自分のことを救国の聖女と勘違いしている精神異常者が聖女に転生した件
私の名は聖 女 。誰が何と言おうと人類史にただ一人燦然と輝く至高の『聖女』だ。
「おーい、聖。学校にテロリストが入ってきたってよ」
そしてこの男は 五味 藻分粕。説明する価値すらない脇役だ。安心院さんでなくても消しゴムと同程度の価値しか持たないように見えるだろう。
「って、なんだと、テロリスト?」
「ああ、そうなんだよ。うちの生徒が見せしめに1クラスごと殺されて、体育の国松も8人殺した後に、敵のボスにやられたらしい」
「・・・。」
「恐ろしい話だよな。・・・って、聖?」
あの国松がやられるだと・・・?ここがあるいは私の聖なる力の使いどころなのかもしれない。
私はふと、五味の方を見た。奴は変わらないアホ面で鼻をほじっている。すでに鼻の血管の断裂で6回も救急搬送されているのに懲りない奴だ。
と、そんなときだった。
「手を挙げろーッツ!!!!殺すぞおおおおおっつ!!!おおおおおおおおおっつ!!!!!!!」
黒いシックなスーツを着た黒縁の眼鏡の、神経質そうなモヒカンの男が教室のドアを蹴破って入ってきた。
「教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育!!!!!!!!!」
狂気の形相でマシンガンを持ちながらそんなことを叫んでいる。やれやれ、おおよそ同じ日本人、いや、人とは思えんな。
しかし奴がキチガイでも脅威であることには変わりない。すでにクラスの半数近くが殺された、
「ふおおおおおおおおおおお!!私が来た!!のだから!!走ってこおおおおい!!!!!」
「・・・やれやれ、」
狂気の赤い瞳のまま奴はマシンガンを乱射する。
うっとおしいし力を使って虐殺するか、と私が思ったときのことだった。
「待て!!」
「ん~?」
「これ以上の虐殺は許さねえ!!」
「なんだあ?」
見ると、何の変哲もない顔をした生きる価値のないゴミが、テロリストの前に立ちふさがっていたのだ!
「ご、五味くん・・・?」
「五味さん、なんで、!」
教室内はざわついている。それもそうだろう、皆にとってかろうじて名前を憶えていないこともないカスがいきなり正義面して現れたのだ。
む、正義面?それはおかしいな。―――この世界に私を除いて、正義などありやしないのに。
「・・・少し、腹が立ったな」
私の顔は無意識ながら、血管が浮き出てマスクドメロンのようになっていた。そして私がゴミを処分しようとした時のことだった。
私は立ち上がろうとして・・・
その前に、五味の鼻から鮮血が噴き出した。
「、は?」
ごとりと音をたてて、五味が前のめりに倒れる。
「嘘だろ?なあ」
それは、だれの声だっただろうか。クラスメイトかもしれないし、テロリストかもしれないし、私の声かもしれなかった。
五味は鼻をほじって、そして亡くなった。鼻にも血管はあるのだ。この時私は、この死骸をダーウィン賞に出したら金貰えねえかなと考えていた。
「・・・、まあいい。」
クラスの全員が微妙な気分になっていたのも束の間(ちなみに、五味の死を悲しんだ者は一人もいない、一人もだ)、再びテロリストがマシンガンに手を掛けた。
「この時代はいいものだな。人も女も沢山いる。」
「!?」
「鏖だ」
そう言うと彼は、またマシンガンの連射を始めた。悪もここまで来たらいっそすがすがしいものだな。普通学校に来るテロリストなんてのは、政治的思想とかを持っているもんじゃないのか?知らんけど。
「ひゃああああ!!死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑教育死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!!!!」
・・・私は聖女である。真の聖女とは、悪にも何らかの理由があることを理解し、人道からずれた価値観も理解できる究極の人格者を指す。
「とはいえ、許されてはいけない悪を許すことは、それもまた罪なのだ」
「む?お前は・・・って、なんだお前は!!?」
私は五味の頭を掴むと、そのままセイントアイアンクロ―で握りつぶした。五味の脳みそは空っぽだったから、幸いにもグロテスクなことにはなっていない。
「なんで死体蹴りを!!?とまれ、おい!!そこのお前、早く止まれ!!」
「ん?って、私のことか?」
「そうだよ金髪縦ロール野郎!!」
まったく失礼な奴だな。私は確かに215cm190kg体脂肪率4%のスポーツマンだが、女だというのに。(注:彼は生物学上は男である。)
「くそ、止まれ、殺すぞ!!!?」
奴は聖女たる俺を前にして、小鹿のように震えた足で必死に体を支えている。俺の聖なる魔力を前にして、けなげな奴だ。
「渡せ、さあ」
「!!?」
「そんな物が私に通じないことくらいは分かるな?さあ」
「・・・・っつ!!」
(捕鯨砲でも勝てねえ・・・!!)
奴は私に勝てないことを悟って、マシンガンを手渡してきた。
「ふふ、お前も私の超越神力に屈したか」
「え、いや、筋肉がやばいだけひぎゅっ!」
「やれやれ、うるさい奴だな」
私は奴に少々お灸をすえてやった。結果、私の前にははじけた果実があるのみだ。
「ふう、にしてもこれにて一件落着か」
いろいろと腹の立つことや面倒くさいこともあったが、目の前の敵は片付いた、他のテロリストは・・・まあ、ボスが少し気になるが警察とかがどうにかしてくれるだろう。
なんとか今回の事件はこれで、・・・!
「が、ふっ」
気づくと、私の心臓が胸から抜き取られていた。
「なに、が。」
見ると五味の死体が昏く輝いていた。そうだ、確か五味にはなにか、能力が、
『俺の能力は〈逆蘇生〉。自らを殺した武器の所有者を殺す能力だ』
ああ、そうだ。これを聞いたときは殺すにしても、どうせ素手で殺すから問題ないと思っていた。そもそもアイツがモブ過ぎて能力の存在自体今の今まで忘れていた。
「ごぷっ、ごぽぽっ」
口から大量の緑の血が流れていく。畜生!あんな塵芥に!!
「あんなクズに!!!この私があああああああああっっ!!!!」
私は心臓を失って、三日三晩苦しみ抜いたのちに死んだ。至高の存在は、全人類の太陽は、この日をもって失われた。
筈だった。
「・・・ここは、どこだ?」
気づくと私は、赤い絨毯の上に立っていた。天井からは白みがかった陽光が注いで、白亜の壁を荘厳に照らしている。・・・ヨーロッパの城に、似ているだろうか。
「やった、聖女様の召喚に成功したぞ!!」
ふと、そんな声が前から聞こえてきた。
「これで人類は救われる!」
「よくやったぞ、召喚士エンデ!!」
「苦節20年、ようやく魔王を倒せる!」
「・・・?」
なんだこいつらは。魔王とは一体?
私のあだ名の一つに魔王デスタムーア第二形態という失礼極まりないモノがあったが、それとは関係はないだろう。
「ああ、混乱しているのでしょう」
そう言うと目の前の金髪の優男が手を差し伸べてきた。
・・・握手か?聖女は遍くを力強く抱きしめる慈愛の存在だ。本気で握ってその手を握りつぶしてやろう。
「どうか、よろしくお願いします」
「よろしく」
そうして私は、一瞬後に聞こえるであろう悲鳴を聞くために耳を澄ました。
「・・・?」
「どうか、しましたか?」
しかしなぜだか悲鳴は聞こえてこず、目の前の男は飄々としていた。
「・・・。」
私に手を潰されないだと?
これほどまでの無礼、いくら私が聖女であるといっても許せるものではない。いや、私は心情的には許しているが、罪として許されるべきものではないのだ。
私は大口を開けて、いつものように奴を『丸呑み』しようとして・・・
「む?」
ふと、目の前の男が明らかに自分より大きいことに気づいた。
「むむむ?」
一瞬なんと大きな男がいたものだと目を見開いたが、どうにもそうではないようだ。
「私が、小さくなったのか」
「?」
白磁色の透き通った肌に、小さくスッとした手。向こうのガラスに映る顔は女性らしい丸みと細やかさを備えており、ラピスラズリのような瞳と金糸の髪が特に目を引く。
(・・・これは、私の夢見た聖女の姿そのものではないか)
私は、あくまで私の元の見た目が聖女らしいとは思っていない。見た目などどうでもよくなるほどに私の聖女度合いが高すぎるから聖女を名乗れているだけで、見た目もそれらしい方がよいに決まっているのだ。
「・・・おお」
なんと完璧な体だ。美しくしなやかで、しかし屹立する意思を感じさせるその貌、躰。
「おお!」
そして声は格調高く、しかし少女のしなやかさがある。
ここまで興奮したのは、悪人を浄化(撲殺すること)する能力が私に備わっていると知った、小学校1年生ぶりだ。
興奮のあまり、誰でもいいからぶん殴りたくなってきた。
と、その時だった。
「混乱しているのでしょうが、どうか僕たちの話を聞いていただけませんか?」
そういえば優男との会話中だった。
「構わぬ。今の私は気分がいい」
「???まあともかく、それではまずはなぜ貴方を召喚したのかから・・・」
そうして優男は30分近くくだらぬことをだらだらと話した。今の私はカフカの『城』読後に近い気分だ。
「要約すると、人類が魔王軍相手に劣勢だから勇者と、そして聖女たる私を召喚したということだな?」
「は、はい。そうでございます」
「・・・。」
いや、むしろ某サムライ系SF漫画の読後感に近いな。よかったな、小僧。私の気分が悪いか姿が元通りであるかしたら、貴様は既に丸呑みだったぞ。
「どうか、僕たちのために力を貸していただけないでしょうか!!」
「・・・」
この男も図太いものだ、状況が状況だけにまだ上から命令してくる方が趣味が良い。このIQ7Q、すなわち東大クラスの私でさえも混乱しているのだ。(注:彼はIQと偏差値をはき違えている。)
「とはいえ、まあよかろう」
「!本当ですか!!?」
「ああ、聖女に二言などない」
「ありがとうございます!!」
そう言うと奴は深々と頭を下げた。・・・私が見るにこの男は知恵足らず、あるいは無能だ。
(蓋し聖女とは、力弱きものの為にあるゆえ。)
私は今までの人生で、弱きものを誰一人として見捨てなかった。そりゃ途中で腹が立って虐殺したことならいくらでもあるが、それを除けばいつだって弱きものに寄り添い続けた。
・・・思えば私は、意識的にせよ無意識的にせよ弱者を守ってきた。だからこそ私は、私が『聖女』であると確信できたのだろうか。
「表を上げろ」
「は、はいっ!」
私の青の瞳と、奴の赤の瞳が交差した。そして私は尋ねる。
「お前の名前を何という?」
神妙な空気が間を覆いつくした。目の前の男は喉をごくりと鳴らして、しかし決心したように答えた。
「カスモブ王国第一王子、ゴーミ・カスモブでございます!!」
私は頑張って奴を丸呑みにした。
腹立つ名前だったのだ、仕方ないな。
『自分のことを救国の聖女と勘違いしている、精神異常者』の物語。ちなみに少女の体で成人男性を丸呑みにするのは厳しかったのか、主人公はこの3時間後に死亡します。
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