。」
老人「そうか。で、あんたどうしたいんじゃ。」
父親「とにかく娘が無事に帰ってきてくれれば、あとは何も望みません。」
老人「それで。娘が帰ってきたらその後あんたどうする?」
父親「どうとは?」
老人「その後の手は打たないのか?こう言っちゃ悪いがあんたの娘の性根は直らんぞ。また、ほとぼりが冷めたら同じことを繰り返すはずじゃ。そういうのは麻薬と同じなんじゃよ。」
しばらく考えた後、その父親は
父親「分かりました。今の生活を変える為に、娘を連れて田舎に引っ越します。自然の中で育て直してみたいと思います。」
老人「そこまでできれば大丈夫だろう。で、あんた、いくら出せる?」
父親「は?」
老人「お金だよ。あんたは娘を助けるだったらお金をいくらまで出せるかと聞いているんじゃ。」
父親「300万円位までなら、なんとかなります。それよりも、あなたにそんなことが出来るんですか?」
老人「ああ、わしには色々なコネクションがあるんでな。しかし、その金額では全然足りない。今回は諦めてくれ。」
父親「では、いったいどの位必要なんでしょうか?」
老人「いいか、ホストに金を払っただけでは解決にはならんのじゃ。それにそれなら、あんたでも出来る。しかし、ホストに金を払ってはダメなんじゃ。一度、金を払ってしまったら、あんたの娘は何度でもそのホストに食い物にされてしまう。つまり本当に解決するにはその男を再起不能にするしかないんじゃ。そして、その為にはかなりの費用が掛かるんじゃよ。」
父親はしばらく考えた後、決意をしたように口を開いた。
父親「分かりました。本当に娘を助けてもらえるのなら、全財産を差し出しても構いません。あなたが言った通り私にも責任はあるし、娘の為ならゼロからやり直す気持ちはあります。」
老人「ほーう。その覚悟があるなら娘さんを救ってやれると思うぞ。」
父親「本当ですか?私にできる事なら何でもします。よろしくお願いします。」
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その頃、その娘を騙したホストのアキラは依然絶好調だった。お店のナンバーワンを維持し続けている。
今日も新規の金持ちおばさんがアキラを指名してきた。
アキラ「いらっしゃいませ。アキラです。」
客「あら、さすが、ナンバーワン、いい男ね。早速シャンパンを開けてもらおうかしら。」
アキラ「よろしいんですか?初めてのお客様にそんな事をしていただいて。」
客「いいのよ、どうせ、旦那のお金だもの。」
アキラ「ありがとうございます。お客様のお名前を教えて頂いてもよろしいですか。」
客「私、明子よ。よろしくね。」
明子は閉店時間までたっぷり楽しんでから帰って行った。
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閉店後、アキラは同僚と一息ついていた。
同僚「アキラ、いい客がついたな。」
アキラ「ああ、かなり金持ってそうだな。金の為だったら、あんなおばさんでもいくらでも寝てやるさ。」
同僚「お前には負けるよ。」
それから、明子は3日に1回の割合でアキラの店に通い続けた。
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それから1か月後、あの老人から父親の元へ連絡が入った。
老人「全て終わったよ。あの男はもうホストは出来ないだろう。」
父親「本当ですか?でも、どう解決したんですか?」
老人「いや、あんたはそんな裏の世界の事を知っては駄目じゃ。あんたは自分の娘の事だけ考えていればいいんじゃよ。ところで、引っ越しは済んだのかい?」
父親「はい、あの翌日から、なるべく遠くの田舎に家を借り、妻と娘と3人でつつましやかに暮らしています。」
老人「よし、それでいいんじゃ。都会は誘惑が多いからのう。じゃあ仲良く暮らすんじゃぞ。」
父親「はい、ありがとうございました。」
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1か月前、老人はある女性に依頼してアキラの店に通い続けてもらった。明子である。明子はかなりの金を店に落とし、さらにアキラには高価なプレゼントを贈り続けた。明子はアキラが完全に気を許した頃合いを見計らい、アメリカの西海岸への旅行に誘った。アキラは二つ返事でついてきた。
それにしても、なぜ、明子はアキラをアメリカの西海岸へ連れて行ったのか?
アメリカの西海岸にはゲイの街があり、若くて細身の男は高く売れるというのだ。二人が西海岸に着く前に既に老人はアメリカの知り合いに段取りを頼んでおいた。二人が西海岸に着くと計画はすぐに実行された。アキラはボディービルダーのような体をしたゲイの集団に車に押し込まれどこかへ連れ去られてしまった。
もはや、アキラがどこにいるのかすら分からない。今頃、彼らにたっぷりとかわいがってもらっている事だろう。アキラが日本に戻ってくる事はもう無いだろう。
その後、老人の銀行口座にアメリカからお金が振り込まれてきた。
老人「ほう、あのホストも意外と高く売れたようじゃのう。余った分は父親に返してやるか?わしも人が良すぎるかのう。はっはっはっ。」
いったい、この老人の目的は金だったのか?ホストへの復讐だったのか?さっぱり分からない。
つづく